今回はあるキャラと修哉が初対面します。
未来と一線を越えてから、さらに二週間ほどが過ぎた。
「よし、完成したぞ」
「すごい……修哉さんって、スマホも作れちゃうんですね」
「この工場にこいつの設計図とデータが残ってたからな。俺はそれを形にしただけだぞ」
今俺の手には、この工場に存在していた設計図とデータを基に作った紫と黒のツートンカラーのスマホが握られている。これはライズフォンと呼ばれるスマートフォンであり、様々なアプリが内蔵されているデバイスだ。電話やメールはもちろんのこと、ソシャゲや動画も楽しめたりする。
だが、こいつの最大の特徴は別にある。
「未来、少し離れてろ」
俺はライズフォンを操作して、あるモードを起動して空中に放り投げる。
【モーターライズ! ライズスコーピオン!】
するとライズフォンは、みるみるうちに変形してバイクの形になる。
「えっ!? スマホが、バイクに変形したっ!?」
「すごいだろ? 俺も形にするまではよくわからなかったけど、実際にスマホがバイクに変形するのを見ると、改めてここの技術レベルの高さに驚かされる」
「ほんとにどうなってるんですかね? この工場は?」
「知らん。俺はもう考えることをやめた」
毎回工場に突っ込んでいたら疲れてしまう。便利な道具を作れて、寝泊りもできる場所。俺の中ではもうその認識で完結していた。そうすればこれからこの工場で何かあっても、『ああ、こういうのもあるんだな』で済ませられるし。
「それより未来、いよいよ出発の時が近づいているぞ」
「……いよいよ、なんですね」
「ああ」
ここまで一か月もかかってしまったが、フォースライザーの調整を始め、武器の開発や情報収集、さらには体力づくりなど、実に有意義な時間を過ごせたと思う。
「明日の朝、出発だ」
「はい」
この日はライズスコーピオンの試運転と、開発した武器の調整をして就寝した。
***
「未来、見えてきたぞ」
「……」
翌朝、俺は後ろに未来を乗せてライズスコーピオンを走らせていた。未来が話していた街は、ノイズ多発地域にしてはずいぶんときれいな景観をしていた。ノイズの被害が多いからこそ、最優先で復興に力が注がれているのだろうか?
「……響」
未来は先ほどから一言も発していない。というより、俺を掴む手が震えているようにも感じる。未来にとっては、いまだにこの街はトラウマとして残っているようだ。
そんな未来を乗せながら、俺は街に入る。街に入って近くの公園でライズスコーピオンから降りると、未来と共に近くのベンチに腰掛ける。
「……どうだ、久々に訪れる街は?」
「……懐かしいです。ちょっと前までここに住んでいたのが、信じられないぐらいに……」
未来は儚げな瞳を街に向け、懐かしむように口にした。どれだけトラウマになっていても、やはりずっと住んでいたこの街は懐かしく思えるほどに思い出が残っているのだろう。
「大丈夫だ、未来」
「え?」
「立花は死んでいない。きっと会える。会っていくらでも話し合えばいい」
「……ありがとうございます」
そう言って未来は、少しだけ笑顔を取り戻した。
(さて、これからどうしようか。立花を探すにしても、今のところは何の手がかりもないし、地道に探すしかないか)
内心で立花をどう探すか考えていると、突如街中にけたたましいサイレンの音が響き渡る。
「な、なんだっ!?」
「っ……これはっ!」
俺は驚きながらも、状況を確認するためにライズフォンを確認しようとする。しかしその直後、どこかから悲鳴染みた声が聞こえてきた。
「ノイズだぁぁぁ! 逃げろぉぉぉぉぉぉ!」
(何っ!? ノイズだってっ!?)
このサイレンはノイズの出現を知らせるものなのか。さっきからそこら中で悲鳴が上がっている。もしかしたら俺たちの近くにも……。
急いでライズフォンで、近くにシェルターがないか確認してみる。幸いにも、俺たちの現在地である公園からそう遠くない距離に、シェルターらしき建物があるのを確認した。
「あ、あっ……」
「未来、大丈夫か? 未来っ!」
「はっ……はいっ!」
俺は怯える未来の肩を掴むと、言い聞かせるように伝える。
「いいか未来、ここから少し歩いたところにシェルターがある。ひとまずそこまで逃げるぞ!」
「わかりました!」
俺は未来の手を掴んで、シェルターまで急ぐ。変身して戦うといった選択肢もあったが、退路を確保してない状況で戦うのは非常に危険なうえ、ノイズの場所もわからないのに未来を一人にするわけにもいかない。
「見えたっ! あそこがシェルターだ!」
俺は未来と共に、急いでシェルターに入ろうとする。しかしシェルターに入る直前、未来の方へ振り返った俺はある光景を目撃してしまう。
(……あれは、誰かを突き飛ばしてる?)
