血だらけで倒れる青年。その場に散乱するエロ本。
(おいおい……嘘だろ……)
鬼頭恭也はエロ本を買った帰り道に車に轢かれて死にかかっていた。
彼はまさか自分が十四歳なんて年齢でこの世を去るなんて予想もしてなかった……大体、こういう悪い目に遭うのは何かそれに相応しい悪い事した人間ではないのか、恭也は生まれてこの方大した悪事も善行もしていないザ一般人だ。
そんな彼の些細な悪事といえば毎週金曜日に本屋でHな本を買う事だ。
今日もエロ本買った帰り道だった。
現代の日本では18歳以下の者はこの手の雑誌を買うことは禁じられている。だがエロ本を買うぐらいならこの年頃の男としてはおかしくない。しかも彼が今回購入したのは二次元でもなければロリでもない至極全うなジャンルの女子高生ものであり、彼が現在中学生である事を考えれば年上のお姉さんに憧れる純真な少年だと言えるだろう。
それにもし仮にエロ本を買うことが悪だとするなら、目には目には歯には歯をというハンムラビ法典的に考えて、あそこのサイズが小さくなるとかそういった罰が適当であろう。
何も殺すことは無い。いや仮に死ぬことは譲ったとしてもこの状況は駄目だ。
何故ならば彼はエロ本を買った帰り道。万が一知り合いに出くわしたときに何を買ったのか問われたときのためにデカめの紙袋の底を二重にしてその中にエロ本を横にしていれ、その上にわざわざカモフラージュの為だけに購入した新品の参考書を入れるという入念な準備も虚しく、車との衝撃で全てぶちまけていた。
立つ鳥後を濁さず……という言葉があるが、死ぬ間際にエロ本をぶちまけていく自分の事を何というのだろう。変態エロ本と共に死す……そんな風に思われるのだろうか。そもそも死んだら死んだで生前の遺品のひとつがエロ本になるのだろうか?『飛び出せ女子高校生』なんて3D眼鏡付録付きの定価1260円の雑誌が。
……絶望、恭也の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
☆転生
『え? 俺生きてたの? 』
目を覚まして自分が生きている事に恭也は戸惑った。車に衝突して4mぐらい軽く吹っ飛ばされたあの衝撃で生きているなんて普通の人間なら有り得ない、もしや自分には何か隠された力があったのか? そんな邪気眼な考えが浮かんだのだが、そんな訳が無いという事も分かっている。そもそも目の前に広がるこの光景は何だ? 仮に奇跡的に自分が生きていて目を覚ましたとするならば当然病院のベッドの上であり、視界に入ってくるものは無機質で真っ白な天井だろう。
しかし現実はそれとは全く異なる。天井は暖かみのある木目模様が広がっているし、目の前には銀色の髪をした美女が微笑んでいるのが見える。その女性は目から慈愛のようなものが感じられる。もしかすると自分を轢いた加害者? ならこの優しさに満ち溢れた目は何なのだろう、優しくして賠償問題の事を有利にするという打算か?
「ロイ、起きたのね。見てアルフ、ロイが起きたわよ」
ロイ? アルフ?
誰のことだと不思議に思っていると視界の中にまたも驚くような美形が彼の眼前に飛び込んできた。金髪の髪に精悍な面持ちの青年。この二人は夫婦だろうか? と彼が考えていると突然その青年に全身を持ち上げられた。
「ロイ!! おぉお~~!! 可愛いなロイ!! ナナリー見てくれよ!! 君にそっくりじゃないかっ! 」
そういって頬をこすりつけてくる青年に彼は驚いた。自分の体重は五〇キロ以上はあった。
それをこんな風に軽々と持ち上げられるなど考えにくい。
それにこの喜びようといったら何だ? まるで最愛の我が子の目覚めにはしゃいでいるようではないか。
……なるほど、そういう事か。
ここに至ってやっと鬼頭恭也は理解した。
自分が【転生】というものをした事に。