前半は悪役無双のターンなので比較的ダーク(当社比)かも…?
郊外のとある高校。
ここに在籍する養護教諭、
少々のケガや体調不良はぼんやりしている間に治るという適切な処置。包容力溢れるオーラからつい悩みを打ち明けてしまい、気付けば憂鬱な気分は晴れているというカウンセリング能力。
また、外見についても、三十路に差し掛かろうかという年齢にもかかわらず大学生、それも下手すれば未成年にも見える童顔にグラビアアイドル顔負けの豊満なプロポーションという「男の憧れ、優しい保母さん系ゆるふわ女医」を具現化したような姿。
そうした要素の重なりっぷりがフィクションめいた印象を与え、いつしか「莉々子は人間ではない、あれは魔女だ」という噂がまことしやかに飛び交うようになった。
「莉々子の無防備な姿を覗き見する」というスケベ心、もとい「莉々子の正体を突き止める」という使命感のもとに莉々子の素性の調査を敢行した男子生徒も過去には何人かいたが、みな人が変わったように健全な学校生活を送るようになった一方で特殊な性癖に目覚めたというが、真偽は定かではない。
そうした噂に関して、莉々子は「私が魔女? うふふ。そう、実は私、魔女だったのよ~。恋の魔法でみんなをメロメロにしちゃうわ~♪」と冗談めかしてお茶を濁しており、今日もまたそのチャーミングなキャラクターから男女問わず憧れの的となっている。
かつて通っていたこの高校に4年ぶりに教育実習生として帰ってきた
今までこの実習で初めて会ったような感覚で接していたが、自分が現役高校生だった頃、確かに森名莉々子という名の養護教諭がいたことを思い出す。しかし、当時の莉々子は「保健室の魔女」の噂とは無縁の現実的で目立たない教師だったように思う。
衆目を引くはずの顔立ちやスタイルこそよくよく思い出せば一致する気がする。しかし現在のような、ある種の貫禄すら感じる余裕たっぷりマイペースな天然系おっとり美女といった雰囲気ではなく、もっと気弱で自信なさげな、逆にこちらが応援したくなるような教師だった気がする。
とはいえ既に4年も前の話だ。やはり教師としての実践経験を積んだことで自信が生まれ、現在のような人柄になったのだろうか。
そうだとすれば、自分も莉々子に相談すべきかもしれない。
雄大も教師を目指して教育実習を受けているものの、進路にはまだ迷いがあった。
「気がついたら何となく」といった具合に教員志望を決め、大学の教育学部で教育学の単位を取得し、この実習でも特に大きな失敗なく……と、多少の苦労はありつつもトントン拍子で来ている。しかし、だからこそ本当にこれでいいのかと思ってしまう。
かつては学校教員の労働環境についての様々な問題点が取り沙汰されていたが、政府が本格的に改革に着手。結果、大部分の問題は劇的に改善された。事実、実習でも所謂ブラックな労働条件に直面することはなかった。しかし、少数の学校では未だ悪しき伝統が残っているという。
そうでなくとも、教師としての壁にぶつかった時、挫折らしい挫折を経験したことが無い自分に乗り越えられるのだろうか。
雄大は、そんな一抹の不安がまだ拭えないでいた。
もし数々の経験を乗り越えた末に今の莉々子があるのなら、自分もそこから学んでおくべきだろう。
残り一週間の実習、少しでも有意義なものにしておこう。
雄大は思い立ち、放課後、莉々子が待つ保健室に足を運ぶのだった。
雄大が保健室の前に差し掛かった時、廊下の反対側から一人の女子生徒がプリントの束を持って歩いてきた。
枝毛一つない艶やかなストレートの黒髪。凛とした切れ長の目にまっすぐ通った鼻筋。ピンと整った着こなしの制服に映えるすらっと伸びた手足。
雄大を指導するベテラン教員の担任学級に在籍しており、見た目も性格も「真面目で冷静沈着な優等生」を体現したような女子生徒、
人付き合いは得意ではないのか他の生徒とは少し距離を置いているが、冷静な中にも人柄からは誠実さを感じる、成績も優秀な学級委員長だ。
