下級生の性教育係なTS娘ちゃんが受精するまでの1日 作:ゆきかお
(……ゴム、付けてあげればよかったな)
ランタが去って、ほんの数分前の淫靡な熱狂が嘘のように静まり返った教室内にて。
自身の腹部の布地に付着した行為の証を、ティッシュで拭う退屈な作業の途中。
ミトは1人、脳内で1時間目の反省をしていた。
とりわけ、基本冷静であるべき性教育係が動揺に動揺を重ねていたことへの。
(それにしたって、どうしてあんな急に。
……うーん)
そして、反省の傍らにあり続けるのは、彼の豹変である。
さっきまで遊び呆けていた純真無垢な男の子が、突然に性に目覚めた。自分を性の対象にした。
そう考えれば考えるほど、ミトはどうにも悶々として、仕方ない。
彼がああなったのは自分に原因があるとするのが自然ではあるが、暫く考えても全くに見当が付かず、お手上げの状態となった。
実際に聞いてみるしか解決策はなさそうだ、とミトは複雑な難題をそう締めくくる。
(……とりあえず、さっさと捨てよ)
無心で擦っていたティッシュには、もう湿り気はなくて。
体操服に残った先走りの染みはもう目立たなくなっていた。
用をなしたそれをマットレスの近くに寄せておいたゴミ箱に捨てようと、膝立ちのままずりずりと足を引きずりながら、ゴミ箱の元に近づこうとした、そのとき。
ミトは腰に、ほんの少しの違和感を覚えた。
「…………ん?」
痛むような、軋むような、疼くような。
または上記のそれらが全部当てはまっているような、判別がつかない曖昧な違和。
それはどうも一瞬のものではないようで、今も継続的にミトの脳に訴え続けている。
(……あー、鬼ごっこのときに変に捻った?
いやでもそんな……)
幸いにも、他のことに思考と運動を割けば、忘れられる程度のものである。
しかしミトの一番長い日となるであろう今日は、まだ始まったばかりで。
早くも体が不可思議な不調を訴えるなど、いい話ではない。
今でこれなら、本番のとき自分はどうなってしまうのか、と不安がミトの胸中に去来する。
(ほんと、しっかりしないと……。
あいつらの前で情けないところ、見せたくない)
心の内でミトは己を叱咤する。
基本的に、彼女は己に課された係の役目へのやる気や意欲、向上心が人並み以下である。
だが、一度抱え込んでしまったことの面倒を途中で投げられるほど、ミトは不真面目ではなかった。
それも、自分を受け入れてくれている男の子たちのこととなれば、尚更だ。
そうやって、たるんでいた自分を見直していたミトの耳に不意に届く、部屋の扉にカギが差し込まれて静かに回る、穏やかな開錠の音。
情事の痕跡をゴミ箱に投げ込んだミトは、部屋の入口へと意識を向けた。
「────失礼します」
「うん、どうぞ」
廊下から聞こえてきた落ち着いた少年の声に、喜色が滲んだ声色で応対するミト。
ふと時計を見上げれば、2つの針がきっかり授業開始5分前を指していた。
彼の相も変らぬ授業への真面目な姿勢に彼女は感心する。
「おはよう、ミト兄ちゃんっ」
「おはよ、サキ」
穏やかに扉を開いて入ってきたのは。学校指定の制服の夏服を身に付けた男の子。
ハミの弟、4年生のサキだ。
「さっすが優等生。早いな」
「普通だって、こんぐらい。元気?兄ちゃん」
「……ん、元気だよ」
同年代の女子と見紛う程に、可憐で線の細い中性的な顔立ち。
それとどれだけ直しても元に戻る、ピンと跳ねた頭頂部の黒髪のチャーミングな癖っ毛が特徴の彼は、姉のハミによく似た、人好きのする笑みをミトに向けていた。
その笑みにあてられて、どことなく空回りしていた、心身の歯車が確かに噛み合う心地よさを覚えたミトは、ほっと安心の籠った息を吐いた。
後ろ手で鍵を閉め、室内を見渡したサキは、ランタの絵が残った黒板が気になった。
それを指で指して、ミトへとやおら尋ねた。