俺が振り返った先には、どこかの集団らしき人達が誰かを突き飛ばしてこのシェルターに向かってくるのが見えた。
「……未来、悪い。先にシェルターに入って待っていてくれ」
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってください! 修哉さんはどうするんですかっ!?」
「少し急用ができた。大丈夫、すぐに戻るから」
「駄目っ、待って! 修哉さぁぁん!」
泣きながら引き留めようとする未来をシェルターに押し込む。後で未来に謝っておかないと。
そうして来た道を戻ると、さっき突き飛ばされていたらしき少女が倒れていた。
「おい君っ! 大丈夫か!」
「……えっ?」
「え、じゃない! そんなところで倒れていたら死ぬぞ!」
「……いいんですよ、もう。ほっといてください……」
そう言って少女は、顔を俯かせたまま立ち上がろうとしない。仕方なく無理やり体を起こして移動しようとすると、曲がり角から大量の異形が姿を現した。
「あれが、ノイズかっ……!」
この世界に来て初めて……というより生まれて初めて見た。見た目は人型やムカデのように長い体を持つものまで様々な種類がいたが、どれも触れたら即死だと考えたら、それらすべてが恐ろしい怪物に見えてくる。
(くそっ、今からじゃ避難は間に合わない!)
……やるしかないか。
「おい君、そこの物陰に隠れていろ」
「え?」
「早くしろ。それとも死にたいのか?」
少女は少し考えてから、ふらふらとした足取りで物陰に隠れる。それを確認して俺は、懐からフォースライザーを取り出して、腰に装着する。
【フォースライザー!】
「さて、こいつがお前らに通用するかどうか、確かめさせてもらうぞ」
俺はプログライズキーを構え、起動スイッチを押す。
【ポイズン!】
フォースライザーにプログライズキーを装填すると、警告音のような待機音と共に、巨大なサソリが現れる。サソリは目の前のノイズを牽制しながら、俺の近くを動き回る。
「……変身!」
【フォースライズ!】
【スティングスコーピオン!】
掛け声と共に、俺はフォースライザーのレバーを引く。するとサソリは俺のもとにやってきて、巨大な尾を俺の胸に突き刺す。それを軸に、サソリの体が俺を覆いかぶさるように移動する。やがてサソリによってスーツが形成されると、その上からサソリが拘束具のような装甲となって装着される。
【
そうして俺の全身がパワードスーツに包まれ、俺は変身を果たす。一ヶ月前に変身した時は激痛が全身を駆け巡って死ぬかと思ったが、今は着心地が良くてたまらない。一ヶ月間の調整は無駄ではなかった。
「……さて」
俺は改めてノイズの群れと向き合う。俺が変身している間に、どこかから増援らしきものが現れたらしく、さっきよりも数が増えているようにも思えた。
──だが、そんなことは問題ない。どうせすべて滅ぼすのだから。
「ノイズ共……お前らはここで倒す」
俺は目の前にいるノイズとの距離を瞬時に詰め、そのままの勢いでパンチを繰り出す。拳はブレることなくノイズに当たり、直後に炭のように消滅した。
(……よし、問題なく倒せるな。ひとまず安心だ)
ライダーシステムがノイズにちゃんと通用したことに安堵した俺は、勢いに乗りながらノイズを徒手空拳で倒していく。
しかしいくら倒してもノイズの群れは全く減ることなく、ますます増えていく一方だった。このまま素手で戦っていても埒があかない。何か手を打たないと。
(ちょうどいい。あれを試してみるか)
開発した武器を試すのにちょうどいい機会と思った俺は、ライズフォンを取り出してアプリを起動する。すると俺の手元に、アタッシュケースのような物が転送されてきた。俺はそのアタッシュケースを展開して、弓型の武器に変形させる。
【アタッシュアロー!】
アタッシュアローを構えた俺は、グリップを手前に引いてエネルギーをチャージすると、ノイズに向けて放つ。放たれたエネルギーの矢は高い貫通力を発揮して、複数のノイズを撃ち抜き、消滅させる。
(すごいなこれ……エネルギーの消費が少ないのに対して、貫通力が高い。それに矢を放った時の音もすごく小さい。しかも近接戦闘用の刃も備わっていて、遠近両用に対応できる。使い勝手が良すぎるだろ)
