※この作品はR-18です。

風霜恋歌   作:水瓶トロワ

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嘆妃編 ~ Ep1.こころ - 1

 

 ねずみ色を通り越し、炭のような色が広がる悪天。夜では無いが太陽が姿を隠しているからか薄暗く、こんな時に海や森なんて行くものではない。

 しかし、今この海に少女は一人訪れていた。

 もちろん彼女以外に人っ子一人としていない。

 彼女の名は海風。見た目も立ち振る舞いも人間と遜色ないが、一応〝艦船〟と呼ばれる兵器に分類され、〝艤装〟と言う火器を神経接続し海から来る人類の敵〝セイレーン〟を殲滅できる、人類側が持つ唯一の対セイレーン兵器の総称だ。

 だが今回彼女がここに訪れたのは艦船としてではない。先日起きた季節外れの嵐。それ以降から消息が分からなくなっている妹、山風を探すためだ。

 淑やかな振る舞いが特徴な海風とは対照的に非常に活発な性格をした少女で、きっと嵐の日も恐怖より好奇心が勝り人目を盗んで外に出てしまったのだろう。それほどまでに、悪く言えば、子供っぽい子。

 しかし音信不通になったということは何処かで事故に合ったか、誰か第三の手が介入しているということ。もしかしたら殺人もありえる。

 軍港全力で彼女を探した。だが良い成果は上げれず、気付けば一週間が過ぎていた。

 

 海風が海に来たのは彼女も艦船なのだからきっと海に来ているのではないかと安直に推測した結果だ。ほぼなんとなくという理由に近い。

 海風はまたなんとなく携帯端末を取り出す。着信もメールも来ていない。ただ待ち受けにしている改白露型の姉妹四人撮影した写真を、写る山風を眺める。

 そのまま何気なく山風の端末にコールしてみる。

 

『現在コチラの端末は電波の届かないところにいるか、電源が入っていないためかかりません』

 

 受話器先から流れる声は相変わらず。もう何十回と聞いた。嘲笑すると共にまたホーム画面に戻る。

 この写真を見てはやる気をもらい山風を探す。それを繰り返していたが海風の心はもう限界が来ていた。

 これだけ探しても何の手掛かりも得れていないのだったら、もうこの世にはいないのだろう。そうだろう。そう考えたほうが気が楽だ。そうであってくれ。自分を楽にさせてくれ。

 ……もし仮に死んでいたとして、海風は生きている意味はあるのだろうか。

 

「海風も、死のうかな」

 

 悪天を見上げ、残る二人の姉妹を置いて、海風は漠然と思う。

 

 

 ふと何かが視線をよぎる。カモメだ。

 こんな悪天候なのに飛んでいるのか。何気なく飛んで行った方を見つめる。

 飛んで行った先、海と浜辺の境にはカモメの群れが出来ており、何かをつついていた。

 餌? そうだよね。カモメも生きるのに必死なんだ。なのに自分と来たら……。

 死を覚悟して生きようとするカモメと、やすやすと死を選ぼうとする自分を比べてしまう。それこそ命への冒涜だと気付きつつ、それでも憂鬱に酔いたかった。

 だがカモメたちの間から垣間見れた彼らが狙っている存在を見て、海風は目を覚ました。

 

「ひと……? 人!?」

 

 そう、人がカモメに襲われている。

 もしかして山風!? 一瞬そう思ったが、髪の色が違う。

 それでも落胆することなく海風はカモメの群れに走っていく。

 

「や、やめなさーい!」

 

 なんとも頼りない声だが、一番大事なハリは出ており、驚いたカモメたちは空中に一時退避した。

 その隙に海風は倒れている人に駆け寄り、声をかける。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 その人は男性だった。

 海風は少し男性が苦手なのだが、構わず肩を軽く揺する。

 しかし反応は無い。頭まで濡れ、身体の半分以上が海に浸かっていることからもしかして流れてきたのだろうか?

