酩酊期――Indengment period
I fell into the depths of love and became a body that I can't go back to.
I'm angry at myself for not being able to keep my promise.
But I love you. I love you.
I want to say this out loud. But I'm afraid of being rejected.
先生と結ばれたあの日から私の生活は変わった。
先生はあれから悪い大人の一面を隠さなくなった。
私を頻繁にシャーレの当番として指名し、呼び出しては抱いた。犯した。週に一度は夜通し交わっているのかな。当番の日以外でも時々227号クラスを訪れてくれてはいつも以上に物資を送ってくれるようにもなった。勿論その日も愛し合っている。私と二人きりの時にお酒を飲んでくれるようになったし、私がお酒を飲むことも許してくれるようになった。お互い酔いながらセックスした時の浮遊感はいつも以上にぽわぽわとした浮遊感があって心地よかったからよくやってる。あとは温泉での混浴と湯船の中でのセックスも気持ちよかったな。抱き止められながらあったかい湯船の中でぽちゃぽちゃ優しく犯されるのも愛されている感覚があって砂糖菓子のような甘露のように甘く切ない交わりだった。
デートもたくさんした。二人きりでディナーに行ったり、釣りをしたり、お酒を買いに行ったり……恋人らしいことは一通りした。人気の少ない場所じゃないと恋人繋ぎはできないけど、夜たくさんしてるから不満はないかな。二人で夜空を見上げながら深いキスをした時間は今まで見た星よりも綺麗に心に焼き付いている。
私は今人生で一番満ち足りている。
こんなに愛されて愛するのが心地よくて楽しいのなら、もっと早く正直になるべきだったなぁ。ノドカには悪いとは思ってる。けど選ばれたのは私だもんね。私だけが独占していいって先生が言ってくれたもんね。だから誰にも先生は渡さない。卒業して本格的に夫婦になるまでずっと、一緒だ。
先生と会うのが楽しみ。先生と戯恋合うのが楽しみ。先生と結ばれるのが楽しみ。
あぁ、吐き気が込み上げるほどに私は幸福だ。
……吐き気?
「……うそ」
私は絶望していた。手の中の小さなプラスチックの機器に。それは細長く、中には特別な溶液を浸した紙が入っている。機器の判定窓には赤い線が二本。私の体液に反応して現れた赤い線。
――私が妊娠したことを示す、妊娠検査薬の赤い線。
わたし、先生の子供を、孕んじゃった。
「う、そっ……うそっ……うそっ……!」
検査薬を落として膝から崩れ落ちてしまう。どうして。お互い同意の上で避妊していたのに。卒業するまで本番は、本気の交尾はしないって約束したのに。
眩暈がする。ひたすらに口の中が酸っぱい。冷や汗と震えが止まらない。どうしよう。先生になんと言えばいいんだろう?それに、227号クラスのみんなにも、ノドカにもどう説明すればいい?まだ……まだ、お腹は膨らんでないけど……多分、時間の問題だ。すぐに私の身体は妊婦になってしまうだろう。そうしたら誤魔化せない。
そもそもバレるのが227号クラスだけで済むはずがない。レッドウィンターの生徒、そして最悪キヴォトス中の生徒に知れ渡ったら?――多分、先生が酷い目に遭うだろう。先生は私以外の生徒のアプローチを断固として断って、清い大人を演じているのに、私と交際して挙げ句の果てには子供まで孕ませたなんて事実が明るみになれば――間違いなくあらゆる学校や生徒から追及され弾劾されるだろう。下手したら暴走して手を出す生徒までいるかもしれない。先生は今でも全力で私との関係を誤魔化して隠蔽しているのに、これ以上私の妊娠という秘密を背負わせなければならないなんて……
頭の中で激しい旋律が駆け巡る。優しいけどリズムが乱雑で不協和音塗れ、変調と高音混じりの中途半端に音の切れたピアノの乱打。いつか鍵盤が弾けて吹き飛ぶのではないかと言わんばかりのメロディに耳を塞ぐ。それでも旋律は止まらない。どうすればいいの……わたし……わたし……先生の子供を身籠ることは嬉しい、けど、こんな早くに、最悪のタイミングでどうして……っ!
