下級生の性教育係なTS娘ちゃんが受精するまでの1日 作:ゆきかお
追記:10000UA達成しました。
偏に読んでくださる皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。
「まにあったっ、まにあったー!」
チャイム音の残響が間延びする教室の中で、2人は再会する。
手早く後ろ手の引き戸の鍵を閉めて、乳歯が抜けて少し間の抜けた愛嬌のある笑みを振り撒きながら、制服を着たランタはミトがいる中央へと駆け寄ってきた。
再会の喜びを噛み締めるでもないミトは、呆れで憮然とした表情を崩さないまま、彼を迎える。
「……今日は、どういう理由で遅れたんだ?ランタ」
「んーと、……うん!ろうかがね、こんでたんだよ!びっくりでしょ!」
「こっちに来る奴なんてほとんどいないのに混むわけないだろ……。
どうせ、またギリギリで教室に入る遊びだろ?」
「えへへ、ないしょ!」
舌足らずな喋り方に、夏の気候に合わせさっぱりと短くナチュラルに切り揃えられた短髪。
ふっくらとした顔立ちは彼の年相応の幼さを、より印象付けさせていて。
誰もが抱くであろう、幼児への庇護欲をより掻き立たせる格好。
それがランタだった。
ただ、忘れてはいけないのが、あくまでそれらは表面的なものにすぎず。
その実ランタは、ミトが担当する前の数多の性教育係の女の子の手を焼かせてきた、跳ねっ返りでひねくれた悪ガキの性分を、内に秘めているということだ。
「ねえねえお兄ちゃん。誰かにスカートめくられててかわいそうだったけど、元気だった?」
「…………お前、ちょっと前にこっぴどく叱ったのに懲りないな、おい」
「それほどでもー!」
「褒めてねえよ!」
ランタの余りのふてぶてしさと豪胆さにいっそ感心すら覚えるミト。
しかし、この不毛な会話を続けさせて無為に時間を消費するわけにはいかない、と大きく溜息をつくことで意識を切り替える。
「……はあ。これ以上朝から怒るのもアレだな。
ほら、ランタ。上履き脱いでさ、こっちおいで」
「はーい!」
性教育開始の予告を受けたランタはマットレスに膝をついて、体をずいとミトに乗り出す。
同じ目線の高さになったランタをミトは正面から見据えた。
見慣れて久しいその少年の顔には、屈託のない笑みが張り付いている。
「じゃあまずお兄ちゃん!キスしよーよっ!ね!」
「は?」
「ぼくね、今すごくえっちな気分になってるから!
ほら早くー!」
何をせずとも、ランタがこちらの意に沿おうとするとき。
またはそういうことに積極的なときは、何かしらの悪戯を狙おうとしていると、ミトは彼との性教育で身に染みて理解していた。
現に彼は、上履きを脱いでおらず膝立ちのままで、いつでも立ち上がって室内を駆け出すことが出来る体勢にある。
故に、キスをせがんでくるランタに対して、投げやりな態度でミトは応対した。
「お前そうやってオレが顔近づけた瞬間頭突きする気だろ。分かってんだぞ。
……それにほんとにするとしても、虫歯治してからな」
「もう虫歯ぐらいなおしたもんねー!ほらっ、あー!」
「ほんとかー?……あれ……いや嘘じゃねえか!」
「ちぇー、バレた!あっはは!」
