言った。遂に言ってしまった。
とうとう自分の性癖を白状した俺は冷静に努めようと必死になった。バクバクと心臓が早鐘を打ち血管という血管がパンプアップして正直気が狂いそうになっている。だが、一番つらい思いをしているのはきっと梓ちゃんだろう。
そりゃそうだろう。自分の彼氏がこんな自分の彼女を他の男達に性的に見られて興奮する変態だったなんて最悪な気持ちになっているに違いない。
たぶん怒ってるだろうな。もしかしたら涙を堪えて耐えてるのかもしれない。正直今は彼女の顔を見る余裕が無い。俺は怖くて暫くそのまま床を見つめていることしか出来なかった。
「先輩、顔を上げてください」
じっと石像のように床を見ていた俺に、梓ちゃんが静かに言った。審判をくだされた罪人の様に俺は肩をビクッと震わせ、伏せていた顔を恐る恐る上げていく。
「あ、梓ちゃん?」
驚いたことに、なんと彼女の顔は怒ってもおらず泣いてもいなかった。それどころか満面の笑みを浮かべていたのだ。
「先輩。やっと正直になってくれた……。あず、前から先輩の様子がおかしいの気付いてたんだよ? なのに全然教えてくれないし、あずはもしかしたら嫌われてるんじゃないかなって心配で」
梓ちゃんは泣き笑いのような顔でそう言うと俺にヒシっと抱きついてきた。彼女の柔らかな双房が俺の胸にギュッと押し当てられる。
「き、嫌いになんてなるわけないじゃないかっ! こんな可愛くて素敵な彼女俺には勿体ないくらいで……」
俺は必死に弁明するとぎゅっと彼女を抱きしめ返した。
すると彼女は体をそっと離し俺の顔を真剣な目で見つめると一呼吸した。
「すぅ……ふぅ。先輩、これから真面目なことを話すね? 実は今日先輩たちに合う前に占い師の所に行ってたの」
「占い師?」
通りで遅いと思っていたがそんな事してたのか。
「うん。帰り道を歩いてたら突然声をかけられたの。で、あずも最初は胡散臭くてすぐに先輩の所に行こうとしたんだけどタダで見てやるって言われて。タダならまあいっかって思って見てもらったんだけど」
タダの一言で釣られたのか。なんて梓ちゃんらしい。
「で、その時に言われたのは先輩には特殊な性癖があるんだって。その、寝取らせ? とか言うの」
「え? なんでそんな事その人は知ってたんだ!?」
俺はびっくりして思わず身を乗り出した。
「分かんないけどその人は本物の占い師らしくて……先輩の名前もフルネームで言い当ててたんだよ。あずもびっくりしちゃって、こりゃ本物だなって思って」
俺の名前も言い当てたのか? 普通に考えてありえないだろう。疑った俺は梓ちゃんの顔を再度見つめた。が、嘘を言ってるようには見えない。
「その先輩の性癖を満足させれば二人の将来は安泰だって言われて。あずびっくりしちゃって……。その占い師にお礼を言って駆け出してすぐにケータイで調べたんだ。その寝取らせ性癖ってやつ」
俺はごくりと溜まった唾を飲み込んだ。
「で、調べたら彼氏の前で他の男を興奮させるのが一番良いらしいってネットに書かれてて。他にも一晩貸し出した後にどんな風に寝取られたかを彼女に報告させたりとかあるらしいけど……。取り敢えずその時急いでいたあずは調べ終わったケータイを閉まってダッシュで先輩の所に行ったの」
「そしたら先輩だけじゃなく先輩の友達らしき人らも居て。こりゃ今やるしかないっ! って即決してあずは実際にやってみたの。彼氏の前で他の男を興奮させるやつをね?」
なるほど、そういう事か。俺はなぜ彼女が急にあんな態度を取るようになったのか合点がいった。
その占い師の言う通りにしてたんだな、俺を興奮させるために。そうじゃなきゃ普段の梓ちゃんならあんな暑い中むさ苦しい男と握手なんてしない。
「それで先輩のお友達に軽いサービスのつもりで色々したんだけど……あの時先輩の顔を見たらあずびっくりしちゃった。こんなに効果てきめんだったなんて」
そう言うと梓ちゃんはクスクスと悪戯っ子のように笑った。
「じ、じゃあ梓ちゃんは最初から俺の性癖を見抜いてあんな事を? あんなブラジャーの形がはっきり分かるくらい汗をかいた胸を強調して」
