※この作品はR-18です。

【アークナイツ】赤毛の人形遣い   作:おくちだいすけ

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(エロは次の2話からです)




第二章 スカジとスペクター
【第二章】1話 - 旅行の誘い


 

 ■ ■ ■

 

 

 ロドスアイランドのオペレーター、スカジは思考する。

 最近どうにも頭の中から離れない、離れてくれないあの優しい人の事を思考する。

 

 偶然にもというか、数奇というか、バウンティハンターの身のままで所属することになった製薬会社ロドス・アイランド。

 その頭脳とでも言うべきあの人の事を考える。

 

 あの人の事を考えると、熱源に晒されたコアが胸の中にあるかと勘違いするほどポカポカと火照り鼓動が早くなる。

 陸の街角でたまに見かける、男の顔を見上げる恋をした娘のように、思わず弾む気持ちを隠せなくなる。

 

 広い移動都市の中の冷たい鉄の通路の上で、作戦地の薄暗い裏通りで、乾いた風が吹くささくれだった荒野の只中で、つい "あの人は今何を……" と考えてしまう。

 ……冷たい海水で芯まで冷え切ったはずの心に火が灯る。

 

 (―――― ああ…………、ふふふっ…………、私はいったい何を……?)

 

 思考する内にふと、自嘲を多分に含んだ笑みが滲んだ。

 

 弾む気持ちを隠せない "ただの娘" のような己と、お前は "ハンターの身" で一体何を考えているのだ、と冷徹な己の思考が混ざり合い、滑稽で愉快な気持ちが浮かび上がった。

 

 そしてそのまま薄く笑みを浮かべたまま、美しい銀髪を翻し、舞うように私は戦った。

 潮の香りが濃く漂い、血のように海水が滴る薄暗い洞穴の中で、身の丈を超える黒塗りの剣をまるで棒きれのように軽々しく私は振るう。

 薄暗闇の中で私の白い肌と赤い目がキラリと輝き、周りにいる影からはくぐもった悲鳴が漏れた。

 

 ―― 私がこんな……、まったく……どうしたというのかしら?調子が狂うにも程がある。

 

 そしていやに軽い足取りで作戦を終えた私はあの人がいる移動都市へと帰還する準備を始めた。

 私の周辺には先程まで蠢いていた "海の怪物" が千切れて無数に転がっていた。

 

 

 ―――― …… そうだ、今回の任務報告は少し冗談を交えてみるのはどうだろうか? 危うく任務に失敗するところだったと誇張して焦らせてみるのも悪く無い。優しいあの人はきっと……。

 

 

 ……きっと………………。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 アビサルハンター、スペクターは思案する。

 世界で一番 "愉快" なあの人の事を思案する。

 もう一人の "狂っていた" 己も恋慕を寄せるあの人を。

 

 (〜〜〜♪、♪……♪……)

 

 ――、

 エーギルの都市の話を興味深そうに聞くあの人。

 陸上とは比べ物にならない科学技術の話を。

 いかにして海中でエーギル人が過ごしているのか、その生活様式の話を。

 

 ――、 

 遺跡で見かけた印象深い彫像の話を真剣に聞くあの人。

 不思議な色をした顔料が塗られた小さな動物の像の話を。

 まるで今にも動き出しそうな躍動感を持った首の無い天使像の話を。

 

 (〜〜♪♪ ……♪〜〜♪……)

 

 あの人の事を考えると自然と鼻歌が零れ始めた。

 いやに上機嫌な私を見て、後方に待機する友人達が不思議そうな顔をしていた。

 

 ゆるくウェーブのかかった絹糸のような銀髪をふわりと浮かせ、溢れる歌が周囲に深海の光を想起させる不思議な光の文様を浮かび上がらせた。

 そして零れた鼻歌がクライマックスを迎える頃、私が手に持った丸鋸が敵のバリケードを粉砕した。

 

 ―― 次はどんな話をしようかしら? 街で見かけたこじんまりとした画材店の話?

