※この作品はR-18です。

警部補の男と赤子喰らいの女   作:おかぴ1129

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7 甘露

 触手の口から涎がポタポタと垂れ落ち、長い舌がその口から伸びている。人の顔はしているが、その目は縫い合わせられているようだ。それが沙雪の肉体の一部であるにも関わらず。

 

 栄田のすぐ耳元で、口をガチガチと噛み合わせ歯を鳴らしている。それでも栄田の照準は沙雪から離れない。少しでも目を離してしまえば、沙雪は途端に菅野神父を食い殺すに違いない。

 

「……のう栄田」

「なんだクソッタレぇ!」

「お前、本当に私を殺せるのか。手が震えておるぞ」

「お前はどうなんだよ! 仮にも自分が唇を奪った男だぞ! そんな俺を殺せるのか!?」

「前にも言ったであろう。食い物に対する博愛精神なぞ無い」

「なら俺も同じだ! バケモンに対する躊躇なんかねぇよ!!」

 

 沙雪の口の端が少し笑う。楽しくて笑うというよりは、可笑しくてこぼれた笑いのようだ。自分に対し『俺もお前を殺せる』とハッタリをしかける栄田が可笑しくて仕方ないらしい。

 

 栄田は撃鉄を起こし、改めて沙雪を狙う。拳銃に装填された怨霊調伏の弾丸は残り一発。沙雪に効果があるのは先程右腕を吹き飛ばしたことで証明済みだ。この弾丸であれば、相手が沙雪でも充分傷つけることは出来る。

 

 だが、残り一発でどうやって沙雪を殺し切るというのか。もしもその一発で殺しきれなかった時、沙雪は瞬時に傷口を回復させて自分を躊躇いなく殺すことだろう。そしてそのあと、ゆっくりと菅野神父の味を堪能するはずだ。

 

 この残りの一発で殺し切るしかない。自分と菅野神父が助かるには、この一発で沙雪の命を削り切るしかない。だがそれが出来るのか。栄田は必死に考えた。

 

 照準の位置を沙雪の胴体から頭部へと少しずつズラしていく。頭部であれば、たとえ殺し切ることは出来なくても時間稼ぎはできるはず……そうでなければ、他に自分と菅野神父が助かる方法が思いつかない。

 

 沙雪が無事な左腕をピクリと動かし、栄田も危うく発砲しそうになる。栄田の神経が過剰に尖り始めた証拠だ。むやみに発砲してはならない。ジャストのタイミングで撃たなければ、その弾丸は空を切る。

 

 沙雪が左腕を上げた。栄田の緊張が最高潮に達し、引き金にかけた指を制止するのに必死になった、まさにその時。

 

「……やめよ。鉄砲を下ろせ」

 

 沙雪の口が、静かにそう告げた。

 

 しかし栄田は下げない。指にかかった力は抜いたが、照準は頭を抱える沙雪からは外さない。

 

「うるせえ! てめぇがこのキメぇやつらを下がらせるまで照準は外さねぇ!!」

 

 そういい、栄田は改めて照準を沙雪に合わせた。『化け物の言葉は信用するな』これは、栄田が何度も相手の言葉を信用しては殺されそうになった経験から導き出した結論だ。それがたとえ沙雪の言葉であっても、このような場面では栄田は相手の言葉を信用はしない。

 

 そんな栄田の覚悟が沙雪に通じたらしく、沙雪はフゥとため息をついた。次の瞬間、栄田の周囲に漂っていた触手たちは姿を消す。あとに残ったのは、撃たれる前とまるで変わらない沙雪の右腕だ。

 

「消したぞ栄田」

「……ッ」

「この男ももう食わぬ。これでよいか?」

 

 少しだけ照準を下げ、栄田は沙雪の表情を見た。落胆した様子はあるが、普段の沙雪とそう変わらないように見える。赤い眼差しもいつもどおりだ。さっきまでの高揚感も、邪魔されたことによる怒りも感じない。本当にいつもどおりだ。そのまま栄田は拳銃の構えを解いた。

