『まもなく電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください』
アナウンスがホームに響く。始発の時間帯のため辺りには人気が無く、シーンとした空間が続いている。
「えぇと、市役所までは○△駅で降りて……3番口から2分ほどじゃな。 3番口ってどっちじゃろう」
困ったように目尻を下げれば、付き添うように尻尾とお耳も垂れ下がる。我ながら感情表現が豊かと云うべきか、自身の感情に呼応してわにゃわにゃと動き回る。可愛いね。
すすいと液晶を操作すると画面に市役所までの最短経路が浮かび上がる。遠出をする時、無計画な自分にとって地図アプリは本当にありがたい。電車の乗り換えから目的地の道筋までおおよその所要時間まで併せて教えてくれるものだから、より一層ダメ人間、もとい狐っ娘に近づいている気がする。それにしても3番出口は何処にあるのか、このアプリではそこまで仔細な情報は教えてくれないようだ。
そうこうしていると、ホームに風が吹き込んでくる。万が一にもドスケベ下着が見えないよう、少しでも油断すればドスケベ下着が顔を出しそうな丈のミニスカートを抑え尻尾も下げる。こうしてみると、改めてスカートの丈短いな、と嫌でも感じさせられる。
プシュウ、という音が鳴り続けざまに扉が開く。地下鉄に乗り込むと、もしも他の乗客が乗り合わせても問題ないように、一番左側の座席へと腰を下ろした。
『お待たせいたしました、まもなく発車いたします。閉まる扉にご注意下さい』
再びアナウンスが告げられると、電車の扉が閉まり、次第に車窓の景色が動き出し始める。同時に慣性の法則も働き始め、倒れないように重心を維持してみるもののつかの間、バランスを崩しそうになったので座席横のポールを必死に掴んで事なきを得た。
(ぇへえ……儂そんなに力弱くなっとるんか……まさか電車で転けそうになるとは……)
以前までは考えたことも無かった自体に直面し、嫌でも自身はか弱いご尊顔天才美少女狐っ娘になってしまったのだと実感する。ふと、こんなにも非力であれば、味付け海苔の蓋も開けられないのではと悪寒が過ぎる。周知の通り、味付け海苔の蓋は個体差はあるものの総じて固く密閉されており(個人の所感)、男の時でさえ開けづらい個体に度々遭遇するのだから、この姿では言うまでもないだろう。
物心ついた時から、自身は味付け海苔と共にあった。ご飯に海苔、パンにも海苔、間食海苔のみ。軽度の海苔中毒と言って差し支えないほどに、海苔を愛していた。それを思うと、非常に心が苦しい。最悪の場合、物理的に障壁をこじ開ける他ないだろう。
そんな考え事の折、『次は××駅ィ、××駅ィです。お乗り換えのお客様は左のドアからお乗り換え下さい』というアナウンスが聞こえてきた。どうやら、1つ目の駅に着いたようだ。次の駅で降りなければと思い、ふと顔を上げるとそこには学生とサラリーマンが混じり合い、群れを成していた。
(え……ええ……??)
思わず思考がフリーズする。思わぬ現実が自身をねじ伏せようと立ち塞がったのである。プシュウ、と扉が解き放たれるとズラズラと人の並が押し寄せる。奥へ奥へと人が推しつめられ、隣の席にズシンとサラリーマン、真正面真横に学生のお兄さん方がミチミチに込み合い、もはや立ち上がる事さえはばかられるような、隙間のない密閉空間が出来上がってしまった。
(ち、ちかいんじゃが……! 儂のパーソナルスペースが犯されておる……!! なんか嫌じゃ、怖いんじゃが……!!!)
ギチギチのおしくらまんじゅうの末、自身の安心感を担保してくれるパーソナルスペースは一瞬で封殺され、辺りには人・人・人ばかり。加えて周囲の人々はカッターシャツやスーツを着た一般的な社会人達であり、お気に入りの狐が刺繍された肩掛けポーチにあからさまに丈の短い巫女服ミニスカートを着用した天才ご尊顔美少女低身長狐っ娘がポツンと座っていれば、注目されるのは自明の理である。
その証左に隣のサラリーマンはスマホを操作しながらも流し目でこちらを覗いているし、真正面の学生のお兄さんは頬を紅くしながらこちらを見つめていた。女性は視線に敏感とはよく耳にするが、どうやら元男である自身もその例に漏れず、肌でその視線を感じ取ることが出来る。
(うへぇ……めっちゃ見られとる……。そんなにまじまじと見つめられるのは慣れとらんし、恥ずかしいんじゃが……。少し注意してみるか?)
「んんっ」とわざとらしく咳き込むと、途端に視線が散開する。
(うむ、これで良いじゃろ。しかし、儂がこんなにも見られるとは……やはり日常で巫女服に身をやつした天才美少女狐っ娘を見る機会など少ないからのう……こうなるのも無理はなし、なんなら前までの儂でも同じ事をするじゃろうしな……)
(となると、こやつらはこのご尊顔を拝む機会は殆ど無いに等しい……ということじゃな。それは、とても悲しいことじゃ……)
自身の肯定感が類を見ないほどに高い自身にとって、この幸福を共有出来ないことは公共の福祉に反するのでは無いかと、ふと思う。しかし、自身は今日とんでもないドスケベ下着を着用しており目立つのはご法度である。個人の幸せである幸福追求権と公共の福祉の天秤にかけ、脳内で裁判を行った結果、ファンサして上げたら皆幸せになれるのでは無いかと判決が下された。とするならば行動は早いに越したことはない。
「ん゛っ」と再びため息をついて、周囲の視線が再度集まるのを感じ取ると、まるで天を穿つ摩天楼のように、ふっさふさでつやっつやのお耳をぴんっと立てあげた。
ビクッ、と真正面のお兄さんが驚いたものの、続けざまにお耳の先っぽををぴるぴるっと二、三度動かしてみるとその視線はどうやらお耳に注がれたようである。
左右、前後と立て続けにお耳を動かしてみると後を追うように視線が付いてくる。何度か繰り返してみると、同じ様にお耳に併せて視線が動く。
(ふへ……こやつ、儂のお耳めっちゃ見ておる……! 可愛いじゃろ? 儂のお耳……!! もっといっぱい見ていいんじゃぞ……!)
