※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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錆色の空間を抜けてきたユランとヴェラクトーレ。
抜けた先は、とても先程の世界と同じとは思えない景色が広がっていた――。


七十一話 氷晶花の園

「ぬぐっ……!?」

 

 視界が真っ白に染まると、凍った水溜りから

吐き出されるようにして吹き飛び、

白い空間を転がっていく。

 

 ヴェラクトーレも近くに腰を下ろしており、

身なりを整えながら立ち上がろうとしている所だった。

 

「私も驚いたよ。これは……雪というものであっているかね?

 見るのは初めてだが……」

 

「そうだ、な……北方では地域によってはよく降っていたが……

 それにしても、先程の空間とはまるで別世界だ……」

 

 ヴェラクトーレの言葉に、辺りを見回す。

 

 一面が銀世界で、思わず息を呑んでしまうような光景に目を奪われる。

 

 灰空から溢れる雪ははらりと地上に舞い降り、

世界の新たな一部となっていく。

 

「なんとも美しいねぇ……まるで絵画の中にでも

 迷い込んだかのようだよ……」

 

「案外、ロマンチストなんだな……

 む……? この花はなんだ?」

 

 人跡未踏の雪原には、夢幻にも思える

純白の花に覆われていた。

 

 花弁は二層に折り重なっており、緩急のあるその造形は見慣れないが

とても美しく、ヒトに愛でられる為に生まれてきたような花だ。

 

 これが普通の花畑ならば純粋に楽しむ事が出来ただろうが、

その花は水晶のような氷に覆われ、花園というよりは

水晶の鉱脈に足を踏み入れたかのような幻想的な光景だった。

 

「この特徴的な形……確かこれは

 月下美人と呼ばれている花だね……

 これも実物を見るのは初めてだが……」

 

「月下美人?」

 

「そう、一夜だけその美しい華を咲かせ、枯れてしまうという……。

 その美しさから夜の女王とも呼ばれ、

 美や儚さの象徴とも呼ばれているね」

 

「なるほど……」

 

「だが、基本的には暖かい場所で咲くと見たが……

 ましてやこのような寒い所でなど……」

 

 ヴェラクトーレは顎に手を当てながら、

氷に包まれた月下美人を観察しながら思案する。

 

 だが、先程オレ達は生物なのかそうでないのか、

それすらも分からないクマの化け物に襲われ、

 

鏡の中を通ってきたという現実離れした

状況をくぐり抜けてきたのだ。

 

 今更、些細な事のように思えるが――。

 

「お、おい……!? あそこに

 誰か倒れているぞ……!?」

 

「ふむ…………?」

 

 その咲き乱れる水晶花の影に、

何者かが倒れているのを発見する。

 

 一方は背丈の小さい獣人で、

もう片方はよく見覚えのある姿――。

 

 竜皮に翼膜のある翼――ゲイルズィーガーに酷似していた。

 

 だが、オレの知っているものより酷く小さい――いや、あまりに小さすぎる。

 握り拳の中にすっぽりと収まってしまいそうな程の大きさだった。

 これでは翼竜人というより、妖精か何かの類だ。

 

「待ち給えユラン殿。どう考えても怪しいではないか……

 また、先程の人形のように

 襲われてしまうかもしれないよ?」

 

 彼らに駆け寄ろうとするが、ヴェラクトーレは

腕を掴んでそれを静止する。

 

「だが……! オレ達のようにここへ迷い込んだ、

 アシモフの爪一党――お前の仲間かも知れないんだぞ!」

 

「それはそうかもしれないが……

 ユラン殿を危険な目に合わせる訳には……」

 

「もういい……! ならお前は

 そこで見ていろ……!」

 

 確かに罠の可能性もあるが、オレ達と同じ様に

この世界に迷い込んだ者なら

早く看病してやらなければ生死に関わる。

 

 オレはヴェラクトーレの腕を振りきって、

まず、位置が近かった竜人らしき者へと声をかけ、

その小さい肩を揺さぶる。

 

 滑らかな深褐色の竜皮は軽く上下しており、

規則正しい呼吸をしているようだ。

 

(……良かった、まだ生きている)