「シグレちゃん? 大丈夫?」
蹲って嗚咽を漏らし、妊婦特有の吐き気に襲われて動けなくなっていた私を見つけた生徒が声をかけてきた。
――あろうことか、ノドカだった。
「なんか最近すごく体調悪そうだから心配して見にきたら泣き声が聞こえてきたから……シグレちゃん、どこか気持ち悪いところあるの?」
「い……いや……そんなこと、ない、よ……」
私は答えられなかった。ゆっくり近づいてくる彼女に後退する。彼女の目が見れない。彼女への裏切りの証拠は私のお腹の中にいる。見せたくない、バレたくない。
だから。
「っ!? シグレちゃん!? 何処行くの!?!?!?」
私は気づいた時には走り出して、227号特別クラスから飛び出していた。
それからレッドウィンターの都市部の路地裏に隠れるように過ごしていた。227号クラスの生活が赤貧だったこともあって路上生活には困らなかった。でもそれもすぐ終わりがきた。お腹が大きくなり始めたのだ。まだ厚着で誤魔化せるとはいえ、いずれ服の上でも目立つようになるのは時間の問題だろう。これを他の生徒に見られたらまずい。
私は都市部からも離れた。行く先が思いつかず、頼る人も思いつかず、お腹の子を守るための家もない。これでは一人で隠れてこの子を産むことすら出来ない。
苦しい。辛い。先生に会いたい。でも頼れない。毎晩自分で起こした焚き木の前でわんわんと泣いた。それでも気分は晴れなかった。日に日に大きくなっていくお腹の子の重みが私の心の重みになる。でもこの子には罪はない。悪いのは私なんだ。先生との簡単な約束すら守れない私が悪いんだ。私が約束さえ守れていれば、いれば……ずっとずっと、幸せだったのに……。
ほとほと困り果ててたどり着いたのは銭湯だった。――私が先生と結ばれた場所だった。顔馴染みの店員が入口でポツンと佇んでいた私に声をかけてくれて、ある程度嘘を交えながら状況を説明したらとりあえず暫く泊まっていいとご好意を頂いた。
ありがたかった。
もう一度だけ先生と初めて結ばれた部屋で思い出に浸りたかったから。
込み上げてくる吐き気と少しふらつく足を懸命に動かして、あの日の従業員宿舎の扉に手をかける。
中には既に敷布団が引かれていた。誰かが寝ていた形跡がある。この、匂いには、心当たりがある。先生が隠れて吸ってるタバコの匂いだ。まさか――
「シグレ……?」
布団の匂いを嗅いでいた私に、あの優しい声が降り注いできた。部屋の窓枠に腰掛けて、あの時の浴衣を着た先生が、そこにいた。
「せ、んせ……い……?」
最初は幻かと思った。会いたいという願いと極度の疲労が見せた幻覚だと思った。だけどゆっくりと頬に差し伸べられた細く逞しい指が、掌が、あの真っ赤な瞳が、確かに目の前の先生が本物だと教えてくれた。
「ひ、あっ」
情けない声を出して私は後退した。先生と出会うということは私の身体の異変を悟られるということ。そしてそれは先生に更なる重荷を背負わすということでもあった。だから反射的に拒絶しようとした。だけど私の弱り切った身体は逃げ出すだけの力が無く、足がもつれて転びそうになる。
「シグレ!!!」
体勢を崩した私の身体を素早く先生が抱き止める。――私のお腹を庇いながら。
「せん、せい……?」
「落ち着いて……もう一人の身体じゃないんだから……」
先生の言葉に胃がキュッと締め付けられた。――先生は私が妊娠したことに気づいている。
「シグレ……ごめんな……気づいてあげられなくて……」
なんで謝るの。なんで泣いているの。悪いのは私なのに。約束破ったのは私なのに。子供ができちゃった私なのに。
先生の涙に釣られて私も涙が止まらなくなる。今までもたくさん泣いていたのに、涙腺が千切れるまで泣いたはずなのに、ボロボロと涙が溢れてきて……こんなに先生は、泣くまで私のこと思っていてくれたのに、私、わたし、わたし、勝手に悪い想像ばかりして、逃げて、不安にさせて……
先生が私のこと拒絶するはずないのに。
先生が私のためならなんだってするって知ってるのに。
先生は私を心から愛しているっていうのに。
「グスッ……ごめん……ごめんなさいせんせい……いなくなっちゃってごめんなさい……逃げちゃってごめんなさい……!」
「いいんだ……! シグレとお腹の子が無事なら……! 俺こそ、気づいてあげられなくてごめん……! 辛い思いさせてごめん……!」
お互い抱き合いながら、号泣しながら、深い口付けをした。前と変わらず先生の唾液は幸せの味がした。それに安心した私は糸が切れたかのように意識を手放した。
瞳を開けるとそこは見覚えのある木造の天井だった。あの日私と先生が結ばれた宿舎の天井だ。あれから意識を失ってから布団で眠っていたようだ。
「シグレ……! 目を覚ましたか……! 具合はどうだ……!?」
私が上半身を起こしたのに気づいた先生がドタバタと駆け寄ってくる。今までに見たことないぐらいの焦燥と安堵を浮かべた先生の顔を見たらあっという間に身体の重さが吹き飛んで、ちょっと笑みが漏れた。
「先生……私、あれからどれだけ眠ってた?」
「まるまる三日は眠っていたよ……無理もない。妊婦の身体で路上生活なんて、疲労して当然だから」
「先生、仕事は?」
「全部放り投げてきた。今頃リン辺りが怒っているかもしれないな。……でも、シグレが起きるまでは離れたくなかった……」
先生もあんまり眠っていないのか、目にクマができていた。ずっと私のことを見守っていてくれたようだ。――嬉しい。すごく、嬉しい。
「……君が227号特別クラスから逃げ出したことは、ノドカから聞いたんだ」
先生が私に寄り添い、肩を抱きしめながら呟く。離さないように、力強く。
「ノドカは……全部、俺たちの関係を知っていた」
「えっ……!?!?!?」
思わず大きな声が漏れた。一番隠しておきたかった人に、何もかもバレていたなんて……私の裏切りが。なんと弁明すればいいんだろうか……?