 ―― エーギルの都市で流行っていた先鋭的な画家の話もいいかもしれない。

 

 金属製のバリケードが紙くずのように眼の前を舞い散り、辺りに焦げ臭い匂いをばら撒いた。

 そしてバリケードの裏にいた敵は丸鋸の唸り声に畏怖し、死の予感に思わず身体を硬直させる。

 

 (……♪♪、~~♪~♪……~~)

 

 しかし同時に鉄くずが舞い散る中をヒラヒラと踊るように身を翻す私に目を奪われていた。

 上機嫌な様子で、舞うように可憐な所作で……。そしてその死神の姿に見惚れたまま、敵は振るわれた丸鋸に引き裂かれ、無惨にも痛みを感じる暇もなく地の上に臓物を散らし弾け飛んだ。

 

 

 ―― ああ、まったくあの人は私を退屈させないわ……。

 ―― 愉快な愉快な……私を愉快で暖かい気持ちにしてくれる人……。

 

 …… ああ…………、あわよくば……………………。

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 ――――、

 

「ねえ、ちょっと私と旅行に行かない?」

 

 任務からの帰還後、工房エリアで装備品の手入れをしているスカジに、数日ほど前に別の任務から帰還していたスペクターが声をかけた。

 

 工房エリアは移動都市ロドス・アイランドにいくつかある大きな搬入口の近くにあり、重機も通過可能な広い通路の先にある。

 この一帯は三階層ほどをぶち抜いた吹き抜けとなっており、通路がさらに円形状に広がっているスペースには自由に整備使用が出来るデスクがいくつか置かれていた。

 今日も工房エリアは賑わっており、ガヤガヤとした喧騒の中に、時折鉄を打ち付ける硬質な音が響いていた。

 

「…………」

 

 そこで独り装備品の手入れをしているスカジの背後に、いつの間にやらスペクターが立っていた。

 スペクターはネグリジェのような白いフリフリとした服を身に纏っている。完全にオフの姿だ。

 緩くウェーブのかかった美しい銀色の髪のビロードの中でルビーのような紅い瞳が輝き、高級ドールのような雰囲気を醸していた。その少女めいた装いと、大胆に開いた胸元、そして膝上までしか丈の無いレースから覗く見事な稜線が相反し、道行く男性の視線を奪う。

 ……そして全体的に灰色で鉄の匂いが漂う工房エリアでは恐ろしいほどに浮いていた。

 

「……。なに。随分急ね?旅行……、ローレンティーナと二人で?ごめんなさい、行かないわ」

 

 "ローレンティーナ" はスペクターの本名だ。今の彼女をスカジはそう呼んでいる。

 スカジは後ろすら振り返らずスペクターの提案に即答した。「いったい何の為に?」とでも言いたげな様子だ。

 

 作業するスカジの傍らのコンテナの上には、任務報告用の端末が乱雑に投げ置かれている。どうやらスカジは任務から帰還して早々にこの作業に取り掛かっているようだ。

 服装も普段来ている作戦用の防護服から帽子と外套を取り外したのみで、薄い灰色のブラウスに特殊な素材の黒い光沢のあるスキニーを履いている。大胆に開いた内腿部分から覗く艶めかしい白い肌がとても魅力的だ。

 

 そしてスカジは端末の横に置いていたウエスを数枚手に取ると、デスクの上に置いた愛用の黒い大剣の表面を優しく撫で拭いて行く。

 

「あら?つれないわねぇ?……もう少しくらい考えてみてもいいんじゃない?どうせあなたも次の任務まで暇してるんでしょう?少ないお友達のお誘いなんだから、それなりに良い色の返事がもらえても良いと思うのだけれど」

 

 そう皮肉混じりの言葉をスペクターが返し、 ――はぁっ……、と工房の壁にもたれかかったまま演技がかったおおげさな溜息をついた。

 

「…………。もっと私の熟考を望むのなら、しっかり前提から話してちょうだい。……で、どうなの?」

 

 作業を続けたままのスカジが返す。手元のウエスには拭き取られた乾いた血液のような物が付着している。

 

「どうって?」

 

「二人なの?」

 