奥に黒々とした歯を隠していたことを看破されたランタは、愉快愉快と言わんばかりに腹を抱えて笑いに笑う。
その隙を突き、すかさず自分の内へと引き込もうと、彼にミトの手が迫った。
だが、いつぞやに見せた持ち前の瞬発を持って、突き出していた小柄な上体をすぐさま戻すことで、彼女の手を置き去りにした。
「あっ、くそっ」
「へへーん、引っかかんないよー!」
「おーい戻ってこーい」
勢いのままに立ち上がったランタは、前の黒板へと走っていった。
そして備え付けの白のチョークを手にすると、歪んだ線だけで構成された何かを黒板に描いていく。
ミトはさっさと連れ戻そうと腰を持ち上げようとして、ランタが描いてる物の正体について、ほんの僅かに興味がそそられた。
「……何書いてんのランタ。というか後で消せよそれ」
「これ?ふふん。お兄ちゃんだよ!」
「おお、……どこら辺がオレなんだこれ。
いやそうじゃねえよ。連行しまーす」
己の自画像というには難解で稚拙な何かから目を逸らし、脱いでいた上履きを履き直して、ランタの自由を奪おうと彼の元に歩を進めて。
お絵描きに夢中で、無防備なランタの背中にミトは手を伸ばす。
「……ふふっ」
ランタは、待っていた。
ミトが立ち上がり、こちらに無防備に迎えへとやって来る瞬間を、したたかに。
「────すきありっ!」
「あっ!?」
もう目の前だったランタが、ミトの視界から消える。
身を屈めた、と一瞬遅れてミトが把握した頃には、彼女の下半身に開放感が訪れていた。
その原因は、ランタが紺のブルマをミトの膝下までずり降ろしたことによって。
水色のショーツが、哀れにも再び無遠慮に、外気に晒されたからだ。
「あっ、まえと同じやつだ、きれい。
もしかして気に入ってたりするの?それともそれしかないかんじ?ねえねえ」
「…………ふーっ」
「ねえねえったらー、水色パンツのお兄ちゃん!」
性懲りもなく行われた蛮行に、いよいよミトの大して長くない堪忍袋の緒が切れた。
努めて冷静に、彼女は丁寧に膝下のブルマを元に戻すと、屈んだ体制のまま、うずうずと期待に満ちた上目遣いを向けるランタを見下し、烈火の如き気炎を吐いた。
「────よおしランタ、そこ動くなよ!
絶対生きて帰さないからな!」
「やだよー!あははははっ!」
それを皮切りに、2人っきりの鬼ごっこが始まった。
怒号と笑声を響かせ室内を駆け巡る、狩人と兎の、不毛で痛快な遊戯だ。
「こっちだよー!あっはは!」
「ああ、もうっ!逃げんじゃねえ!」
逃げては逃げて、追っては追っての繰り返し。
単純で原始的なそれは、互いを夢中にさせる。
次第に無心で行い続けていった、その末に。
ミトはランタを、部屋の隅へと追い込むことに成功した。
「はあっ、はあ。追い詰めた、ぞ……っ!」
「ふっ、ふ、おいつめられちゃったなー!」
しかし、油断は全くにできない。
危殆に瀕しているランタだが、観念した様子は一切なく、いつでも走り出せるように、抜け出せるようにと、彼の筋肉は緊張を続けている。
追い詰めたと安心して迂闊に手を出せば、かつてのスカートめくりの二の舞なのは明白だった。
「────あれあれー?来ないのお兄ちゃん?