「あ、相川さん。君も保健室に用事?」
「えっ!? あ……はい。そうです」
こちらの存在には気付いていなかったのか、声を掛けられ驚いたような表情の後、いつも冷静な対応の純にしては少し動揺気味の返事。
「あー……じゃあ、お先にどうぞ」
女子生徒、保健室。それらのワードを組み合わせると、一人の女性としてデリケートな身体問題の可能性もあるだろうと察する雄大。ならば成人男性が同席するのは不味いだろうと判断して先に入室するよう促す。
「あ、いえ、大した用事ではないので大丈夫です。ご一緒にお願いします」
純は変化の少ない表情を僅かに綻ばせながら、少々食い気味に一緒に入ることを許諾する。男女間にあるべきマナーも弁えているであろう純から悪くない反応を引き出せた雄大は、よくぞ22年間童貞の身でありながらギリギリのところで気が回った、と脳内でさりげなく自分を褒めるのだった。
「あらあら。二人で保健室デートかしら? 天野先生、もう生徒と仲良くなったのね~」
開口一番の冷やかしに慌てて否定のジェスチャーを取る雄大と委員長。特に委員長は「ち、違います……」と蚊の鳴くような声を出しながら赤くなった顔を伏せる。初心な反応が満足だったのか、茶目っ気溢れる笑顔を浮かべる莉々子。
「保健室の魔女」こと莉々子は魔法の大釜を掻き混ぜていて……などといったこともなく、保健関係の資料を整理していたところだった。
雄大は清潔感漂う保健室を見回すが、特に怪しげな雰囲気もない。
「純ちゃんありがと♪ 今日もクールな委員長系美少女してて可愛いわ~」
「や、やめてください。可愛いだなんて私には……」
「私はいつも事実しか言わないわよ。それに~、女の子はまず自分が可愛いと信じることから始まるのよ。それが“可愛い“を作るのよ♪」
職員室で預かったプリントを渡しにきた純は、莉々子のペースにタジタジといった様子だ。
純に抱き着こうとする莉々子。確かにセーターと白衣の上からでもわかるメリハリあるスタイルに無自覚なまま密接なスキンシップには男としてはやり場に少々困るものの、ロングのスカートやナチュラルメイクの化粧など、あくまで教育者に相応しい健全さを感じる装いをしており、生徒を誑かすような露出は控えている。女性教師が女子生徒に対するならこれぐらいは大丈夫なのだろうか。純は
やはり「保健室の魔女」など多感な高校生が面白半分に吹聴した噂に過ぎないのだろう。そう考えると雄大は微笑ましい気分になる。
どうにか脱出した莉々子から脱出した純は、少し名残惜しそうに保健室を去ろうとする。
雄大は委員長を見送った後、教員志望者としての人生相談をさせてもらうことにした。
「うふふ……決~めたっ♪」
莉々子はおもむろに呟く。
「ねぇねぇ、ちょっとそこに立ってもらっていいかしら? 天野先生はそっちで……あ、純ちゃんはこっちね」
二人は訳も分からないまま、指示された場所に立つ。
「あの~。森名先生、一体何を……?」
「ふふっ。面白いこと♪」
莉々子は雄大、純と合わせて正三角形を作る位置まで歩くと、指をパチンと鳴らす。
その瞬間、雄大と純は全身が金縛りにあったように動かなくなった。
莉々子が聞いたことのない言語を唱え始める。それに合わせ、夕日が差し込んでいたはずの保健室が闇に包まれる。やがて床に蛍光色に光る円形の模様が浮かび上がる。これは魔法陣というものだろうか。
なおも続く莉々子の呪文。今度は足元から甘ったるい香りの桃色の霧が広がっていく。それを吸うごとに、意識が砂糖のごとく溶かされていく。まるで意識そのものを抜き取っていくような、激しい睡魔に襲われる。
「二人ともいい子いい子……おやすみなさ~い……」
雄大と純、そして莉々子自身も深い眠りに落ちるのだった。
「――先生。先生! 起きてください!」
純の声が聞こえる。
身体を揺さぶられる感覚。しかし身体は覚醒しきっていないようで、雄大は微睡みの中から抜けられずにいる。
「早く起きないと……それっ!」
「うひゃあっ――!?」