 ただ気を失っている状態か、それとも危険な状態か判断するため海風は首に触れる。血の流れを感じることからまだ生きている、現状は気を失っているだけ確信した。

 しかし適切な処置をしないと危ないのは変わりない。だがそのためには場所を移さないと。ここではまたカモメに襲われかねない。

 そんなことを思っている隙に再びカモメが襲い掛かってきた。

 

「来ないでください!」

 

 海風は長い服の袖を振るって何とか応戦するも流石に群れには敵わない。それに今のカモメは餌を奪われたと思って非常に獰猛になっている。生半可な対応では海風も危ない。

 しかし艦船の虎の子である艤装は近くに自身と同じシグナルを持つ普通の軍艦の形をした量産型がある状態か、専用の施設が無いと装備できない。

 現状、どちらの状況も満たしていない彼女は腹をくくるしかなかった。それでも、先ほどまでの自暴的な態度とはまるで違い、非常に落ち着き自信に満ちていた。

 

 大丈夫。きっと一、二羽やっつけたら退散していくはず。

 動物的習性からの推測だ。縦社会が多い動物たちのコミュニティ。その頂点に立つ者たちの共通点は〝力〟。

 野生動物からかけ離れた人ですらその法則に抗えないのだ。ならばそれは鳥だろうと変わらないだろう。

 

 海風はさっそく砂を掴みカモメに投げつける。もちろん威力は期待できないが彼女の狙いはそこではない。

 ずんずんと進んで海に入っていき浸かる服の袖。これが目的だ。

 一羽のカモメが口を開けて海風目掛けて飛んでくる。そこに海風は海水で重くなった袖をカモメの頬に叩きつけた。続けてくる二羽目も同様に。

 

「もう一度言います。来ないでください。海風はこの人を助けたいだけです。貴方たちも傷つけたくない……」

 

 大きく叫び、真っ先に飛んで行ったのはリーダーか。その一羽が逃げると続けて群れ全体がこの場から去っていった。

 なんとかなった。なんとかなった、が……。

 

「ごめんなさい……」

 

 出来れば穏便に終わらせたかった。せめてと海風は飛んでいくカモメに謝罪の告げる。

 だが罪悪感に心を支配されている暇はない。すぐに襲われていた人を見ないと。

 

 

 海風は周囲を見渡す。小屋上の海の家を見つけた。シーズンオフだから店は閉まっているが、入口は閉められていない。

 忍び込むようで申し訳ないが、背を腹に変えれない。海風は彼を引きずって海の家を目指す。

 細身の身体だから運びやすい。そう思い手を肩にかけさせ立ち上がろうとした矢先、彼の全体重が海風にのしかかり、思わず短く悲鳴を上げてしまう。

 その重さは彼自身の体重だけではない。海水を含んだ衣類も海風にのしかかっている。

 体力に自信がない海風には少し荷が重い。それでも彼女はゆったりとだが足を進める。もはや頼れるのは根気だけ。

 

 そんなこんなでようやく着いた海の家。真っ先に玄関も兼ねている足場のコンクリートより少し高い位置にある高床のゴザの上に青年を寝かせる。

 口の上に手をかざす。息が海風の手にかかる。よかった。安定した息をしているということはそんなに危なくない。

 そう確信した海風はこれからやらなければならないことを考える。

 まずは電気だろう。それに気付けに飲み水も用意しよう。あとはタオル。

 簡単にそう思ったが、電気や水道はオフシーズンも通っている確証はなく、タオルも半年以上放置してはホコリで使い物にならなくなるため置いていない可能性が高い。

 最悪水分に関しては外に自販機があったのでなんとかなるが、普段自分たちがいかに文明の利器に助けられているか痛感する。

 それでも確認しないと元も子もない。ゴザに腰を掛けていた海風は立ち上がる。

 

 そしてその場を離れる。

 でもその前に。海風は彼の顔を見つめる。

 とても安らかな寝顔だ。まるで何かから解放されたような、そんな感じがする。少しだけ羨ましい。

 彼がどんな性格なのかはもちろん知らない。それでも優しい方なんだろうなというのは見て取れた。

 せっかくなのだ。楽しくお話しできるといいな。

 そんな願いを込めて海風は微笑みかけた。

 

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