→「なんでキサラはSin化しちゃったの?」という疑問にお答えするお話。
パラドックスがキサラを堕とします。
精神面での「堕ち」に重きを置いていますので、
気が向いたらどうぞ。
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*このお話の続編↓
瀬人VSキサラ http://novel.syosetu.org/34340/
2-1、逆刹と青眼
――――気がつくと、私は見知らぬ部屋で拘束されていました。
部屋は白と黒のチェック模様。目が疲れそうです。他は、四肢に鎖の硬さと冷たさを感じるだけなので、乱暴はされていないようですね。
とりあえず記憶を整理しましょうか。
私は、石版の中で眠っていたところ、ペガサス氏よって魂を4つに分けられ、それぞれがデュエルモンスターズのカードとして生まれ変わりました。
私という一枚のカードは、紆余曲折を経て、セト様の手に渡って――――。
『4枚目はデッキに入らないからなぁ!!』
――――っ……!
そう、だ……。私は、セト様の心の闇を祓うことがかなわず、セト様に、破り捨てられて……。
「気がついたようだな?」
「!?」
回想に集中していて気がつきませんでした……。
いつの間にか、私の目の前に、部屋と同じ模様の仮面を被った男が立っていました。元々長身なようですが、その影はマントのせいでより一層大きく見えます。
「まずは自己紹介しておこうか」
男が仮面を外すと、その下には――整った彫りの深い顔立ちと、青い装飾をあしらった金髪がありました。
「私の名はパラドックス。時空を越え、最善の歴史を捜し求める者。歴史上のあらゆる可能性を検証し、それを実行する。君を蘇生したのも私だ。」
「最善の歴史……?」
ずいぶん飛躍した話ですね。私と何の関係があるんでしょうか?
「何故私を人間の姿で拘束しているんですか?」
「君とはぜひ、面と向かって話をしたかったのだよ。青眼の白龍――いや、その姿なら、人としての名で呼んだほうが良いかな?」
「――ブルーアイズで結構です。過去の名はもう必要ありません」
転生したセト様が、私のかつての名を――『キサラ』を覚えているはずもありません。セト様に呼んでもらえない名前など何の意味もないのです。
ちなみに今の身体は、まぎれもなく『青眼の白龍』ではなく『キサラ』のそれでした。こう見えて、故郷に暮らしていたころは、美少女ということで名が通っていたのですよ。
故郷で幸せに暮らしていたころは、毎日かかさず手入れしてきた銀髪。腰に届くほどの長さと、川が流れるようなしなやかさの両立は、昔は涙ぐましい手入れの成果であり、白き龍を身に宿してからは、その加護によるものです。
肉体年齢は、私が『キサラ』としての人生を終えたときと同じ19歳のものでしょうか。迫害を受ける日々を過ごしながら、絹のように柔らかで傷跡のない肌。ろくなものを食べていないにもかかわらず、愛する人の頭ぐらいなら優しく包みこめる程度に育った胸の膨らみ。やはりこれらも、白き龍の加護によるものなのでしょうね。
「ふむ。では青眼の白龍。君に折り入って頼みがあるのだが……。」
「お断りします」
十中八九、ロクな話ではありません。先に断ってしまっていいでしょう。
白き龍の怒りをこの男にみせつけることはできそうにありませんが、青い瞳でまっすぐにらみ、セト様以外が触れることを許さない苛烈な美しさと強さをぶつければ、この人も邪な発想を諦めるでしょう。
「命の恩人に向かって、ひどい言い草じゃないか」
「私はあそこで死ぬはずだったんです。利用するために与えられた命に恩など感じていません。セト様以外の方に、力など貸しませんよ!」
「――それが、たとえ海馬瀬人のためになることでも、か?」
「えっ……?」