 

「……どういうつもりだ沙雪。もう神父はいいのか。諦めたのかよ」

「食わせたくないのであろう?」

 

 そういい、沙雪は再びため息をついた。その様子は、『諦めた』というより、『ふてくされている』という様子に近い。

 

 ともあれ、沙雪に菅野神父を食らう意思はもうなさそうだ。栄田は拳銃をしまい、神父の元に駆け寄った。静の肉体からだろうか。腐臭とも屍臭ともいえる匂いが神父の周囲に立ち込めている。一瞬栄田は顔をしかめるが、すぐに気を取り直し、神父の正面に立って片膝をついた。

 

「菅野神父」

「……ッ……静……ッ」

 

 呼びかけるが、菅野神父からの返事はない。ただ一心に腐りきった静の身体を抱きしている。栄田は神父の両肩を掴み、ガクガクと揺らした。

 

「神父!!」

「!? け、刑事さん」

「いいか。もう一回、改めて聞くぞ。……一連の浮浪者殺しをやったのは、アンタか?」

 

 菅野神父は、質問を聞き終わるまで、目を見開いて栄田を見ていた。そして、崩れ落ちた静の身体をジッと見据え、そして……

 

「……はい。私が殺しました」

「……アンタを逮捕する。アンタにゃ黙秘権がある。これからあんたがしゃべることは、不利な証言として記録される可能性があることを、よく覚えておいてくれ」

「はい……」

 

 ポケットから手錠を出し、それを菅野神父の血まみれの両手首に回した。それでも、神父は静の死体のそばから離れようとはしなかった。

 

「安心しろ。その子の死体はキチンと弔っておいてやるから」

「……」

「ったく……あの化け物女に感謝するんだな。あいつの気まぐれのおかげで俺たちは命拾いしたんだから」

 

 栄田は立ち上がり、ため息をつく。疲れがドッと押し寄せ、身体が休息を欲しがっていることが分かった。

 

 沙雪は二人に背を向け、目を閉じている。不機嫌そうな表情を浮かべてはいるが、別段何かを仕掛けてきそうな様子はない。本当に神父を餌食にするのは諦めたようだ。

 

「おい沙雪」

 

 沙雪の名を呼んだ。沙雪は背中を向けたまま、顔だけを栄田に見せた。

 

「悪かったな。こいつには絶対に罪を償わせたかったんだ」

 

 そういい、栄田はポケットに手を突っ込んだ。手にガサガサと飴の包み紙の感触を感じ、自身が禁煙していたことを思い出す。苦笑いを浮かべながら、軽い舌打ちをした。

 

 対して、沙雪は相変わらず不機嫌そうな眼差しで栄田を見つめていた。

 

「ものは言いようだな」

「そうじゃねぇ。俺は刑事だ。犯罪者は絶対に捕まえる。勝ち逃げは許さねぇ」

「その言葉、己の胸にしかと刻み込んでおけ」

「へっ……」

 

 栄田も苦笑いを浮かべ、ポケットから飴を取り出して口に入れた。くどく感じていたはずの甘みが、今はとても心地よい。最良の形で仕事を終えたという事実が、この飴の甘みを心地よくしているのだ。

 

「甘ぇ……」

 

 

 

 そうして、栄田は菅野神父とともに静の埋葬を手早く済ませた後、警察署へ出頭した。

 

「静……本当に済まなかった……」

 

 埋葬が終わり簡単な慰霊の言葉を述べた後、菅野神父がそう言って静に涙を流しているのを、栄田は隣でジッと見ていた。

 

 右肩口に冷っとした感触を感じた栄田は、自分の背後に沙雪が浮かんでいることを感じている。栄田には、沙雪に一つ問い正したいことがあった。

 

「なぁ」

「なんだ」

「あの静とかいう子、これで成仏すんのかねぇ……」

 

 沙雪がぼわっと浮かび上がる。その真っ赤な眼差しに、気の昂りはもうない。

 