早くつかまえないと先生たちにおこられちゃうよー?」
「何言ってんだ怒られるのはお前もだよ!」
「じゃあそれなら、いっしょにおこられようね!お兄ちゃん!」
「うるせーっ!」
にやにやと挑発するランタにとっては、今の状況は楽しくて仕方ないだろう。
この広い教室を遊び場として誰にはばかることなく使用することが出来るのも。
その上、お兄ちゃんと全力で遊ぶことが、出来るのも。
2人は互いを睨み合ったまま深く息を吸い込んで、肺に空気を行き渡らせ、脳に酸素を回す。
どちらもそれに専念した結果、さっきまでの喧騒が嘘のような沈黙、均衡が訪れる。
どちらが先に動き出すか。見逃してしまえばそれで終い。
決して目を離すものかとぶつかり合う2人の視線は、無刀の鍔迫り合いに他ならない。
見えぬ火花、激しく散らして。
────ふわり、と。
ふいに、備え付けられた室内のクーラーから放たれた、冷風が互いの髪を揺らした。
それが保たれていた均衡を破る、合図となった。
さて、正念場である。
「っ────!」
先に動き出したミトが1歩強く踏み込んで、悪たれ坊主を捕らえにかかった。
あわや袋のネズミとなりかけるランタは、ほくそ笑んだ。
ミトに対して、限られた選択肢の中で1番の悪手を選んだ、と。
────自分の速さならお兄ちゃんがどう出るかを見てからでもいける。
後出しでもぜんぜんぬけられる────。
そんな経験に基づいた自負が、彼を進ませる。
悠々と、がら空きとなった左方向へと、ランタは駆け出した。
「────あっ!」
しかし彼の進路に塞がるは、そこにあるはずのない、ミトの胴体。
ぶつかる。忌避すべき危機を回避するための、当然の反射的反応が、万能感に満ちた少年の、躍動していた体を鈍らせ、硬直させた。
どうして、とミトの手が迫るその刹那に思うランタだが、時既に遅し。
立ちすくんだ彼はミトに真正面から抱きすくめられ、ようやくお縄となった。
「よしっ、捕まえたぁ!」
「きゃー!ころされるーっ!」
「もう逃がさないからなー!」
彼我の身長差から、ミトの胸元の谷間に顔が収まったランタは、じゃれつくように抵抗する。
そんな往生際の悪い、いたずらっ子をどうにか押さえつけて。
ずるずると部屋の角から、ミトは中央のマットレスまで引き摺っていく。
段に乗り上げようとする所で、ミトはランタを目一杯に抱きしめると、ランタが怪我をしないように自分をクッションにして、共にマットレスへと寝転がった。
「はい、お仕置き開始。よいしょ、っと!」
「────っあ、思ったよりいたいいたい、いたいっ!
ごめんなさーい!ゆるしてお兄ちゃんー!」
右胸と二の腕にランタの頭を挟み込み、万力のようにぐりぐりと彼の頭を締め上げるミト。
その力は貧弱が故に、圧迫感と痛みはたかが知れているとはいえ。
些か獰猛で乱暴な仕置きは、ランタを充分に大人しくさせていく。
「────ん、今日はこの辺にしといてやるか」
「ふぅ、ふー……、たすかったー、んっ」
反省の念を感じ取ったミトは挟み込んでの絞り上げを止めたが、体の内に彼を留めておくのは止めない。
ランタの背中に手をまわし、包みこむように抱き締め直すと、互いに向き合う形での、横向きの体勢へと変えた。
ミトは胸元の疲弊したランタに向かって、にやにやと得意げに笑う。
「しっかし、あんなフェイントに引っかかるとはなー」
「あ、そーいう……。ずるいよお兄ちゃん。バスケやってたからってさー」
「ふふふっ、何とでも言え。
……んで、ランタ。満足、した?」
「んー、もうちょっとあそびたいけど……」
「さすがにこれ以上は怒られるからダメ。
……そんな顔しない。また休みのとき、遊んでやるから」
「いぇい、やったっ。はーい!」