「正直俺も面食らったよ……殆ど盗み見てたんだってさ」
「な、なんて言ってた? その、ノドカは、私たちの関係……」
「このまますれ違い続けるなんてダメです、早く見つけてもう手離さないで、絶対幸せにしてあげて下さい……って怒られたよ。出来なきゃ関係をキヴォトス中にバラすとまで脅されたな……」
ノドカ……自分だって先生のこと好きなのに、私と先生のことを考えてくれていたんだね……。抜け駆けした私に怒らずに……先生に声までかけてくれて……。かけがえのない友人を裏切ったのになお私を思ってくれていたことが嬉しくて、また涙が溢れてくる。自分勝手だなぁ。私は裏切り者なのに。
「まぁ、そのノドカの知らせで……君が妊娠してしまったってことを知ったんだ」
先生が私の服越しでもわかるようになってきた大きいお腹を撫でる。先生の掌の硬い感触が心地よい。なんだかお腹の中の子も気持ちよさそうに跳ねている気がする。
「延々と君を探した。居そうなところを探した。だけど見つけられなくて……困ったところで辿り着いたのがこの銭湯だった。従業員に頼み込んで宿舎を借りてシグレとの思い出を懐かしんでいたら……君が来たんだ」
「……殆ど私と同じだね、ここに辿り着くまで」
「あぁ……きっと運命なんだろうな。俺たちはもう切っても切れない縁なんだ。だから、シグレ」
先生が私の左手を掴んで、優しく薬指を摘み上げた。
「もう先生と生徒は終わりにしよう」
摘み上げられた指に、冷たく硬い何かが嵌められた。視線を落とすとそれは銀色に輝く宝石が嵌め込まれた鉄の輪……指輪だった。
「結婚しよう、シグレ。君を俺の妻にさせてくれ。俺と君の仲は何があっても隠し通す。君も、お腹の子も、幸せにする。もう手離さない。受け取ってくれるか……?」
先生が片膝をついて、私に頭を下げた。その身体は震えていた。恐怖なのか、感極まっているからか。そんな先生の全力の思いに私はまた涙を流した。これは間違いなく歓喜の涙だ。
だいぶ未来だと思っていた夢が、お嫁さんになる夢が、今叶おうとしているんだから。
答えは勿論決まっている。
「……はい。喜んで。末長くよろしくお願いします……あなた」
先生を抱き寄せた。お互い涙が止まらなかった。もうずっとお互い泣きっぱなしで畳には涙の跡がたくさんついていた。それでも私たちは嗚咽を溢しながら抱きしめあってこの瞬間のときめきを、最高の瞬間を共有し続けた。
しばらくずっと抱き合っているうちに、感情がおかしくなってきたのか私は堪え切れない情動が湧き上がってきた。多分今の幸せが別の感情にすり替わっているだけだと思うけど、我慢せず先生の耳元で囁いた。
「せんせい。また抱いてよ」
「……っ、でも、シグレ、君は……」
「うん、赤ちゃんいるけど……でも、あなたと……今すぐ繋がりたい……何の隔たりもなく……ダメ?」
「……分かった。激しくはしないぞ。いいな?」
こくりと頷くと、先生は私を優しく布団の上に横たわらせた。着ている服を丁寧に脱がされて、あっという間に裸にされてしまう。大きくなったお腹を先生に直接見られて恥ずかしいけど、でもそれを上回るぐらいに先生とまた繋がれると言うことが仄暗い女の情欲を掻き立ててきて堪らなかった。もう膣は愛液でぐちょぐちょで、早く先生と繋がりたいというメスの欲望剥き出しだ。そんな光景を目にしたのか先生の股間も浴衣越しにわかるぐらいに盛り上がっていた。
「先生もその気じゃん……♡」
「……シグレがエッチすぎるからだよ」
先生がおちんちんを取り出して私の性器にあてがう。コンドーム越しじゃない、ナマの接触にビリビリと快感が走る。横になっていると大きなお腹で見えなくて思わず上半身を持ち上げて繋がる瞬間を目に焼き付けようとする。ゆるゆるとおちんちんが入っていく光景に、内臓全てが糸で釣られて持ち上がるような、息ができないほど苦しくて気持ちいい感触に襲われる。