「なぜ私に聞く」

「お前ならわかりそうだと思ったからだよ」

「……私にもわからぬ。あの娘御は、ただあの男に死後苦しめられていただけに過ぎぬ。だがそれでも、己の苦しみを紛らわせるためとはいえ幾人かの男を残忍に殺した事実は変わらぬ」

「……」

「あるいはこの場にとどまり75年苦しみ続けるやも知れぬ。……だがあるいは極楽へ登り、心安らかな時を過ごせるやも知れぬ。それを決めるは自然の理のみ。我らの考えが及ぶところではない」

「そうか……」

 

 沙雪の口から告げられのは、重い事実。

 

 もし静が、自分の体に縛り付けられていたときと同じように、今後もこの土地に縛られ、苦しまなければならないとしたら……それでは、静があまりに悲惨だ。

 

 栄田は静のことはまったく知らない。久子と菅野神父の話を聞いただけで、会ったこともなければ見たこともない。だが話を聞いただけでも、薄幸だったが健気で良い少女だったということは、話の端々から伝わってくる。

 

 そんな子が、身寄りがないゆえに菅野神父と出会っただけで、無惨に殺され、魂を死体に縛り付けられ、数週間の間苦しみ続けた挙げ句に成仏も出来なかったとしたら……悲しすぎる。救いがなさすぎる。

 

 静を思い今涙を流している菅野神父の小さい背中を見ながら、栄田は思う。そんな境遇の静を不憫に思ったからこそ、菅野神父はなんとしても静を助けたかったのかもしれない。だからこそ、わざわざ鬼甦法の書物を大陸から取り寄せ、術を施してあんな姿にしてまで、静の命を救いたかったのかもしれない。自分の娘と思うほど愛していたのならなおさら。

 

 確かに菅野神父が行ったことは罪深い。自分の娘を蘇らせ、幾人かの浮浪者を誘拐してその娘に殺させた。その罪は絶対に許さない。刑務所で償ってもらう。

 

 だが、菅野神父のその気持ちは、今なら理解出来ると栄田は思った。要は愛し方を間違えてしまったのだ。確かに本物であった『娘を助けたい』という愛が、結果的に何人もの人の命を奪い、肝心の娘自体を苦しめてしまった。それは、完全な過ちだ。

 

「ところで栄田」

「ん?」

 

 栄田が物思いにふけっていると、沙雪が話しかけてきた。菅野神父の背中を見る沙雪の目は、栄田を見る目とさほど違いはない。菅野神父を食う気は完全に失せたようだ。

 

「お前、この件はこれで終わりだと本当に思っておるのか」

「終わりだろ。犯人は捕まえた。子供の遺体も埋葬した。あとは神父を署に連れて行って、裁判を受けさせ刑を受ければ……」

「ハンッ」

 

 栄田の返答を、沙雪は鼻で笑う。顔を見ると、栄田に対して呆れ返っているようにも見える。

 

「なんだよ」

「いや、やはりワラシだと思うてな。浅慮なものよ」

「どういう意味だ」

 

 沙雪の言葉の真意が掴みきれない。疲れ切った頭で必死に考えるが、栄田には沙雪が何を言いたいのかが理解できない。

 

「……いずれ分かる」

 

 その言葉を最後に、沙雪は栄田の前から姿を消した。あの赤い眼差しも見えず、右肩にも沙雪の冷たい感触はない。本当に消えたようだ。姿を見せる気もないらしい。

 

「おい沙雪?」

 

 声をかけるが返事はない。もう話をする気もないようだ。

 

 栄田が困惑していると、菅野神父が真っ赤に目をはらしてこちらに歩いてきた。

 

「刑事さん」

「……ん、もう別れはいいのか」

「はい」

 

 目こそ泣きはらして真っ赤になってはいるが、菅野神父は吹っ切れたような、晴れ晴れとした顔をしている。

 

「じゃあ署に行くぞ」

「はい。……ああ、その前に」

 