彼女らが起こしたさっきまでの騒動は、ある種のプロレスのようなもので。
悪戯されるのが、仕置きされるのが互いに分かり切った上で、がやがやと遊んでいた。
もちろん、大人しく性教育されてくれないかなと、ミトは内心真に願っていて。
悪戯をされたことで抱く、怒りだとか羞恥だとかの感情は、本物だが。
ランタは、まだ性への関心が薄い傾向にある同年代の男子たちより、群を抜いて女体及び色事に、とんと興味がなく、押し付けられることを嫌う。
その性分を考慮することなく無視し下手に押し付けることで、性にまつわること全般に対して拒否感を抱くようになるよりは、過度にならない具合に互いに遊んで。
それを止め時を見計らって終わらせた後は、男女の営みの表層をなぞる程度の、真似事を授業終了まで行う。
彼には今の所、それが最善である、と学校側からお墨付きをもらった上で。
ミトはランタとの性教育を、今日に至るまで、そうこなしていた。
「あーでも、もっとあそびたいなー」
「おいっ。……真面目にならないと、いいお父さんになれないぞ。
……まあ、オレが言えた口じゃないけど」
「いいお父さんになりましょうっていわれても、まだよく分かんないし。
それに、きょーみないんだもん。えっちなこと」
「……うーん」
共感できるが故に、ミトはそれ以上強く言い出すことが出来ない。
とはいえ、性教育係の仕事を放りだすわけにもいかないため、予定通り恋人の睦み合いのそれを行おうとして、少し強くランタを抱き寄せると、僅かに離れていた互いの距離を0にした。
「んんっ、どうしたのお兄ちゃん」
「……こうやって、抱きしめられて。何か感じたりすることある?」
「うーん。…………あったかい!」
「そりゃそうだろ」
ランタの体から返ってくるのは、骨ばっていない柔らかな肌と筋肉の感触。
それは夏日をたっぷりと吸い込んだ、干したての布団のようで。
彼から漂う、どことなくお日様の匂いのような体臭が、よりその想像をミトの中で膨らませた。
「んー……」
「……あっ、もうっ。ブラずらすな」
されるがままのハグで暇なのか、胸の谷間に顔を埋めて、ぐりぐりと頬擦りするように揺らすランタ。
体操服の向こうの下着をずらしてやろうと的確に狙っているそれは、ミトにとってくすぐったくて仕方がない。
「お兄ちゃん、おっぱい大きくなった?
めっちゃやわらかいよ」
「デリカシーゼロ人間かお前は。まあそうだけども。
……というか、分かるもんなんだな。そういうこと」
「うん!お兄ちゃんの体、すきだから」
「…………なんだそれ」
会話の為に上げていた顔をまた谷間埋めて、ランタはそこで深く呼吸をした。
互いの体温が溶け合って、混ざり合って、1つになって出来上がった、2人だけの陽だまりに彼は沈む。
多幸で満ち足りてやまない、温かな充足感に身を任せて。
穏やかな、時間が流れゆく。
(……前に比べると、大人しく抱かれるようになったな。
慣れたのかな。それともちょっとは……、あっ)
ふいにミトは、ランタへと告げなければいけない大事なことを思い出した。
自分の胸に挟まれて、面を伏せたままのランタに、こそりとミトは囁いた。
「なあランタ。今日の実習、どうせ退屈だろうからさ。
初めは見ててもらうけど、それ終わったら他の兄ちゃん達に迷惑かけないように、部屋の隅で遊んでていいからな」
もしかすれば、身近な人間がシたところを見れば、何かしら自覚することがあるかもしれない。
その可能性が考慮され、今回の性行為実習に、見学としてランタも組み込まれた。
しかしミトは、それは甚だありえないだろうと、今まで彼と触れあってきた経験に基づく所感を抱いていた。
それが故の、彼への気遣いを込めた連絡だったが。
(…………あれ?)