「兄ちゃん、これ何?」
「……そういやそんなのあったな。それランタが書いてった奴だよ。
あいつ曰く、オレだってさ」
「へえー……確かにちょっと似てる。ラン上手いなぁ」
「え?」
しげしげと眺め終えてから、サキは上履きを脱いでマットレスの側に整えて。
そしてミトの対面に奥ゆかしく足を畳んで正座で座り込む。
それは着席と同義であり、このままチャイムが鳴るまで待つようだった。
「……毎度毎度さ、正座しなくていいんだぞサキ。
どうせ崩すのにさ。緊張してんの?」
「え、いや、別に、そういうわけじゃないけど……」
「ふーん?じゃあオレもしよっかな」
「ええ?」
ミトもサキに習い、両足の間に尻を落とす座り方から、正座へと切り替えた。
その二人の様相は、懲罰でも食らっているのかと思わんばかりの、堅苦しく、妙にかしこまった他人行儀なものだった。
「…………んんっ」
「…………っふふ」
見合いかのような、この場に似つかわしくない、おかしで妙な空気に耐えられなくなった2人は、くすくすと笑い合って。
何を言うでもなく互いに足を崩し合い、楽な体勢になった。
────キンコンカンコン。
そうしている内に、電子の鐘が甲高く鳴った。
2時間目が、始まった。
「────なあサキ、ちょっとは落ち着いた?朝の美化委員の仕事」
「んー、全然。夏休みまでずっとで、忙しくて大変」
「そっか。いつもみたいに3人で、朝一緒に行けるのは、まだ先か」
「うん、そんな感じ」
「ま、しょうがないか。学校の掃除、がんばれよ」
「ありがと、……すごく嬉しい」
ランタのような例外を除いて、大抵の普遍的な性教育係とその担当の男子は、最初は会話を楽しむ。
何のムードも減ったくれもなく即物的に始めるよりかは、ゆったりとリラックスした雰囲気を作って、互いに心身ともに準備を行ったほうがいいのは、言うまでもないことだからだ。
そしてミトとサキの2人も、その例に漏れない。
「そういや、ハミの赤ちゃんの世話、困ってない?
最近そっちに呼ばれないし、ハミも言わないから気になってるんだけど」
「あ、全然大丈夫だよ。夜泣きも落ち着いてきたし。
それに姉ちゃん妊娠させた子も、その子のお母さんもよく来てくれるしね。
……顔合わすのは、まだなんかちょっと気まずいけど」
「……ご愁傷様。……うん、とにかく大丈夫なら、よかった。
でも、いざとなったらすぐ呼んでよ」
彼らの友好の縁が始まったのは、ミトが幼稚園に入ったばかりの頃、同じ組となったハミと仲良くなり付き合いが増えたことで、自然にその弟であるサキとも遊ぶようになったことからだった。
その縁は現在に至るまで姉ともども切れることがなく、親友と呼んで差し支えないぐらいに、太く長いものとなっている。
そんな彼の性格は、真面目で従順。奔放で自由な姉に振り回されてきた結果である。
その性格が、女になりたてだったミトが担当する年少の男子として真っ先に名が挙がるぐらいに好適であったからこそ、こうしてミトの性教育の対象として宛がわれていた。
「あ、そうそう兄ちゃん。夏休みさ、いつもの5人で海行こうよ。
ランとコウが騒いでてさ。ノアも行きたいって言ってたんだ」
「お、いいな、今年最悪なことにプールの授業ないし。
……となると水着、新しいの買わないとなー」
「スク水じゃダメなの?」
「ダメ。可愛くないし」
「…………ふーん」
取り留めのない雑多な話題による会話が生み出す、彼らにとって普段通りの、日常と変わらない気安い空気が室内に満ちていた。
今しがた行われた場所とは思えない程に、今この場所は互いのパーソナルスペースを共有した、肩の力を抜くことができる和やかで、穏やかな空間だった。
そんな中、ふとミトが発した投げかけが、波乱を呼ぶこととなる。
「ところでサキ。教えてほしいことあるんだけど」
「なに?…………あ、ごめん。教えないっ」
