なお、言うまでもありませんが、本作に出てくるフォースライザー等のライダーシステム及びそれに関係する兵器は、すべてノイズに対抗可能な兵器として登場しております。
小日向と共に廃工場に戻ると、俺は買ってきた食材を使って簡単な料理を作った。できた料理を小日向にも渡そうとした際、最初は遠慮していたが、少し作りすぎたので捨てるともったいないと言うと受け取って食べ始めた。食事を始めてから少しして、俺の方から話を切り出す。
「それで、一体何があったんだ? 帰る家がないなんて言ってたけど」
「……」
「あ、いや……悪い。余り言いたくないことだったら……」
「……いえ、大丈夫です」
そう言うと、小日向はゆっくりとここに至るまでの事情を話し始める。
「二ヶ月ほど前、私は立花響という友人に、当時大人気だったツヴァイウィングというアイドルのライブチケットを渡したんです。そのライブチケットはペアチケットで、最初は私も一緒に行く予定だったんですけど、その日は急に家の都合で行けなくなって……」
「それで、その立花って子はどうしたんだ?」
「一人でライブに行くよと言っていました。そして当日になってライブが始まる直前に、響が自撮り画像を送ってきたんです」
小日向はスマホを取り出して、立花響の自撮り画像を見せてくれた。写真には、ライブのチケットを持って笑っている立花らしき人物が映っている。
「私はそれを見て、楽しんできてねってメールで送ったんです。けどそのしばらく後に……」
「例のライブの襲撃事件が起きたと」
「……はい」
小日向は顔を俯かせる。どうやらあの事件は、小日向にとってかなりのトラウマになってしまっているようだ。
「最初にニュースを見た時は信じられませんでした。まさかライブ会場にたくさんのノイズが現れて、人を襲いまくっているなんて……」
「……俺もついさっき流れてきた新聞で見たよ。大勢の犠牲者が出たって……」
「……幸い、響は無事でした。大怪我を負ってしまったと聞いた時は気が気じゃなかったですけど、お見舞いに行ったときはまるで怪我なんてないみたいに元気でした。平気、へっちゃらって……」
小日向は笑いながら当時のことを思い出すように話す。今の話だけでも、立花って子が明るい人物であることが伝わってくる。でもそんな話とは裏腹に、小日向の顔はどんどん曇っていく。
「……でも、響が退院したと同時に、あることがニュースで発表されました。ニュースの内容は、ライブ襲撃で被害に遭った人や、亡くなった人の家族に支援金を配布するというものでした。……そこからです。地獄が始まったのは」
「地獄?」
「政府が支援金を配布するとわかると、ネット上で政府に対して多くの反対の声が出たんです。ライブ襲撃に遭ったからといって、治療費や亡くなった人の生命保険以外で金銭面の支援をするのはやりすぎじゃないか。そもそもライブ被害者に支援が必要なのかとか……」
いやいや……どこからどう見てもただの事件じゃないだろ。ノイズという化け物によってもたらされた立派な災害だ。ただの通り魔に遭うのとはわけが違いすぎる。言うなれば、地震や台風とかで生じる建物の損害や人的被害に援助するのと同じだと思うが。
「でも、それよりもネットで議論になったのが、ライブの生存者に支援を受ける資格があるのかという点でした。中にはライブの生存者のせいで家族を失った人達もいるって人や、他人を踏み台にして生き残った人殺しって言う人もいました……」
「……マジで?」
「はい。そしてそれがひとたび話題に上がると、たちまちネット中に広がってライブの生存者を叩き始めました。生き残った人たちはいわれのない罪で罵詈雑言を浴びせられたり、ひどい時には暴力も振るわれました」
話を聞いていくうちに、段々と自分の中で何かがせりあがってくるのを感じる。それは小日向の話に恐怖を感じたのか、あるいは怒りか。この時の俺はそこまで深く考えていなかった。
「そしてライブ襲撃事件から一か月が経った頃、ついに事件が起こったんです」
「……まさか、生存者狩り?」
「……はい。生存者が他者を踏みにじっておきながら生きているのが許せないと……一部の過激な人達の手で生存者が殺されてしまったんです。その光景がネット上に挙げられたのがきっかけで、他者を踏みにじった悪を成敗するというお題目で、生存者狩りが始まりました」
「マジかよ……」
なんとなくそうなんじゃないかとは思ってたけど、まさか命まで取るとは……。しかも殺した画像をネットにあげるとかどうなってんだよ。もう過激ってレベルを超えすぎてる。