セーターの裾をめくり、脇腹を指でなぞる純。その瞬間、全身が縮こまるような感覚が走り、反射的に海老反りになる雄大。自分はくすぐりの類には強い方だと思っていたが、何故か敏感に反応してしまう。
「あれ? 僕は何を――!?」
口から出たのは、自身の声とはかけ離れた、飴を転がしたようなソプラノボイス。違和感に思わず口を押える。
上半身を起こすとともに頭上から垂れ下がる、栗色の長い髪。男としては特に長くない程度だった黒髪からの変化に驚いたことで胸部の大きな膨らみが大きく揺れ、遠心力からバランスを崩す。
着た覚えのない白のセーターを押し上げる、真下が見えないほどの柔らかな双丘。手で恐る恐る包み込む。セーターの生地越しのずっしりとした重量感と張りのある柔らかさ。触る感覚と触られる感覚の両方が、これは現実だと否応なく伝える。
「生徒に対して巨乳自慢ですか~? 大人げないですよ、莉々子セ・ン・セ♪」
我が物顔で莉々子のデスクを漁ると、ニヤニヤした笑みを浮かべながら取り出したコンパクトを放り投げる純。
いつの間にか霧も魔法陣も暗闇も消え去っていた。まるで、全てが元通りになったかのように。
「ほら、ちゃんと寝起きの顔をチェックしてください。寝ぼけてる姿も可愛いですけど、しっかり普段通りにね?」
「嘘……だろ……?」
雄大がコンパクトをのぞき込むと、そこには先程ついに摩訶不思議な魔法を使った「保健室の魔女」こと森名莉々子の顔が写っていた。
「ど……どういうこと……? どうして私が……?」
雄大の姿をした男もまた目を覚ますと、目の前に広がっている光景に驚きを隠せずにいた。震える指先は、先程から人が変わったかのような振る舞いを続ける委員長を指している。
「あ、天野先生も起きたんですね。今日もとっても素敵~♪ 今すぐエッチしちゃいたいぐらいです♡」
「――っ! あ、あなたは誰なの!?」
挑発的な言葉を振り切るように勢いよく立ち上がると、普段と違う視点の違和感に戸惑いふらついた後、純の姿をした何者かを睨みつける。
「きゃ~。恐いです~♪……なんてね、お察しの通り、俺は莉々子。というか、さっきまで莉々子をやってた……いわゆる悪魔だ。名前はこの国の人間には発音が難しいから……この身体に合わせて純って呼んじゃって♪」
「悪魔……?」
先程まで雄大だった莉々子は、現実離れしたワードに困惑するが、悪魔を自称する純はなおも続ける。
「俺たち悪魔は人間の因果律を捻じ曲げることで生まれたエネルギーを食い物にしている。俺は人間の魂を別の人間の身体に入れることで生まれるエネルギーに目をつけてな。この学校を住処にして、こうして時々身体を乗り換えながら生きてるってワケだ。いやぁ~。こいつは我ながら名案だったぜ。ちょっと身体を入れ替えれば、それはつまり人生丸ごと交換だからな! 別人の人生を歩まされる人間から一生分のエネルギーを貰えるってわけだぜ!」
純は普段絶対にしないような嗜虐心に満ちた表情を作り、ケタケタと笑う。
「あ、もちろん莉々子ちゃん本来の魂も当時俺が使ってた別人に入れてやったぜ? 確か気弱なサッカー部男子って設定だったかな? 最初は元・莉々子ちゃんも男の身体に戸惑ってたけど、ちょっと男のカイカンって奴を教えてやったらそりゃあもうドはまりだったなぁ。これが本当の私……いや俺!って具合に吹っ切れて運動部男子の生活に馴染んで、今では大学の名門サッカー部で昼も夜も大活躍! もう自分が女だったことも忘れてたりしてな。そして俺は莉々子ちゃんを俺好みにイメチェンして面白おかしい魔性の女教師ライフをエンジョイ! お互い万々歳じゃねえか!」
「ふざけるな! 人の人生を何だと思ってるんだ!」
莉々子は声を荒げる。
「そんなゆるふわ顔の甘々ボイスで言われても可愛いだけですよ~、莉々子センセ? まぁ普通にやれば悪魔様に人間風情が逆らえるはずがないんだが、その分悪魔の力には色々と縛りがあってな。俺の入れ替わりの魔術も例外じゃない。お前らにはちょっとしたテストを受けてもらう。その回答次第で入れ替わりが確定するかどうかが決まるんだ。もしかしたら元に戻れるかもよ?」