「まだなんも言ってないけど!」
「どうせ精通のことでしょ!だから、それ言えないんだって!みんなとの約束なの!」
「何でそんな隠すんだよ!恥ずかしくないって!精通したときのことぐらい!」
「する前に女の子になった兄ちゃんには分かんないから!」
異性間での艶のあるようなものではない、年頃の少年達の、無遠慮で下種なノリでの猥談が始まった。
といっても、殆ど押し問答のようなもので、猥談の体は成していない。
「だから、根掘り葉掘り知りたいんじゃなくて。起きたらとか、まあ、一人でしてたらとか。
軽くでいいんだよ。それにほら、係としてさ、知っとかないといけないんだよ。
とりあえずサキの分だけでいいから、ね?」
「ダメ」
「えー?……こういうのってさ、もうちょっとゲラゲラ話すようなもんじゃないの?」
「それ姉ちゃん限定というか、女の子だけだと思うよ……」
「そうかぁ?」
サキの連れない消極的な態度に、ミトは口を尖らせる。
何かしら深刻な理由があるなら、ここまでは尋ねようとはしない。
性教育係として、という理由も、精通していることさえ分かれば経緯を知る必要は特にない。
しかし、こうも大袈裟に反応して誤魔化すものだから、ミトは知りたくて仕方なかった。
「ちょっとぐらい教えてくれたっていいじゃん。
みんなさ、オレが関係ないとこで大人の階段登ってんの。置いてきぼりだよ」
「…………そういうわけじゃない、けど」
「え?」
「……っと、とにかく。いつか、いつか話すから、これ以上はどうか許して」
「むー……」
不満を隠さない、不貞腐れた調子でいじけるミト。
しかし、わかった、と突き付けていた追求の矛を収め、それっきりにした。
「……それにしたって、みんな一気に精通するなんてさ、不思議だ。
それで、てっきり実習するの2学期からかなって思ってたんだけど。
まさか夏休み前に捻じ込まれるとはなー……」
「……そう、だね」
6月の性教育を終えて10日ほど経ったある日。担任から自身が受け持つランタを除いた全員が精通したという衝撃の事実を聞かされた。
精通及び初潮が来た場合、学校側にはいの一番に報告する義務がある為に、ちょうどよくいつもの面々で集まったり、個々人で話す機会がなかったミトは事後報告となった。
それを受けていよいよ自分も本番かとミトは危惧していたが、しかし流石にまだ目覚めたばかりなのだから、少なくとも7月と夏休みである8月の、2か月ほどの猶予はあるだろうと高をくくっていたら、虚を突かれる形となった。
心の準備が整っていない上に、それに偶然とはいえ、推定排卵日と被るのは、どうもツイてない。
ミトは空いていた手を、何となく下腹部に当てて、遠くを見つめた。
「…………兄ちゃん」
嵐が過ぎゆき、穏やかさが戻った彼女ら2人だけの雰囲気の最中。
かつての間の抜けた自分に思いを馳せていたミトは、真剣な声色のサキに、現実へと引き戻される。
彼の顔を見れば、声色と同じ顔色で、一体どうしたのかと、ミトは戸惑う。
「……どうした?」
「…………」
太ももに置かれたサキの両の手は、固く握られていた。
彼の決意を、表すように。
そうして、一文字に結ばれていたサキの口から、気負った声が溢れた。
「……今日の実習。痛い思いや、嫌な思いを兄ちゃんがしないように。
絶対、絶対優しくする。大事にするから。みんなにも、絶対そうさせるから」
「え。う、うん……」
その気遣いは、嬉しくあった。
けれど、どうしてそこまで頑ななのか、強情なのか。
ミトには、分からなかった。
「なんで、そんなに……?」
サキは、そのミトの疑問に対して、ぽつりと呟いた。
先ほどまでの強硬的な意思表明とは正反対の、臆病で弱気なように。
「……そんなのさ。兄ちゃんのこと、……大好き、だからだよ」
「……もしかして、ハミに散々言われたの、気にしてる?