すると、少し加虐心がくすぐられ、お兄さんが理解出来るように、ゆっくりゆっくりとお耳を下へ下へと下げていく。すると、親ガモに子ガモが着いていくように、従順に、ゆっくりゆっくりと視線が下がっていく。
ぺたり、とついにお耳を伏せると、お兄さんはファンサが終わってしまった事に寂しさを覚えたのか、目尻が下がり、はっきりと分かるように残念そうな顔を浮かべてしまっていた。
(はああ……!! こやつ儂のお耳好きすぎじゃろ……!!! いっぱい見ておったもんな……♡ お耳降ろしたらすぐ今にも泣きそうな顔をしておる……♡♡ 大の男がじゃぞ??? もっといっぱい見たかったもんな……♡♡♡)
不意にゾクッ、と背筋にナニカが通る。瞬間、未知の感覚に恐怖を覚えるものの、すぐさま淡くてフワッとするような、頭がぽわぽわするような、甘い感覚が脳にほとばしるのを感じる、感じ取ってしまう。
(な、なんじゃこれ……??? 知らん知らん……!!! なんじゃこれ……♡♡??!)
頭がパニックを起こしたのもつかの間、ナニカが頭の中に、魂に、直接情報を押し付けてくる。お前は今、大の男を自慢のふさふさでつやっつやのお耳で弄んだことに言い知れぬ背徳感を覚えているのだと。かつて男であったお前が大の男を弄ぶ事に甘い悦びを感じているのだと。
ゾクゾクゾクッ……♡♡♡
理解した、理解してしまった途端、今までに感じたことの無い快楽が体を駆け巡る。頭、心臓、お手手、足先を伝い、再び頭へと駆け上ってくる。ガチガチガチっ、と力いっぱいに結んだ唇の内側で歯を食いしばり、お手手を必死に握りしめ、足先をぴーん♡と伸ばし、必死に抗いようのない快楽を耐え凌ごうと試みる。
しかし、終わりようのない幸せが砂浜の砂上の楼閣を押し流すように、ゆっくりと、されど確実に理性を押し流していく。
(……ッ♡……♡♡……フゥ゛ッ……♡)
急な異変に周囲の乗客は訝しむものの、当人は必死に快楽の波を食い止めようと踏ん張っている。しかし、徐々に城壁は溶け堕ち、ついには甘美の海に沈んでしまう。
(あ……♡ だめじゃ……♡♡ なにも……♡ なにも、かんがえれん……♡♡♡ まける♡♡♡♡)
……ヘッ……ヘッ……ヘッ……♡……ヘッ……♡♡」
必死に耐えていた狐っ娘は幸せに敗け、そのご尊顔にあらざる醜態を周囲に晒す。艶があり、どこか色気がかったお口からは情けない長いベロがぶらーんと垂れ下がっており、その舌先にはヨダレがつーっと滴っている。頭を快楽で犯され、体全体で息をしているかのように痙攣しており、力の入らなくなった両足は、かぱっ♡と無様に広がってしまっている。度重なる痙攣によって衣服が少しづつズレ落ち、あわや乳輪が見えてしまうのではないか、それほどまでに乱れた姿を晒す。
滴った涎は一筋の糸となって、ミニスカートへ垂れ落ちる。もしも、乗客が少なく対岸の座席に座っていた場合、ガードゆるゆるのミニスカートの下にお据わるドスケベ下着が顔を出していたことであろう。
(あ……♡ あへ……♡♡ んへっ……♡♡)
「ん……♡ ヘッ……♡ ハヘッ……♡ オヘッ……♡♡」
△△
「……か、 大丈……か?」
ふと、呼びかけられた声に内海から意識が舞戻る。
「大丈夫ですか?」
「んおっ……わしは……ねておったのか……?」
「うなされていたようでしたので、大丈夫ですか?」
どうやら電車で揺られている間に眠ってしまっていたようだ。なにやらかなり際どい夢を見てしまっていたようだ。下腹部がとくん、とくんと胎動している。覚醒そうそう、このお兄さんに少し興奮気味なのがバレてはいないか、気が気では無い。
「あ……はい、儂は大丈夫なので……」
『○△駅ィ、○△駅ィです。お乗り換えのお客様は……』
「あ゛っ!!! すみません、降りますのじゃ!!!!!」
人混みをかき分け、なんとか駅のホームに降り立つ。まさか2駅程度で眠ってしまうとは、非日常の衣装を着用していたためか緊張していたのだろうか。帰りの電車は眠らないように気をつけなければ。
駅のホームを後にし、階段を登っていく。ドスケベ下着、見えておらんよな????!
乗客A「あれ、やばかったよな……すっげーエロかった」
乗客B「やっべぇ……俺もう普通じゃ抜けねぇかもしんねぇ……」
4話が少しアウトかもしれなかったのでR18タグ設定したのですが、併せてR18のお話、ここの小説で書いてもよろしいでしょうか?
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大丈夫
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別のタイトルでやって欲しい