「ふーっ。やっと戻ってこれたわ。みんなドリンク持ってき……た……」
戻ってきたヒデは部屋の様子を見て固まった。ドアを半開きのままこちらの様子をジロジロと伺うヒデ。
「い、一体何が起こったんだ?」
ヒデはまるで嵐にあったかのような部屋の惨状に口をパクパクさせながら、なんとか言葉を放った。
テーブルは横に大きくずらされ荷物もめちゃくちゃ、おまけに何故かサザンが部屋の真ん中で仰向けに倒れている。
当の被害者のサザンはというと、白目を剥いて口からは涎を垂らしながら「Jkの足コキ最高」と呟いてるのだ。
普通じゃない何かが起こったのは間違いない。恐る恐るといった感じでヒデは部屋の隅っこにいるこちらを見てきた。
「ちょ、ちょっとこれには訳があるんだ。取り敢えず聞いてくれ」
俺は窮地に一生を得たとばかりにヒデに肉薄していく。これは梓ちゃんから逃げるチャンスだ。
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「はー……なるほど。サザンが調子に乗って梓ちゃんにセクハラ発言をして、返り討ちに電気按摩をくらったと。まあサザンらしいと言えばらしいな」
俺と次藤くんの説明でようやく事態を理解したヒデは腕を組んで頷いた。
俺と次藤くんはエロい雰囲気を霧散できたことに安堵しつつコクコクと何度も頷く。
「そうなんだタイ。サザンのやつ僕が梓ちゃんとダイエットトークをしてるだけでキレてきたんだタイ。まったく困った奴タイ」
「そうそう。梓ちゃんは軽くお仕置きをしただけ。な? 梓ちゃん」
俺はそばで見ていた梓ちゃんに続きを促す。
「そうっすよ。まあちょっとやりすぎた感はありますが、まさかこんなに効果があるなんてね~。男の人って面白いな~」
梓ちゃんは笑みを浮かべつつ言う。いや、絶対分かっててやっただろ。
「よし、取り敢えず喧嘩とかじゃないんだな? は~良かったよ、最初の遊びでいきなり仲違いは勘弁して欲しいからな」
そう言うと俺達の解説で納得がいったヒデは持ってきた水を手にサザンに近づいた。
未だに伸びたままのサザンは仰向けで幸せそうな寝顔をしていた。先程までうわ言を言っていたのに今はぐーすかと眠り込んでしまっている。
まったく、俺と次藤くんがさっきまでヒデに説明するのに苦労してたってのにこいつは!。
「ほら、起きろサザン! こんな所でいつまでも寝てんじゃねー」
ヒデは手にしていた水を容赦なくサザンの顔に浴びせかけた。
「ぶはあっ! なっ何だぁ?」
水をかけられたサザンは目をパチクリさせ、上半身を起こし周りをキョロキョロしはじめた。
やがて俺達四人に囲われてるのに気づくとあわてて飛び起きる。
「お、起きたみたいだな。まったくこんな所でぐーすか寝むりやがって」
ヒデは手にしていた空になったコップをテーブルに戻すとサザンが立ち上がるのを手伝ってやった。
「本当にだらしない奴タイ。ほら、これでも使うタイ」
そう言って次藤くんはテーブルにあったおしぼりをサザンに向かって無造作に放り投げた。
「な、なあ。俺何でこんな所で寝てたんだ? ぜんぜん記憶が無いんだが、皆何か知ってる?」
渡されたおしぼりで顔をふきつつサザンは怪訝な表情を見せた。
「もうサザン先輩。忘れちゃったんすか? あずとあんなに楽しく遊んだのに」
サザンに近づきながら言う梓ちゃん。記憶がないはずのサザンは先程の恐怖からか、彼女の動きに合わせて無意識のうちに後ろに後ずさっていた。
「いや、マジで覚えてない。何かで遊んだのか?」
なお訝しんだ顔で唸るサザンに対して梓ちゃんはニッコリと笑いながら片足を上げてみせた。