あいつだって、そこまで思い詰めて欲しかったわけじゃないと……」
真に迫っていた表情を、一瞬曇らせて。
されど敬愛する兄に悟られぬよう、顔を伏せたサキは否定の言を叫ぶ。
「そうじゃない!…………そうじゃ、ないよっ」
「っ…………」
「姉ちゃんに言われなくたってっ!俺は、兄ちゃんのこと────」
それ以上の言説を遮るように。
ミトの手が、サキの頭へと置かれた。
勢いをそがれた、サキは大人しく、ミトの言葉を待つ。
「…………ありがとな、サキ。そうやって気遣ってくれるの、嬉しい。
ほんとにお前は、優しいな」
でもね、とミトは付け加える。
「…………1番大事なのは、オレより、お前たちの方なんだから。
そんな、気負わずにさ。気楽で、いいんだよ?」
泣いたとき。悩めるとき。困っているとき。
彼がそうであったとき、彼女はいつも変わらず、頭を撫でて道を示し、彼に応えてきた。
そして今度は、不必要に背負って、抱え込んだ肩の荷を下ろしてあげようとして、ミトはサキの頭を、按摩していた。
「……っ……」
今まで積み上げてきた、維持されてきた関係性の発露。
そしてそれ故のすれ違いに、サキは何かを言いたそうにして。
しかし口ごもって、取りやめた。
自分への嫌悪、後悔、罵倒。
声に乗ることなく飲み込まれた、負の感情に満ちたそれが、ミトに伝わることはもうない。
水面に生じた波紋のように広がる静寂。聞こえるのは、さらさらと手が髪をくすぐる音だけ。
その静けさが会話の終わりで、そして次の段階に進む、切っ掛けとなった。
「…………ミト兄ちゃん」
不意に、恥じらいが乗った声で、名を呼ばれた。
ミトは、手での按摩を打ち切って。
直接的に言い出すことが出来ない、繊細な男の子心を彼女は汲んだ。
「……うん、おいで」
各々好きな姿勢で座り込んでいた状態から、互いに膝立ちになって、身を寄せ合う。
これから行われるのは、念のための確認だ。
精通の申告通り、達することで実際に射精ができるか、という。
それと、いざ本番に至って、実感を持って性を学ぶ前に、たまらずに射精してしまい与えられた性交実習の時間を無為にしないように、と。
1度出させることで行為時の猶予、余裕を確保するという副次的な目的も兼ねていた。
「サキ。手、繋ご」
所在なさげにしていたサキの手をミトは掬い上げると、互いの指を絡めて、誰も挟まる余地のないぐらいに、隙間なく繋ぎ合う。
最初はどうしても気まずいものがあったが、今となっては、慣れたもので。
そうして、生まれたばかりの繋がりをぎゅっと、固くして、互いの手の感触に感じ入れば。
純粋な思いの丈が、示し合わしたかのように、2人の口から漏れ出た。
「……兄ちゃんの手、前は硬かったのにさ。
今はこんなに、柔らかくて、細くて……」
「……サキの手、前より大きくなってる。
もう、抜かれちゃうかも」
「…………」
手を通して、じんわりと伝わって、侵していって。
同じになっていく体温、感情、思考。
その手繋ぎは快活に、友人としての親交を示し合う交流の一環ではなく。
しっとりと情感を込めて、互いの愛情を示し合う、睦ごとのそれだった。
前に乗り出すように、ミトはサキへ顔を近づける。
彼はゆっくりと、目を瞑った。
物欲しそうに、ほんのりと突き出しているサキの唇へ。
ミトは静かに、自分の唇を、重ねた。
────ちゅっ。
「んっ…………」
粘膜同士が触れ合って、色気のあるリップ音が鳴って。
ミトの閉じ切った口から、悩ましい息が漏れる。
サキが覚えるのは、熟れた葡萄のような、ふっくらと張りのある感触。
薄皮1枚の下に通う、血流の温もり。
そして彼女の血色の良い薔薇色の唇は、こんなにも官能的なのか、と。
一瞬離れたかと思えば、また彼女の雌しべが、彼の雄しべに触れ合う。
啄ばむように、時には一瞬食むようにしての、浅いキスの繰り返し。
────ちゅ、ちゅう。
その都度舞い上がって香る、ミトの肌の匂いを、サキは鼻腔いっぱいに取り込む。
