※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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豪雨が上がり、改めて廃都を探索するユランとティエル。
そこへ、どこからともなく蹄の音が響いてきた――。


八十八話 肉天馬の蹄は廃都に啼く①

「にーさん。身体の方はもう大丈夫っすか?」

 

「あぁ、問題ない。もやもやしていた頭の中が、

 今ではまるで澄み渡った空のようだ」

 

 二人での秘密の一時を終えたオレ達は、

一休みを終え、出発する準備をしていた。

 

 結局、あれから豪雨は止むことはなく、

廃墟で一晩を過ごしてしまった。

 

 錆色の空は相も変わらずと言った様子で、

昼夜があるのかすら定かではなく、

一晩というのも体感でしか無いのだが――。

 

「へへ、良かったっす。でも、その淫紋のせいで

 また、いつエチエチな気分になるか……」

 

「エチエチ言うな」

 

「もしそうなったら、またあーしが

 気持ちよ~~くしてあげますから問題ないっすよ」

 

「…………」

 

 また、ティエルの口の感触を思い出してしまう。

 

 正直、また同じような状況になったら、

つい、流されそうになってしまう自分がいる。

 

 我慢して我慢して、あらぬ方向へ暴発してしまう位なら、

また彼女を頼った方がいいのかもしれない。

 

「ま、にーさんはスッキリ出来ても、同じ淫紋をつけてる

 おっさんの方は分かんないっすけどね」

 

「そういえば、ティエルはオレがヴェラクトーレを

 襲わないか心配だとか言っていたが、

 逆に言えば、オレがヴェラクトーレに

 襲われる可能性があるということか?」

 

「はいっす」

 

「…………」

 

 帰ったら始末する事も視野に入れる必要があるかもしれない。

 許してくれ。オレの貞操と肛門括約筋の為だ。

 もしくは去勢しよう。そうすれば安全な筈。

 

「だが、彼も一度情欲を発散させてやらなければ。

 この先、いつ耐えきれなくなるか……」

 

「あ、あーしは絶対におっさんにはしたくないっすよ!!

 あれはにーさんだからやってあげたんすよ!」

 

「いや、オレは何も言ってないが……」

 

 どちらにしろ、早く彼らの元へと戻らなければ

色々危険は増す一方だ。

 

 早く探索を再開しよう。

 

「とりあえず、今は目の前の事に集中しよう。

 オレ達は必ず成果を持ち帰らなければならない」

 

「そうっすね……ここで何か分かるといいんすけど。

 よく分からないまま、この世界を彷徨うのは

 不安に押し潰されそうになるっす……」

 

 そう、精神的には広大な砂漠の中心に、

いきなり放り込まれたようなものだ。

 

 オレですら不安なのだ。

 

 ティエルやソレイユはそれ以上に

憔悴しているはずだ。

 

 この世界は一体どういったものなのか、

どうすれば脱出する事が出来るのか、

情報を得て、今後の指針を立てなければならない。

 

 何をどうすればいいのか、方針や終着点さえ見えれば、

精神的にも大きく改善するだろう。

 

「よし、準備が出来たらそろそろ行くぞ」

 

「あ、まだっす!」

 

「むぉぉ……!?」

 

 自分の定位置だと言わんばかりに、ティエルは

オレの胸元の隙間へと強引に潜り込んでいく。

 

 相変わらずくすぐったいが、

その温もりと鼓動が、心強い。

 

 この壊れた世界で、オレは一人ではないのだと

強く感じさせてくれる。

 

 正直、ティエルの事も置いていく気満々だったが、

今となっては着いてきてくれて、

心から良かったと思っている。

 

「……随分、雨で時間を取られたからな。

 昨日より飛ばすぞ」

 

「え……? 昨日よりって……

 の、おぉぉおぉぉ~~~~~~!?」

 

 彼女の言葉を待たずに、オレは錆色の空を駆けて

廃都を遥か後方へと置き去りにするように駆けた――。

 

 

――――

 

 

「…………」

 

 廃墟とは人の生きた軌跡。

 

 どれほど朽ち果てようとも、そこには

確かに人が息づいていた痕跡が存在する。

 

 こじんまりとした家にある、不相応なほどの綺麗なティーカップ。

 襟の擦り切れた、大切に立て掛けてある外套。

 

 どれにも、人々の記憶――物語がある。

 だが、この廃都にはそれが全く無い。

 どこまでも無機質だ。

 

 まるで、作るだけ作って誰も住む事も無く

忘れ去られた街のよう。

 

 それが、気が遠くなるような年月放置されれば、

目の前に広がっている光景になるだろうか。

 

「東の区画までもう少しっすか?」

 

「あぁ、そのはずだ」

 

 胸元で顔だけ出しているティエルが呟く。

 あれから、数時間は走り続けただろうか。

 オレの感覚が間違っていなければ、半刻程で到着するだろう。

 

「うわぁ……この辺は特に凄いっすね……」

 

「あぁ……」

 

 この辺りは特に歪だ。

 

 建物の断面や、穴の空いた地面には

無限にも思える錆色の空間が広がっている。

 

 ヴェラクトーレと最初に彷徨った、

錆色の世界へと繋がっているのだろうか。

 

「…………」

 

 錆色の風が啼いている。

 それに乗って漂うは、濃密な死と錆鉄の香り。

 

「ティエル。しっかりと捕まっていてくれ。

 ……振り落とされたら、命は無いと思え」

 

 肉蹄の音が残響し、それは死を運ぶ葬霊(そうれい)の蛇のように

緩やかに、靭やかに迫ってくる。

 

