ブルーアーカイブR-18作品、5作品目です。
今回はシグレのお話です。
ノドカと先生で気持ちが揺れ動いていた彼女が幸福に酔っていくまでのお話です。
五部作仕立てで、五日連続で投稿していきます。
よろしければお読みください。
※先生の容姿の設定があります。ご注意ください。
爽快期――Refreshing period
If it's alcohol, it feels refreshing. But it's painful in this love anyway.
My cheeks are slightly red. I feel that my judgment is also dull.
私――真宵シグレには心から愛するものが三つある。
一つ目はお酒。
レッドウィンターの極寒環境でもウォッカを飲めば手軽に身体を温めてくれるし、バルチカを二本も飲めば山積みの問題や赤貧で大変な227号特別クラスでの大変な日々、そして直視したくない現実を一時だけ忘れられる。量の足りない配給のご飯も密造したラタフィアと食べれば美味しくなるし。私の人生の調味料、いや命の水と言っても過言ではない。これから先の人生でも切っても切り離せない大切なものの一つだ。
二つ目は私の幼馴染である天見ノドカ。
ちょっと覗き見が好きでスケベな可愛らしい私の親友。私の幼い頃から常に隣にいた運命共同体。厳しいレッドウィンターの気候にも貧乏な暮らしにも負けずに私が今まで成長できたのは、彼女が側で笑っていてくれたからだ。だからノドカが227号クラスに送られることが決まった時、私も着いていくと決めた。校則違反で不良生徒の烙印を押されても構わない。ノドカは私の天使なんだ。この娘を守るためなら、飢えも寒さも怖くはない。彼女となら地獄にだって一緒に行って見せる。ノドカの幸せを守ること、ノドカの笑顔を守ること。それこそが私の生きる意味だ。
そして三つ目が――本当に、ほんとーに認めたくないんだけども――シャーレの先生。
彼を端的に言い表すと――お人好しな、不思議で奇妙な魅力の持ち主だ。白い癖毛、真紅の瞳。耳に残るハスキーボイスと細長い笑顔が魅力的な、枯れ木のような身体に宿る決して折れない強靭な心の持ち主。骨ばっているけど大きな掌はいつも優しく生徒の頭を撫でて、生徒が困っていればその細くて大きな身体に鞭打って、細長い人差し指をピンと立てながら問題解決に当たる姿を各地で見かける。彼はどんな生徒にだって優しく、そして生徒の秘めた本当の感情を見抜き、その理想のためにできる限り寄り添ってくれる。そして心を読んでいるかのような推理力も持ち合わせている。私が密造酒を作って227号特別クラス送りになった本当の目的――ノドカを守るためという目的を推理し言い当てて見せたのは今も昔も先生しかいない。そういった生徒の目標、夢、理想を尊重し、人道やルールを破りそうになった時は必ず止めてくれて、いつだって全力で応援してくれる。生徒みんなにそれもするもんだから、彼はいつだってたくさんの生徒に尊敬され、惚れ込まれ、愛されている。like、loveの区別なくみんなが先生を独占したいと願っている。異性として、惚れ込まれているんだ。
私の大切な、ノドカすらからも。
――悔しいよ。ほんと、酷いよね? これまであの娘にとっての大切は間違いなく幼馴染の私だったはずなのに、あの娘の視界を独占していたのは私だったはずなのに、先生ときたら横入りしてきて甘い言葉や優しい態度取って、ノドカの思いも執着も視界も全部、ぜーんぶ持って行ったんだ。今のノドカの視界には先生しか映っていない。彼以外の盗み見はしない。ずっとずっと先生を追いかけている。――私は片隅にすら映れない。
嫉妬しちゃうよ。
私の方が先に仲良くなったのに。
私の方が絶対付き合い長いのに。
私の方がノドカを知ってるのに。
後からしゃしゃり出てきた先生の方が愛されているんだもの。
でも、何よりも気に食わないのは、胸が痛いのは、途方も無く苦しいのは――私自身も、ノドカを奪った先生のことが好きで、愛しているっていうことだ。
一目惚れだった。彼の内面を知るとか知らない以前の問題だった。初めて対面した時の心臓を文字通り鷲掴みにされるような動悸と内臓を吐き出してしまいそうなほどのときめきは今も忘れられない。少し中性的で、でも男らしさを残した立ち振る舞い。細すぎず太すぎない塩梅の身体。人間らしくない幽鬼のような風貌でありながらはっきりとした意思の持ち主。私の耳の細毛をくすぐるハスキーボイス。私が「いつか」巡り会えたらいいなと思っていた理想の異性だった。自分がこんなに面食いだとは思っても無かった。でもその姿を見た瞬間に、私はこの大人と恋をし愛する定めなのだと確信するほどの運命を感じたんだ。
だからこそ苦しい。
ツイてないよね。幼馴染同士が同じ人を好きになるなんて、愛するなんて。好きな人を射止めるためには、同じぐらい大切な友人を、幼馴染を蹴落とさないといけないなんて。
私は途方もなく苦しんだ。出来ることなら私も先生と仲良くなりたい。好きって伝えたい。恋仲になりたい。愛してもらいたい。独占して私だけ見ていて欲しい。でもそれが叶うと言うことはノドカの恋が破れるということでもある。自分の恋心とノドカの幸福。私の心の内ではいつもこの二つが天秤の上に乗せられてゆらゆらと私の感情を揺さぶっていた。そしてその天秤がどちらかに傾くことは決して無く、私はどっちつかずの態度を取り続けた。自分の心を決められなかったんだ。
ノドカには先生がくっついて幸せになれるように心からの助言をして。
なのに先生と二人きりの時は私のことを意識してもらえるように、私だけを見てもらえるように「女」としてのアピールをやめなかった。
私の意思では先生を欲しはしないけど、先生が自分の意思で私を選んでくれたら、生徒の誘惑に負けて手を出す悪い大人になってくれたら、私はなんの落ち度もなく先生のものになれる。恋人になれる。そんな浅ましい発想で二枚舌のような立ち振る舞いを続けることで私は自らの中で矛盾した恋慕を誤魔化し続けた。
先生は強敵だった。
先生は大人だからお酒を飲めるのに、生徒の前では飲むわけにはいかないと断固として断り、私の飲酒を見かけたら全力で止めてくる。温泉での混浴もしてくれないし。なんというか、愚直に正しい大人であることを徹底し続けていて、悪い大人の一面はおくびにも出してくれなかった。
ずるいなぁ。
たくさん先生のことが好きな生徒がたくさんいるのにさ。どうにかしてみんな振り向かせようとしてるのにさ。あの人は全く動じないで、いつだって生徒を導く真面目な堅物を貫き通している。
少しぐらい私と……ノドカに振り向いてくれてもいいのにな。別に先生も人間なんだから
私はいつまで経っても葛藤ばかりで決意できなかった。いつしかどっち付かずのその態度は習慣になっていき、私は先生を揶揄うふりをしながら誘惑し続けるちょっと悪い問題児、ずるい生徒であり続けることになった。
もうこれ以上先生には踏み込めず、私は卒業するのだろうと覚悟し始めた頃。
私の軽はずみな行為で、私と先生の関係は致命的なほどに進展してしまうことになる。