 思い出したように菅野神父は自分の服をめくり、右足に巻かれたくさび付きのベルトを取り外す。くさびが食い込んでいた場所は小さな傷になっており、そこから真っ赤な血がたらりと流れ始めている。

 

 菅野神父はそのベルトを栄田に渡した。

 

「……これ、あなたが処分しておいてくださいませんか」

「なんだよ。もういらねーのかそれ」

「はい。苦行ではない形で、罪を償います」

「……」

「たくさんの方を殺した罪と、自分の娘を苦しめた罪を」

「……分かった」

 

 こうして、菅野神父は栄田に付き添われ、署に出頭した。神父から渡されたベルトは、その日のうちに栄田によって処分された。

 

 

 

 その数日後、栄田は、沙雪の『これで終わりだと本当に思っておるのか』という言葉の意味を、ようやく理解することになる。

 

 

 

 その日、別件で署に立ち寄った栄田は、ついでに菅野神父に面会しようと思いたち、署の拘置所を訪れていた。

 

「では、こちらで警部補の持ち物をすべて預からせていただきます」

 

 入り口で係員に促され、栄田は持ち物すべてを係員の前のテーブルに出した。タバコ代わりに舐めている飴や財布、警察手帳……

 

「あ、それもお願い致します」

「ああ、すまねぇ」

 

 そして、懐にしまってあった拳銃と梵字が描かれた弾丸の予備も、すべて渡した。

 

「では手短にお願い致します。まだ捜査中ですので」

「分かってるよ」

 

 持ち物をすべて預け身軽になった栄田は、菅野神父がいる牢獄に向かって細長く薄暗い通路をあるき出した。その廊下は、あの日神父とともに歩いた地下道に、どことなく似ている気がした。

 

「なぜあの鉄砲と弾を渡したのだ」

 

 背後から沙雪の声が聞こえ、右肩に冷たい感触を感じた。あの日以来姿を見せてなかった沙雪が、ずいぶんと久々に姿を現したのだ。

 

「ここじゃこういう決まりなんだよ。武器になりそうなものは、持ち込み禁止なんだ」

 

 沙雪を振り返らず、歩きながら栄田は簡潔に答える。久々に姿を見せたとはいえ、接する態度は変わらない。菅野神父を巡って殺し合い一歩手前までやりあった相手とは思えないほど、栄田と沙雪は落ち着いている。

 

「なぜ武器を持ち込んではならん?」

「なんつーか……色々あんだよ」

 

 二人で暗い通路を歩く。カツンカツンと栄田の靴音が響き、その音が栄田の耳にうるさいほど響く。口寂しく感じた栄田は自身のポケットに手を入れるが、タバコはもちろん、飴すら今はない。心の中で軽く舌打ちをしつつ、栄田は歩を進める。

 

 牢獄が並ぶ区画に入った。区画を区切る鉄製の格子を開き、栄田は沙雪とともに区画に入る。

 

「あの者はどこにおるのだ」

「一番奥らしい」

「他の牢にはなぜ誰もおらん」

「今はあの神父一人だけなんだろ」

 

 沙雪が言う通り、他の牢には誰一人として犯罪者がいない。栄田が知ってる拘置所は、もっと犯罪者で溢れかえっている。それはどこの警察署でも例外なくそうだ。だが、今日は人が一人もいない。人の気配すらない。

 

 妙なざわつきを覚えるが、気にしないよう栄田は進む。牢の窓から夕方の西日が差し込で、それが区画全体を橙色に照らしている。

 

「もう夕方か」

 

 窓の外を見て誰に言うでもなく、栄田はそう口にした。前を向くと一番奥の牢が見える。中は見えないが、菅野神父はその牢にいるはずだ。

 

「あそこだ」

 

 沙雪は黙ったまま栄田についていく。その表情に感情の動きはない。

 

「神父さん、元気か?」

 

 そう声をかけながら、栄田は牢の中を見た。その途端、栄田は目を見開き、中の様子に絶句した。

 

