俺の性癖のカミングアウトから数日後、俺達二人は例の占い師を探していた。「梓ちゃん本当にここなの? 見たところ人っ子一人居ないけど」
俺は目の前の殺風景なシャッター街を見てそう呟いた。
梓ちゃんは周りをキョロキョロしつつ首を捻る。
「可怪しいなぁ。この間はここで相談に乗ってもらったんだけど。今日は休みなのかな?」
ここは梓ちゃんの通っている学園近くの商店街の一角。所々シャッターが降りていて通りに居る人も疎らだ。
しかしこんな所で店を構える占い師も居るんだな。いや、こういう所にこそそういう店を出店するのか?
とにかく、占い関係はさっぱり分からない俺には占い師の出店理由を知る由もなかった。
「うーん。本当にこの辺? もう別の場所で商売をやってるんじゃない?」
俺は通りを見ながら梓ちゃんに聞いてみた。
「そうかも知れない。でもあのお婆ちゃん一人で大きなテーブルとか抱えて移動してるのかな? だとしたらそう遠くには行ってないはず……。もうちょっと探そう先輩」
その後俺たち二人はシャッター通り一辺を探していった。それこそ裏路地やもう使われてない空き家まで虱潰しに。
結論を言うと、その占い師は見つからなかった。
痕跡を残さず、まるで風のように去っていったその人をこれ以上探しても意味がないと思った俺たちは、二人で街を散策することにした。
「いやー見つからなかったっすね~。あんな凄い占い師そうそう居ないからまた見つけて色々占ってもらおうと思ってたんだけどなぁ」
「そうだね。俺も会ってみたかったよ。俺の本名をズバリと言い当てるなんて普通じゃないもんな」
正直な話気味が悪いくらいだ。まるで俺のことを隅々まで知り尽くされてるようでこのままじゃ夜もまともに寝れそうにない。だからこそ今日その占い師を見つけ出して色々聞きたかったんだけど。
「まあ仕方ないっすよ。次また探しに来ればいいし今日は二人でデートしましょ先輩。不安なことはスッキリ忘れて、ね?」
梓ちゃんはそう言うと俺の腕を取りその大きな胸を押し付けながら颯爽と歩き出した。
俺はそれから梓ちゃんに引っ張られながらあちこちのお店を見て歩いた。
梓ちゃんは美味しくて安い学生向けのレストランや服屋など俺の知らない店等を色々と教えてくれた。
「先輩は服のセンスがイマイチっすからあずが今度選んであげるっすよ」
服屋の前でショーケースを眺めながら梓ちゃんは言った。
「そんなに酷いかなぁ。別に普通だと思うけどなぁ」
まあ服にはそんなに拘りがある方じゃないのは自覚してるけど。服は正直着心地が第一だと思ってるし。
「うーん。先輩あんまり乗り気じゃないっすね? 先輩は見てくれはそんな悪くないんだから服さえ何とかすればもっといい男になるのにな~」
梓ちゃんは腕を組みながら徐ろに俺の周りをぐるぐる周りだした。頭の天辺からつま先まで見られてくすぐったい気分になるなこれ。
「ま、服を買うのは今度にしましょ。絶対イケる男にしてあげるっすから」
「はいはい。まあ期待しないでおくよ」
俺は変なものまで買わされないか心配したけど、その場では彼女に合わせることにした。
そんなこんなで彼女と暫く街を散策していたらふと何処からかソースの香ばしい香りが漂ってきた。
「これは……スンスン、たこ焼きっすね。ここらでは割と有名な店っすよ」
彼女は目を閉じ鼻をひくひくさせながら俺に教えてくれる。
「たこ焼き屋か。じゃあここらでお昼ごはんにでもする? 歩いたせいか俺結構お腹空いちゃったよ」
「もう先輩ったらお爺さんみたいなこと言って~。まあ、あずもお腹空いたし食べましょっか」
俺たち二人は匂いに釣られて大通りに出るとお目当てのたこ焼き屋を見つけた。見るとかなり盛況なようでお客さんが既に並んでいる。
「この暑い中人がこんなに並ぶなんて余程美味しいたこ焼きなんだろうね」
「実際そうみたいっすよ。食べログでも1位取ったこともあるくらいだしここらへんじゃメジャーな飯屋っす」
俺は梓ちゃんからちょっとした豆知識を聞きつつ二人で列の最後尾に並んだ。
「へいらっしゃいっ!!」
並び始めてからだいたい20分ぐらい待っただろうか。どうやら俺たちの番が来たみたいだ。
「お二人さんもしかしてカップルかい? んじゃちょっとおまけしてやんよ」そう言うやいなやちょっとヤンキー入った兄さんが目の前でたこ焼きを焼いていく。
高速で目の前で焼かれていくたこ焼き達。店主の鉢巻を巻いた姿も相まってかなり様になっている。きっとこれも食べログ1位になった秘訣なんだろう。
「わ~。凄い早いっすね、それにたこ焼きがくるくる回って面白いっ!」
