梓side
「やばいやばい! 忘れるところだった!」
私は急いでとある場所へと向かっていた。
実は今日の為に私はある準備をしていたのだ。せっかくここまで上手く行ったのに危なく失敗するところだった。
「こんにちは〜。えみりん居ますか?」
「お、梓ちゃん。いま恵美子は休憩中だよ。用があるなら呼ぼうか?」
受付には若い男の店員が一人だけ立っていた。確か名前は……加藤だったっけ? まあ先輩以外の男の名前なんてどうでも良いけど。
私は作り笑いをしつつさっさとえみりんを呼んでもらう事にした。
「出来るだけ早くお願いします、彼氏を待たせてるんで」
「お、おう。じゃあ今呼んでくるよ」
私のそっけない態度に何かを感じたのか、たじろぎつつ加藤さんはそう言うと足早にカウンター奥へと走って行った。
そうして待つこと数分、えみりんがパタパタと奥から走ってきた。
「お待たせ〜」
そう言って軽い感じでえみりんこと恵美子がやって来た。この子は沖縄からこっちに来てからの友人で、こうして偶にカラオケ店に通わせてもらってはよく話すんだよね。
お互いギャルだしコスメ好きだしで結構趣味も合う子だ。
そう、実を言うと今日はえみりんにしか出来ないことをお願いするためにこの場所をセッティングしたのだ。
先輩たちは誰も気づいてないだろうな。まさか私が計画的にここを選んだなんて……。
思わず笑みが溢れてしまう。なんか今日はずっと笑いっぱなしな気がするな〜。
「どうしたの梓? 何だか今日キモいよ? 変なクスリでもやってんじゃないよね?」
唐突に私の顔をみてえみりんが失礼なことを言い出した。はあ? クスリだって?。
「んなわけ無いっしょ。今日呼んだのは例の物を作って欲しいからだよ。……実は今日彼氏とその友達と一緒に来てるんだ」
私はこっそりとえみりんにだけ聞こえるように耳の近くで言った。するとえみりんは私の言っていることの意味を理解したらしく、制服の袖をグイッと捲りだす。
「そうか、とうとうこの日が来たんだね。分かった、急いで例のものを作ってあげる。後ちょっとだけ待っててね」
えみりんは気合い1発、自分の頬を叩くと勢いよくカウンター奥へと消えていった。
さらに待つこと数分、えみりんが例の物をトレイに乗せてやって来た。
「お待たせ! 注文通り例の物を作って来たよ。あ、言っておくけど間違っても一気飲みなんてするんじゃ無いよ梓。これ結構強いんだからね」
私に例の物を渡しつつえみりんは忠告して来た。
「大丈夫だって。それよりちゃんとバレないようにしてくれた? まあ見た目はただのジュースだからそこは安心できるんだけどさ」
「梓用に甘ーく作ったからその点は大丈夫。匂いも甘ったるいし絶対にバレないよ」
確かに、こうして間近で匂いを嗅いでも美味しそうな匂いしかしない。
「ありがとうえみりん! 今日はこれで上手くいける気がする。今度またパフェ奢るね!!」
私は一通り例のブツを確かめると彼女にお礼を言い、すぐにカラオケルームへと戻っていった。
大side
「俺の心ぉおおおお。感じておくれぇええええ〜」
梓ちゃんが出て行ってから約10分。現在、次藤くんは演歌を歌っていた。
「相変わらず次藤くんは熱演だな。見た目だけなら本物の演歌歌手になれそうだ」
コーラを片手にヒデはそう感想を漏らした。実際彼は拳を所々振りリズムを取っていたりサビの部分でキメ顔を決めたりと、本物さながらの見た目で歌っていた。
そう、見た目だけは一流なんだ彼は。服装を和服にすればプロと遜色がないくらいには。
「しかし肝心の歌がこれじゃあな。大、お前からも言ってやれよ。音痴過ぎるって」
「前に言ったよ。そうしたらそれはお前らが演歌の良さを理解できないだけタイって返されたさ」