 しっかり話せと言う割には結論を急ぐスカジが食い気味にそう続ける。

 そして自称 "少ないお友達" をおざなりに扱いながら、その手の先では労るようにじっくりと優しく大剣を拭き上げていく。

 

「なによ。二人じゃなかったら行くって事?……残念ながら二人よ。期待に応えられなくてごめんなさい?」

 

 ニヤニヤと笑うスペクターが気持ちをこれっぽっちも込めていない謝罪をする。

 ……傍から見ると険悪とも思える二人のこのやりとりだが、普段のスカジを見ている人間であれば、これがとても気安い仲……心を許した相手への態度だとすぐに気付くだろう。

 

「別に謝らなくていいわ。……行かない事には変わり無いもの」

 

 スカジはデスクの上に置かれた剣を丁寧に裏返すと、更にそちらの表面も綺麗に拭いていく。

 

「あははっ。そう……、じゃあここからは私が頑張って説得をする時間かしら?ふふふっ」

 

 こっぴどくフラれた事など意に介さず、スペクターが機嫌よくクスクスと笑う。

 そしてスペクターがコンテナの上に乱雑に置かれた報告用端末を指差した。

 

「……ところでついさっき帰って来たばかりみたいだけど、…………任務報告はまだしていないのかしら?」

 

「まだよ」

 

「そう……。 ―――― ドクターに直接報告をしたいのなら急いだ方がいいわよ?きっと」

 

 そのスペクターの言葉にスカジがピクリと反応すると、スペクターの訪問を受けてから始めてスカジの手が止まった。

 

「……どうゆうこと?」

 

 剣を拭き上げる手を止め振り返り、眉根を寄せたスカジがそう尋ねた。

 そして餌に喰い付いたスカジを見てスペクターは上機嫌な笑みを浮かべる。

 

「なんかお出かけしちゃうらしいわよあの人。あなたの事だからほっておいたらどうせ五日後とかになるんでしょう?その任務報告。……それだともうドクターはお出かけしていていないんじゃないかしら?」

 

「……あの人も任務?」

 

「そうみたいねぇ〜。イベリアまで行くんですって。……しかも聞いて驚き、隊長も一緒らしいわよ?」

 

 その言葉にスカジの眉根の皺が更に深くなる。

 

「―――― グレイディーアも?どういう風の吹き回し?……まさか深海教会絡みなの?」

 

 "グレイディーア" は、スカジ、そしてスペクターと同じアビサルハンターだ。更にはスペクターが所属する隊の隊長でもある。

 スカジやスペクターと同じ美しい銀髪がトレードマークで、その見事に引き締まった肢体と、長身が織りなす芸術的なプロポーションが魅力的な女性だ。ロドスの中には隠れたファンも多い。……だいたいが「踏んでくれ!」といった類の物だが……。

 

 ―― そのグレイディーアが同行するなんて、"深海教会" 絡みくらいでしかあり得ないだろう。

 

 "深海教会" ……、海の怪物、シーボーン、海神を崇拝する唾棄すべき集団だ。人類に対する脅威であり、目下アビサルハンターの敵である。

 

 …………では何故、それならば何故、私達には声がかからない?

 

「それがどうやら、イベリアの裁判所に人員を派遣する為のただの視察らしいわ。隊長は別の用があるのかもしれないけど……」

 

「視察…………?」

 

「……しかも二人っきりらしいわよ?話を聞いた時の隊長の機嫌が随分良かったわ。……私達が知らぬ間にだいぶ仲良くなったみたいね?」

 

 (―― 二人っきり……?)

 

「寝たのかしらね?あの二人」

 

 (―― 寝た……?)