……そういうことなら、聞くだけ聞いてみましょうか。聞いてから断っても遅くはありません。
「君に、デュエルモンスターズを滅ぼす手伝いをしてほしい」
……やっぱり、ロクでもない内容でしたね。つい溜め息が出てしまいます。
「わけがわかりませんよ。それがセト様のためになるはずがないでしょう!」
セト様はデュエルモンスターズが好きなのです。それを奪うことがセト様のためになるだなんて考えられません。そう言い返すと、今度はパラドックスのほうが溜め息をつきました。
「では聞くが……。セトのためになるとしたら、君は私の手伝いをしてくれるのかね?幾千万のデュエルモンスターズたちを無に帰す手伝いをしてくれるというのだね?」
「そ、それは……」
私は、セト様に仇なす者を、セト様を脅かす闇を滅ぼす力になるために、その身を精霊に、デュエルモンスターズに変えました。
そのためなら、善いものも悪いものも、隔てなく滅ぼしてしまっていいの……? そもそも、善いものと悪いものの区別なんていったい何処に……。
私が苦悩する姿を、パラドックスは不敵な笑みを浮かべながら眺めていました。
「くくく……。これこそ人間の矛盾。一見正しいように見える選択が間違っていて、間違っているように見える選択こそが正しい。見せてやろうではないか。正しいように見える選択が招いた、間違った未来を!」
すると、パラドックスの右後方で、映像が流れ始めました。
「あれは……セト様?」
白衣を着た――蟹?みたいな髪型の男性と、白いマントを纏ったセト様が、握手を交わしています。
その向こうでは、何やら白い機械に取り付けられたリングが、虹色に光りながら回転しています。
「そう遠くない未来の話だ。海馬コーポレーションは、デュエルからエネルギーを得て動く夢の永久機関、モーメントを完成させる。」
「それは、良いことでは――」
ないのですか、と言いかけた私は、パラドックスの言葉を思い出しました。
「一見正しいように見える選択……?」
「その通り。だがそれは!大いなる間違い!!」
映像が一度ノイズで乱れた後、再びモーメントを映し出します。
今度は白く光っていますね。
――あれ?さっきと回転の方向が逆になってる……?
「モーメントの動きは、人の心を映す鏡だ。モーメントによって無限の力を得た人類は、欲望と誘惑に捕らわれた……。その結果、モーメントは逆回転を始め――」
映像が切り替わり、次に映し出されたのはビル群でした。そして幾つかのビルから光が立ち上って――。
「愚かな人類を巻き添えに、自爆したのだ! これは、紛れもなく、デュエルモンスターズが背負い、清算しなければならない罪だ!」
映像はまだ続いている……。
閃光に呑まれ、蒸発する子ども。爆発による地割れに、落ちていく夫婦。
これが、デュエルモンスターズの、私の、セト様の罪だというの……?
「し、信じませんよ、私は!こんなものはデタラメです!何の証拠もありはしない!」
そうです!
そもそも"最善の歴史を捜し求める者"という肩書きからして怪しいんです! 馬鹿馬鹿しい! 信じてたまるもんですか!
「ふむ……。君たちにとっては不確定な未来、その可能性を示されても君の心は動じないか」
「ええ!そうですとも!」
「ならば過去の話をさせてもらおうか。私が時空を超えて旅をしている証拠にもなる。
――――君は、過去と同じ過ちを、繰り返すつもりか?」
「何の……ことですか」
この人、いったい何を言って――?
「君とデュエルモンスターズの精霊は、過去にも、滅びと災いを招いたことがあるではないか! 3000年前……古代エジプトの王国に! 心当たりはないか、キサラ!」
なっ……。
私のかつての名と時代を言い当てた……。
この人は、私とセト様の過去を知っている……!