しかし、幾ら経っても、ランタからの返事がない。
てっきり自分の提案を嬉々として承諾して、ほかのお兄ちゃんたちとも遊びたい、と言い出すだろうと予想していたミトは、彼をなだめる言葉を用意していたのだが、どうもそうではないらしい。
常時賑やかで忙しない彼の珍しく静かで、谷間に顔を埋めてからずっと大人しくしている様子に、ミトは戸惑い、声をかけてみた。
「……どうしたランタ。眠い?」
「えっ、あ…………ううん。そうじゃない、よ……」
────なんか、へんだ、と。
先程からランタは、言い様のない違和感を覚えていた。
それは、鼻腔いっぱいに満ちたミトの匂いに起因するもので。
いつものお兄ちゃんの匂いは、安心できる優しい匂い。
けれど今日は、何かが違っている。
何かが、混じりこんでいる。
鼻腔に満たせば満たすほど、灼けるような熱が内から生じて。
その熱さにやられて、浮かされて、ぼんやりとする、何か。
────イヤじゃない。
────もっと、嗅いで見たい。
好奇心に誘われて、それをずっと、自分の内に貯め込んでいたランタは。
気づけば、どうしようもなく、お兄ちゃんが恋しくて、たまらなくなっていた。
お兄ちゃんの体を抱き返すたびに、胸の感触を知るたびに、心が切なさに疼いて。
全力で走った後よりも、心臓は弾けてしまいそうなぐらいに、うるさくなって、身体中に媚熱がこもった血液を送っていく。
溜まっていく、集まっていくそれを放っておいたら、溶けてしまいそうで。
焦げてしまいそうで。
おかしくなってしまいそうで。
耐えられなくなる前に、発散したい。冷ましたい。出したい。
ランタの頭は、熱の逃がし方で、いっぱいになる。
────やり方は分かんない。知らない。聞けない。
このままじゃ、へんになる。
どうしたら、どうしたら────。
(……疲れてる?いや、そんなわけないだろうし。うーん)
ランタの堂々巡りの苦悶など露知らず。
あんなに暴れたから突如夏風邪でもひいたのか、と突拍子のない疑問を尋ねようとして、喉を震わせようとしたそのとき、ミトは彼の変化に気づく。
自分の体の内で、急にごそごそと、小さく落ち着きなく体を動かし出していた。
(……なんだろ。また悪戯でも仕掛けんのかな)
最初はランタが何をしているか、ミトは分からなかった。
故に、少しの間見守ろうとして。
突然、自分の体に当たる異物の感触を覚えたときに、ミトは彼の不可解な行動の真意を知った。
(あ、いや、これ……)
胸元のランタはこみ上げてくる気持ちよさに集中しているかのように、目をぎゅうとつむっていて。
芯の通った、生地越しにでも分かるぐらいに、固く熱を帯びている股座の膨らみを。
ミトの腹にぐいぐいと押し当てるように、擦りつけていた。
(……オナニー、してるんだ……)
ランタが自慰していると把握したミト。
しかし、一体何が彼を駆り立てたのか、彼女には一切の見当が付かなかった。
まだ年場もいかないような、さっきまで目先の遊戯にしか興味のなかった子が。
性の目覚めにいる。快楽の端緒を掴もうとしている。大人になろうとしている。
そんな事実に、ミトは衝撃を受けて、心身ともに硬直する。
(今まで、こんなことなかったのに、なんで急に。
……どう、しよう)
ランタに対して、自分が取るべき選択を熟慮したいミト。
しかし、ランタとは別に、彼女の心を惑わすものがあった。
それは、彼の自慰に耽るその姿を見てから、生まれたもの。
胸の中でじりじりと燻る、焦がれるような知らない感情だ。
今までに覚えたことのないそれに、名前を付けられなくて。当てはめられなくて。
混乱したまま、彼女の頭は働かない。
「おにいちゃんっ、ミトおにいちゃん……っ」
思慕と、切なさがこもった声色で名前を呼ばれ、ハッと脳の歯車が嚙み合ったミト。
こちらを上目で見つめる両目の端に、涙を浮かべて、息を切らせて。
ランタは懺悔する。
「ごめん、なさいっ!かってにずっと、こしっ、うごいて……っ!
