「いやぁー、あの人達面白かったすね。今度みんなで遊びに行きましょうか?」
梓ちゃんはそう楽しそうに言った。
ここは俺の家。あの後カラオケに行こうと言う話になったのだが、俺たちは遠慮していち早く家に帰ってきた。急いで帰った理由は俺にも分からない。だが、あのままカラオケに行ったら大変なことになりそうな気がしたのだ。
「そうだね。あいつらもきっと行きたがるだろうな」
俺はぼーっとしながらありきたりな返事をした。やはり先程の光景は少なからず俺にショックを与えたようだ。未だに次藤君が梓ちゃんの胸を食い入るように見ていた光景が頭をよぎる。
(あれは絶対梓ちゃんの胸を見て興奮していたよな? ……うん、なんだかまた胸がドキドキしてきたぞ)
「さて、と、それじゃあ夕食を作るから、梓ちゃんはその辺でくつろいでいて」
俺はそう妄想を振り払うように言いつつ、エプロンをつけた。さっさと料理を作って気持ちを切り替えよう。
「あざーす、今日は何作るんですか?」
梓ちゃんがカバンを置きながらこちらにトコトコついて来つつキッチン越しに顔を出してきた。
俺は冷蔵庫の中身を確認しつつ、梓ちゃんに聞いてみる。
「梓ちゃんは何が食べたい? 今日は肉と魚があるけれど」
「うーん、先輩が作るものなら何でも良いんですけど……そうすね。お肉がいいっす」
「オーケー。じゃあ酢豚でも作ろうか」
俺は腕を捲くり早速作り始めた。
20分後。
「よーし。出来たよ梓ちゃん」
俺は作りたての熱々の酢豚を大皿によそいながらリビングに居るであろう彼女に声をかけた。
「っ! はーい。今準備しますー」
突然声をかけたからなのか梓ちゃんはソファーの上でビクッと体を震わせて返事をした。たぶんスマホに集中でもしてたのだろう。
俺は酢豚の乗った大皿と取り皿を両手に持ちテーブルに行く。それと同時に梓ちゃんもテーブルを拭いてくれた。
「うわぁ! 美味しそう~! 先輩、早速食べましょう!」
もう我慢できないのか椅子に座るなり前のめりになりながら言う梓ちゃん。
「はいはい。じゃあ頂きます」
「頂きまーす!」
俺たちは湯気を立ち上がらせる料理を前に手を合わせ冷めないうちに食べ始めた。
カリカリに上げた豚肉に甘ダレを絡めた酢豚を一口頬張ると思わず笑顔が溢れる。俺と梓ちゃんはお互いの顔を見合って一瞬固まった後すぐさまがっつき始めた。
「ハグハグッ! 美味美味~。やっぱり先輩って料理上手っすね。マジ店で出せるレベルっすよ」
「そうかな? お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃないっすよ。こんな料理を簡単に作ってしまうなんて……もぐもぐ、。本当、お婿さんに来て欲しいくらい」
「ははは。ありがとう、あんまり焦って喉に詰まらせないようにね」
俺は少しドキッとしながら梓ちゃんの美味しそうな食べっぷりを眺めつつ箸を進める。
梓ちゃんと結婚かぁ……。そっか、彼女と結婚したらこうして毎日一緒に食事が出来るんだもんな。今まで毎日一緒に食べると言ったら姉ちゃんだけだったから、なんか想像すると新鮮だ。
冴子姉ちゃん。俺の血の繋がらない姉だが姉弟仲は結構良いほうだと思う。今は俺が通っている稲村学園の教師を担当してて学園で会うたびに何かと面倒事を押し付けられるが。
特に俺と他の女子生徒が仲良く話してる時によくパシリに使われてる気がする。
「そう言えば先輩のお姉さんって何時頃帰ってくるんですか?」
梓ちゃんは口をもぐもぐさせながら聞いてきた。
「うーん。もうそろそろかな? 遅くなるなら電話の一本でも……」
と俺が言いかけたその時、まるで見計らったかのように家の電話が鳴り出した。
「お? 噂をすれば電話だ。梓ちゃんはそのまま食べて」
俺は食事を一旦中断し電話を取るために離席した。
「はい。長谷です。あ、姉ちゃん? どうしたの? なんかあった?」
「あ、ヒロ? 実は突然来週からの部活遠征の付き添いに指名されちゃって。副コーチが腰を痛めたとかでどうしても私が行かなきゃならなくなっちゃって」
やはり予想通り相手は姉ちゃんだった。電話越しに凄く面倒くさそうな雰囲気を漂わせながらぼやいている。
「姉ちゃんも大変だね。今日は帰れそう?」
「うーん。たぶんあと2時間くらいは掛かりそう。無駄に会議が長いんだよね~うちの学校。とにかく、ご飯は私の分は良いから先に食べちゃってて」
「分かった。じゃあ気を付けてね」
俺はそう言うと受話器を置いた。
まさか姉ちゃんが遠征に行くとは。これまで修学旅行以外の行事で遠くに行くなんて無かったのに。教師ってのはやはり大変だな。
「せんふぁい。誰からでふぅか?」
梓ちゃんが口いっぱいに頬張らせた顔をちょこんと出しながら聞いてきた。もぐもぐと頬袋を動かす様はまるでリスみたいだ。
「案の定姉ちゃんからだったよ。今日はちょっと遅くなるって」
俺は姉ちゃんの帰りが遅い理由を告げながらテーブルに戻る。
「ふむふむ。お姉さんはその部活の面倒を代わりに見なきゃいけなくなったと……。やっぱ教師って大変っすね」
すっかりぺろりと平らげてしまった大皿の前で腕を組みながらうんうんと頷いている梓ちゃん。ていうか俺の分も残しといてくれよ……。
「はぁ。まあそういう訳で今日はあと2時間くらい姉ちゃんは帰ってこないと思うけど。どうしよっか?」
そう言うと梓ちゃんは立ち上がりテーブルの上に手を付いて顔を近づけてきた。
「あ、梓ちゃん?」
「ふふふ、先輩はどうしたいっすか~?」
梓ちゃんはそう魅惑的な笑みを浮かべると制服のシャツのボタンを外していった……。