カスタードのように甘くて、濃密で、たまらなくなる匂いは、鼻腔を焼いて、脳へと届いて。
はっきりとあった意識を、夏場のアイスクリームのように、とろとろと溶かしていく。
誰の目にもつかぬように閉ざされて、隠された2人だけの、薄暗い教室の中での秘め事。
「ふっ、ん、はっ、は……っ」
いつの間にかサキは、接吻の熱にやられて高まった興奮に、息を切らせていた。
そんな彼の様子に、ミトは艶然と微笑む。
「……キス、ほんと好きだね。サキ」
「はっ、はっ、……兄ちゃんっ、もっと……っ」
彼女のからかうような、慈しむような言葉を受けたサキは、物欲しさに、物足りなさに、口を疼かせて。
甘える子犬のような目で、彼女に乞う。
同学年の誰にも見せられない、必死に性を求めるその姿をここまでさらけ出せるのは。
どんな自分でも受け入れてくれる兄の優しさを、ずっと昔から知っているから。
そしてそれに、卑しくも甘えているからだった。
「ん、……いいよ」
「…………っ!」
ぺろり、とミトの赤い舌が彼女の唇を拭った。
その何気ない所作に、ぞくりと、サキの背筋に甘い痺れが走って、目が離せなくなる。
その熱視線の向かう先は、ぬらぬらと照りつくような艶を帯びる、ミトの口先だ。
朝露に濡れた花弁を彷彿とさせるそれは、工芸品のような美しさと、年不相応のエロティックさが同居していて。
もっと汚したい、ぐちゃぐちゃにしたい、自分のものにしたい。
そんな赤黒い欲望が募って、どうにも辛抱が出来なくて、耐えられなくなって。
「────にい、ちゃんっ!」
「んぐっ!?ふっ、んむっ……ん……」
サキは余裕なく、はしたなく、彼女の唇を乱暴に奪った。
強引で突然の接吻にミトは体を強張らせたが、立ちどころに脱力して、サキを受け入れる。
さっきより強く押し付けられ、ぺったりと張り付いたミトの閉じられた唇を、くちゅり、とサキの舌が割って、湿った吐息を伴って、彼女の口の中へと入り込んだ。
もっと。その懇願通りに、ほんの数瞬前の、少年少女たちがする、年相応の甘酸っぱく、夢想に溢れた可愛らしいキスではなくなっていく。
それは、ねちっこく、情欲に塗れた、ディープキス。
背伸びではない、ありのままの雄と雌の、口と口での交尾。
互いを互いで満たして、ぐずぐずに溶かしあう前戯。
「ぷぁ、ん、んっ……ちゅ……れろ……」
女の子の大事な器官を侵すや否や、一直線にミトの舌を目指したサキのそれは、突き出されようとして彼女の小さな持ち上げて、持ち込んだ唾液たっぷりに絡まって、擦りあう。
口内で水音が反響して、こぼれていく。
続けられるように。繋がっていられるように。
ミトは酸素を求める肺に応じて、鼻で深く息を取り込んでは吐く。
そうすると、口元から垂れた涎の甘ったるい臭いが鼻をついた。
映像や知識だけでは知りようのない、生々しい、情事のときに覚える臭い。
(今日、激しい……)
舐め合うだけの蛞蝓の交合では足りないのか、サキはミトの舌を貪るように吸う。
体の力が抜けていく感覚にたまらなくなって、その舌を逃がそうとしたら、それを追って逃げ場をなくすように蹂躙する。
唇を、舌を、口内をサキのそれで嬲られれば、嬲られるほどに。
ミトの体の内の火照りが強くなっていって。
「ちゅぁ、ふっむ、ん、ちゅうう…………」
愛欲にほだされて目尻が下がっていく。
口づけの快楽に虹彩が曇っていく。
興奮に瞳を潤ませていく。
ずっとこのまま、していたくなると、ミトは思う。いつもは、そうじゃないのに、とも。
けれど今日は、そんな気分だった。
体が、頭が、求めていた。
(……でも)
ただ、しかし。
理性とサキの性教育係として預かった責任が、もう十分だから次に進めとミトを促す。
それには、サキの承認が必要であり、流れを十二分に理解してくれている平時のサキならば、すぐに応えてくれるだろう。
(……ぁ、はなして、くんない……)
