※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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時間の兎の軌跡を追って、錆色の空間を歩き続けるユランとヴェラクトーレ。
何もない空間で不安を覚えていたが、彼方に何かが見え――。


六十七話 狂乱テディベア

「しかし……一体ここはどこまで続いているんだ?」

 

 あいも変わらずオレ達は星屑散らばる空間に

囚われてしまっており、酷く方向感覚が歪む。

 

 跳びながら移動している時間の兎が居なければ、

ちゃんと歩いているのかさえ怪しい。

 

 唯一変化があるのは、宙に浮かんでいる

何らかの残骸のようなものばかりだ。

 

 最初に目が覚めた所では時計の針や割れた花瓶などと言った、

調度品のような物が多かったが、

 

今は引きちぎったぬいぐるみの腕や足、それらから溢れた綿のようなものや、

マネキンの部位のような物の割合の方が多くなっており、

その差異だけがオレ達の歩いてきた軌跡だった。

 

「はて……それだけでも分かれば方針も掴めるのだがね……

 砂漠で遭難したらこのような気分になるのかねぇ……

 これでもし一人だったならば、気でも違えてしまいそうだよ」

 

「そうだな……」

 

 ヒトは自分のしている事が正しいのかそうでないのか、

意味があるのか無いのか、理解出来なければ

酷く精神的に不安定になってしまう。

 

 どこかで、穴を掘らせ続けてそれを埋め、

再び同じ所を掘らせる拷問があったらしいが、

内的な苦痛を味合わせるのには合理的なのかもしれない。

 

 元に嫌悪しているヴェラクトーレとでさえ、

こうやって話せている事がありがたい。

 

 一人でこの空間を彷徨うのを

想像しただけで悪寒がする。

 

 今だけは、差し出された手を握って

正解だったと思えた。

 

「カカ……もしかしたらここから一生出られずに……

 二人きりで生涯を終える事になるかもしれないねぇ……?」

 

「止めろ、気色悪い……ん?

 あれは……建造物か?」

 

 地平線と言っていいのか分からないが、

彼方に小さい山らしき影が見える。

 

 何もない空間での分かりやすい物は

目印になり、非常に助かる。

 

 どれほど、この空間が広大なのかは知らないが、

最悪、あそこを拠点にも出来そうだ。

 

「少し急ごう、ユラン殿……

 遮蔽物で時間の兎を見失って

 しまうかもしれないからね……」

 

「よし…………」

 

 オレ達は時間の兎に警戒されないよう、

最低限の距離を保ちながら早足で進んでいく。

 

 どうやら、小さい山に見えた物は宙を浮いている

残骸が溜まった物らしく、マネキンの腕や

綿が飛び出した人形と言った、様々なゴミが重なっており、

それが無機質な瓦礫の山を形成していた。

 

「まるで熱が出た時に往く白園(びゃくえん)のような不気味な光景だな……

 やはり、ここは現実ではないのだろうか……?」

 

「まだ、なんとも言えないがね……

 だが、それにしては随分と意識がハッキリと

 しているように思える……」

 

 オレ達は瓦礫の山の影から時間の兎の様子を伺う。

 時折、二足で立って鼻を動かしており、

移動してはまたそれを繰り返している様子だった。

 

「一見、普通の兎と大差無さそうだが……」

 

「ふむ……野生の兎はリュメイヌには

 生息していないので現物を見たことがないが……

 兎とは本来、群れる動物だと聞いた事があるがね……?」

 

「あの兎を捕らえた時は他の個体は居なかったのか?」

 

「一匹だけだったよ……私も捕まえる気は無かったのだが、

 ユラン殿のような竜種のゴキゲンな朝食には

 新鮮な生肉の方が良いかと思ってねぇ……」

 

「誰が生肉なんか食うかっ! 百歩譲って生食家だったとしても、

 ゼンマイ仕掛けの兎なんて得体の知れない物を

 食わそうとするな……!」

 

「カカ、失敬失敬……しかし、そんな大きな声を出せば

 時間の兎が逃げてしまうかもしれないよ?」

 

 ヴェラクトーレは口元に人差し指を添えながら、

オレをからかって楽しんでいるのか、

心底愉快そうに目を細めた。

 

 本当に気に食わない草原狼獣人(アシモベルク)だ。

 

「おっと……時間の兎が動くようだよ……?」

 

 オレは彼を睨みつけていたが、その言葉を聞いて

慌てて機械仕掛けの兎に目をやった。

 

 方角が定まったのか、鼻の動きを止めて

四足に戻ると先程より速く残骸の山を駆け抜けていく。

 

「よし……オレ達も少し急……ッ!?」

 

 ヴェラクトーレと共に瓦礫の山の間を

通った瞬間、それは起こった。

 

 散らばっている壊れかけたマネキンは折れた手足を

強引に繋ぎ止め、明らかに骨格や関節の向きが歪なまま

不自然に動き始め、節々がぶつかり合って不協和音を奏でる。

 

 殆ど原型を保っていない人形達は綿の代わりに互いの身体を奪い合い、

まるで共食いのように千切り合いながら肥大化し、

オレの体躯以上へと巨大化していく。

 

