※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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ユラン達は廃都のとある場所を調べる為、ラベンダーの花畑を散策していたが、
ティエルは突然、道を外れて花畑の奥へと入っていく。
ユランが彼女を追ったその先には――。


九十一話 枯れゆく花に水をやる庭師はいない①

「にーさん……これ……!」

 

「…………!?」

 

 ティエルが指さした紺碧の海の一角――そこには、

スノーノイズに包まれた一輪のラベンダーがあったかのように思えた。

 

 しかし、ラベンダーにしては大きく変な輪郭をしており、

良く見てみるとヒトの顔のように見える。

 

「――――」

 

 ――花に見えるそれは、アシモフの生首だった。

 

 いや、正確には花の部分がアシモフの形になったラベンダーだ。

 完全に茎や葉と一体化しており、その顔色も紫の花の色でしっかり香りもする。

 

「ンだ、ァ……? ヒト様に向かって"コレ"とはなん、だァ……」

 

「ひっ……!」

 

 花のように見えたアシモフが喋りだすと、

ティエルはその信じられない光景に戦慄し、

光の速さでオレの背中へと隠れた。

 

「花……? 意識が……あるのか……?」

 

「当たり前、だろォ……?」

 

 遊戯区画の連中のように、完全にスノーノイズに包まれているワケではないが、

霧氷の乙女に走っているものと比べて数倍酷い。

 

 表情の変化を捉えるので精一杯で、細かい部分は不明瞭だ。

 

「……お前はもしや、あの場所に一緒に居た、

 アシモフの爪の連中の中の一人か……!?」

 

「……あぁん……? アシモ、フの爪……?

 ハ、ハ。確かにそうかもな……

 だったらなんだってんだ……?」

 

「やはりそうか……! しかし、一体どうしてこのような姿に……」

 

「俺、も……分からねぇヨォ……?

 もうズット……ずぅぅ~~~~っとコノママだよォ!?」

 

 その瞳孔は開いていてオレ達を正確に捉えておらず、

呂律もしっかりと回っていない。

 

 このような姿で言うのもアレだが、明らかに正常な状態ではない。

 

「もっと早くからこの世界に迷い込んだのか?

 おい、教えてくれ……! この世界は一体何なんだ!?」

 

「何言ってんダ、ァ……? ンナノ決まってるじゃねェか……

 てめェ、も……もう一匹の霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)の霧に……呑まれたんだろォ?」

 

「どういう事だ? 霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)は一匹ではないのか?

 頼む、どんな事でもいい……教えてくれ……! どうしてもここから出たいんだ……!!」

 

「ハアァァァァ!? 脱出出来てねェ枯れゆくオレに、

 そんな花の事聞、くのかよ?」

 

「おい、落ち着け……! オレも矢継ぎ早に質問して悪かった。

 まずはゆっくりと深呼吸してくれ。月並みだが効果はある……」

 

 彼も興奮しているのか、言葉がおかしい。

 植物の身体では喋る事すらままならないのだろうか。

 オレがこの姿にされていたらと思うと、背筋に悪寒が走った。

 

「ハ……ハハッ……マシ、になった……ヒトの声を聞いたのなんて……

 いつぶり、だろうなァ……もっと聞かせてくレよォ……」

 

「いくらでも聞かせてやる……! だからこの世界の事を教えてくれ。

 オレ達はワケも分からないまま迷い込んで、ずっと彷徨っているんだ……」

 

「さっきも言った、ガ……ここは片割れの霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)の巣穴……

 アイツ、は……白園(びゃくえん)に自分ダケの……階層、ヲ……

 

「ここは第一層ではないのか……?」

 

 死者や無意識の者は必ず第一層――御伽霧層(おとぎむそう)へと向かう。

 もし、白園(びゃくえん)へとオレ達が至ったのであれば、

いる場所はここだろうと予想していたが、どうやら違うらしい。

 

 それなら、霧氷の乙女や従者の現実離れした立ち振舞いは納得がいく。

 御伽霧層(おとぎむそう)は理園(りえん)と最も近いが故に、

その法則も秩序も殆ど変化が無い。

 

 唯一違うのは、存在している世界と生命活動を維持する行為――

例えば食事や睡眠と言った行為が必要と無くなるという二点であり、

皮膚の無い馬が走り回ったり、突然消えたり巨人になったりと、

ここまで現実離れした事は何世代も練り込まれたペトログリフか、

偉大なる想刻家で無ければ不可能だ。

 

「それより、片割れってなんすか……?