「生存者狩りは女の人や子供であっても関係なく行われました。その生存者の家族ですらも同罪として、生存者と同じような迫害やいじめが行われました。その中には、当然響も……」
「……君は大丈夫だったのか?」
「……最初は響をかばいました。元はと言えば、私が響をライブに誘わなければ響が生存者狩りに遭わずに済んだんです。だからせめて、響を守らなきゃって……」
「……」
「それでも響は、『大丈夫、きっとわかってくれる。未来は悪くない』って言って、私を責めませんでした。でも響の顔は、時間が経てば経つほどますますひどくなっていきました……」
小日向は体中を震わせながら、なんとか言葉を繋いでいく。一瞬止めようか迷ったが、今ここで止めたらかえって小日向を苦しめることになると思い、最後まで聞くことにした。
「そうしてしばらく日々を過ごしていると、私はクラスメイトの子たちに言われたんです。『もし今後も立花に関わり続けるなら、今度はお前をターゲットにする』って……。さらには生存者をかばう私の家族も同罪だと言って、脅してきたんです……」
「とんでもない奴らだな。それで君はどうしたんだ?」
「……私は、逃げました。丁度親の都合で引っ越すことになるのをいいことに、響には何も告げずに。そうして別の中学校に転校することで、私は彼らの手から逃れました……親友を見捨てて」
「……」
小日向の話を聞いて、俺は複雑な気持ちになる。立花って子からすれば、小日向は親の都合などの事情があったとはいえ自分を見捨てて逃げた裏切り者にしか見えないだろう。小日向も脅されていたにせよ、その自覚はあるみたいだった。
(脅されて仕方なかったというのは、簡単には言えないか……)
「それからしばらくは平穏が戻りましたが、ある日私が過ごしていた街にノイズが現れて……」
「え……」
「それで、お父さんとお母さんは……」
涙声になりながら話す小日向。気が付けば、小日向の目からはとめどない涙が溢れていた。
「父と母が死んで、私はどうすればいいのかわからなくなりました。そのうえ転校先の学校でも、魔女狩りじみたいじめが行われていて……私も前の学校のことがすぐにバレて、いじめに遭いました。そんな私を助けてくれる人は誰もいなくて……路頭に迷った私は、この街に辿り着きました。ここなら、誰も私を気に懸けませんし……」
「……」
「あはは……今にして思えば、親友を見捨てて黙って一人逃げ出した私に対する、罰なのかもしれません。それでも、直接暴力を振るわれないだけ、まだマシかもしれませんが……」
「小日向……」
小日向はそれ以上何も言わず、ただただ涙を流していた。見てられないと思った俺は、思わず小日向の手を握る。
「小日向……君は悪くない。悪いのは、ろくに真実を知ろうともせずに周りに流されて正義を語る奴らと、そもそも人々を脅かすノイズのせいだ」
「浪川さん……」
「でも君が後悔する気持ちもわかる。脅されていたからといって、親友を見捨てて逃げたことに変わりはないと思ってるんだろ?」
「……はい」
「小日向はこれからどうしたいんだ? 立花を助けたいのか? それともすべてを忘れて楽になりたいのか?」
正直、俺はライブの被害者でも何でもないから被害者の気持ちはわからないし、どこまでも薄っぺらいことしか言えない。でもこのまま小日向を放っておけば、自分を責めすぎてどこかで命を絶ってしまうのではないか。そう思ったら、このままにしておこうとは思えなかった。自殺なんてされたら寝覚め悪すぎるし。
「……わかりません。でも響が心配だって気持ちは今もあります。大切な親友ですから……もう私にその資格はありませんけど」
「それほど大切な存在なんだな、立花は」
「はい。私の自慢の友達です」
「……なら俺が立花と話し合う機会を作る。もう一度その子に会ってみたらどうだ?」
俺の提案に小日向は驚いたような顔をしたが、次第に首を横に振った。
「無理ですっ! もう私に響と会う資格は……」
「でも立花が心配なんだろう? 無事を確認しに行くだけでも行った方がいいんじゃないか?」
「浪川さん……」
「そりゃもちろん、いきなり会ってすぐ仲直りとはいかないだろうけど、このまま何もせずに後悔し続けるよりはいいと思うぞ?」
もちろん理想は、そのまま和解してまた以前のような関係に戻れるのが一番だけど、話が話だけに簡単じゃないのもある。でもかつての友達のことを忘れてきっぱり未練を断ち切るにせよ、はたまた友達としてやり直したいにせよ、まずはもう一度会ってみないことには始まらないだろう。
