「本当に申し訳ないっ!! これで勘弁してくれ!」
ダッシュで俺達の所に戻ってきたヒデはそう言うとたこ焼き片手に頭を下げた。
「良いっすよ別に~、あずは気にしてないっす。それだけ美味しかったって事っすよね? なら仕様がないっす」
梓ちゃんはケラっと笑いながらヒデに慰めの言葉をかける。
「まあ、梓ちゃんもこう言ってることだしさっさと座って飯の続きにしよう」俺は自分の緊張を誤魔化すようにヒデの肩に手を置き座るように促した。
「お、おう。じゃあ」
そう言うとヒデは大人しく椅子を引いて座った。
「そういえばあの面白い二人組は今日は一緒じゃないんすね」
思い出したように唐突に言う梓ちゃん。
「ああ、俺は今日は福引回すためにこっちまで出向いただけだからな。いつもだったら地元のゲーセンあたりであいつらと遊んでるよ」
「そうなんすね。あの二人ともう一度会って話したかったな~。なんか面白かったし」
当時の状況を思い出したのか梓ちゃんはシシシと笑い出す。確かに、あの時のあいつらはめちゃくちゃ緊張していてしどろもどろになってたな。
「梓ちゃん的には面白かったのかあの二人。そんな話を聞いたらあいつら悔しがるだろうな~。今日梓ちゃんと会ったって言ったら俺だけずるいって言われそうだ」
「それならいっそ今度みんなで遊びます? 前に会った時は遊びの誘い断っちゃいましたし」
たこ焼きを食べつつ梓ちゃんはここぞとばかりに遊ぶ提案をした。はたから見れば何気なく漏らしたように聞こえる言葉だが……。
梓ちゃん、もしかして、いや、もしかしなくても……。
俺はまた例の悪い予感が背中を走り抜けるのを感じた。
「ん? あの時のカラオケのこと? 良いよ良いよ。二人だけの時間も大切だし俺達のことは気にしなくていいって」
「ん~、でもあの後あずもあの人達と遊びたくなったんすよ。大先輩も良いって言ってるし、ね?」
そう言ってウィンクをしてくる梓ちゃん。その目には『先輩、分かってるっすよね?』ってメッセージが込められていた。
やっぱり、梓ちゃん、君は……。
「ああ、みんなで今度カラオケにでも行こう。いつも俺達だけじゃ飽きるしな」
俺は逸る心臓を抑えつつ答えた。声も若干震えていたかもしれない。
ヒデは少し不思議そうに俺を見たが数瞬瞬きした後頷いた。
「そっか、大もオーケーなら俺も反対する理由はない。っていうか俺も結構梓ちゃんと遊びたかったしな」
「あ~っ! もしかしてあずの事意識してます? 駄目っすよ~、あずは先輩のモノなんだから!」
梓ちゃんはヒデに流し目をしつつ俺の二の腕に抱きついてきた。彼女の大きな胸が俺の二の腕とサンドイッチされて零れ落ちそうになる。
ちらりとヒデの顔を見てみるとヤツの熱い視線が彼女の胸に注がれてしまっていた。
「うおっ……はっ!? い、いや~お熱いね~。じゃあ今日にでもあいつらに連絡してみるよ。スケジュールはそっちで決めてくれ。どうせ俺ら暇だしな」
ヒデは慌てて視線を引き剥がすと誤魔化すように早口で答えた。あ、梓ちゃんが笑ってる。
「了解っす。じゃあお願いしますね」
その後俺達3人は互いの学園の事を話しつつその日はお開きとなった。
時刻は午後6時。思わぬ来客が来て話し込んだせいかもう既に夕日が海岸線に沈み始めていた。と同時にあちこちの家から食事の準備をしている音も聞こえ始め、1日の終わりを感じる。そんな中、梓ちゃんの家までの帰路を俺達は歩いていた。
テクテクと二人並んで海岸沿いを歩いていく。もうすぐ夜の時間だ。
「しかし本当に良かったんですか? あずも一緒に付いて行って。まあ勝手に約束したあずが今更言うのもなんですけど」
隣を歩いていた梓ちゃんが徐ろに話しだした。
「う、うん。まあカラオケは人数が多いほうが良いしな」
俺は上ずった声で返事をしてしまい思わず顔を背けてしまう。
