傷をつけられたので。
個人的なコルデーのテーマは鬼束ちひろです。
イメージとしては五章終了後な感じで。捏造捏造
傍らに眠る少女の橙の髪を撫でる。知らず。微笑みが浮かんだ。
―――ああ、なんて罪深い。
それはまごう事無き姦淫であった。お互い同性であるがゆえにいまだ純潔の証は破られていないとはいえ、同性同士で情を交わすなど、きっと主はお許しにならないだろう。
(けれど、でも)
そんな背徳など気にならない程の想いを胸に、シャルロット・コルデーはどこにでも居る少女へと微笑みを浮かべた。
「召喚に応じ参上しました!アサシン、シャルロット・コルデーです!一生懸命頑張りますけど……失敗したら、ごめんなさいね!」
どうして自分が呼ばれたのだろう。内心の困惑を隠して、アサシン、シャルロット・コルデーは汎人類史最後のマスターの召喚に応じ、言葉を掛けた。
そう……私。シャルロット・コルデー。英霊とすら呼べない己。ただ誤った決意の下、愚かな行動を起こし、後悔ばかりが結果を引き起こした、不出来な娘。無意味な暗殺者。
その生に後悔しか抱かなかった己が、何の因果か人理を守護するという大役を仰せつかったのだ。
きっと、多分。間違いに違いない。
だからほら、目の間に立つ彼女も、人類最後のマスターもまた、驚きに目を見張っているではないか。
当然の話だろう。武の絶技を持つわけでも、神算鬼謀の頭脳を持つわけでも、世界の深淵を識る知識もなく、さりとて万軍に立ち向かうような勇気も、万人を癒す慈愛も持ち合わせている訳でもないただの街娘に、何を期待するというのか。
不出来なサーヴァント。せいぜい平時は周りのお世話をして、有事の際にはマスターの盾になるくらいしか己の役割はないと、シャルロット自身はそう定義した。
だから、
「シャル……ロット」
己の名前を呟き、崩れ落ちて涙を流すマスターの姿に、驚きと、意味の分からない悦びが胸の内に沸き上がった。
「マスター!?」
駆け寄る。どうか泣かないで欲しい。どうにか腕の中に彼女を抱きしめて。けれど、マスターは泣きながら謝るばかりで。
(ああ、ああ……ごめんなさい)
意味のない己が、不出来な己が、マスターを傷つけている。
「わたしなんて、いなければ」
瞬間、強い力で腕を掴まれた。
そして、否定の言葉。
ひし、と瞳と瞳が通じ合った。
「……っ!」
息を呑む。
シャルロット・コルデーはその瞳の中に、美しい浜辺を見た。
涙に濡れ、充血で血走った瞳の中にある自分を見ているようでしかし、どこか違う場所を見ているかのような美しい虹彩。その中にある浜辺。
綺麗だと、そう思った。
「……そんな事ない。ありがとう。貴方が来てくれて。ごめんなさい。貴方は貴方なのに」
綺麗な浜辺を、少女の美しい声が飾る。それはまるでセイレーンの誘いのようで。
ふらふらと、胸を辛そうに抑える少女の手に己の手を重ねる。
「マスター……辛いのですか?」
コクリと頷き。
「どうして?」
静かな問い。
「貴方は貴方で、彼女ではないのに」
それが申し訳ないと、少女はシャルロットに誤った。
「誠実な、人なのですね。マスターは」
俯き、胸元にまるで見えない傷があってそれが痛むという風に胸を抑えるマスターを見て、シャルロットは、笑みを抑える事が出来なかった。
(どうしてだろう……)
分からない。分からないけれど、その痛む様が、[[rb:私 >シャルロット]]を通して[[rb:誰か > シャルロット]]の傷に痛む姿がどうしようもなく愛おしくて。
「大丈夫ですよ、マスター」
シャルロット・コルデーは、己の裡にあった初恋に堕ちた。
そもそも召喚自体は、誰と狙ってされたものではないらしい。神の都市を攻略してもなお続く人理再編の旅。その間隙に新たな戦力を、と願っての行為だったとの事。
それならなお、シャルロットとしては己が召喚された事そのものを恥じる思いがあったがしかし、マスターはシャルロットの存在を受け入れたし、カルデアのクルーもまた、『マスターの心の安息に繋がるなら』とシャルロットを受け入れた。
そうして、マスターの世話しながら僅かながらも濃い時間を過ごせば、ぽつりぽつりと、『アトランティス』の話にもなる。
ぽつりぽつりと語られる、己の知らないシャルロット・コルデー。マスターを助け、マスターと過ごし、そしてマスターに恋をして、最後はその記憶を失ってなお、恋した誰かの心に傷として残りたいと叫んだ少女の話。
その話をすれば、決まってマスターは力なく笑うのだ。
[[rb:初めて > ・・・]]シャルロットと会った時に、今のシャルロットと[[rb:街娘 > ・・]]を混同したことに対する罪悪感。
誠実な人だと、改めてシャルロットは思う。
(だからこそ、辛いのですよね、マスターは)
その誠実な人が、いつかの、知らぬ己を尊重して、そして今の己すらも、認めてくれる。
それがどれだけの救いであるか。