「んっ……♡」
時間をかけて奥までおちんちんが届く。いつもの気持ちいいところに先端が触れて甘い吐息が漏れる。先生はおちんちんを深く挿入したまま、優しく押し込むようにぐいぐいとゆっくり、じっくり私の身体を揺さぶる。
「きもちいいか……シグレ?」
「あ、はっ……ふっ、ふ、えへ……うんっ、ふかくて、すりすりおしこまれて、きもちいいよ……あなた……っ」
優しく深い律動をしながら唇を合わせる。舌を絡めあい、上の口でも私たちは深く混ざり合う。これはただのセックスなんかじゃない。ただの交尾なんかじゃない。これは愛の確認なんだ。私たちがお互いの思いを直接与え合う、夫婦の営みなんだ。
「あ、あ、あっ、あはっ、あなたっ、あなたっ、だいすきっ、ああっ、あなたっ……♡」
今まで出せなかった甘い喘ぎ声がようやく出せるようになった。男を興奮させるためだけの声が。もっと早く出せればよかったな。そうしたらきっともっと激しくしてもらえたはずなのに。
たんたんと単調で優しいリズムが部屋に響く。気持ちいいくらいに部屋が暖かく感じる。今なら降り積もるレッドウィンターの大雪すら溶かせそうなぐらいに。
「あなた……っ♡ あいしてるっ、あいしてるっ♡ ずっと、いっしょ……♡」
「あぁ……当然だ……しぐれっ……おれもっ、あいしている……っ!」
どくん、どくんと先生のおちんちんが脈動している。先生の絶頂が近いんだ。私のお母さんなりかけの身体で気持ち良くなってせーえきおもらししちゃうんだ。――嬉しい。こんな身体でも先生を気持ち良くできることが。
「あなた……っ、なかに……だして……っ♡ いっしょに……イこ……?」
「わかった……!だす、ぞ……っ」
律動が止まる。私の赤ちゃんを抱える入り口にピタリとおちんちんがくっついて、そこに深くチュッとキスするようにくっついて、ぐりぐりと重ね合いながら――
「ぐ、うっ……しぐれっ……!」
「あなた……ッッッッッッ♡♡♡」
とぷん、とぷん、どぷっ、どぷっ。
粘ついた先生の欲望が私の中でぶちまけられる。その大半は密着しているとはいえ子を守るために固く閉ざされた子宮口にはほとんど注がれず、膣の中に拡散していく。熱を感じる。ぐちゃぐちゃだ。不快な感触なのに私は先生の思いに直接触れることができたから感極まって何度も視界をパチパチさせるほどに絶頂していた。
先生がおちんちんを引き抜く。同時に私の性器からコポコポと溢れ出す私と先生の欲望の混じった体液が布団を濡らす。何もかも得られることのない無意味な交尾だったのに、私たちはいつも以上の満足感が胸に充満していた。
「シグレ……」
「あなた……」
先生が私の横に寝転がる。くしゃくしゃに部屋の隅に追いやられていた敷布団を持ってきて、添い寝する私たちの上に被せる。初めて先生と布団に入った時と同じく二人きりで入るには狭かったけど、抱き合えば無理なく収まることはわかっている。だから私たちは自然と熱い抱擁を交わしていた。
「明日になったら君をシャーレに連れていく。居住区には使われてない部屋が沢山あるから、そこに俺たちの家を作ろう。それから先はずっと、ずっと、一緒だ……シグレ」
「うん、でも、しばらくはこのまま……この布団で一緒に抱き合って……いたいな……」
布団の中は半裸なのに暖かい。外の寒さに負けないぐらいに。ぐじょぐじょな性の臭いで充満してるけど、不快感は無かった。大切な人の体温が間近にあれば、どんな寒さも怖くないんだろうな。これから先、この暖かさをずっと味わっていけるなんて……笑みが溢れてしまう。
「愛している……シグレ……」
「私も……愛してる、あなた……」
どちらからともなくキスを重ねて、私たちは体温を交換しながら甘い微睡みに沈んでいった……。