梓ちゃんが勝手に始めたカラオケ対決。元は次藤くんの音痴さを彼自身に知らしめる為のものだったが、話の流れでヒデまで参加することになってしまった。
「え、ていうか俺もやるの?」
当然困惑したヒデはやめると宣言したが梓ちゃんは聞く耳を持たず。
「えーやらないのヒデ先輩? あーあつまんない。もうちょっと先輩は空気の読める人だと思ったんだけどなぁ。期待はずれー」
梓ちゃんはほっぺを膨らませながら文句を言いダダを捏ねた。
「ヒデよ。お前一人だけ逃げるタイ? それが男の姿タイ? はー情けない。そんな奴だったなんて、僕は見損なったぞ。梓ちゃんがああまで言ったんだぞ? 男なら逃げずに勝負を受けるタイ!!」
そんな事を次藤くんはカッコつけて力説する。どうせ梓ちゃんの勝ったら何でもしていいに釣られてるだけのくせに。
「く、そこまで言われるとなんかイラっとするな。良いよ受けてたってやる」
ヒデはムキになったのか飲んでいたコーラを置き選曲を始めた。
「ヒデ先輩もやる気出たみたいっすね。じゃあ最初はあずから行って良いっすか?」
「いやちょっと待って。大はやらないのか? 俺達だけやらされるなんて不公平だろ」
当然の不満を漏らすヒデ。自分一人だけ巻き添えになるのが癪なのだろう。一人静かに飲みながら傍観している俺を引っ張ってこようとした。
「おい大、お前だけ除け者なんて嫌だろ? さ、一緒に地獄を楽しもうぜ」
なんて負ける前提で俺に話しかけるヒデ。
「いや、俺は良いよ。君たち三人だけで楽しみたまえ。あ、ヒデのドリンクもう無いじゃないか。仕方ないなぁ、今から注いできてやるよ」
そう言うと俺はヒデのコップを奪い取る。
「てめぇ!! そんな棒読みで言っても説得力ねえよ。ほら、大も参加しろ!」
ヒデはどうしても俺を巻き込みたいのかコップを取った腕を掴んで離さない。
「あー先輩は良いんすよ。これは私達だけの勝負っす。それに大好きな先輩に罰ゲームなんてさせられません」
普段は率先して俺をいじるくせに妙にしおらしいことを良う梓ちゃん。その言葉に若干気持ち悪さを感じながらも俺は感謝し、カラオケルームから脱出した。
梓side
「くそ、あいつ逃げやがった。おい次藤くん、あいつこそ男らしさのかけらもない奴だぞ! 逃げられても良いのか?」
大先輩を行かせてからすぐに文句をぶつけてくるヒデ先輩。
それの様子をチラリと見て次藤先輩は鼻を鳴らした。
「ふん、自分から逃げ出す奴など追う価値もないタイ。そもそもこれは僕の音痴疑惑を晴らす為の戦いタイ」
「だったら俺も不参加にしろよ!」
「いや、お前には俺の演歌の素晴らしさを教えてやらないといけないタイ。今日こそちゃんと俺の歌唱力を評価しろタイ」
ヒデ先輩はその後も抗議をしたが全部あずは無視した。だってこれは二人がいないと始まらないんだから。
「ごくごく、ぷふぁ!! それじゃ早速あずから行きますよ」
あずは気合を入れるとカラオケに全集中した。
大side
「しかし、梓ちゃん大丈夫かな?」
俺は巻き込まれるのが嫌で思わず逃げ出してしまったが、よくよく考えるとちゃんとその場で見てやったほうが良かったんじゃないか? と今更ながら思った。
彼女の暴走が激しくなると流石にあの二人も勘付くだろうし、そうなると今後のみんなとの関係が悪化しそうだ。
「寝取らせ性癖……か。我ながらとんでも無い癖を持ったもんだ」
自分でも不思議だ。最初は普通の友達関係からスタートして、その後抗争やら色々あって彼女と相思相愛になったはずなのに。
なぜ突然こんな性癖が自分の中で生まれてしまったのだろう?。
「まあ今考えても仕方ない。願わくば彼女が暴走しすぎないように祈るしかないか」
「そうそう、梓ちゃん当たり強すぎだよな。あんな子だとは思わなかったよ」
「!?」
び、びびったー。
「お、驚かすなよサザン。急に出てきて、思わずトレイで引っ叩く所だったぞ」
「人を害虫扱いすんじゃねぇ! うー……パンツが濡れてて気持ち悪りぃ……。でも替えのパンツなんて無いし、今日は家に帰るまでこのままかぁ」
ガニ股のまま肩を落とすサザン。よく見るとシミがズボンから僅かに滲み出ていた。
「しかしよぉ大。梓ちゃんって普段からあんな感じなん? 俺初対面で電気按摩かけられたのなんて人生初めてだわ」
サザンがズボンを気にしつつ言ってくる。
「い、いや。今日は色々あったからさ、そのせいじゃないか? あとサザンが調子に乗りすぎたせいも大分あるぞ」
「まあその辺は俺も悪いと思ってるけどさ」
サザンは頭を掻きながら言う。
これはフォローが大変だぞ。梓ちゃん、もっと穏便なやり方は無かったのかい? 誤魔化すのが大変なんだが。