 気がつけば、オレ達はそんな夢の跡に

囲まれてしまっていた。

 

「ふむ、我々は歓迎されているのかな?」

 

「冗談も休み休み言え……! お前も

 あの残骸の中の一つになりたいのか!?」

 

 迫りくるマネキンと人形に応戦する為、

オレとヴェラクトーレは剣を構える。

 

 まさか、オレ達を襲ったアシモフの爪の一党――

それも、その筆頭と共闘する事になるとは――。

 

「ユラン殿は好きにその壊刃(かいじん)を振るってくれ給え。

 討ち漏らしは私が対処しよう」

 

「二言はないな――その言葉……ッ!!」

 

 ヴェラクトーレは先陣を切る事は無く、

オレの死角を補佐するように背後を陣取った。

 

 その方がこちらもずっと動きやすい――。

 

「食らえ……ッ!!!」

 

 大きく跳躍すると、マネキンとぬいぐるみ達が密集している

中心へと斬竜刀を叩きつける。

 

 すると、透明な床が大きくひび割れ、

勢いよく奮起して地面から無数の硝子の針

突き出したかのような光景へと変わる。

 

 その衝撃と硝子柱に貫かれた人形共は

物言わぬ綿や石膏と化していき、その動きを止める。

 

「素晴らしい……! 生粋の草原狼獣人(アシモベルク)には決して出来ない

 豪快な戦い方だ……! 滾るねぇ……!」

 

 ヴェラクトーレは有言実行と言わんばかりに

大技を放って無防備なオレを狙うマネキンの首を、

片手剣で的確かつ流麗に切り落としていき、その度に石膏の粉が舞う。

 

「よし……この調子なら一掃するまで時間は――」

 

「参ったね……どうやら悪手だったようだ」

 

「な…………!?」

 

 確かに人形達は完膚なきまでに破壊されて

動く事は不可能な様に思えたが、

石膏の手は蜘蛛の足のように指を動かし、

綿は液状の軟体生物のように這い周り、

 

それらが結合して一つの個体と化していくと、

マネキンとぬいぐるみの混ざりあった、

熊を模した巨大なぬいぐるみを形取っていく。

 

 耳はマネキンの足で歪に形成され、瞳はぬいぐるみや

マネキンの顔が集まって作られており、

可愛くデフォルメされた輪郭が余計に恐怖を煽る。

 

 こんなのものを子供が見れば、

間違いなく生涯のトラウマになるだろう。

 

「これではキリがないぞ……!」

 

「どうしたものか……倒した所でまた復活しそうだね……

 まともに相手するだけ無駄に思える」

 

「同意する……ここは一旦、退却だ……!」

 

「時間の兎はあちらに逃げたようだよ……!」

 

 見れば、時間の兎は瓦礫の山を抜け出し、

何かを目指して一直線に跳び出していた。

 

 流石に機械仕掛けの白兎と言えども、

この様な逸脱した狂気の大熊には

危機感を覚えているようだ。

 

「ぐっ…………!?」

 

 マネキンとぬいぐるみをこね回して作ったような歪な熊は、

力任せにその怪腕を振るい、オレ達は左右に飛び退いて躱す。

 

 床の硝子と腕の構成物であるマネキンの石膏が飛び散り、

凄まじい煙塵と風圧が襲いかかる。

 

 つい先程までオレ達が居た所には巨大な穴が空いており、

底すらあるのか分からない虚空の紅空に落ちれば

どうなってしまうのか想像すらしたくない。

 

「時間の兎を見失わないようにね……! ユラン殿……!」

 

「あぁ……!」

 

 時計兎はやがて、瓦礫の山の終着点らしい

散乱した鏡の区画へと到達し、

その中の等身大程ある巨大な鏡の中に

吸い込まれるように入っていった。

 

「クカ……! 見たかねユラン殿……!

 まるで童話の世界のようではないか……」

 

「無駄話は後にしろ! 行くぞッ!」

 

 オレ達は時間の兎を追いかけるようにして

狂気の熊から離れる。

 

 当然、追いかけてこようとするが、

壊れて継ぎ接ぎだらけの物で構成されているせいか、

足の形も歪で走り辛そうであり、その速度は緩慢だ。

 

「先に往き給えユラン殿……私は言葉通り、

 新しき風の盾となり、身を粉にしようが――」

 

「うるさい! いいからさっさと行けッ!」

 

「ぬぎゅおッ!?」

 

 殿(しんがり)でも努めようと言うのか、彼は鏡の前で

雄弁と語りだすが、オレはその言葉を遮るように

足蹴にして鏡の中へと突っ込ませる。

 

 鏡は淡く輝きながらヴェラクトーレを呑み込み、

表面に水面の波紋のようなものを浮かばせていた。

 

「ギ、シュ……シュ……」

 

 狂気の熊人形は口からマネキンの石膏や綿を噴き出しながら、

こちらに向かって歪曲した腕を振り降ろす。

 

(間に合え――ッ!!)

 

 オレはヴェラクトーレを追うように、

鏡へと勢いよく飛び込んだ――。




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