「はぁー。まあ次藤くんらしいっちゃらしいが自分が音痴だと知らずに歌い続けるほど滑稽なことはないぞ」
ヒデは諦めたのかコーラの残りをグビっと飲むと次の曲を入れ出した。
「どうも遅れました」
ちょうどその時梓ちゃんがドリンク片手に戻ってきた。
彼女の手にはオレンジ色のジュースがあり、水滴がついていて非常に美味しそうだ。
「大丈夫だよまだ始まったばかりだから、それより足元危ないから気を付けて」
俺はジュースを持ったままこちらに来る彼女を心配して足元の荷物を退かした。
「ありがとうございます先輩。ふぅ」
彼女はソファーに座るなりため息を吐いた。向こうで疲れることでもしたのだろうか?。
見た感じはいつも通りなんだけどな。まああれこれ聞くのも野暮だし気にしないでおこう。
「ねえ先輩。次藤先輩っていつもこうなんですか? あず初めてあの人の歌を聞きましたけど、その、なんと言うか……」
梓ちゃんは言いづらそうに言葉を濁しつつ俺に聞いてきた。当然の質問だろう、あの自信満々の歌いっぷりからは想像もできないくらい彼は音痴なのだから。
「うん、言いたいことはわかる。これでも以前から音痴だと彼に言ってるんだけどね、ガンとして認めないんだ。よほど自分の音程に自信があるみたいでさ」
俺は頭を掻きつつそう言うしかなかった。
「ふーむ。いっそ今日中に白黒つけちゃうってのはどうです?」
梓ちゃんは腕を組みながら俺に尋ねた。
「白黒って……どうするんだい? ただの点数勝負じゃ彼は折れないぞ。なんたってその点数すら機械のせいにするからな」
そう、彼の頑固さは筋金入りで自分の歌の評価に対するマイナスポイントは全て無効化してしまう。
「大丈夫っすよ。今日はいつもと違ってあずが居るっしょ? ……つまりそう言うことっすよ」
梓ちゃんは途中から小声になり俺にだけ聞こえる声で囁いてきた。
「え!? まさか、またやるのかい!?」
俺は思わず大声を出してしまった。俺の素っ頓狂な声に、ヒデが不思議そうにこちらを見た。
「や、なんでも無い。気にせず選んでて」
梓ちゃんはあたふたしている俺に更に言う。
「まず、今って点数表示してませんよね? それをさせましょう。そして点数に応じて勝ち負けを決める。勝った者は負けたものに罰ゲームを与えられる。こうすればみんなやる気になるでしょ?」
と、自信満々に豪語する彼女。しかし梓ちゃんはある一点を忘れている。
「次藤くんは点数なんかじゃ自覚できないタイプだってさっき言ったじゃないか」
「だからあずがカラオケの点数で勝って罰ゲームで次藤先輩に分からせれば良いんですよ。あず、これでも歌には自信があるっす。地元じゃ常に100点近くを出してるんすから」
100点と聞いて俺は驚いた。確かに梓ちゃんは歌が上手かったがまさかそれ程とは。
「それに……罰ゲームはHな奴にするっす。さっきのサザン先輩みたいに気持ちよく悶絶してもらうっすよ。そうすれば大先輩もあの先輩たちも喜ぶ、まさにwin winな状態になれるっすよ」
梓ちゃんが親指をグッと立てつつ言い切った。
なるほど、確かにこれなら万時解決するかもしれない。
だけど……これから彼女がHな罰ゲームを奴らに施すと思うと、胸が張り裂けそうなくらいドキドキしてしまう。
俺は動悸の激しくなった胸を抑えつつ呼吸を整えると梓ちゃんに言った。
「分かった。よ、よろしく頼むよ梓ちゃん」
それを聞いた彼女はニンマリといやらしい笑顔で笑い返すのだった。
「よし、じゃあ次は俺の番な。ほら次藤くん、マイク貸してくれ」
ヒデは歌いおわった次藤くんからマイクをひったくるとさっそく歌い出した。選曲したのは結局いつものやつだった。
「まったく、僕の余韻を邪魔しないでくれタイ。空気の読み方が下手タイね」