カルデアの日々はシャルロットにとってあまりにも甘美で、だからこそ、初めて会った際に感じた想いを日々強くしながら、その幸せをマスターに返したいと願う事もまた然りであった。
対して、マスターの少女である。
マスターは、藤丸立花は、七つの特異点を超え、五つの異聞帯を踏破した凡庸ながらも歴戦のマスターであった。
故に、数多の別れもまた経験している。
慣れ、という訳ではない。しかし、その数多くの別れの経験は、確かに少女の心を強くしていた。
現地の住民との交流や、英霊達と轡を並べて戦う先にある別離。
シャルロットとの別れは、そういったものとは別種のものであった。
英霊という、ある種『こちら側』の存在でありながら、まるでどこにでもいるような明るくおしゃまな少女。
『人類史を連綿と紡いできた偉大なる先達』として心のどこかにあった気負いが、彼女の前ではまるでなく、だからこそ辛く厳しい戦いであったアトランティスの癒しとなり、あの戦いを駆け抜ける事が出来たのだ。
そして、別離の時。今までは、たとえ別れとはいえ、英霊とのそれは『背中を押される』といった趣が強かった。それが、少女は、シャルロット・コルデーはただただ、『その愛おしさで背中にしがみ付いてきた』のだ。
恋と愛。この旅にて真っ向正面からそれと向き合った衝撃は、確かに少女の中で傷となって残っていた。
だからこそ、シャルロットを見るたび、常にない思いが胸を渦巻くのを抑える事が、出来なかった。
その胸にある[[rb:傷 > 想い]]を扱いかねる[[rb:少女 > マスター]]と、想いを秘める少女に恩を、そして恋を感じているが[[rb:街娘 > シャルロット]]が、情を交わすのも当然の事だった。
「シャルロット」
「あっ……」
第六の異聞帯への準備。そのために摸擬戦をシミュレーターで行ってきたマスターが自室に入ってくるなり、徐にシャルロットへとキスをした。
(柔らかい……)
舌の絡む感触。体の一部が愛しい人とつながる感触に、シャルロットは目をつぶる。
初め、立花を誘ったのはシャルロットからだった。フランス革命期の修道院で暮らしていたシャルロットにとって、その本来の倫理観に合わせれば同性同士なんて言語道断。
けれど、胸に溢れる思いが、『地球全土が漂白された今この場に、主が居ようはずもない』という方便で補強され、マスターと褥を共にする、という選択肢を選ばせた。
『貴方を癒したい』、そういった言葉と共にベットに押し倒された立花は初めこそ形ばかりの抵抗を試みるも、己に愛を叫んだ英霊と同じ顔、同じ声、同じ魂を持つシャルロットが、その瞳に熱情を浮かべて迫るその様を、どうしても拒むことが出来ず、ずるずると褥を共にすることになる。
そうしたなら、『そういった行為』に嵌ったのはむしろ立花の方だった。これまでその方に重責を背負って走り抜けた只の少女にとって、肌と肌を重ねる事は、受け入れられる事は、かつてない程の安息を得る事が出来たのだ。
(嬉しい……)
求められる事が、こんなにも。生前、己の意志にのみ従って、自由に、求められずに事を成した街娘には、過ぎた報酬だと思う。
そうしてキスから始まった二人の交わりが、手を絡ませる事へとつながっていく。
右手が恋人のように絡んで、立花の左手がシャルロットの腰へと回される。そうしてそのまま、軽く力を入れられ、ベットに誘導されて、
「んっ……」
シャルロットがベットへと腰を掛ければ、一旦口が離される。そうして顔前にはしゃがんでこちらと目線を合わせたマスターの顔。どこか苦しむような、悲しむような。痛みの表情をマスターが浮かべている。
この期に及んでも、彼女の心の中には痛みがあるのだ。いや、事が始まればそれに溺れるとて、シャルロットを求める事は、マスターにとって、藤丸立花にとって、心にできた傷の瘡蓋をはがされるに等しい行為だった。
(これが、[[rb:貴方 > ・・]]の付けた傷……)
いまだ己の眼前で悲しい表情をしたマスターへと微笑みかけて、シャルロットが優しさ以上に力を込めて抱きしめる。僅かにこわばるマスターの体。
そうして、耳元でささやくのだ。
「大丈夫です、心配なさらないで下さい。そのシャルロットはきっと幸福だったでしょうから……私だって、貴方に心を奪われてるのだから」
そう言えば、僅かにこわばったマスターの体から力を抜ける。
そうしたなら抱きしめた力を緩めて、再びお互いに見つめ合い、安心させるように微笑みかける。
シャルロットとの交わりそのものが立花にとって瘡蓋をはがすようなものなら、その言葉と笑みは、はがした瘡蓋の傷を癒す特効薬のようなものだ。
その笑みを見て、安心したように立花が再びシャルロットへと体を預ける。そうしたなら、街娘は抵抗せずに体を倒した。
「あっ……ひっ」
「んむっ……」