 

 その2つの言葉が像を結び、スカジが仲睦まじいあの二人の様子を思い浮かべる…………。

 ―― イベリアの街、ドクターとグレイディーア、宿、ベッドの上…………。

 

 (………………………………)

 

 そしてその結果としてスカジの美しい顔が無惨に歪むと、絞り出すような声がスカジの口から漏れ出る。

 

「はぁぁぁ?」

 

 その声は普段感情表現の起伏が乏しいスカジとしては珍しく、ほのかな怒気とイラ立ちを孕んでいた。

 

「それはそうと隊長は機密をペラペラ喋りすぎよね。私が聞くとなんでも喋るんだから……、そう思わない?」

 

「………………」

 

「まぁ、つまり私が何を言いたいかと言うと、機密になっている行き先なんだから、たまたま私達の旅行先があの二人の視察と同じ目的地になってしまったとしても…………、偶然なんだからしょうがないと思わない?」

 

 ニヤニヤと笑うスペクターはつまりこう言っている。

 "私と一緒に邪魔しに行きましょうよ" と。

 

 

「で、いつ出発するの?」

 

 色々な承認工程を吹き飛ばしたスカジが簡潔にそう言った。そしてデスクの上に置かれた大剣を手際良くテキパキと用意していた布でグルグルと包んでいく。

 

「四日後よ」

 

「……わかったわ。……、ちょっとドクターの所に行ってくるわね」

 

 布で包まれた大剣をスカジは背に担ぐと、コンテナの上に置かれた報告用端末を乱暴に掴み上げ、足早にその場を後にした。

 

 そしてスカジの頭の中からは "冗談交じりの任務報告をしよう" などと考えていたことはすっかりさっぱり吹き飛んでいた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 スカジを見送ったスペクターはクスクスと笑いながら上機嫌な様子を見せていた。スペクターは最初からスカジを口説き落とせる自信があったのだ。

 

 (―――― ふふっ……本当にあの子はドクターの事となると……まるで子供みたいね。……まぁ私も人の事は言えないのだけれど……)

 

 と自嘲を含んだ笑みを漏らした後、ふっとスペクターが視線を少し離れた場所へと移動させた。

 

 

「……で、そこにいる子犬ちゃん達は私になにか用でもあるのかしら?」

 

 と、壁にもたれかかったスペクターが少し離れた位置にある大型のコンテナの陰に向かい、不意に問いかけた。

 

「ひゃうっ!」

 

 そしてそのコンテナの陰からかわいらしい鳴き声がひとつ。

 

「あっ、あのっ、ごめんなさい!ちょっと場所を聞きたくて……、ぬ、盗み聞きをするつもりじゃなかったんですが…………」

「マ、マルコ……どうしよう、怒られるかな……?」

 

 すると柱の陰から二人の少年が恐る恐る姿を現した。

 マルコと呼ばれた少年の歳は12~13歳と言ったところだろうか?背はもう一人の男の子よりは高いが、まだまだ子供の身体つきをしている。黒い艶やかな髪の中からヴイーヴル族の角が生えていた。

 そしてもうひとりの小さい男の子は大きいほうの子より頭1つ分小さい。

 くるっと巻いた栗色の髪の中からペッロー族と思われる垂れた獣耳が覗いていた。もう一人の少年の後ろに隠れ、恐る恐るスペクターへ向けられた眼差しはどこか小動物を思わせ、なかなかに庇護欲を唆る。

 

「あのええっと……、宿舎へはどうやって行けば良いでしょうか……?」

 

 おずおずと言った様子でマルコと呼ばれた少年がスペクターに尋ねた。目線があちらへこちらへと泳いでおり、どうやらスペクターの顔を直視出来ないようだ。頬も僅かながらに紅潮している。

 

 二人はロドスのオペレーターが一般的に着用しているジャケットを羽織っていた。そのジャケットを含め、着用している衣類はどれも真新しく見える。

 そして胸元にはロドスのスタッフであることを示すネームプレートが着いており、そこに見習いであることを示す赤字の注釈と、同時に患者であることを示すバッジがつけられていた。

 

「えっと、あの、ドーベルマンさんのおへやまで行きたいんです」

 

 小さい方の男の子が続けてそう言った。胸元のプレートには "ミューロ" と書かれていた。

 

 (ドーベルマン…………? ……ああ……なるほど……)

 その登場した人名に、先日ドクターが『ドーベルマン教官が戦地から要治療の孤児を複数名連れて帰って来た』という話をしていた事をスペクターは思い出した。

 

 (この子達がそうかしら……?まぁあまり珍しい話では無いわね)