やだ、やだっ……!こわ、い……よ……っ!」
ランタの頭が必死に止めようとしても、止まらない。
何故なら、彼の体に宿る本能こそが、体の熱を冷ます方法を知っているからだ。
お兄ちゃんにぶつけたいと漲る、余計な知識が混ざらない、いたいけで純真な性的欲求に駆られたそれは、暴走しているといってもよかった。
(…………教えてあげなきゃ、いけない、よね)
ミトは、自身に課せられた係の役目を思い出す。
担当となった子に、正しく性を啓蒙するのが、性教育係の大事な仕事だ。
自身の無自覚な行為に怯えているランタを、困惑のままに放っておいていいわけがない。
彼女は、確たる選択をした。
「ランタ。……脱がす、よ」
「ふえっ……?ぁ……」
ミトはベルトの通ってない半ズボンのホックへと両手を伸ばし外すと、股の膨らみに沿って、彼の足元へとすりすりと下ろしていく。
そうして彼のパンツのゴムに手をかけたミトは。
つらいつらい、と訴えているそれを、解放してあげた。
「あ…………っ」
ぷるり、と露になった、ランタのパンツを持ち上げていたそれは、未成熟な、染みのない真っ白な包皮に包まれた陰茎。
今この瞬間まで排尿の役割しか持たなかったが、もう1つの役割を自覚したランタの分身は、ミトの薬指ほどに膨らみ、硬くなっていて。
未知の快感を欲して、焦がれ、ぴくんぴくんと脈打っていた。
(……こんだけ幼くても。
ここはしっかり、男の子、なんだ)
どうして、そんな感慨を抱いたのか、ミトは分からなかった。
けれど、今の自分の感情の機敏など気に留めることではなく、それ以上に優先すべきことがある。
自分のあられもない姿を見られ、不安と怖気に瞳を揺らすランタを、ミトは柔らかい声色で、彼の気が楽になるよう、宥める。
「……今、ランタがしてたことはね、男の子なら誰でもしちゃう普通のことで。
何にも怖くないことだし、逆に褒められることなんだよ」
「そう、なの……?」
「うんっ。……それで、ね。オレ、ランタのこと褒めてあげたいんだ。
偉いね、って。かっこいいね、っていっぱい言ってあげたい。
……だから────」
ミトは彼に向かって、微笑んだ。
自身の腹を突き出すように、差し出しながら。
「────さっきと同じこと、やってみて……?」
赤らめていた頬を見られまいと、顔を伏せて。
おずおずと、ランタは呟いた。
「…………うんっ」
幼い白魚が、ミトの腹の上で無軌道な回遊を描きながら、ねっとりと泳ぎだす。
すぼまった口から滲み出した先走りが、ミトの体操服に蛞蝓が這った後のような染みを作っていく。
互いに声がなく言葉もない、ひそやかな教室の内で聞こえるのは、互いに掠めあう荒い呼気と、断続的な衣擦れの音だけ。
「……はっ、んんっ……ふっ、ふっ……んぅ……」
じわりじわりとこみ上げてくる得体のしれない、しかしミトに許された、求められた快感に、ランタはうっとりと瞳を潤ませていた。
熱っぽい声が漏れ出そうになるのを、我慢しようとするけれど。
溢せば、溢すほどに、快感が高まっていく。
「んっ、上手、だよ。ぁ、ランタっ」
横向きで抱き合った体勢を維持できるように、震えるランタの腰を両手で支えるミト。
芯の通った固く熱いそれに腹が押される度に、妙な声が出そうになるのを抑えようとするが、ずんずんとやってくる振動は、ミトの心を浅くだが乱していく。
「ううっ、ぁあっ、ふっ、くっ……!」
どんどんと、甘い甘い頂に登るにつれ、ランタのその動きはどんどんと乱暴に、粗雑になっていく。
僅かにあったお兄ちゃんの労わりを忘れ、不格好にミトの腹部を己のイチモツで突き上げる。
彼の腰は、痙攣したようにひくつき続けていた。
そして堪えられないくらいに、悶えに悶えた先に、終わりが近づく。
「おにいちゃんっ!出ちゃうっ、出ちゃうよぉ!」
「んっ、いいよっ、その、ぁ、ままっ────!」