 あんな界獣が何匹もいたらリュメイヌに人なんか

 住めなくなっちゃうじゃないっすか!」

 

「何言ってルンダ? 元々、霧の大地なんテ、誰も住めない不毛の地だっタじゃねェカ。

 それに、俺も最初はあの化ケ物は枯れゆくだけだと思ってたケド水はやったさ。

 でもアイツが枯れゆく花に水をやった時、庭師が居ナクなっちまったのサ」

 

「…………?」

 

「だ、大丈夫っすか……? 言ってる事が変っすよ」

 

「あれ、おかしいな……もう一度、水をやる庭師をしテ……」

 

 なんなんだ。この草原狼獣人(アシモベルク)は淀みなく話しているように見える。

 なのに、その口から発せられている言動だけがおかしい。

 

「おい、大丈夫か……?」

 

「なんデ、なんデ枯れるンダヨ!! ドウシテちゃんと庭師は水をヤラナイんだヨ!!!」

 

 彼の身体に走っているスノーノイズと言動はますます酷くなっていく。

 

 自身がちゃんと喋れていないのを自覚すると、目尻に涙を浮かべ、

懇願するように必死に、必死にこちらへ言葉を投げかける。

 

「落ち着け。オレ達はお前を見捨てない。

 だから、自分のペースでゆっくり話すんだ。

 何なら、今無理して喋らなくてもいい」

 

「はぁぁッ……あ、ァァ……ドオシテだよォ……」

 

 花になったアシモフは激しく落胆したように項垂れている。

 

 自身が枯れてしまうのではないかと思うほどに、

瞳からは滂沱(ぼうだ)の涙を流し続け、足元の土を濡らしていた。

 

「…………」

 

 オレ達は彼が落ち着くまで、ただ傍に寄り添っていた。

 今まで当たり前に出来ていた事が出来ないのは、誰でも堪えるだろう。

 

「……大丈夫か?」

 

「ア、ァ……」

 

「喋るのが辛いと思ったら、いつでも黙ってくれていい」

 

「す、スマネェ……今……は……チョット、落ち着かせテくれ……」

 

「分かった。気が向いたらでいい。

 ……オレ達と一緒に来るか?

 ここで一人でいるより、ずっとマシなはずだ」

 

「……いいのカ?」

 

「あぁ、何なら既に一人増えているしな。

 雪白猫に妖精のような小さい竜に……次は喋る花か。

 なんとも愉快な集団になってしまったな」

 

「まだ、イヌとかサルとかの方が現実味あるっす」

 

「ムォォオォォォォン!! アリガてぇ……アリガてぇよォ……!!」

 

 彼は号泣し、地面を水浸しにしていく。

 しかし、どうしたものか。

 普通の花と同じように土ごと運んだ方がいいのだろうか。

 

「…………」

 

 そう言えば、このラベンダーの花畑には他にも、

スノーノイズに包まれた花達があった。

 

 遊戯区画の白影と同じように、完全にスノーノイズ化した物。

 このアシモフや霧氷の乙女と同じように、まだ酷く無い物もあった。

 もしかしたら、この男以外にもラベンダー化したヒトがいるのだろうか。

 

「頼む……頼ムゥ……! 見捨て……見捨てないで、クレェェ……」

 

「分かっている。約束する。絶対に見捨てたりなどしない。

 だから安心してくれ」

 

 オレの遠い視線に焦燥感を覚えたのか、界獣クルラインに祈りを捧げる

敬虔なる信者のように懇願するアシモフ。

 

 それを宥めるように、頭を優しく撫でてやる。

 

 余程怖い思いをしたのか、見捨てられたかのどちらかだろう。

 

 オレも一つ間違えば同じ末路を辿っていたのかと想像すると、

この男が感じている不安や恐怖が他人事に思えず、

胸が締め付けられるような感覚が広がった。

 

「んじゃ、ほりほりするっすね」

 

「イテェェッ! アァァァアァァッッ!! 根っコを傷付けんじゃねェェェッ!!!

 痛いんダヨォォオォォォッッ!!!」

 

「あっ、ごめんっす……そんな大きい声出さなくても……

 これじゃラベンダーじゃなくてマンドラゴラっすよぉ……」

 

「テメェがワリィンだろうガァァアァァァッ!!! クソトカゲェェェッッ!!!」

 

 既にティエルはやる事を察し、彼の周囲を掘り返していたが、

どうやら爪が根に当たってしまったらしい。かなり痛そうだ。

 

「頼ムから慎重に水をヤッテクレ。枯れゆく花なんダカラヨ」

 

「…………」

 

「ハァ……またカヨ……俺は普通に水をやる庭師なだけナノニヨ。

 なんだって枯れゆく花にならなきゃ庭師」

 

「大丈夫っすか……?」

 

「アァァアァァァァッッ!!! イナイイナイイナイッッ!!!

 マトモに花もキケない庭師じゃネェェカァァァアッ!!!

 ナンデ枯れゆく庭師が喋れナインダヨォォオォォッ!!!」

 

「おい、落ち着けっ! もう喋るな!!」

 

「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!!!」

 

 彼は茎を蛇のように動かしながら狂気乱舞すると、

スノーノイズが一層酷くなり、その表情さえ伺うのが難しくなっていく。

 

 身体が千切れそうな程の激しい動作だったが、電源が切れたかのようにピタリと止まる。

 

「おい……?」

 

「枯れゆく花に水をやる庭師はいない」

 

 草原狼獣人(アシモベルク)は虚ろな顔で無機質な言葉を発する。

 その、精気の無い声にオレの背筋に凄まじい程の悪寒が走った――。




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