次藤くんはそう言うとどかっとソファーに体を沈めた。隣に座っている梓ちゃんが衝撃で軽く数センチ飛び上がる。
だが緊張の為か彼女の表情は微動だにせずずっと真顔のままだった。
大丈夫か? やっぱり止めるべきなんじゃ……。
「ふーっ……。よし!」
俺の不安をよそに梓ちゃんは気合一閃、彼女が持ってきたドリンクを一気飲みした。
「ごくっごくっ、!? かはっ!! ごほっ!!」
勢いが付きすぎたのか豪快にむせてしまう梓ちゃん。その瞬間、彼女の口から飲み干せなかったジュースが大量に制服にかかってしまった。
「ちょ、ちょっと大丈夫か!? ほらハンカチ使って」
俺は慌てて自分のハンカチを差し出した。梓ちゃんはまだえずいていて、口を押さえてコクコクと頷くしか出来ないようだ。
俺は彼女の代わりにハンカチで濡れた制服を拭ってやった。よく見ると制服がびちゃびちゃになってしまったせいで、ブラまでスケスケになってしまっている。
と、とりあえず急いで拭かなきゃ!!。
俺はまだ二人がカラオケに夢中なことを確認しつつ、梓ちゃんの介抱を続けた。
「いやぁやっぱ好きだわこの曲。こう、男心をくすぐるんだよな。こういったハートは無くしちゃいけないと思うんだ。うんうん」
ヒデは歌い終わると感想を言いつつソファまで戻ってきた。と同時に次藤くんもこちらに向き直る。
「さて、それじゃあ次は梓ちゃんの番タイね。さ、マイクをどうぞ……って、どうしたんタイ?!」
ようやく梓ちゃんの格好に気づいた次藤くんは素っ頓狂な声を上げる。ヒデもこちらの様子に気づいたようで心配そうに見ていた。
「いや、大丈夫っす。ちょっとむせちゃって。……マジでキツイじゃんこれ」
梓ちゃんは何でも無いと二人に言うとマイクを取り自分の歌を入力していった。なんか最後に小声で言ったような? 気のせいかな?。
「大丈夫、あずは出来る、あずは出来る、あずは出来る……」
「あ、梓ちゃん?」
ひとしきり自己暗示をかけると意を結したのか顔を上げ次藤くんに向き直った。
「そういえば次藤先輩の歌初めて聞いたっすけど……こういっちゃなんですけど音痴っすよね」
突然彼女はそんな事を言い出した。
余りの忖度の無い感想に次藤くんは一瞬顔をぽかんとさせた。だがまた音痴と言われたことに気付き頭を沸騰させる。
「な、何を言うタイ! 僕は音痴じゃ無いタイ! 梓ちゃんの耳がどうかしてるんだタイ」
「はあ、マジで自覚ないんすね。そもそもカラオケの採点機能を使えばすぐに分かることじゃないっすか」
まあそうだよな。昔に比べればカラオケの採点機能は格段に上がっている。なにせビブラートや息継ぎのタイミングまで測れるようになってるし。精度は間違いないのだ。
しかし、次藤くんは今回も首を縦に降らなかった。彼自身の自尊心がきっとそうさせてしまうのだろう。
そのせいで、これから悲惨? な目に遭うと言うのに。
「ふん、梓ちゃん。君には僕の演歌の良さがまだ分からんみタイね。まあ、まだ若いし仕方ないかぁ」
と若干小馬鹿にするように言う次藤くん。
それにカチンと来たのか梓ちゃんはすかさず切り返した。
「そこまで言うならこれからゲームをしませんか? あずが勝ったらあなた達二人に罰ゲームを、代わりにあずが負けたら……あずのこと好きにしていいっすよ」
「ブフォオ!!」
「な、何ぃ!」
梓ちゃんのトンデモ発言に驚いたのか二人とも大いに驚いてしまった様だ。ヒデなんて鼻からコーラを噴出させてる。
「くふふ、驚いてる驚いてる〜」
対する梓ちゃんは顔を赤くしながら笑っていた。
「そう言うわけで、これからカラオケ大会を始めまーす!!」
とうとう、彼女の宣言を皮切りに新たな寝取らせが始まってしまった。