「ほら、この足で遊んだじゃないっすか~。こうやってドドドドッって感じで。あの時の変態のサザン先輩の喘ぎっぷりときたらマジで面白かったっすよ」
上げた足をマシンガンのように蹴り込む動作をする梓ちゃん。それを見たサザンはみるみると顔を青ざめさせ、股間を片手でキュッと抱きしめた。
「そ、そうだ。俺、梓ちゃんと次藤くんに苛ついて喧嘩売って……その後……うわあああああああっ!!」
ガクガクと膝を震わせた後、サザンは勢いよく扉を開けカラオケルームから飛び出していった。
呆気にとられたヒデは呆然とサザンが出ていった扉を見つめながら言った。
「な、何なんだ本当に」
それから暫くして......。
俺たちは端に寄せていたテーブルを元に戻し、散乱していた荷物を片付け改めて乾杯をした。
「「かんぱ〜い!!」」
みんなそれぞれのドリンクを手にし、部屋の中央でグラスをカチンと鳴らす。
「ごくごく、プハーァ!!。やっぱり炭酸は良いタイね。五臓六腑に染み渡るタイ」
次藤くんはメロンソーダをがぶ飲みしつつ吐き出すように言った。
ついでにヒデも自分のジュースに口を付ける。
「俺も炭酸が一番好きだな。このシュワシュワ感が疲れた心を癒してくれるんだ」
まるでビールを飲んだ後のおっさんみたいな事を言うヒデ。ソファーに寄りかかりゲップをする様はまさに仕事帰りのサラリーマンだった。
「スーッ。......香りは駄目、味は......ズズ。うーんエグ味が酷いな、まあカラオケ店のコーヒーなんてこんなもんか」
「なにおっさんみたいなことを言ってるんだよ大。そもそもカラオケ店にそこまでのレベルを求めるなよ」
いつも家で淹れているコーヒーの味を思い出しながら俺が言っていると、横からヒデがツッコミを入れてきた。
おっさんとは失礼な。俺はただこの店のコーヒーをテイスティングをしていただけだ。
「先輩はいつも家でこんな事ばっかりしてますからね〜。正直コーヒー飲んでる時の顔はオヤジ臭いっすよ?」
梓ちゃんは眉を顰めてそんな事を言って来た。おいおい、ここには俺の味方は居ないのか?
そもそもなんだよオヤジ臭いって。普通にコーヒーを飲んでいるだけだぞこっちは。
「あ、!そういえば梓ちゃんコップの水が無いじゃないか!」
ふとヒデがそんな事を言ってくる。
隣の彼女を見てみると確かにコップの中の水が無い。
「あ、本当だ」
梓ちゃんはコップを逆さまにしたりして不思議そうにしていた。
「あ、ていうかさっきヒデ先輩がサザン先輩にぶっかけたんじゃないっすか! もうまた取ってこないと……」
プンスカとお怒りになった梓ちゃんはそう言うと席を立った。
「いや、だったら俺が行くよ。俺がやっちまったんだし。悪い、すぐ行ってくるからみんなで先に歌っててくれ」
そう言うとヒデはささっと立ち上がり梓ちゃんのコップを受け取ろうとするが……。
梓ちゃんはコップを差し出した状態で固まってしまった。
「どうしたんだい?」
ヒデは不思議そうに彼女を見る。俺も何事かと梓ちゃんの表情を窺った。
「いえ、やっぱりあずが行きますよ。何度もヒデ先輩に行かせるのもなんだし。じゃあ先輩そういうことで行ってきますね」
何か考え事をしていたような表情で彼女は自分のコップを手に部屋を出て行ってしまった。
その後、彼女が出て行った扉を暫く俺たちは眺めていた。
「別に遠慮しなくてよかったのにな。まあ、彼女が気を遣ってくれるならこちらはそれに甘えようか」
ヒデはそう言うと自分の歌を入力しだした。
しかし俺は考えてしまう。あの表情、本当になにも無いのだろうか? また梓ちゃんが何かを企んでいる気がして、俺は胸がザワザワした。