「どこまでも勝手ね……」
雄大は目を眇め、呆れたように呟く。自分の身体を悪魔に乗っ取られ、いかにも悪魔の所業といった振る舞いをされる様はやはり直視に堪えないらしい。
「ルールは簡単! 今から三日間、お前らは身体に合わせた振る舞いをしてもらう。三日経った時、お前らの魂に相応しい身体の審判が下される。身体も立場も変わってなお元の身体に相応しい魂を保ち続けていればお前らの勝ちだ」
「わ、わかった……」
「もぉ~。そこは莉々子センセなら『わかったわ! 私、頑張っちゃう!(きらり~ん☆)』でしょ? 気を付けてね! あ、俺は人間とは魂の作りが違う悪魔だからこのルールに関しては適用外だ。小悪魔系美少女として生まれ変わった優等生の相川純ちゃんとしてお前らと遊ぶことにするぜ? ……さてさて、何かってぇとすぐ欲望に溺れて己を見失う人間がどこまでやれるかなぁ~? じゃ、アクション……スタート!」
[newpage]
「い、いいんだよな……?」
純によって生活に最低限必要な記憶を植え付けられた莉々子は、業務を終えて退勤した後、ようやくたどり着いた自宅の前で立ち尽くす。一人暮らしの女性、それもプライベートにそれなりにこだわる方らしい莉々子が住むのは、セキュリティが厳しめのマンション。莉々子でなければ通れないセキュリティを記憶に従って難なく解除するたびに、自分は森名莉々子なのだと世界に断じられている気分になる。安産型の腰つきに小さな歩幅。歩くたびにぽよぽよと揺れる胸元。自然と漏れる溜息は色気たっぷり。どこからどう見ても莉々子の姿だ。
「は、入るぞ……」
下手に考えこめば、ますます天野雄大としてのアイデンティティが削られていく気分になる。そうなれば、ますます純の思うツボだ。
意を決して、莉々子は生まれて初めて成人女性の自宅に足を踏み入れる。
「ただいま~♪」
莉々子の身体に染みついた習慣に従い、誰も居ない自宅に入るとともに家族が待っているかの如く挨拶をし、通勤用のカバンをソファに軽やかにふわっと放り投げる一連の動作を自然と行ってしまう。
「…………」
気を取り直して、リビングを見渡す。テレビの横のファンシーなぬいぐるみ、コンロに置かれた作り置きのカレー鍋、開いたままのファッション雑誌。そのどれもが、森名莉々子としての生活臭を醸し出している。本能的な安心感とともに、他人、それも異性のプライバシーを覗き見る背徳感に襲われる莉々子。
「忘れないうちにお洗濯取り込まなきゃ」という内なる声に従いベランダのドアに手を掛けたところで干してある黒のブラジャーやパンティが目に入り、手が止まる。だが気にしていてはキリがない、とぶんぶん頭を振り、意を決して昨日まで自身が着ていた服を一枚一枚摘まんでは取り込む莉々子。
「でっか……」
やはりというか、最後に残ったブラジャーを手に固まる莉々子。天野雄大としては男兄弟の家庭で育ち、母親以外の女性用の下着に触れた経験は無い。下着泥棒をしているようで罪悪感に駆られるとともに、今は自身も同じ下着を身につけているのだという倒錯感が、ますます自分が変態になったかのような気分にする。
しかし男としての好奇心には抗えず、ラベルを探し、恐る恐るサイズを確認しようとする。
「やっほー! 遊びに来たよ! 莉々子お姉ちゃん♪」
「!?」
突然背後から聞こえた声に心臓が止まる莉々子。
「ふっふ~ん。どうしたのお姉ちゃん? ブラを手に固まっちゃって……まるで初心な男の子みたいで可愛いね♪」
「なんでお前がここに……」
「やだなー。ドキドキの女の子生活、困ってないか助けに来たんだよ。あ、私の家族には『従姉の莉々子お姉ちゃんの家で晩ごはん食べる約束してる』って言ってあるから、安心してね」
学校で別れたはずの純が、人懐っこい笑みを浮かべながら立っていた。瞳を紅色の光を灯らせ、人を洗脳する力があることを仄めかせながら。
