だが、そこに謎の闖入者が現れる――。
「う、ぐぅぅッ……!」
オレに馬乗りになったマネキン人形が腰を上げると、
淫器を模した割れ目からドロリと精液が溢れていく。
どれだけ搾り取られたのかをまじまじと見せつけられ、
恥ずかしさから思わず顔を背けてしまう。
(身体さえ動けば……マネキン相手に遅れなど……!)
彼らに疲れという言葉は無いのか、先程から力を
緩ませることなくオレの身体を抑え続けている。
このままでは、一向に状況は好転する事はないだろう。
「ぐ……ッ! どこまで……ふざけた所なん、だ……!
ふあ……ッ!? があ、あぁぁぁ!!
今、は……止めろ……ぉッ……!!」
一心不乱に腰を振っていたマネキン人形は、
射精して少し柔らかくなった肉棒を勃起させるべく、
白濁色に塗れた割れ目で擦り上げていく。
射精したばかりなせいで感度は恐ろしい程に高く、
ピリピリと強烈な電流を流されているような感覚を味合わされる。
気持ちいいというよりは苦しさを覚えるほどだ。
(これ以上体力を失うわけには――)
そんな思いも虚しく、無慈悲なまでに人造性器は再び迫り、
腰を強く落とし――。
「――――ッ!?」
次の瞬間、身体に馬乗りになっていたマネキン人形の首に
白刃の煌めきが走り、頭部と胴体は少しずつずれると真っ二つに分かれ、
そのまま地面へと落下していった。
続けざまに白き軌跡はオレを抑えつけているマネキンへと迫り、
その数体をただの石膏の塊へと変えていく。
抑えつけられている力が緩み、マネキン達は
突然の襲来者に身構える。
身体が、四肢が、動く。動かせる――。
「ぐ……! ら、あぁぁぁッ!!」
右腕を抑えつけているマネキンの腕を払い除け、
その顔面に向かって渾身の肘打ちを放つ。
暴虐の塊を乗せた肘鉄砲は致命的な一撃を与え、
まるで大砲の球でも直撃したかのように
マネキンの頭部を木っ端微塵に粉砕する。
そして、斬竜刀の転がっている所まで飛び込むように前転し、
転がりながら素早く移動して柄を握りしむと、
透明な床を大きく踏みしめ、腕に数多の血管を
浮き立たせるほどの痛烈な横薙ぎを放つ。
直接、刃に触れたマネキンは勿論の事、
その凄まじい風圧は鎌鼬の如く彼らを切り刻み、
全身を分解しながら瓦礫の山へと吹き飛ばした。
「は、ぁぁ……ッ……! はぁ……!」
度重なる戦闘と逃避行、そして実りなき性交で
激しく体力を消耗したが、どうにか切り抜ける事が出来た。
斬竜刀を地面に突き刺し、それを杖代わりにして
肩で息をするように激しい呼吸を繰り返す。
「いやはや……私を鏡に押し込んで
何をしているのかと思えば……
まさか"お楽しみ"だったとはねぇ……」
突如のしての襲来者は聞き覚えのある声だった。
剣を振り払い、こびりついた石膏を落としているその姿は
間違いなくヴェラクトーレであり、
穢らわしいと言わんばかりに眉を歪め、
手拭いで刀身を拭いていた。
助けに来てくれたのか――。
「これのどこが楽しんでるように見えるんだっ!
はぁ……はぁ……ご所望ならもう一度マネキン人形達を
引っ張り出して、変わってやってもいいんだぞ!?」
「私は遠慮しておくよ……それより、
早く着衣を整えた方がいいのではないかね?
戦いの最中も股間の竜を第二の剣のように振るっていたが、
二刀使いだったとはねぇ……」
「う、うるさぁいッ!!」
オレは顔が燃え盛るような熱さを感じながら
ヴェラクトーレを睨みつけ、
さっさと体液を腕で拭うと着衣を整えた。
この男はヒトをからかわないと死んでしまう
病気にでもかかっているのだろうか。
全くもって気に入らない。
気に入らないが――。
「不本意な事この上ないが……
お前には二度も助けられたな」
「なに……今回は私の方が先に助けて貰ったからね。
これでおあいこというものだよ。それでユラン殿の
気が済まないというのであれば……お返しはラヴで結構」
「黙れ」
お礼だけは言っておかなければと
思っていたオレがバカだった。
もうこの男とは必要な事以外、
話したくない。
「さて、再び合流出来たが……どうしたものかね……」
「そうだ……そういえば、お前はどうやって
ここへとやってきたんだ?」
「湖だよ……鏡が別のどこかと繋がっているのなら、
同じ性質の物で代用出来ないかと思ってね……
試してみたら案の定――と言った所だ。
ユラン殿の所と繋がっているとは限らないし、賭けだったがね」
「全くだ……もっと危険な所に
放り出されたらどうするつもりだったんだ」
「と言っても、ユラン殿が先に私を鏡の中へ
蹴飛ばしたせいだと思うんだがね……」
「…………」
いや、オレも軽率だった。
切羽詰まっていたとはいえ、一つ間違えば
彼をもっと危険な目に合わせていたのかも知れないのだ。
「そうだ、な……」
「…………?」
「……確かにそうだ、すまなかった。
共同戦線であれば、共に戦うべきだった。
次はもっと慎重に行動しよう」
「おぉ……! 新しき風が……私に心を開いて……!
人生でこれほど至福な時間があっただろうか……!
いや無かった……私は知らない……こんな気持ちを……!」
オレの言葉にヴェラクトーレは振り向くと、
目を少年の様に輝かせながらこちらを見つめる。
「…………やっぱり、今のは無しだ」
「どうしてかね!?」
ダメだ、この男と話していると
気が狂いそうになる。
「とりあえず、愉快なおままごとは置いておいて、
早くここから離れた方がいいと思うがね。
こっちだよ……私が来た場所は」
「そう思っているなら黙ってくれ」
ヴェラクトーレは急にキリっとした表情になると、
何事も無かったようにオレを先導する。
何故だろう。マネキンや歪な人形熊と
対峙した時より酷く疲れる気がする。
疲労感に苛まれながらも、オレ達は
マネキン達の残骸から離れたのだった――。
――――――
「ここだよ……」
「まさか、これを通ってきたのか……?」
その場所にはすぐに到達する事が出来た。
そこには瓦礫に混じって
凹んだ銀色のトレイがあった。
一瞬、目を疑ったが、ヴェラクトーレは
間違いなくこれを指をさしており、
ヒトが通れるどころか、腕一本通すだけで精一杯だ。
「その通りだよ……ほら……こうして……」
「な……ッ!?」
ヴェラクトーレがトレイに腕を突き出すと、
驚くべき事に悠々と手を呑み込んでいき、
淡い光と共に表面には波紋が広がっていく。
そのまま彼は上半身を乗り出すと、
全身が吸い込まれるように沈んでいき、
あっという間に彼の姿は鏡の中へと消えていった。
「先程はまじまじと見る余裕は無かったが……
見れば見るほど奇怪だ……」
しかし、もうマネキンや熊人形に襲われ、
嫌と言うほど非現実的な出来事を体験してきた。
最早、このような事は些細な出来事なのかもしれない。
「毒を食らわば皿まで……か。
オレも往くぞ……!」
覚悟を決めると、オレも彼と同じ様に
トレイに腕を突きいれた――。