昏睡期――Wasted period
As a 'student', I will never wake up.
I continue to be in a coma with a tremendously happy honor as a mother.
This dream will never wake up.
You might say it's already serious, but I'm the one who was chosen.
From now on, forever, we will be together... you.
「へべれけ爺さん、お酒を飲んだ……♪ 引かない落ちないお天道様……♪」
私は子守唄を歌っている。幼い頃にノドカと歌った懐かしい歌を、私の腕の中で懸命におっぱいを吸っている大切な大切な私と先生の愛の結晶に、可愛い我が子に歌い聞かせている。
「犬の子供が斧投げ遊ぶ……♪ 心も身体もぴったり合わせて……♪ メラメラ、ピカピカ抱き合いましょう……♪」
私とそっくりの耳と尻尾、ヘイロー。先生とそっくりな雪のように白い髪と鳩の血のように真っ赤な瞳。私の子供――ツユは一房の水色の毛を揺らしながら、ウトウトと舟漕ぎをしている。食欲旺盛なこの子でも眠気には勝てないのか、吸う力もだんだん落ちてきている。
「ピョンピョン兎が飛ぶ……♪ ニャアニャア猫が鳴く……♪ キャンキャン狐が吠える……♪ みんな、みんな、幸せに……♪」
ツユを抱き抱える腕を揺籠のようにゆっくり揺らして、背中に回した手でポンポンと背中をリズミカルに叩いてあげると、彼女は電池が切れたようにスヤスヤと眠り始めた。
「ただいま、シグレ、ツユ」
丁度いいタイミングで私の夫が帰ってきた。エンジェル24で買い物をしてきたのか、両手にレジ袋をぶら下げている。今日も残業無しで定刻通りの帰宅、私とツユに誠実な先生らしいね。
「シー……。今寝付いた所なの」
唇に人差し指を当てながら、ツユの寝顔を見せてあげるためにスーツを脱ぐ先生の元に歩み寄る。先生はツユの寝顔を見てくしゃりと顔を綻ばせる。糸のように細長いいつもの笑みじゃなく本心から幸せを感じている時にだけ見せる、私とツユだけが知っている子供のような笑顔だ。
「相変わらずシグレの寝顔にそっくりだ」
「あなたの寝顔にもそっくりだよ」
ツユの寝顔を見る度に言い合うお互いの似ているところ合戦もそこそこに、彼女をベビーベッドに寝かせてあげる。ツユは普段元気いっぱいだが一度寝てしまうとなかなか起きない。夜泣くことも少ない。お陰で私たちは二人の時間を過ごす時間をそこそこ取れている。
「アイスを買ってきたんだ。暫く冷たいものとか甘いもの控えてたでしょ?一緒に食べよう」
先生がそう言って差し出してきたのは青い色の目立つ二本セットのチューブアイス。生徒たちからポンタアイスと呼ばれる、分け合える形のアイスだ。子供の頃ノドカと少ないお小遣いをやりくりして一緒に分けて食べたっけ。懐かしいなぁ。ここ暫くノドカとは会えてないから余計懐かしく感じる。今度時間を見つけてシャーレに来てもらおう。
パキンとアイスを切り分けて先生と二人で中身を吸う。爽やかなソーダの風味を堪能していると、先生がふと呟いた。
「しかし、これから先このアイスだと不公平になっちゃうね」
「不公平?」
「だってこれから俺たちは三人家族だから、一本足りなくなるでしょ?」
確かに一つで二本セットのポンタアイスでは一本足りなくて誰か一人が食べられない。まだツユは食べられないけど、成長したらきっと食欲旺盛なあの娘は欲しがるだろう。……別にもう一個買って二本ツユあげればいい気もするけど。そう言おうと口を開きかけた瞬間に、私は少し邪な発想を思いついた。気が早いけど、おねだりする分には悪くないよね?