梓ちゃんは目の前で回転するたこ焼きを見て子供のように目を輝かせていた。よく見ると涎も出てきている。
「ほら、梓ちゃん涎出ちゃってるよ」
俺はハンカチを取り出しそっと彼女の口元を拭ってやった。時々彼女はこういう子供っぽい所が出てきてしまう、俺はそれを見るとどうも世話を焼かずには居られなくなってしまうのだ。
「いやぁお二人さん熱いねぇ~。全く兄ちゃんもこんな可愛い彼女連れて幸せもんだなっ!」
俺たちのやり取りを見ていた店主がニヤリとした笑顔を見せた。
「いやぁ、ははっ、確かに俺には勿体ないくらいの彼女です」
「ったく。見せつけてくれやがってこの野郎っ! 。っと、ほら、出来たぜ一丁上がりっ! ちょっと気持ち多めに入れてやったから二人で楽しく食いなっ」
店主はそう言うと少し多めに盛られたたこ焼きの船を2つくれた。その後俺たちは料金を払い店主に礼を言いその場を去ったのだった。
「うわぁ~美味しそう。それじゃ頂きま~す。あっ、あふっ、あふいっ!!」「梓ちゃん、もっと冷ましてから食べないと」
俺達二人は休憩場所を見つけた後さっそくたこ焼きを食べ始めた。
「めっちゃ熱い!!……けど、美味しい!。評判通りの美味さっすよこれっ!」
俺は感激する彼女を横目で見ながら火傷しないように気を付けつつたこ焼きを口に運んだ。おお! なるほど、確かにこれは美味い。
外はカリカリ、中はとろとろで口に入れた瞬間幸せが滲み出てくるようだ。それにこのかかってるソースもどうやらあの店のオリジナルソースらしく、たこ焼き本体とよく絡み合っていていい味をだしていた。
「はふっ! はふっ! 美味しいねこれ。噂になるだけあるよ」
「ですよね! 先輩今度作ってくださいよ」
「無茶言わないでよ。こんな凄いの簡単に作れっこないよ。作るとしたらまず道具集めからやらないといけないし」
そんな事を俺達が話していた時、前方から見知った顔がやってきた。
「おっ! 大と梓ちゃんじゃないか。こんな所でデートか?」
ヒデだった。どうやら一人でやって来たらしい。
「そうっすよ~。今日は先輩にこの街の良さを教えてあげようと思って連れてきたんすよ」
「そういうヒデはどうしたんだ? 普段はこっちに来ないだろ?」
「そうなんだけど、前にたまたまこの街の福引券が当たったから回しに来たんだ。ま、結果はハズレだったんだけどな!」
そう言ってヒデはため息を付きながらひらひらとポケットティッシュを見せてきた。
「まあそう簡単に当たらないよな。そうだヒデも一緒にここで飯でも食わないか? 梓ちゃんも良いかい?」
「良いっすよ。ヒデ先輩一人だとなんだか寂しそうだしみんなで食べたほうが美味しいし」
「ははは……じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな?」
ヒデは遠慮がちに言うと俺の隣に座った。
「あー腹減ったー。俺もなんか買うかな? この辺の店のおすすめは何?」
「あのたこ焼き屋が美味いぞ。梓ちゃんのイチオシで俺も今日初めて食べたんだがマジで美味かった」
「そうなのか、じゃあ俺も買いに行ってくるわ」
「あ、待ってください。良かったらあずの少しあげますよ」
そう言ってズズッとヒデにたこ焼きを寄せる梓ちゃん。
「え? 良いのかい? それじゃあちょっと貰おうかな」
「っ!?」
俺は思わず変な声が出そうになった。何故ならヒデが梓ちゃんが使った爪楊枝で普通に食べ始めたからだ。こいつ、もしかして気づいてないのか?。
横目でちらりと彼女を見るとしてやったりとした笑顔で俺のことを見ていた。
そうか。そういう事か……。
「うん! 美味いな! 外はカリッと中はジューシーで蕩けるようで……はふっ、はふっ、それにこのかかってるソースも甘くて美味いぞ」
ヒデは余程美味しかったのか少しだけと言っていたのに半分も食ってしまった。梓ちゃんの使った爪楊枝で黙々と。
「お、おいヒデ、もうその辺にしとけ。いい加減にしないと梓ちゃんの食べる分が無くなりそうだぞ」
「あ、悪いっ!! 余りにも美味くてついっ! あ、俺今から新しいの買ってくるよっ!!」
ヒデは慌ててそう言うと椅子を蹴飛ばす勢いで走っていってしまった。
「あーあ。あずのたこ焼きもう半分しか無いや」
見ると梓ちゃんはたこ焼きを見つめながら肩を落としていた。
「梓ちゃん……さっきのさ、わざとヒデに食わせたでしょ?」
俺はおずおずと聞き出した。
「ふふっ。バレちゃいましたか。ああいうのでも先輩って興奮してくれるんですね? 本当に変態さんなんだから」
梓ちゃんは俺の顔を見て面白そうにニヤリと笑うと、今しがたヒデが使ったばかりの爪楊枝で残りのたこ焼きを食べだすのだった。