けれど、今の彼には、そんな気は毛頭ないようで。
一旦止めよう、と声で訴えようとしても、舌を絡めとられて口を塞がれたままでは、満足に言葉も作れず、くぐもった呻き声に変わるだけ。
ならば手で制止しようと、結んだ手を強引にでも剝がそうとしても、離したくないと言わんばかりにサキが込める力にはミトの弱くなったそれでは敵わず、彼我の力の差。
────性の差異を、まざまざと誇示されるだけ。
(だめ、だよ。サキ……)
もし、このまま強引に、乱暴にされたとしても、何も抵抗ができない。
自分の無力さをぼんやりとする意識の中で呪いながら、ミトは加えていた力を抜いて、どうにか伝わってくれ、と祈って。
口づけの尾を引く快楽に、身を任せていた。
そうして、濃密な蜜月に溺れていたサキだったが、ふとミトの様子が変わったことを感じ取る。
遅々として連続する思考を働かせて、その様子の真意を察すると共に、慌てて顔を後ろへと引いて、手と手の繋がりを解いた。
どちらともつかない唾液が、橋を作って崩れて、マットレスに滴り落ちる。
大きく息をして、サキは頭を下げた。
「……ごめん、兄ちゃんっ!ごめん……」
「ふぅ、ふ……ぅうん。こっちこそ、ごめんね」
「そんな……ひゃ!」
悔恨に苛まれようとしていたサキは、鈍い快感がやってきたことで、それは彼方に消えた。
サキの猛りは、苦しそうにズボンを突っ張らせていた、隆起していた。
その辛そうな容態を見かねたミトはすりすり、といじらしく人差し指でなぞったからだ。
「……ここ、辛そうだった、から。
してあげなきゃ、って思って……」
「ぁ、っく……」
「…………脱がすね」
腰に止められたベルトを外すと、突っ張ったその股間の形にぶつからないよう、膨らませるようにしてパンツもろともズボンを下ろし。
サキの性欲の塊を、己の目前へとさらけ出させた。
「あっ……」
「っ…………!」
ぶるん、としなって飛び出した、サキの陰茎。
年相応の大きさのそれは、脱がしやすいようにと彼が自身のシャツをたくしあげたことで、外気に晒された彼の下腹部にくっつく程に、固く反り上がっていて。
じんじんと興奮で腫れ上がった亀頭の中ほどまでが包皮に包まれており、外へ露出した先端の周りは濡れて、鈴口には興奮の表れである、粘り気を帯びた水玉がぷくりと浮かび上がっている。
そして浅いカリ首より下の、太い血管が巡った竿の根元には、ほんのりと産毛のような陰毛が生えていた。
(もう、大人なんだ。サキの……)
前回の性教育時には、毛のかけらもなかったというのに。
姉譲り、いや親譲りというべきか。
サキは第二次性徴を迎えるのが、早いようだった。
「サキ。ゴム、着けなきゃだから。
…………剥く、ね」
「ぃ、は……うぅ……」
親指と人差し指の2本で柔くつまむと、包皮をゆっくり根元に向かって下ろしていく。
抵抗なく、引っ掛かりなく竿の段差まで剥き終えたなら。
くすみのない粘膜特有の桃色をした、血が集まって大きく膨れた亀頭が全部、剥き出しになった。
「……ふっ、ふー……っ」
サキがより一層呼吸を荒くする。
いくら親しき仲だといえ、まだ未成熟で汚れの溜まりやすい、分かりやすい部分を見せるのは、面から火が出る程に、緊張と羞恥の念が強まったからだ。
とはいえ亀頭全体にも、カリ首にも恥垢は見当たらず、今回も変わらなく、綺麗にしていることが分かった。
そしてミトはその勢いのまま、重力に従って垂れ下がる、サキの陰嚢に触れた。
(あ、……すご。いっぱい我慢、してたんだ)
性教育係の仕事として精通を促す為、これに触れたことは何度もある。
その何れも、白玉のようなすべすべと柔らかい感触を与えてくるだけだったが。今触れているそれは、ずっしりとミトの手のひらに乗っかって、その袋の中に詰まった液体の重さを伝えてくる。
今日の為に、自分の中へ吐き出すために、いっぱい作られた精子が、どっぷりと貯め込まれていることをありありと、ミトへと教えつけていた。
