※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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迫りくる肉天馬を機転と巨大オルゴールによって討伐したユラン達。
胸を撫で下ろした彼らは改めて遊戯区画を探索するが――。


九十話 紺碧の海を渡りて

 耳を突くような凄まじい音が背後で起こると同時に、

オレは弾き飛ばされるようにオルゴールの天蓋を支えている

柱の突起へと跳躍し、手をかけた。

 

 背後を見ると、先程まで迫っていた肉天馬の姿はどこにも無く、

シリンダー上と断罪刃には爆発でもしたかのように血が扇状に飛び散っていた。

 

 どうやら、櫛歯(くしば)がピンを弾いた際、

肉天馬も巻き込まれたらしく、壮絶なる力が加えられたせいか

肉片すらも確認出来ない。

 

 恐らく、殆ど液状化してしまって血液と同化したか、

弾き飛ばされて遥か下にある歯車の海に、

落ちてしまったのだろう。

 

「はぁぁ……ッ」

 

 オレはようやく命の危機は去ったのだと、

深い深い溜め息をついた。

 

 激しく拍動する心臓の音と感覚が、

強い生の実感を感じさせる。

 

 オレは、自分の命だけでなく、

ティエルの事も護る事が出来たのだ。

 

「ど、どうなるかと思ったっす……」

 

 彼女はやっと安全だと判断したのか、

オレの胸元から出てきて翼を羽ばたかせ、

胸を撫で下ろしていた。

 

 正直、肉天馬から逃れる事が出来たのは、

運によるものが強く、計画的な訳ではない。

 

 巨大オルゴールを見つけたのも、櫛歯(くしば)を利用して

倒す事が出来たのも全ては思いつきだ。

 

 オレがいつもの通り、斬竜刀を持ってきていれば、遊戯区画に向かっていなければ、

巨大オルゴールの建造物を見つけられなければ――何か一つでも欠けていれば、

今頃、肉天馬の腹の中に収まっていただろう。

 

 でも――それでもオレ達は生きていた。

 

「ふぅぅっ……全くな……」

 

 柱の出っ張りによじ登り、腰を持たれて座りながら

荒い呼吸を整える。まだ、心臓は激しい律動のまま、

全身に灼けるような血液を送り続けている。

 

「流石にもう、この寂れた街にあんなのは居ないっすよね……?」

 

「分からん、な……また追われたら、

 このオルゴールの中に逃げ込んでみるか?」

 

「もう、絶対嫌っす!!」

 

 オレ達は束の間の休息と生への実感を噛み締めながら、

時を刻む歯車の音とオルゴールの曲を聴き続けた――。

 

 

――――

 

 

「うわぁ、なんか色々と凄いっすね……」

 

「だな……」

 

 オレ達はあれから少しの間休息し、

オルゴールの出入り口まで戻ってきていた。

 

 上までどう戻ろうかと思案していた所、どうやらメンテナンスをする作業員用に

所々、通路が設置されていたようで、オレ達はそれを伝ってきたのだ。

 

「…………」

 

 改めてこの区画を見渡すと、異様な光景が広がっていた。

 

 肉天馬に襲われている時にちらりと見た時はよく分からなかったが、

信じられない事にこの場所はまだその機能を維持しているようであり、

振り子の様に揺れる遊具や、松明の設置された街灯などが点在している。

 

 そして、最も気になっていた人影はスノーノイズに包まれており、

霧氷の乙女の物とは違い、全身が覆われていて

表情はおろか、辛うじてシルエットしか確認する事が出来ない。

 

 今にも動き出しそうなものの、まるで時間が止まったように

びくともせず、まるで風景を切り取った絵画のようだ。

 

「この人影は……ヒト、でいいのか……?」

 

「さぁ……? もしもーし?」

 

 オレ達は恐る恐ると言った形で、

出店を覗いている白影に近づいてみた。

 

 しかし、相変わらずと言った様子で変化はなく、

オレの傍を飛んでいるティエルが語りかけても

微動だにもしなかった。

 

「ちょっと。ねぇ、聞いてるっすか?」

 

 ティエルがスノーノイズのかかったヒトの腕を引っ張ると、

勢いよく身体がプロペラのように超高速で回転し始め、

そのまま空中へと飛び立って星になった。

 

「えぇ……」

 

「おい!! 何をしている!!」

 

「ちょ、ちょっと腕引っ張っただけっすよぉ……!」

 

「…………」

 

 ティエルはその様子にあんぐりと口を開けており、

星になった白影を見つめ続けていた。

 

 流石に今のティエルにヒトを超高速回転させ、

空を飛ばすような力は無さそうだが、

それなら、今のふざけた挙動はなんなのだろうか。

 

 あまり、直接触れるのは良くないのかもしれない。

 

「そんな怖い顔しないで下さいよぉ……

 今度は強く触りませんから……

 ねぇねぇ、そこのヒト。ここってどういう所なんすか?」

 

 ティエルは近くにいた別の白影に、

今度は慎重に慎重を重ね、割れ物でも触るように

つんつんと頬の辺りを指で突付いた。

 

 すると、今度はその部分に穴が空き、

まるで風船を割った時のように凄まじい勢いで

空気を噴出しながら空の彼方まで飛び去っていった。

 

「え、えぇ……」

 

「おいッッ!!!」

 

「んひぃぃぃ! ごめんなさいっす! ごめんなさいっす!」

 

 しかし、一体なんなんだ。この白影達は。

 あの肉天馬と違い、オレ達を襲ってくる様子もない。

 

 ピンと立った耳や尻尾は輪郭から確認でき、ヒト、

もしくはヒトを模した物であるのは分かるが、何故ここに居るのか、

何故スノーノイズに包まれているのか、全てが分からない。

 