「お姉ちゃん! 一緒にお風呂入ろっ」
「ぶふっ!」
純から逃げるように洗濯物をタンスに入れた莉々子は思わず吹き出す。
「え~。私とお姉ちゃんの仲でしょ~? 今のお姉ちゃんは女の人の身体の洗い方とかわからないでしょ? ククク……今までその身体を使ってた俺がじっくり教えてやるぜぇ?」
「ぐっ……」
莉々子は日常生活の記憶を覗くが、都合よく入浴に関する記憶だけが抜け落ちている。自分が入っているからと言って莉々子の身体の清潔さを損なうわけにもいかず、不本意ながらここは純に従うことにする。
「じゃ、お風呂にレッツゴー! ……へへっ。女の子同士、たっぷり楽しもうぜ?」
「へぇ……こっちの身体は莉々子に比べて貧相かと思ったけど、清楚系スレンダー美少女もこれはこれで中々……」
「これが……俺……」
脱衣場に入るなりあっという間に制服を脱ぎ、姿見の前で品定めするようにポーズを取る純。一方莉々子は純に強引に服を脱がされ、羞恥と興奮の入り交じった表情で立ち尽くしていた。
服の上でもわかる豊満な身体は、脱ぐとやはり官能的で、莉々子こと雄大には刺激が強すぎた。風呂に入る前だというのに早くものぼせかけている。
「お楽しみのところを悪いが、ここからが本番だ。ささ、入った入った」
「ひゃぅっ!? ちょ、やめっ!」
純は莉々子の腰を押しつつ、さりげなく脇腹を揉みながら風呂場へと促す。やはり莉々子の身体は雄大よりくすぐりに弱いらしく、こんなところでも別人の身体を使っていることを実感させられる莉々子。
そうこうしている間に、莉々子はあれよあれよと風呂椅子に座らされた。
「女の子のお肌は敏感だからね~。このスポンジを使って洗いま~す」
スポンジにボディーソープをたっぷり染み込ませる純。風呂場に広がるフローラルな香りから「女の子の匂い」を感じてドギマギする。もしこのまま元に戻れないままなら、毎日この女性用バス用品コーナーにしか置いていないであろうパッケージのソープで身体を洗い、花の香りを身に纏って生活することになるのだろうか。
「ふふ~ん。莉々子ちゃ~ん。キレイキレイしましょうね~」
今度は母親気分なのだろうか、猫撫で声で近づき、絶妙な力加減で背中や腕をスポンジで拭いていく。思いの外心地いい感触に、莉々子は思わず全身を弛緩させる。
「次は~……あれあれ? こうして見ると、お腹とか太腿とかちょっとむちむちしてきてる気が……」
「っ~~~~~~!?」
その瞬間、脳が反射的に羞恥心に支配され、莉々子の顔が真っ赤に染まる。
それを見た純は新たな悪戯を思いついたという顔になる。
「放課後保健室でこっそりお菓子食べたり残業帰りに買い食いしたりしてるでしょ~? ほどほどにしないとおっぱいやお尻だけじゃなくて全身むちむちに……」
「やだやだぁ! 言わないでぇ!」
涙目になりながらイヤイヤと首を振る莉々子。肉付きへの忌避感もつまみ食いの習慣も今の莉々子としては与り知らぬ記憶のはずだが、本能から引き出された年頃の乙女としての思考に脳が振り切れ、身も心も羞恥に悶絶している。
「じゃ、せっかくだしちょっとエクササイズしよっか」
こくん、と幼子のように頷く莉々子。今やすっかり「美貌への自信はちゃっかり持っているが、それ故にだらしない部分へのコンプレックスも持ち合わせている」という、雄大の魂が入る前に設定されたはずの森名莉々子のメンタリティに染まり切っている。
「まずは~。仰向けに寝転びま~す。はい、ごろ~ん♪」
純が床に湯を流した後、言われるがままに寝転ぶ莉々子。
「次に私もソープを身体に塗って~……。えいっ♪」
「ふぁあっ! ちょっ! なに!?」
泡を身体にたっぷり付けた純は、莉々子の身体に覆いかぶさる。泡を塗りたくるように、全身をぴったり合わせ前後に動いて擦りつける。
「えへへ~。お姉ちゃんとあわあわ洗いっこ♪ ここは汗が溜まりやすいからしっかり泡を入れないとね~」
「や、やめてっ! そんなところ……!