(なんでこんな、……ドキドキ、してるんだろ)
心臓が弾んで、頬が赤くなって。
下腹部がきゅぅとなる。
一体どうしてか、分からない。
1時間目の焼き直しのように、体調も、情態も、自分の思い通りにならない。
もやもやとする。けれど、それでいいとも思えてくる。
「うっ、んぅ、兄ちゃんっ、くすぐっ、たいっ、からっ」
「っあ、……ごめん、ごめん」
物思いに耽る中、知らず知らずの内に陰嚢を転がすように、揉みしだいていて。
恥ずかしさと、もどかしさに耐えかねたサキが、嬌声交じりに抗議されて、ミトは猛省する。
「……じゃあ、着けるよ」
箱から取り出したコンドームの包装を破って、コンドームの先端、精液溜まりを抑えると、我慢汁を裏筋へと垂らしている鈴口へと宛がった。
サキは股座にやってきたまだ慣れない異物感で、腰が勝手にくねろうとするのを必死で制止する。
伸縮するそれをくるくると、根元まで転がして。
サキの男の子の部分を全て収めると、ぱちんと指で掴んでいたゴムの口を離した。
「サキ、痛くない?苦しく、ない?」
「っうん、平気」
カーテン越しに薄く差し込んだ日を反射させて、テラテラと鈍く輝く半透明のピンクの鞘が、ぴっちりとサキのペニスに張り付いて、包み込んでいた。
些か下品な色合いのそれは、まだ幼くある彼のペニスを大人の物に変えていて。
卑猥で、雄雄しく、立派な印象をミトに覚えさせる。
(……今日、入れられちゃうんだ、これ)
行為の情景を想像する。
あいにくと自分の姿は思い浮かばなかったが、向かい合うサキの姿は、何となく浮かんでいた。
玉のような汗を浮かべ、可愛らしい顔を今以上にふやけさせて。
自分を求めてくる、獣同然の、男の子の姿。
「……手で、するね。サキ」
「……お願い、兄ちゃん……っ」
「ん、……わかった」
ミトはローションの蓋を開けると、自分の右手の内に垂して、徐に握り拳を作る。
ぐちゅぐちゅと粘液が弾けて潰れる音を大きくさせながら、潤滑液を広げていく。
幾重にも糸が伸びて、ねとつくそれで、サキの男根を包むように握ると、それはミトの手にすぐに馴染んだ。ラテックスの鞘越しにでも、脈打ち震えている、熱い、熱い肉棒。
肌に焼け付いて、くっついてしまいそうだった。
「出そうになったら、言ってよ。……じゃあ」
それを皮切りに、ミトは手淫を開始した。
しこ、しこ、と女になりたての頃は、まだたどたどしくあったミトによる手淫は、男だった頃に覚えていた感覚と、幾度の体験と勉強によって、今ではもう慣れたものになっていた。
根元から先端まで、ミトの手がやんわりとサキの肉棒を握り込みながら、往復する。
コンドームで保護されているとはいえ、剥き出しの男性器は敏感で繊細である為、指の腹でゴム越しのサキの形を覚えながら、傷つけないよう、ねっとりと。
「はっ、はっ、うっあ……」
手で摩擦されている。ただそれだけのことなのに、脳をしたたかに打ちのめし、腰が砕けそうになるほどの暴力的な快感がサキを襲い、声が出てしまう。
反射的にその高まりを逃そうと、無意識の内にサキの腰が引けそうになるが、彼女の手は離れない、放さない。
背中に手を回し、逃げられないようにして、献身的に、射精に向かうまでの介助をする。
「……気持ち、いい?」
「ふぇ、あっ、う、くっ」
ミトは反応を伺うために、顔を見上げて、サキの顔を見つめた。
快楽を享受して弛緩していた、キスのときとは異なる表情。
気持ちよさに必死に堪えて、耐えている緊張したそれ。
(…………ほんと、ごめんね)
仕方ないことだとは言え、面倒を見てきた弟分を性的に満たすというのは、後ろめたくある。
ただそれ故に、背徳感と罪悪感が入り混じった快感が、くすぐるように背筋を駆け上って。
もっと、してあげたくなる。もっと、見たくなる。
「サキこれ、どう……?」
「あっあっ、く、ぅぅ……っ!」