「は、え? い、いきなりなんで

 そんな物騒な事……ひえぇっ!?」

 

 今まで以上に強く、石畳を踏みつけて速度を上げて

大通りと思われる道を全力で疾走していく。

 

 その風の通り道や、舞い上がった粉塵を

拾い上げ、より高く空に舞い上げるモノが居た。

 

「…………シュゥ」

 

 それは、口にするのも悍ましい肉馬だった。

 とは言っても、その造形を言葉にするのは至って簡単だ。

 皮膚だけを丸ごと削いだ馬と言えばいいか。

 

 グロテスクな赤黒い表面の肉は脈動し、

小気味いい音がするはずの蹄は、肉塊を地面に

叩きつけたような粘着質な物に置き換わっている。

 

 美しいたてがみは極細の触手のような肉紐で、

錆色の風に乗って怪しく揺れており、

極めつけはその背中に在るものだ。

 

 形状は翼そのものであるが、まるで羽の骨格に

肉や膜を乱暴に張り付けたような歪な形をしている。

 

 これが、天馬(ペガサス)を模しているというのならば、

なんと背徳的な生物だろうか。

 

 そこに神聖さや気高さは微塵も無い。

 

「……化け物に追われている。まだ距離は遠いが、

 確実にオレ達を追ってきている」

 

「化け物……!? ど、どんな……!?」

 

「見ない方がいい」

 

 ティエルは背後を気にするように首を動かしているが、

オレの胸元に入っている状態では背後の様子を伺えない。

 

 だが、それが今は好都合かもしれない。

 

 あんな、吐き気を催す化け物が追って来ていると知れば、

パニックになってしまうかもしれないからだ。

 

「どーしてこうなるっすかあ!

 何も悪い事なんてしてないっすよぉ!」

 

「さてな……土足で他人の庭を駆けずり回っているオレ達は、

 住人達にとってはどう思われているのか……」

 

 不運にも、ああいった大型生物を始末するのに

最適な斬竜刀は今は持ち合わせていない。

 

 選ばなければならない――。

 

 彼(か)の者を仕留めるか、

このまま振り切り、逃走するのか。

 

「…………」

 

 あまり、肉薄する事は好ましくない。

 

 胸元にはティエルがおり、かなり動きが阻害されるのに加え、

何より、戦闘の渦中へと引き込むのは

なんとしてでも避けたい。

 

 それに、ミネヴァの短刀だけでは

あの大型の馬を屠るには、どう考えても役不足だ。

 

 では、このまま逃走して振り切るのはどうだろうか――。

 

 どうやら、文字通り腐っていても馬なのは馬らしく、速度はオレよりも僅かに速い。

 今はまだ、距離も離れているが追いつかれるのは時間の問題だ。

 

「ど、どうするっすか……!?」

 

「今、考えている……!!」

 

 アシモフの爪一党に森で追われた時の事が脳裏をよぎる。

 あの時はティエルの背中に乗って逃走していたが、それが今では反対だ。

 なんとも珍妙な状況になったものだ。

 

 オレには彼女のような持久力も速度も、跳躍力も無い。

 あの時とは違い、純粋な身体能力のみで切り抜けるのは不可能だ。

 

「…………ッ!」

 

 石畳の大通りは急カーブを迎える。

 オレはそのまま速度を落とす事なく、建物の壁を水平に走りながら大きく曲がっていく。

 時折、踏み抜いた建物は朽ちていたせいか衝撃で崩れ、激しい轟音を響かせる。

 

「ギ、シュ……!!」

 

 肉馬も速度を落とさなかったのか、建物に激突して

肉の潰れた音と瓦礫の弾ける音が後方で聴こえる。

 

 そのまま、身体をめり込ませたまま朽ちた建物をなぎ倒し、

残骸と破片に変えながら、こちらへ向かって走り続ける。

 

 何がそこまでそうさせるのか、

相も変わらず、その不気味に光る瞳孔は

こちらを捉え続けており、

 

かろうじて原型を残している建物の壁には、

一筆書きでもしたかのようにべっとりと血の跡が残っており、

片翼の肉と膜は剥がれ、骨が剥き出しになっている。

 

 滅茶苦茶だ。

 

 暴れ馬という言葉では生温い程の傍若無人ぶりだ。

 

「な、なんの音なんすかぁぁッ!!

 戦争でも始まってるんすか!?」

 

「喋ったら口を噛むぞ……!

 頼む。絶対に大丈夫だ。

 だから、オレから離れないでくれ」

 

「…………」

 

 ティエルはオレを一瞥すると、

胸元の着衣をしっかり掴み、前を見据えた。

 

 どうやら、オレの言葉を信じてくれたらしい。

 その信頼に全力で応えなければならない。

 

「…………ッ!!」

 

 再び、同じような曲がりくねった大通りが先に見える。

 

 だが、今度は曲がる事なく、そのまま家の壁を伝って屋根へと飛び乗り、

屋根と屋根を渡りながら、道なき道を疾走していく。

 

 後方から凄まじい爆音が響き、

地震が起こっているかのように

屋根から振動が伝わる。

 

 肉天馬は、朽ちた家をそのまま一直線に突き抜け、

風穴を空けながら駆けていき、

 

オレ達がつい先程まで飛び乗っていた

屋根は崩れて跡形も無くなっていく。

 

 肉天馬は暴虐の限りを尽くし、

廃都の建物を一瞬で灰塵と化していく。

 

「あれは……」

 

 オレはある物を見つけ、一陣の風となりながら

廃都の屋根を駆け抜けた――。




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