胸の谷間に器用に指をねじ込み、揉みしだく。ひとしきり揉んだ後は、再び泡を潤滑油に前後運動を再開する。
「う~ん。巨乳の姉ちゃんの身体もエロい事する上ではいいけど生活では面倒なことも多いんだよな~。やっぱ他人のを揉むぐらいがちょうどいいぜ!」
乳首と乳首が擦れあい、互いにピリピリとしたこそばゆい快感が身体を駆け巡る。
「あれあれ~? お姉ちゃん、ピンク色の綺麗な乳首が勃っちゃってるよ~? ここもしっかり洗ってくれってこと?」
大きく首を振る莉々子。しかし純はそれに構うことなく、乳首にしゃぶりつく。舌で転がし、歯で甘噛みし、絶え間ない刺激を与え続ける。
「ふあああああああぁっ! も、もう止めてぇっ!」
「はい。じゃあ止めてあげるね」
「えっ……?」
唐突に刺激が止む。初めて迎える女体の絶頂に覚悟、そして期待が入り交じっていたところで寸止めされ、火照った身体を生殺しにされる莉々子。
口をぱくぱくさせながら所在なさげに潤んだ瞳を泳がせる。
「なになに~? 莉々子お姉ちゃんは生徒で従妹の女の子に責められてイきそうになっちゃう変態さんなの~? みんなの憧れの莉々子センセはえっちな魔女さんだったんだね~」
純の言葉責めに一際赤面する莉々子。焦らされている間にも股間から愛液が垂れ流されていく。身体は早くこの疼きを解放したいという欲望に正直である。
「いいよ。可愛くお願いできたらイかせてあげる」
吐息混じりの熱っぽい純の言葉に、莉々子は縋るしかなかった。息も絶え絶えに懇願の言葉を紡ぐ。
「お願い純ちゃん……私を……莉々子先生をイかせて……?」
「う~ん。ちょっとキュートさが足りない気がするけど……これはこれでエロくてグっとくるからよし!」
期待に目を見開く莉々子。
「じゃあ……特別サービスしてあげるね!」
「えっ……ふぁあああああああっ! いいっ! これもイイのぉっ!」
純は体勢を変えると、股と股を擦り合わせる貝合わせの状態を作り、前後運動を行うとともに、片方の手で勃起した莉々子の乳首を弄る。敏感な部分を責められ、一度は止んだ快楽が倍以上になって莉々子を襲う。自身も髪を振り乱しながら、陰核と思われる部位を一心不乱に擦りつけて快楽を貪る。
「あああっっ! イく! イっちゃう!」
「いいよっ! イけ! そのままイっちゃえ! ……憧れの女教師の身体で女子生徒に責められて女としてイけ。元男の天野雄大クン♪」
純がゾクっとするような低い声で耳元で囁く。
「へっ……? あっ、ああああああああっっーーーーーーーーーっっ!」
目に光が戻り、自分が何者だったのかを思い出す莉々子の中の雄大。しかし堰を切った快楽は女体を絶頂へと誘う。男としての自我のまま、莉々子は甲高い喘ぎ声を上げて女体の快感の波に呑まれるのだった。
「あ~。楽しかった。じゃあね莉々子センセ。また明日~」
未だ尾を引く快楽にがくがく震える足で立ち、純の背中を睨みつける莉々子。
その後も莉々子は純に身体を洗うのに託けて、さらには湯船の中でも執拗にボディタッチを繰り返された。
どうにかソファに腰掛けたところで、小腹がくぅ、と可愛らしい音を立てる。
時間は21時を回ったところ。今から夕食を作るのは体力的にも億劫だし今夜はストックしていたカップラーメンか、と思ったところで、風呂場でのやり取りがフラッシュバックする。
やだやだ~。こんな時間にラーメンなんて食べたら太っちゃう! でも夜に食べるラーメンって何故か美味しいのよねぇ。どうしよどうしよ~?