くるりくるり、と筒のようにした手を回して、指の腹が当たる場所を変えながら、無作為に緩急をつけながら前後する。根元まで一気に達したり、逆に戻るときはじっくりと牛歩の歩みで嬲ったり。
覚えたてで、持て余して発散したくて仕方がない性欲を我慢し続けたサキにはその性技は劇薬で。
すぐさまに、射精感が込み上げてくる。
「これ、ダメっ、兄ちゃんっ!もう、出そう……っ!」
吐息を多分に漏らして、心の底から絞り出した切実な声。
びくびくと、亀頭をひくつかせて。
今までと同じように、カウパー液を出して終わりではない。
ウェットオーガズムを伴って、雄の本懐が、果たされる。
「出して、出してっ、サキっ、んっ────」
過熱がピークに達した淫猥な空気に当てられて、ミトは彼の口に深く唇で吸い付く。
抵抗などできよう筈もなく、されるがままに、口の中を愛撫される。
サキは上からも、下からもやってくる腰が抜けそうな快感に、前後不覚になって。
ミトは無心で、夢中で、登りつめさせようとして。
はたして、その瞬間はやってきた。
「んぶっ、んんっ────!」
────どぷっ♡びゅく♡びゅくっ♡
(わっ、わ…………)
初めて見る、感じる、射精にミトは夢中になる。
腰の奥から押し出された精液が、精液溜まりを勢いよく膨らませていく。
体温より少し高い絶頂の奔流を、受け止めるようにして手の平いっぱいに感じ取っていく。
固形のような少し黄ばんだ白濁液には、サキの遺伝子が詰まっているのだと、ミトは知っている。
(こんな勢いで、出るんだ。
……出され、ちゃうんだ)
知識として、知っていても、体験で得るそれとは別物で。
今見ているものは、どうしようもなく、生々しくあった。
否が応でも、自分の中に注ぎ込まれる妄想が頭をよぎる。
体験したことがない為、ぼんやりと、朧げな妄想を。
ミトの手の中で暴れたそれは、5秒ほど、吐精し続けて。
何度か腰を震わせて、ようやくに、止まった。
「はぁ、はぁ、兄ちゃん。もう、出ない、から……」
「……ん、そっか。じゃあ、残ってないか。確認する、ね」
「え、……んんっ……ぁあ!」
精子が尿道に引っ掛かることのないように、排尿時に混ざることのないように。
サキのまだ熱い芯が通った剛直をなだめつけて、ゆったりと扱きあげる。
最初は鈴口から残った精子が飛び出していたが、いよいよ1滴も出なくなったと認識したミトは、何も付着していない左手でコンドームの口を持って、サキの陰茎から外す。
すると、精液の重さに負けて、サキの形の使用済みゴムが地面に首を垂れた。
「いっぱい、出たね」
「ぅ…………っ」
自分が吐精した証をミトにしげしげと見られているのがよほど恥ずかしいのか、サキは紅潮していた顔を背ける。
そんな弟の姿に苦笑したそのとき。
断ち切るようにチャイムが鳴った。
「ぇ、はや……」
「やばいっ。着替えないとっ」
鐘に急かされいそいそと、ティッシュで自分の分身を拭って、ズボンに押し込んで。
乱れていたシャツをぴしっとさせて、サキは手早く帰り支度を整えた。
マットレスから立ち上がろうとする前に、彼は名残惜しさを胸に秘めて、ミトを見据えた。
「5時間目でね、……兄ちゃん」
「……うん。待ってるから、サキ」
「……最後に、いい?」
「え?あっ、…………うん」
ミトは、目を閉じた。サキも、そうした。
そして、正面から重なり合う2人の口吻。
始まりを告げたキスは今、終わりのそれとなって。
一旦の、彼らの別れのしるしとなった。
*
ミトに見送られ、後ろ手の扉をガチャリ、と施錠して。
抜け出た廊下のサキでぽつねんと、1人になったサキ。
「…………俺一人じゃ、ダメだ。
みんなで言わないと。みんなが、いないと……」
自分のふがいなさを憎んで。暗澹たる思いを吐き出して。
けれど、正面を見据え、彼は駆け出した。
彼女への純真な思いを秘めた胸を、掻き抱いたまま。
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