 

「んいぃ……さむ……寒ッ……!」

 

「おい、しっかりしろ……!」

 

 腕に巻いてあった布を解き、

小さい竜人を温めるように包むと、

そっと腕の中に抱いた。

 

「あ、あれ……にーさん……?」

 

「…………?」

 

 その竜人はつぶらな瞳を開くと、

こちらに向かってそう呟いた。

 

 オレの事を知っているようだが、

生憎、このような妖精と見まごうような

ゲイルズィーガーとは知り合いどころか、見た事すら無い。

 

「オレの事を知っているのか……?」

 

「酷いっすねぇ……あれだけ四六時中一緒に居たのに……

 もうあーしの事……忘れちゃったんですか?」

 

「その声色は……ティエルか……? だが……

 オレが知っている彼女はもっと毛むくじゃらで大柄で……

 筋骨隆々で腕には分厚い血管が浮いていて――」

 

「ぐあむッ!!」

 

「痛い痛い痛いッ! 腕を噛むな……!

 竜皮に牙が食い込む……!」

 

 突然、翼竜人はぷんすかと怒りながら、

オレの腕に噛み付いてくる。

 

 子犬がじゃれているかのような光景で

微笑ましくも見えるが、ゲイルズィーガーは

ナイフのように尖った牙をしている為、正直かなり痛い。

 

「あ、あれ……? にーさん……なーんかいつもより

 大きいっすねぇ……いつの間に巨人に……

 って……なんじゃこりゃぁぁ!?」

 

 ようやく、ティエルは自身の変わり果てた姿に気がついたようで、

オレの腕から飛び立つと、自身の身体をくねらせながら見下ろしたり、

尻尾や羽を動かしたりして全身を確認していた。

 

「ふん……何かと思えば恥狼か……

 なんだ……そのあわれな姿は……

 さあ、キミもさっさと起き給え」

 

 ヴェラクトーレはオレがティエルを介抱した事により

観念したのか、もう片方の小柄な獣人の首の辺りの服を摘み、

宙にぶら下げたまま揺さぶっている。

 

 もう片方の腕は腰にぶら下げてある

剣の柄を握りしめており、

かなり警戒している様子だった。

 

 思わず、衝動的にティエルを起こしてしまったが、

オレも本当はあれくらい注意すべきだっただろうか。

 

「ん……ん……寒い、の……」

 

「ふむ……これを使うと良い。

 ユラン殿、どこか休める場所を探した方が

 いいかもしれないね」

 

「あぁ……そうだな……」

 

 かろうじてその獣人は意識を取り戻したようだが、

身体が凍えきっているらしく、

満足に動けないようだった。

 

 ヴェラクトーレは自身の外套を脱ぐと、

小柄な獣人をくるみ、抱きかかえた。

 

 一応、オレ以外の者にも優しくする事は出来るようだ。

 

 襲われた時、アシモフの爪一党達の人望があるのを鑑みるに、

彼らにも同じ様に接しているのだろう。

 

 ティエルや他の草原狼獣人(アシモベルク)にも、ほんの少しでもその思いやりを

向けてやれればと思うのだが――。

 

「オレが二人を介抱するから、

 ヴェラクトーレは篝火に使えそうな物を

 探してきてくれないか?」

 

「勿論だ。ユラン殿の頼みとあらば、

 千里先だろうがどこへでも――」

 

 そう言ってヴェラクトーレはオレの手を握り、

爽やかな顔を近づけてくる。

 

 なんだコイツはうっとうしい。

 

「いいから探すならさっさと探してくれ」

 

「ふむ……? こうすると老若男女問わず、

 大抵は上目遣いで潤んだ瞳を

 向けてくれるものだがね……」

 

 握られた手を払うと、ヴェラクトーレは釣れないと

言った仕草をしながら近場にある森へと入っていった。

 

 彼ならば一人でも自衛出来る強さと、

冷静に状況を判断出来る洞察力を持っている。

 

 心配はいらないだろう。

 

 オレはヴェラクトーレから華奢な獣人を預かり、

抱きかかえると大きな木の幹の下へ向かい、

暖を取る準備を始めた――。




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