不随意に挟まれる思考に、このままでは本当に森名莉々子に染まってしまうのではないかと戦慄する。
何にせよ、空腹には抗うことができない。借り物の身体を生かすためにカップラーメンを作る莉々子。最初は身体が拒絶反応を示していたものの、麺を一口入れればあっさり陥落。舌鼓を打ちながら勢いよく麺をすすり、完食後には至福の笑みで腹をさすったところで我に返り、溜息をつく莉々子であった。
[newpage]
午前最後の授業を終え、職員室に戻ろうとする教育実習生の雄大……の姿をした相川純。
本来自分は生徒として座っているはずだが、まさか授業をする側にされるなんて。学業には自信があるが、雄大の記憶を一部受け継いでいなければ本来の自分に授業など到底無理だろう。特に先程の授業では卑劣な妨害もあったが、辛うじて切り抜けることができた。
改めて、雄大への尊敬の念を感じる。
「雄大センセー! 質問でーす!」
廊下の踊り場に差し掛かったところで聞こえた元気な声。誰かと思って振り返ると、昨日まで自分の物だった顔がそこにあった。
録音した自分の声は普段聞いているそれとは違って聞こえる、というのもあるが、それを差し引いてもあれが自分の声色とは到底思えない。
自分の姿をした女子高生が、自分とはまるで別人のキャラクターで振る舞う姿には眩暈がする。しかも莉々子の身体に入った雄大を除く校内全員の認識が書き換えられているらしく「相川純は明るく社交的な優等生」ということになっているらしい。
それだけならまだ辛抱できたのだが……
「センセー。どうして授業中にズボンをもっこりさせてたんですかー? もしかして~……えっちなこと考えちゃいました?」
「っ!?」
雄大は顔を赤く染めつつ周りを見回す。幸い誰も通りがかっていないことを確認すると、薄ら笑いを浮かべる純を思い切り睨みつける。
「あはっ♪ 慣れない授業を頑張ってるセンセーへのサービス、気に入ってもらえました?」
先程の授業中、何食わぬ顔で授業を受ける純は、雄大にのみ見える角度でブラジャーやパンティを見せつけてきた。
己の下着など見慣れているはず。しかし尊敬する天野雄大といえど一人の男ということなのか、浅ましくも股間は興奮の色を示してしまう。
授業中に欲情するなど雄大の名誉に泥を塗ることになる。しかし女子高生の生下着は脳裏に焼き付きなかなか消えない。その様を見て純はニヤニヤしながらしつこく下着を見せつけてくる。
どうにか無事に授業を終えることができたが、どっと疲れがこみ上げる。
「よく頑張りましたね、雄大センセ。ご褒美に……ちょっとイイコト、してあげますよ♡」
「冷やかしなら受けないわよ。早く教室に戻――」
「えいっ♪」
「――――ッ!?」
厄介なことを吹っ掛けられる前に去ろうとした雄大を先回りし、純はズボン越しに股間を握る。
鈍痛の後、こそばゆい奇妙な感覚が広がっていく。
「ふぁっ!? ちょっ! やめなさい!」
「大丈夫ですよ~。ちゃんと人払いはしてあります。言ったでしょう? これはご褒美……」
棒を、袋をさわさわと這い回る純の指。ようやく萎えたばかりの男根が、再び勢いを取り戻してくる。
昨日生えたばかりの性器に、初めて他人の手で与えられる刺激。雄大の思考はまとまらなくなる。
「雄大センセに恥をかかせないために頑張ったんでしょ? いや~、すごいですよねぇ。愛の力って。好きなんでしょ? 雄大センセのこと」
「なっ――!」
理性が搔き乱されていたところに秘めた想いを指摘され、雄大の心に動揺が走る。
雄大は――相川純は天野雄大に淡い恋心を抱いていた。
相川純は幼い頃から他人との付き合いが苦手で、どこか壁を作っていた。幸い、周囲の理解に恵まれたことや最低限のコミュニケーション能力はあったことから孤立することはなかったが、他人に明確な好意を抱くこともなく、淡々と勉学に打ち込む日々を送っていた。
勉学は知的好奇心を満たせるという意味で好きではあったものの、特にこれと言って目標は無く、ただ黙々と知識を吸収し続ける。気付けば学力で常に校内トップクラスに位置するようになり「大人びた優等生」という扱いでを受けるようになっていた。
そんな相川純だったが、天野雄大という男性に初めて出会った時、心に温かいものが広がっていた。どうやらこれが文学の世界でしか知らなかった、自分には縁がないと思っていた「恋」であるらしい。