俺がアタッシュアローの使い勝手の良さに感動していると、一回り巨大なノイズが俺に襲いかかってきた。
「おっと……」
間一髪それを躱した俺は、躱した勢いのままアタッシュアローをアタッシュモードに戻す。
【チャージライズ! フルチャージ!】
アタッシュアローにエネルギーを充填させると、再びアローモードに展開し、グリップを引きながら巨大ノイズに狙いを定める。
「……撃ち抜く」
【カバンシュート!】
チャージ状態で放たれたエネルギーの矢は、先ほどよりも巨大な矢となってノイズを撃ち抜く。その後も特に苦戦することもなく、時々徒手空拳を交えながら次々とノイズを片付けていく。
「よし……だいぶ数が減ってきたな」
気が付けば、残ったノイズの数はわずかとなっていた。俺はとどめを刺すべく、プログライズキーをフォースライザーから取り外して、アタッシュアローに装填する。
【
【スコーピオンズアビリティ!】
「終わりだ」
プログライズキーが装填されたアタッシュアローのグリップを引き、ノイズの群れに狙いを定める。最大までエネルギーがチャージされたのを確認した俺は、ノイズの群れに向けてグリップを放し、エネルギーの矢を放つ。
【スティングカバンシュート!】
サソリのエネルギーを纏った矢が、残ったノイズを跡形もなく消し去る。そうしてすべてのノイズが倒されたのを確認して、俺は物陰に隠れている少女に近づく。
「大丈夫か?」
「は、はい……大丈夫です……」
目の前の少女は、何が起きたのかを把握できず呆然としていた。どうしようかと迷っていると、どこかから車の音が聞こえてくる。おそらく、自衛隊か何かだろうか。本来ならここで到着を待って、自衛隊にこの子を預けるべきだろうが、ノイズがまだ残っている可能性もある。それにこの姿のままで自衛隊と会ったら、色々と面倒が起こりそうな気がした。
(……この場所にとどまるのはまずい)
俺は変身を解除することなく、少女の手を取る。
「いいか? このままここにとどまるのはまずい。ノイズもまだ残っている。ひとまず移動するぞ」
「え、でもそこにシェルターが……」
「……いや、あいにくだけど、あそこのシェルターはもう閉まってる」
「え……?」
少女はシェルターの方に顔を向ける。しかし無情にも、シェルターの扉は固く閉ざされていた。
「……ほんとだ、とじてる……」
少女は諦めたような表情をしながら、顔を俯かせて呟いた。何か訳ありなのは明らかだったが、今ここでそれを問いかけている場合じゃない。
「呆けてる場合か! いいから逃げるぞ!」
「逃げるぅ……? どこにも逃げ場なんてな……」
「もういい! 担いでいくから捕まってろ!」
俺は半ば無理やり少女を担ぐと、即座にその場から逃げ出した。
「えっ? ちょっとっ!? きゃあああああ!」
耳元で少女が叫んでいるが、そんなのはフル無視してただただ移動する。しばらく移動していると、ノイズの気配がなさそうな無人の工場を発見したので、ひとまずそこに逃げ込む。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」
俺は少女を降ろすと同時に、変身を解除する。
「……いきなり担いで悪かったな」
「ほんとですよ! 急に担いだかと思ったら、思いっきり全力疾走なんてして! 頭どうかしてるんじゃないですか!?」
「そこまで言うか!?けどああしてなければお前はそのまま死ぬ気だったろ?」
「……それは」
少女は図星を突かれたのか、黙って顔を俯かせる。
「……どうせ、私なんて」
……これは、何か地雷を踏んでしまったかもしれない。ひとまず話題を変えた方が良さそうだ。
「……俺は浪川修哉だ。そっちは何て名前なんだ?」
話題を変えるために、俺は軽く自己紹介する。しかし彼女の名前を聞いた瞬間、俺は言葉を失うことになった。
「……立花、響……です」
「……っ!?」
何しろ、未来が会いたがっている例の少女と、偶然にも出会ってしまったのだから。
はい、というわけで原作主人公である立花響との初対面回でした。
戦闘描写はひとまずこれぐらいのバランスで進めていく予定です。