「それならさ……四人家族になれば不公平じゃなくなるよね?一人一本公平に食べられるよね……♡」
そう言いながら先生の腕に抱きつく。私の突然の二人目の要求に先生は瞳をまんまるにして、でもすぐ困ったような笑みを浮かべて私の頭を撫でる。
「悪くないアイデアだね。もう少し落ち着いたら考えようか」
「私はいつでもいいよ。あなたのためなら何人だって産んであげる。次は男の子がいいな♡」
「あはは……俺の稼ぎで収まる範囲で頼むよ?」
何もかも変わってしまった私達は、それでも結ばれる以前のようなやり取りをしながら、確かに掴んだ幸せを噛み締める。覚めない酔いのような幸福はいつまでも続くだろう。きっと先生も守り続けてくれる。
「大好きだよ、シグレ……」
「私も愛してる……」
もう生徒と先生という素面には戻れない。私たちは分かたれる時が来るまで、ずっと、一緒だよ……あなた……。
……という感じで、三人は幸せな日々を過ごしています。色々ありましたけど、どうにかハッピーエンドに収まってくれました! 二人とも常にお互いを思い合っていたからいずれあの銭湯に辿り着くだろうと思って従業員さんに二人を宿舎に通すようにお願いをして正解でした! 他にも工務部を焚き付けて先生の周りを嗅ぎ回る出版部への妨害とか、他の227号特別クラスの子たちへの隠蔽とか、我ながら頑張りました! ご褒美に高級プリンを7個食べても誰にも怒られないぐらいです! あのラブラブっぷりならきっと二人目、三人目もすぐ産まれると思います! また名付け親になるのが楽しみです!
え?私が好きだった人と友人が先に結ばれたのに、どうしてそんなに明るくしていられるか、ですか? そりゃあ……すごく悔しかったですよ。頭が燃えるぐらい熱くなりましたよ。
でも分かっていたんです。私じゃなくて友人が選ばれるってことは。最初から私の好きな人は――友人のことしか見てなかったんですから。どれだけアプローチしても、誘惑しても……彼を振り向かせることはできませんでした。ずっとずっと、彼は友人以外の娘は眼中になかったんです。
あぁ、これは勝てないな、って悟りました。だから私はすぐ諦めがついたんです。
でも私は幸せですよ! 大好きな友人と同じぐらい大切な人が仲良くしているところを知っているのは、覗いていられるのは私だけですから! それに子供の名付け親になれましたし!
何より……私のためだけに何もかも犠牲にしてまで見守ってくれた友人がやっと報われたことが嬉しいんです。
ずっと私はもらってばかりでしたから。
ずっと私は守ってもらってばかりでしたから。
ずっと私は恩返しできていませんでしたから。
私のために失うばかりの彼女がかけがえのない幸せと宝物を手に入れられたこと、私がその力添えをできたことだけで――満足なんです。
でも、私の恋が破れたのも、秘密を溜め込んでモヤモヤしていたのも事実だったので、今回教会で告白させてもらった訳です。シスターフッドさんは懺悔の内容を誰にも明かさず、秘密にしてくれると聞きました! ちょっと懺悔とは違う気もしますが、思いの丈を洗いざらい他の人にお話できてとてもスッキリしました!
では私はこの辺で! そろそろ盗み見……じゃなくて、観測の時間なので! それではシスターさん、ありがとうございました! さようなら!
(……とても生々しい告白でした……。しかも話を思い返すと彼女たちの「好きな人」がまるでシャーレの先生のように聞こえて……いや、いけませんね、決めつけは。そもそも先生は生徒に手を出す人ではありませんから。どんな告白でも守るのがシスターの勤め。このサクラコ、必ず貴女方の秘密を墓場まで守り抜きます)
(祈りましょう……彼女達がいつまでも幸せにあり続けるように……)
〜fin〜
これにてシグレのおはなしはおしまいです。
彼女は幸福というお酒に酔いつぶれてしまいました。
いつまでも醒めない酔いの中二人はいつまでも仲睦まじく過ごすのでしょう。
永遠の宝物を得た少女が、どうかいつまでも大切な人たちと歩めますように。
~Special Thanks~
ずゆ
パティムの人
(敬称略)