「むぅ……ひとまず、この人影達は置いておこう」

 

「そうっすね。もう変な事しないっす……

 ねーさんから調べろって言われた所は

 この区画を更に東に突き抜けた所にあるっぽいっすね」

 

「分かった」

 

 そうしてオレ達は、この歪な遊戯区画を東に向かい、歩いていく。

行く先々では楽しげなトゥーン調のキャラクターバルーンや巨大ブランコ。

 

 まるで、お城のような巨大なサーカスのテント、とある施設らしき場所では

魚を模した白影が水槽に入っている物もあった。

 

 豊かな海の生物を観察して楽しむような所なのだろうか。

 いずれも、寂れていなければさぞ愉快な遊戯区画だっただろう。

 

「…………ッ!?」

 

 肝が冷えた。

 

 目の前には、朽ちた回転木馬が今も尚、廻り続けていたが、

その取り付けられていた馬は木馬ではなく、

あのオレ達を襲ってきた、肉天馬だった。

 

 彼らは生きてこそいるものの、オレの姿を見ても意に介す事もなく、

落ち着いた様子で白影達を乗せている。

 

 所々、壊れているのか肉天馬が設置されていない所があり、

そこだけは血が破裂でもしたかのように壁に付着している。

 

「ひぃぃッ!! で、出たぁぁぁ~~~~~~!!!」

 

「襲っては……来ないようだな……」

 

 正直、この数の肉天馬に襲われれば、今度こそオレ達は終わりだろう。

その時の事を想像すると、額に嫌な汗が浮かび、

異様に心拍数が上がっていく。

 

「急に気が変わって襲われても困る……

 早く移動しよう」

 

「はいっす……」

 

 

――――

 

 

 それからオレ達は遊戯区画を横断するように、

東へ東へ向かって歩き続けた。

 

 次第に回転木馬と言った遊具達は少なくなっており、

朽ちた噴水や枯れ放題の花壇が立ち並ぶ、

散歩道へと景色は移り変わっていた。

 

 まだ、咲いている花らしきものがあるものの、

そういった物にだけスノーノイズがかかって

輪郭だけしか捉えることが出来ない。

 

(生命が存在するものにだけ、

 ノイズがかかっている……?)

 

 思案しながら、ティエルと共に

枯れた花の咲き乱れる散歩道を通る。

 

 ティエルは何かを探しているような、

それでいて不安そうな様子で、

きょろきょろとあたりを見回している。

 

 廃都にやってきた時のように、一気に駆け抜けても良かったが、

ティエルもオレも肉天馬との逃亡劇もあり、

心身ともに疲弊していてとてもそんな気分では無かった。

 

 幸いにも、肉天馬のように明確な殺意があって、

こちらを襲ってくるようなものはおらず、相も変わらず、

スノーノイズに塗れた人影が点在するだけだ。

 

「ここは……」

 

「わぁ……! こんな綺麗な花畑、

 初めて見たっす……!!」

 

 遊戯区画を抜け、街と外を隔てる外壁に、

枯れた蔦が絡みついた巨大なアーチがある。

 

 そして、そこを抜けると見渡す限りの広大な花畑があった。

ここだけ何故か花は枯れておらず、まるで幻想世界のように

美しく、恐ろしいほどに咲き乱れていた。

 

 空も大地も都も、その殆どが錆色と灰色で構成されており、

終末を思わせる雰囲気だったが、ここだけ別世界のようだ。

 

 その殆どが蒼と紫で構成されており、あまり詳しい訳ではないが

香りと形状から推測するに、どうやらラベンダーのようだ。

 

 その紺碧の海は地平線の彼方まで続いており、

見る者の心を一瞬にして波と風と共にさらっていく。

 

「これは圧巻だな。廃都にこんな所があったとは……」

 

「本当に綺麗っす……」

 

 ティエルの瞳の中には紺碧の帳が無限に広がっている。

 どうやら、オレ以上に感嘆して心を奪われているようだ。

 

「ここが、ソレイユの言っていた調べて欲しい場所なのか?」

 

「んー……もうちょっと先みたいっすね……」

 

 オレの言葉にハッとしたティエルは、いつの間に入れていたのか

オレのホルスターバッグからメモを取り出し、

翼を羽ばたかせながらそれに目を凝らして呻っている。

 

「もう少し歩いてみよう。花で地面が隠れて、

 何が飛び出してくるか分からん、気をつけてくれ」

 

「合点っす」

 

 オレ達は互いに顔を合わせ、頷くと紺碧の海を割るように

形作られた道を歩いていく。

 

 肉天馬蔓延る、恐ろしい廃都から薰衣草(くんいそう)の香り豊かな紺碧の海と、

矢継ぎ早に周りの環境ががらりと変わり、その環境に心が追いつかず戸惑うばかりだったが、

それでもこの景色と鼻をくすぐる香りは精神を落ち着かせる。

 

「あ、あれ……何か聴こえないっすか?」

 

 満面の花畑の上をゴキゲンな蝶のように翔んでいたティエルは、

ふと、狂い咲いたラベンダーに耳を傾けた。

 

「…………?」

 

 同じようにオレも耳を傾けてみるが、花びらと葉が擦れる

囁くような音しか響かない。

 

「む、何も聴こえないが……」

 

「いや、間違いないっす……! こっちから!!」

 

「お、おい……!」

 

 ティエルはそう言って道を外れ、紺碧の絨毯の上を泳いでいき、

オレも釣られて彼女の後をついていった。

 

「あまり先に行くな……! 先導ならオレが――」

 

「にーさん……」

 

 彼女は恐る恐ると言った様子で一点を指さした。

 そこにはオレ達の想像を超えるようなものがあった――。




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