限界を迎えたランタは、自分の剛直を、ミトに強く押し付けた。
そして、彼のそれが、弾ける。
────びゅう、びゅうううっ♡
「いっ、あっ────────!」
大きく脈打ったランタのペニスが、初めての、精一杯の射精をした。
溢れ出るのは白濁とした精液ではなく、精虫を一匹も含んでいない透明なカウパー液。
それは精通していない少年だけが出来る、特異な射精。
生殖をするわけではない粘液が、ただ快楽の為だけに、吐き出されていく。
「────っ!~~~~────っっ!!」
体験したことのないあまりに強烈な快感に堪えられず、体をくの字に曲げ、顔を伏せて逃がそうとするものの、焼け石に水で。
声にならない声を上げて、ランタは一身にそれを受ける。
初めての絶頂は容赦なく、無知で無垢だった少年の全てを滅茶苦茶にする。
生まれてきてから、ずっと変わらなかった常識を、価値観を、粉々に壊していく。
カウパー液を吐き出し終わったランタは、びくん、びくんと度々体を跳ねさせて。
通常の男の絶頂とは違う、早々に降りてくることが出来ないドライオーガズムの余韻に、ランタは朦朧とした意識の中でしばしの間、浸り続けていた。
(…………これ)
ミトへ吐き出された先走りは、体操服の布地では吸いきれないぐらいに多量で、とろりとした小さな水たまりが出来るほどだった。
その水たまりに人差し指で掬い入れると、親指に擦り付け、伸ばしてみる。
指と指との間で一本の透明な長い橋が架かったと思えば、それはぷつりとすぐに途切れた。
(……まだ、出ないんだ)
出して欲しかったな、と心の底で沈殿する思いが1つ。
ミトは、また不思議に思う。この年頃の男の子が精通に至っているわけないのに、と。
どうして、そう考えたのか、自身の心持ちを探ろうとして────。
「────おにいちゃんっ!」
「わっ」
「……ひっぐ、っうぅ……ふっ、は……おにい、ちゃん……」
正気を取り戻したランタがうなだれるように倒れこんできて、ミトへとぐすぐすと泣きついてきたことで、ミトの思考は中断される。
ミトは嗚咽するランタの背中を右手でさすり、もう片方の手を彼の頭に乗せると、慈しみを込めて、あやしつけるべく、乗せた手の平を短い間隔で往復させて、撫てていく。
「よしよし。……よく、頑張ったね。
偉くて、かっこよかったよー……?」
「っぐす、んん、…………うん、うんっ」
体液で汚れることも厭わずに、ランタが泣き止むまで撫で続け、ひしと抱き合っていると。
突然に、チャイムが鳴った。
その音色は、時を忘れ夢うつつだった二人の目を覚まさせる、起床の音。
「あ……」
「……もう、終わっちゃったか。
座ってランタ。汚れたの、すぐ拭くからさ」
「……うん」
先走りでべとべとになっていた敏感な肉竿と、乾きつつあったがまだ濡れていたパンツを、ミトは教室内に置いてある箱いっぱいに詰まったティッシュで優しく拭いて。
途端にやってきた非日常から、日常への帰路に無事に着けるように、身支度を整えさせた。
「…………大丈夫?帰れる?」
「うん、だいじょうぶ、そう」
次の担当の男の子が直ぐにでもやってくる為、彼の教室まで付いていけるわけではないので、この教室を出るまでにしか補助と心配が出来ないことに、歯噛みするミト。
けれど、立ち上がってしばらくの間ふらついていたランタは、歩いている内にもうしっかりと二の足で立って、問題なく扉までたどり着けていた。
「…………」
彼が名残惜しそうに、振り返る。
しかし、時間はもうない。
「……またね、ミトお兄ちゃん」
「ああ。……5時間目、来れそうだったら、おいで」
「っ、……うんっ」
端的に、実直に。
ランタはミトへとお別れをして。
1時間目は終了となった。
誤字報告、感想をいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。