「ま、こういう日もあるさ。これに懲りずにこれからも彼女と遊んでくれよ」
俺はサザンの肩をポンと叩きながら言う。
サザンは仕方無さそうに肩をすくめながらため息を吐いた。
「しゃーねえな。お前との仲だ、これからも宜しくしてやるよ」
「恩に着るよサザン」
俺たちは和気藹々の感じを取り戻しつつカラオケルームへと戻るのだった。
「ただいまー、途中でサザン捕まえてきた」
「おっす、やっとズボンが乾いてきたんでな……って。何やってんだこりゃ」
ドリンクコーナーから帰ってみるとヒデと次藤くんがそれぞれグッタリとしていた。ま、まさか!?。
俺は嫌な予感がして梓ちゃんへと近づいていった。
「ま、まさかもうやったんじゃ無いだろうね?」
小声で言う俺の言葉に怠そうに振り向く梓ちゃん。
その目は何故かトロンとしていて視線が定まっていなかった。
「だぁーいじょーぶっすよー!! あずはまだやってませんー! 先輩の楽しみはちゃんと取っといてますってー」
「わー!! バカバカ! 声が大きい!」
俺は急いで彼女の口を塞いだ。
ていうかなんで梓ちゃんこんなに酔っ払ってるんだ? 絶対これ酔ってるだろ!。
俺は酒臭い彼女を押さえつつ頭をフル回転させた。
なぜ梓ちゃんがこんな状態なのかは知らないが、取り敢えず事情を知っているだろう倒れ込んでる二人に状況を聞いてみた。
「おい! ヒデ、次藤くん起きろ! なんでこんな事になってるんだ? 誰か説明しろ」
俺はテーブルに突っ伏してる二人の肩を強引に揺さぶった。
「お、おう大か。彼女まじ凄いのな。俺ら全然勝てなかったよ……。歌唱力が違いすぎる」
ヒデが力無く頭を上げつつか細い声を絞り出す。続いてまるで死人のように次藤くんもゆらりと顔を上げた。
「ぼ、僕の歌が通じなかったタイ。こんな事は初めてタイ……」
え、あの次藤くんが認めた!? 一体何が起こったんだ?。
「ふふ、見たいっすか? あずの戦績」
梓ちゃんはケラケラと笑いながらこちらに寄りかかりつつリモコンを手に取った。
「先輩二人が余りにも本気出してきたからあずも本気でやらせて貰いましたよ。そしたらこんな点数取っちゃいました」
てへ! と赤くなった顔を傾げつつ梓ちゃんはリモコンを操作した。
「う、嘘だろ?……」
サザンは画面を見つつ口をあんぐりと開けた。続いて俺も見てみると……。
「お、オール満点だと!?」
そう、なんと彼女は全曲100点を取っていたのだ。チートを疑うほどの高点数だがここはカラオケ屋だ。チートなど出来るわけがない。
「へへ、どうっすか? ビビったっすか?」
梓ちゃんは俺に抱きつきながら嬉しそうに聞いてくる。俺は甘えてくる彼女に対して、お疲れ様の意味を込めて頭を撫でてやった。
「しかし、本当に歌が上手かったんだな。くそー! こんな事ならさっさとトイレから戻ってくりゃ良かった!」
彼女の歌を聴きそびれたサザンは悔しそうに地団駄を踏む。
「でもサザン。お前は参加しなくて良かったかもよ?」
「? どう言う事だよ」
俺は怪訝な顔をするサザンに手短にこのカラオケ大会のルールを教えた。
すると見る見ると顔色を青に変えていくサザン。
「ば、罰ゲーム? まさかさっき俺がやられたようなことをするのか? ひぃっ!!」
先ほどの電気按摩を思い出したのか股間を掴み震え上がるサザン。彼の顔を見ればあれがただ気持ちいいだけのものじゃなかったのが窺える。
「まああれはあくまでお仕置きっすから。でもこれからやるのは罰ゲーム。サザン先輩にやったのとはまた違ったことをするっすよ」
梓ちゃんはそう言うとヒデに近寄り耳元に口を寄せた。
「ヒデ先輩。早速ですけど罰ゲーム、受けてもらうっすよ」
梓ちゃんはヒデの腕を掴むとぐいっと奴の上半身を起こした。流石の怪力である。
最初の犠牲者に任命されたヒデはというと、顔からすっかり血の気が引いてしまっていた。もしかしてチンピラとの戦いを思い出したのかもしれない。
「はあ、分かったよ。勝負に負けちまったもんは仕方ないよな。ほら、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
体をガクブルと振るわせながらも潔く両手を広げて降参のポーズをとるヒデ。
その姿を見た梓ちゃんは吹き出しそうになりながらもヒデを安心させるように言う。
「大丈夫っすよ。痛い事はしないっす。むしろ、気持ち良すぎてぶっ倒れるかも知れないっすけどね〜」
彼女は依然顔が赤いままヒデの肩をポンポン叩くと立ち上がらせた。
「ほ、本当かい? ぜひお手柔らかに頼むよ」
「了解っす!!」
梓ちゃんは言うが早いかヒデの頭を突然自分の胸に抱きしめたのだった。