立花にとって、体の交わりは己の心を癒すための行為、という意義が強かった。だからだろうか、シャルロットのその豊かな胸を特に好んだ。
左手で優しく片方の胸を愛撫し、右の乳房の頂点にあるピンク色の乳首に吸い付く。まるで赤子が母の乳を求めるような動きを、シャルロットは愛おしく感じていた。
「んっ……そう、マスター……気持ちいいですか?」
微笑みと共に、服をはだけてあらわになった胸にご執心のマスターへと言葉を掛ける。
頷くその頭に右手を当てて撫でつつ、左手をマスターの股へとするする、伸ばしていく。
そうして触れれば、
「んんっ……!」
ピクリと、マスターが震えた。
(ああ、なんて。冒涜……)
マスターがシャルロットの胸を愛撫することを好むなら、シャルロットはマスターのそこを愛撫することを好んだ。
己と同じく純潔を保っているそこは、本来なら誰か、愛しい人を受け入れ、その精を受け止めて命を育む筈の場所。
それを、女で、しかも死者である己が占有しているというゆがんだ独占欲に、シャルロットは振るえた。今、自分はマスターの、藤丸立花の、愛しい少女の未来を喰らっている。その感覚があった。
(傷、私だけの、傷)
優し気な手つきが、その想いのままに激しくなる。マスターの腰が震え、愛撫にも余裕がなくなってくる。
お互いに高まるのが分かった。
「マスター!マスター……!あはっ」
思わず笑いが口から出る。
返答は胸と乳首を愛撫する動きがより激しくなることで、そうなればシャルロットもまた、己の愛撫をより一層激しくした。
手に感じる湿り気がより濃くなる。
(ああ、愛が。マスターの、あいが)
きっと今手を眼前に戻せば、白濁した粘液がきっとべっとりとついている事だろう。それはつまり、それだけ愛しい少女が感じていてくれるという事で。
視界が明滅する。
「マスター!マスター!!!」
ただ名前を呼んで、立花の頭を掻き抱いた。そうすれば、ぎゅっと胸に少女の顔が押し付けられて、
「んっ……」
胸に溜まった快楽が爆発して、シャルロットの腰が震えた。絶頂。同時に立花もまた、震えてぎゅっとシャルロットを抱きしめる。
フランス娘として、はしたない真似は出来ない。叫びの声は上げず、ただただ、唇を噛んで、耐えた。
しばしの時、お互いの息遣いのみが響く部屋の中、口火を切ったのはシャルロットだった。
「マスター、楽に、なりましたか?」
少しでも心の傷が癒されればいい。その言葉に、ただ気の抜けた笑みをマスターが返してくれる。
「よかった」
シャルロットは、心からの笑みを浮かべた。
傷が、かつて自分ではない自分が付けた傷が癒されるのなら、幸いだった。
「やっぱり私、マスターの事が、大好きです!」
私の付ける傷が、より深くなるから。
「だから、こうしている時が、一番好きなんですよ?マスターをもっともっと感じる事が出来るから」
ただの街娘が何の間違いか英霊に昇華されたという自認識の彼女に、常ならば英霊が持ちうる生者に対するある種の線引きを持たない。
だからこそ、街娘は初めて溺れた初恋に、全力なのだ。恋する少女の額へと、愛おし気ににキスをする。
「でも、普段のカルデアの生活だって、大好きです。貴方の側に、居られるから」
その積極的な言葉に、思わずかつて共に旅をした彼女との違いを感じ、どうにも立花はドギマギする。当然だ。シャルロットは、あのシャルロットではない。違いは、嫉妬だった。
そう、嫉妬。[[rb:愛される貴方 > 愛しいマスター]]に傷をつけた、見知らぬ[[rb:貴方 > わたし]]への、嫉妬。
シャルロットが藤丸立花に召喚されたなら、恋に溺れる。それはきっと、運命だ。けれど、それだけならばアトランティスのシャルロットと変わらない。
だけど、今カルデアに居るシャルロットには、恋敵が居た。だからこそ積極的にもなるがゆえに、その微笑みはより一層慈愛と親愛と、情愛を帯びる。
「私、ずっとずっと、マスターと一緒ですから。約束です」
それが果たされない事くらいはシャルロットも分かっていた。藤丸立花も同様に。だからこそ、その言葉に立花は顔を上げ、何かを言おうとするも、その笑みに本来言うべき言葉は出てこない。
代わりに、新たに刻まれつつ傷から、血が流れ落ちた。
「うん。私も、一緒がいいな。約束」
(ああ、いけない)
その言葉に、シャルロットの心のおぞましい部分から、歓びが溢れ出る。死者としての領分を冒すことなど知らない。
いつか、避けえぬ別れがあるのならば、その時は高らかにマスターへの愛をかつての時と同じように謳って消えよう。
そしてその喪失が、マスターにとって一生消えないものとするために、今を全力で生きよう。そして愛そう。
[[rb:恋仇 > わたし]]が付けたものより深い傷を与える為に。愛しい貴方に、私を刻みつける為に。
「嬉しいです、マスター。ずっとずっと、一緒ですよ?」
つまるところ、
―――シャルロット・コルデーは、不出来なサーヴァントである