俺は夕方のやり取りを鮮明に思い出してしまった。梓ちゃんは胸を隠すどころかあいつらに見せつけるように強調してた。全てが例の占い師の差し金だったとは……。
俺はなんとも言えない気持ちになった。本来なら彼氏として怒らないといけない場面なのだが梓ちゃんはあくまで俺を喜ばせるつもりでやったようだし。何より俺自身が物凄く興奮してしまった。
「……」
「先輩? やっぱり怒った? ごめんね、あずどうしても先輩ともっといい関係になりたくて思わずあんな事やっちゃったんだ。やっぱり、嫌だった?」
梓ちゃんは少ししょげ返った顔で俺を伺うように下から覗き込んだ。その瞳は俺に嫌われるのではないかと思ったのかうるうるとしていた。
「いや、その、何て言うか……。さっきも言った通り俺には寝取らせ性癖があったみたいで。それにはっきりと気づいたのは今日だったんだけど」
俺は歯切れ悪くとつとつと話しだした。緊張してるのか自分の口なのに上手く回らない。
「怒らない、というか怒れないよ。だって俺かなり興奮しちゃったんだ。梓ちゃんがあいつらにジロジロ見られたり握手で梓ちゃんの手の柔らかさを楽しんでたりしてて。それを見てて俺、正直心臓が飛び出るくらい興奮してたよ」
なんとかそう言い終えた俺はふぅーっと深呼吸をした。
「先輩、興奮してくれたんだ。良かったぁ~! すっごい恥ずかしかったけど勇気出したかいがあったよ。みんなガン見してくる中堂々とするの大変だったんだよ先輩~!」
梓ちゃんはホッとしたのかその場に女の子座りのままパタンと仰向けに倒れてしまった。
「ありがとうと言って良いのかわからないけど感謝してるよ。俺も自分の性癖に気づけたし。正直あんなに興奮するとは思わなかった」
俺は素直に彼女に感謝の言葉を投げかけた。
その後しばらく無言のまま、まったりとした時間を過ごす俺たち。時計の針がチクタクと部屋に木霊する時間だけが過ぎていく。
「……で。先輩? これからどうするの?」
ふと天井を眺めていた梓ちゃんが徐にこちらに目を向けながら聞いてきた。なんだろう、また胸騒ぎがする。
「これからって? ああ、もうすぐ姉ちゃんが帰ってくるし早めに解散し」
「違うよ。これからも寝取らせを続けるのかってこと」
「っ!?」
俺はびっくりして思わず梓ちゃんの顔を見た。彼女は少し笑いを含んだ顔で俺を仰ぎ見る。
「あずはもう一度あの人達と会ってもいいよ。それでまた先輩が興奮してくれるなら、ね?」
梓ちゃんは何かを勝ち誇った顔で俺を見ると寝せていた体を勢いよく起こす。
「よっ! と」
大きな胸を揺らしながら体操選手のようにしっかりと着地を決める梓ちゃん。するとそのまま自分の体を抱きしめながら俺を挑発してきた。
「このあずの体。あの人達にどうされちゃうんだろうね? 胸を揉まれちゃうのかな? それとも裸にされちゃうのかな?」
彼女は例の悪戯っ子のような顔で俺をまた煽ってきた。
「梓ちゃんがあいつらに?……ゴクッ。で、でもやっぱり駄目だよ、こんな事良くない」
俺は思わず妄想したイメージ映像を何とか頭から引き剥がしつつそう言った。だけど彼女は本気のようで1歩ずつ俺に歩み寄りながら囁いてくる。
「駄目じゃないよ。あずが良いって言ってるんだから。先輩はどうしたい? また寝取らせをあずにして欲しい?」
梓ちゃんは座っている俺の足元に腰を下ろしながら尚聞いてくる。彼女は小悪魔のように笑みを浮かべながら俺の首に手を回してきた。
「そ、それは……」
俺の心臓は早鐘のように打ち鳴らされ息も絶え絶えになった。
そう、たった一言。お願いすれば俺の願いは叶うのだ。
「どうする先輩。あずは先輩がして欲しい事なら何だってしてあげたいんだよ? あずは無理なんてしてない。先輩の喜ぶことはあずにとっても嬉しいことなんだから」
顔を至近距離で突き合わせながら囁いてくる彼女を前に俺は参ってしまった。観念した俺は梓ちゃんの目をしっかり見ながらはっきりと言った。
「うん……。また、寝取らせをお願いしたい」