 橙色の夕陽の逆光の中、半裸の菅野神父が、こちらに背を向けて首を吊っていた。

 

「な……」

 

 神父の背中……いや身体中はそれこそ傷だらけだ。背中は鞭の痕のような傷が大量につき、そのいずれからも血がダラダラと流れ出ている。腕や足、そして首にはくさびがついたベルトが多数ぎっちりと巻かれ、それらが食い込んだ箇所からも血が大量に流れていた。

 

「だから申したのだ」

 

 その光景を呆然と見つめる栄田の背後で、沙雪が静かに語りかけてきた。その声に抑揚はないが、どこか栄田への説教のようにも感じられる

 

「あれほどの闇を抱えた魂は妖かしにとって無上の美味。故に妖かしの心を掴んで離さぬ」

「なんで……」

「私が食わずば、他の妖かしの餌食になるは必定」

 

 ハッとして沙雪を振り返る。沙雪は菅野神父の遺体を指さした。その指の先を目で追う栄田。

 

「キキッ……」

 

 菅野神父の身体に、小人のような化け物がしがみついていた。背は40センチほどで肌は黒灰色。下腹だけが醜く出っ張った痩せぎすの身体で、頭からは小さな角が一本生えている。口から長い舌を出し、その舌で菅野神父の血を啜っていた。栄田と沙雪には気付いていない。ただ一心に菅野神父の血を貪っている。

 

「ここは拘置所だぞ。逮捕された奴はここには何も持ち込めないはずだ。それなのになんで首吊りの縄とかベルトとかがあるんだよ」

「あの子鬼が持ち込み、男をそそのかしたのであろう。ようは私がやったことと同じことをやったのだ。かような場所であれば、逃げ場もなかったであろうな」

「……ッ」

「いずれ何者かに食われるとは思うておったが、かように下賤な者に取られるとはな。口惜しや……」

 

 沙雪自身はそういうが、表情からはあまり感情は読み取れない。

 

 一方の栄田は、ただ苛立っていた。菅野神父が亡くなったことが無念なのはもちろんだが、あの日すべて終わったと思い込み、菅野神父に死を許してしまったことが許せなかったのだ。

 

 ここに来て、あの日の沙雪の言葉に重みが増した。あの日、沙雪は自分に対し『気を抜くな』と伝えていたのだ。まだ終わりではない、神父はまだ狙われていると栄田に教えてくれていたのだ。

 

 栄田は、沙雪のその言葉を無視してしまっていた自分を恥じた。命を救われ、罪を償うと言ってくれていた神父を救えなかった自分を恥じ、その無念で歯をギリギリと食いしばった。

 

「なぁ沙雪。もう意味ないだろ。食ってもいいぞ」

「かような子鬼の食い残しなぞ、たとえ無上の美味であってもいらぬわ」

 

 そんな投げやりの言葉をかわしてしまう。

 

 子鬼が二人に気付いた。さっきまで恍惚の表情を浮かべていた子鬼は途端に顔が真っ青になり、菅野神父の身体を駆け上がって頭を蹴って跳躍した。子鬼の跳躍によって神父の身体がギシギシと揺れる。夕陽の中、逆光で真っ黒に見える神父の身体が、ゆっくりと左右に揺れた。縄がきしむ音が、静かな部屋にギシギシと鳴り響く。

 

 ゆっくりと揺れる菅野神父に栄田は背を向け、出口に向かって歩き出す。その足取りは重く、響く足音も先程と比べ、重く、鈍い。

 

「行くぞ。神父が自殺したことを伝えなきゃならねぇ」

「誰にだ」

「色々いるだろ。職員とか、久子さんとか……」

「お前が疑われるかもしれんぞ」

「いいよ。実際俺が殺したようなもんだ」

 

 太陽が陰り始め、橙色の室内が少しずつ暗くなっていった。菅野神父が揺れるギシギシという縄の音は、栄田と沙雪が区画から出るまで、栄田の耳に張り付き痛々しく鳴り響き続けた。

 

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