 ロドスでは患者として鉱石病の治療を受けながら、オペレーターとして働いている孤児は特段珍しくはなかった。そうしないと身寄りの無い彼らは治療費が払えないからだ。

 

「うふふっ、あらあら迷子かしら?」

 

 スペクターがニッコリと笑いかけると、マルコはササッと目線を脇へと逸らし、

「わぁっ!おねえさん笑顔がキレイだね!お人形さんみたい!」

 と、ミューロはとても良い笑顔で笑い返した。

 

「あらっ、ふふふっ。ありがとう」

 

 

「あの、そうなんです……。確かこっちのほうだと思ったんですけど……」

「あっ、……うん、このお船広いからわからなくなっちゃって……。マルコがこっちのほうだっていうから来たんだけど…………」

「ミュ、ミューロ!俺のせいにするなよ!」

 

 確かにロドスでは新入りが迷子になることはよくある。しかも識字率の低い孤児出身ならなおさらだ。

 (……まぁこの子達がどうだかは知らないけれど)

 

「ふふっ、こっちに来てるってことはD宿舎エリアかしら?それだったらこの先から一本向こうの通路ね。確か壁に青いラインがついているからそれを辿って行けばいいわ。なんならバスも出てるわよ」

 

 スペクターはスカジが先程向かって行った方向とは反対方向の、ちょうどスペクターからは背になっている通路を親指で差した。

 

「あっ、そうですD宿舎です!ありがとうございます!」

「わぁっおねえさんありがとう~!行こうマルコっ!」

 

 するとペコリとお辞儀をしながら二人がお礼を言う。

 そして二人はくっつくようにしてその通路へ向かって歩き出した。ずいぶん仲が良いようだ。

 

「ふふっ、仲が良いのねぇ~。……ああ、そうそう、ここにある赤いラインが書かれた通路は通るのをやめたほうがいいわ。大型の荷物とか車両なんかが通るから、小さいあなた達がうろうろしてたら潰されちゃうわよ?」

 

「あっ、ありがとうございます……!知りませんでした……!気を付けます!」

「わぁ!こわいねマルコ!ありがとうおねえさん!」

 

 スペクターの前を通過しながら、二人がさらなるお礼を言う。実に礼儀正しく良い子達だ。

 そして壁にもたれかかったまま、手をフリフリと振り、宿舎へと向かう二人をスペクターが見送る。

 

(……?……あら?)

 

 するとその時、スペクターの鼻までとある香りが届いた。その二人から漂う場違いな香りに一瞬だけ顔を顰める。

 

(女物の香水の香り……?と、なにかしら……この匂い……)

 

 それは二人には不釣り合いな、強く"女"を感じさせる香水の残り香だった。

 そしてその香りにさらに"雌"を連想させるフェロモンのような香りが混じっている。

 

「あっやばいミューロっ!急ごう!ドーベルマンさんにしかられるぞ!」

「ええっ!マルコ!やだやだ!おしおきいたいからやだよ~~!早く行こう!」

 

 壁に掛けられた時計が目に入り、マルコが悲鳴のような声を上げた。

 そして二人はワァ~っと小走りに工房エリアから去っていった。

 

 

(……。まさかね……)

 

 残された嗅ぎ慣れない香りにスペクターの頭にとある事が連想されるが、(……、さすがにあんな小さい子達に……)とそれ以上は考えることを止めた。

 

 

 ―――― そのフェロモンのような香りの中には薄く精液の匂いも混ざっていたのだが、その事にスペクター自らが気付くのはもっと後になってからだった。

 そしてあの二人がレユニオンの人間だなんて、当然気付けるはずもなかった。

 

 

 ――――、

 

 ――――――、

 

 

 そしてそれから四日後、ロドスから先に発ったドクターとグレイディーアを追うように、スカジとスペクターの二人はイベリアに向けてロドスから出発した。

 

 しかし残念ながら、イベリアの地にてドクターと共に過ごしたいという、二人の少女のようにかわいらしいイタズラな希望が叶えられることは無かった。

 

 

 

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