容姿も平凡。人柄も温かいものを感じるものの、そういった男性には過去にも出会ってきた。考えれば考えるほど、なぜ自分が彼に惚れ込んだのかはわからない。
ただ、気付けば毎日、教育実習に励む彼を影ながら目で追っていた。ふとした用件で話すことがあればその日は幸せな気分に包まれた。
しかし、彼もあと一週間で去ってしまう。そもそも、教育実習生と生徒が男女の仲になることなど許されるはずもない。
そんな悶々とした感情を抱えていた頃、悪魔の気紛れで雄大の身体に入ってしまったのである。
「昨日も雄大センセの身体でオナニーしたんでしょ? 女の子は知らないだろうけど、前日ヌくとタマタマの触り心地が変わるんだよ?」
「えっ……?」
ビクッと身体を震わせ、思わず自分に生えた一物へと目を向ける雄大。
「なーんちゃってー! カマかけちゃいましたー! 引っかかっちゃってかーわいー♪ やっぱり昨日オナニーしたんだ? 好きな人の身体で。うんうん。やっぱりやるよねー♪」
「このっ……!」
怒りと羞恥に打ち震える雄大。しかし純はチャックを開き、慣れた手つきでボクサーパンツの穴から肉棒を解放する。既に我慢汁が流れ始めており、ひんやりした外気から刺激を受ける。
「あはっ。意外とちっちゃ~い。でも男の子初心者にはお似合いかな」
「なっ――!」
男性器が大きい方がいいのか小さい方がいいのかなどそういった知識に疎い相川純に知る由もない。しかしそれは天野雄大のコンプレックスに触れる部分であったようで、屈辱感に襲われる。
愛玩動物を愛でるように、亀頭を指先で撫でたり息を吹きかけたりして弄ぶ純。その度に敏感な部分を直接触られた快感で腰砕けになる。
「あなた……いい加減に――」
「ねぇねぇ。見てよ」
純が空いた左手で壁を指差す。
そこに写るのは、禁断の性行為に耽る純と雄大の姿。形こそ歪だが、自分が雄大と愛し合うという夢にまで見た光景。
「ほら、あなたの望みがここにある……ねぇ、もうずっと入れ替わったままでいいんじゃない? そうすればあなたは雄大センセと結ばれる……先生と生徒の恋なんて、悪魔の力でどうとでも誤魔化せるんだからさ」
自分の姿をした少女の甘い囁き。己の秘めた欲望が具現化したような、まさしく悪魔の誘惑。
心臓がうるさいほどに高鳴る。誘いに乗ってしまってはいけない。しかし悪魔でも頼らなければこんな機会は一生訪れないかもしれない。
未知の快感でぼんやりする頭の中、答えを出す。
「バカなこと言わないで。悪魔だかなんだか知らないけど、そんな悪趣味な誘いには乗らないわ」
「ふ~ん。そっか~。まぁ今はそうだろうね~」
純は意外なほどあっさりと引き下がる。
「じゃあ今日は男の快感のお試しってことで」
「ふぁっ……! な……な……」
純は口をすぼめると、雄大の男の象徴を加え込む。そのまま舌で、頬で、歯で巧みに刺激を与え続ける。その度に雄大はじっとりとした生暖かく柔らかい感触に襲われ、声にならない声を上げる。
もはや立っていられず尻もちをついて座り込む。
「あはっ。この身体も濡れてきちゃった。純ちゃん雄大センセのこと大好きじゃん」
それだけ言うと、再び男根を口に入れる。今度は目を閉じ、前後にゆっくり揺れ動く。頬を染めた愛おしげな表情で。
「あぁっ! はぅっ……! 射精る! 射精るっ……!」
肉棒の破裂が近いというサインを受け取ると、純は「いいよ」の意を込めてウインクを送る。最後の仕上げとばかりに舌先を発射口にチロチロとねじ込む。
「ああああああああーーーーーーーっ!」
叫び声とともに、膨らんだ男根から精液をドクドクと純の口に流し込む雄大。
純は全てそれを口に含むと、そのまま雄大と口づけを交わす。唾液とともに攪拌された精液の生臭い味がお互いの口の中に広がる。
純は残った精液を飲み込むと、投げキッスを一つ飛ばし踵を返す。
「雄大センセ、だーい好き♡ あ、昼休みいっぱいはセンセのことを誰も認識できないようにしとくから、ちゃんと後始末しといてね。エッチ以外でザーメン臭いセンセはさすがに私でも無理だから……」
そして階段を上りきったところで、再度振り返る。
「見上げた愛だねぇ。面白いじゃねぇか。……お前の望みはちゃんと叶えてやるから、楽しみにしてな」