「悪い、勝手に話を進めて。これは小日向自身の問題だ。どうしたいかは君が決めてくれ」
「……少し、考えてみます」
結局この日は結論は出ず、明日決めるということで話は終わった。……よく考えてみれば、なんで俺は今彼女の問題に手を貸そうとしているのだろうか。
というのも、そもそも俺は彼女からこの世界について色々と聞くだけのつもりだったのだ。彼女の身の上話など、正直これっぽっちも興味がなかった。でもいざ彼女の話を聞いてみると、俺が想像していたよりも数倍重いものだった。軽はずみに聞くべきではなかったと思うほどに。
(ろくに自分のことにも手が回ってないってのに……)
とにかく、明日の彼女の結論を聞いてからだ。そう考えた俺は、小日向と共に廃工場に備わっていた仮眠室に向かう。仮眠室に複数あったベッドに寝転がりながら、俺は意識を手放した。
***
翌日、俺は机の上である物と睨み合っていた。
「やっぱりシステムがまだ未完成だったか……」
そう、昨日チンピラたちの前で無様にのたうち回る羽目になった、あのフォースライザーである。
フォースライザーを調べてみると、昨日変身しようとシステムの起動をした際にプログライズキー側に大きな負荷がかかりすぎて、機能不全ギリギリの状態になっていたみたいだった。フォースライザーを装着した時も、まるでベルトに適合していない人間を無理やり適合させるかのような感じだったし、もしかしたらライダーシステム自体がこうした欠陥だらけだったから、それを制作する工場ごと凍結したのかとも考えられる。
「これは地道に調整していくしかないか」
俺はさっそく、昨日の稼働状況を基にパソコンで修正プログラムを作成し、フォースライザーとプログライズキーの調整を始める。今のままではとてもじゃないけど使い物にならない。もしノイズの目の前で昨日のようにのたうち回ってたら、そのままノイズに殺される。いざという時のために、最低限負荷は減らしておかないと。
「おはようございます……」
「あぁ、おはよう」
少しして、小日向が仮眠室から出てきた。小日向は俺の近くまで移動すると、興味深そうにフォースライザーを見つめる。
「これはなんですか?」
「こいつはノイズに対抗するためのシステムだ。今は全然使い物にならないけど、使い物になればノイズだろうと怖くない。……まぁ実際ノイズと戦ったことはないからなんとも言えないけど」
「本当ですか?」
「まぁこれはいずれとしてだ」
俺は作業する手を止めて、小日向に向き直る。昨日の件について小日向の結論を聞かないと。
「結論は出たのか、小日向?」
「……はい。私は、響にもう一度会ってみようと思います」
小日向の目は昨日とは打って変わって、確かな決意に満ちていた。
「もしかしたら、響には拒絶されるかもしれない。でも、このまま何もせずに逃げ続けるようなことだけはしたくないんです。響のためにも……自分のためにも」
「……そうか」
小日向はどうするかを決めた。なら俺もそれに応えないと。
「俺も一緒に行くよ」
「……浪川さん」
「こうして知り合えたのも何かの縁だ。それに、昨日話し合う機会を作るって言ったしな。やるなら最後まで付き合う」
「……ありがとうございます。正直、私一人じゃまだ怖い部分もあったので」
「別に気にしなくていい。その代わりといっちゃなんだけど……」
俺は机の上のフォースライザーを指さしながら、小日向に告げる。
「俺の実験を手伝ってくれないか?」
「実験ですか?」
「ああ。今俺はこいつを使い物にするために手を動かしてるけど、一人だと形にするのに何日か時間を食いそうなんだ。けど小日向もできるだけ早く立花に会いに行きたいだろう? だから一日でも早く形にできるよう協力してほしいんだ。それに、昨日知り合ったばかりの俺たちなら、取引の形にした方が、お互い信用しやすいと思ってな」
「なるほど……確かに浪川さんの言う通りですね」
小日向は納得したかのように少しだけ笑顔になると、意を決したように口を開いた。
「わかりました。私にできることがあれば何でも言ってください」
「ありがとう。これで取引成立だな」
こうして、俺と小日向は取引という形でしばらく一緒に行動することになった。小日向のためにも、早く完成させないと。
R-18小説なのに今回もエロなしってマジ?
なんていう冗談はさておき、次回はエロ回の予定です。