「本当に~? それだけの理由かな~?」
そんな俺の顔を覗き込もうと近寄ってくる梓ちゃん。俺はなるべく自然を装って遠くを見ることにした。
「本当は分かってるんでしょ。あずが先輩の”特殊な”性癖を満たすためにやったことだって……」
俺の前に回り込みつつそう言う梓ちゃんの顔はいつもの悪戯っ子の顔のそれだった。
「ごくっ……。やっぱり態とだったんだな。いつもは俺と二人っきりが良いって言うくせにわざわざあいつらを遊びに誘ったのは」
梓ちゃんはニンマリとした顔のまま何も答えない。だがその表情が既に彼女の心情を物語っていた。
「大丈夫っすよ先輩。先輩は安心して見ていればいいから」
「な、何をするんだ?」
梓ちゃんの言葉に俺は思わずその場で立ち止まってしまう。
彼女はそんな俺をちらりと見た後不敵な笑みを残し、何も言わずその場を歩き去ってしまった。
_________________。
それから1週間後、とうとうその日がやって来た。
俺達4人は放課後電車に乗り、目的地の駅でそれぞれ降り事に。
「よしっと到着! かったるい学校が終わった後の開放感は格別だぜ!!」
「あんまりはしゃぐなタイ。僕らまで馬鹿に見えてしまう」
「そう言うなよ~次藤くん。今日はいつもと違うメンバーでカラオケ出来るんだぜ。これが興奮できずにいられるか!」
電車から降りた途端子供のようにはしゃぐサザンを面倒臭そうに次藤くんは窘めるとずいっと大きい体を前へと勧めた。
その後ろをヒデが携帯を見ながら歩いてくる。
「危ない危ない、今日のボーナス石をゲットし忘れる所だったぜ。こういうイベントはこまめにチェックしないとな~」
三人がそれぞれに騒ぎながら駅に降りていく。俺はその後ろを恥ずかしさを堪えながら付いていった。
今日は女の子と一緒にカラオケに行けると有ってみんな異様にテンションが高かった。普段ならこうは絶対にならないんだが……。
いつもはむさ苦しい男たち4人で行くからな~。クラスの女子を誘ってもいつも学院でエロ談義をしてる次藤くん達のせいで誘ってもまず断られるし。
しかし、今日はスペシャルゲストの俺の彼女、梓ちゃんが居るのだ。
サザンは言わずもがな、次藤くんも理性的に振る舞ってるようで時折そわそわしているのが分かる。ヒデに至っては普段はやらない歩きスマホまでしてしまっている。
三人とも完全に舞い上がっているなこれ。
「
はあ、みんなはしゃぐのはいいけど他の人も居るんだ。迷惑をかけないようにしてよ」
いつもの数倍騒がしい彼らを見て俺は堪らずそう言った。
「何だよ~、ノリ悪いな大。今日は女の子と一緒にカラオケに行けるんだぜ?これが興奮せずに居られるか!」
と、俺の肩を抱きながら言うサザン。うわ、今気づいたがサザンのヤツ今日は香水なんて付けてるな。道理で電車に乗ってる時から臭うと思った。
「まあサザンに賛成するわけじゃないけど、普段と違うメンバーで遊びに行くんだから俺らもテンション上がっちゃうのは仕方ないだろう?」
とようやくスマホから顔を上げたヒデが言ってくる。
「テンション上がるったってなぁ……」
俺はポリポリと頭をかきながら言う。
「まあ、普段から彼女とイチャイチャしてるお前には分からんタイね。もてない男たちの心ってのは」
次藤くんは腕を組みウンウンと唸りながら言うと周りの二人もそうだそうだと囃し立てた。
「わかったわかった。取り敢えずみんなが今日を楽しみにして来たってことは十分わかったよ」
囲まれながら嫉妬の目で睨めつけられた俺は堪らず降参した。まあ、最近まで彼女なしだった俺自身モテない男の心情は知ってるからな。バカにすると痛い目を見るんだよなこれが。
「まあ、こんな駅の人混みの中で待つのも何だし、取り敢えず待ち合わせの時間まで外で待ってようか」
俺は未だ厳しい視線を送る三人から逃れるように駅の外に逃げるように出るのだった……。