「私とセト様の出会いが、間違いだったというのですか!」
「ああそうだとも! わからないか!? 君があの地に現れなければ、アクナディンとセトがファラオに背くようなことはなかった! ファラオと闇の大神官とセトを巡る、あの痛ましい戦争は起こらなかったのだ!!」
「なっ……!?」
そんな……! そんな、はずは……。
私の力は、あの戦いの中で、セト様のお役に立つものであったはず……。
「君が宿す『白き龍』の力は、アクナディンに、『息子のセトを王にする』という野望を抱かせるのに十分だった! セトが君に捧げた愛情が、セトがファラオに捧げた忠誠を上回った! 君の力がアクナディンを闇の大神官に変え、君の愛がセトを逆臣に変えたのだよ!! キサラ! これでもまだ! 君は自分の罪から目を背けるのか!?」
「私……。わたしっ……は……」
私は、自分に精霊が宿っていると気づいた時、その事実をとても喜んだ。
これで、セト様のお力になれると。あの日のご恩を返す時が来たのだと。
でもセト様に、本当に力なんて必要だったの? 私がセト様と再会しなければ、そもそも力が必要になる戦いなんて起こらなかった?
――私とセト様の再会は……間違いだった?
重い……。考えれば考えるほど、負の感情がこみ上げて、頭が、胸が、重くなっていく……。
『我々とは異なる白い肌――!青い眼を持つ女はこの地に災いをもたらす!!』
『あの女の青い眼と視線合わせたら呪われるんだってー!』
――なんでこんな時に限って、あの酷い罵声を思い出してしまうんだろう……。
けれど――。
私は――セト様に災いをもたらした……。私が――セト様の運命に呪いをかけた……。
「うそ……!そんなの嘘よ……!」
首を振る、目頭が熱くなる。最後の一戦だけは超えまいと、意地を張ることしか私にはできない……。
セト様……。教えて……。
私はあなたにとって何だったの? 疫病神だったの? それに気づいたから、破り捨てたの?
セト様……! セト様……! 私には、生きる価値も、場所も……。
『だったら、俺がくれてやる!』
そこでやっと――私は思い出した。
セト様と初めて出会った、あの日に受け取った言葉を――。
『俺はいつか大物になる! 戦争で死んだ父さんの分まで、国と母さんのためにデカい仕事をするんだ!』
『だからその日まで、俺の名前を覚えておけ! そして、お前に酷いことをする奴に言い返してやれ!』
『私は、セトに救われた、生きる価値のある人間だ、と! 私は、セトから、ここで生きてよいという許しを得ている、と!』
『俺はお前を救ったことを誇りにする! だからお前も、俺に救われたことを誇りに生きろ!』
――ありがとうございます……セト様。
私はもう、挫けない!
「関係、ない……ですよ」
「なに?」
訝しげに眉を釣り上げるパラドックスを、涙を貯めた眼でしっかりと睨みつけます。
「私が生きていること。それがセト様の誇りであり、私の中で揺るぎない唯一の真実! セト様以外の人が、どれだけ私を傷つけようとも、私は屈しない! だから……」
「だから?」
一息ついて、肺に酸素を供給する。そして私は自信をもって自分の意志を示しました。
「私はあなたの言葉を信じないし、あなたに協力するつもりも、ないッ!!」
その語気に当てられたのか、パラドックスが一瞬たじろぎました。
――できる……!私はまだ、闘える!
「驚いたよ、キサラ……。これほどの罪と絶望を耐え切るとは……」
「さあ、もう無駄だとわかったでしょう? 私はセト様を救いに行かなければなりません。早く解放してください。」
「……仕方がないな」
パラドックスがため息をつきました。勝った……。私は、勝ったんですね!
「同志は一人でも多くほしかったのだが、やむを得まい。やはり君も、他のカード同様、私の下僕となってもらおう」
――――え? 動揺を隠せない私の視界に、パラドックスが最初に被っていた仮面が入ってきました。
「この仮面を身につけた者は、『罪の意識』が増幅される。ただし自殺衝動には駆られない。そもそも自殺自体、『よりよく生きたい』という願望の裏返しだからな。やがては『罪の意識』によって自我が壊され、『罪を清算してよりよく生きる』ことしか考えられなくなる。そんな状態になった君に、私が『罪を清算する道』を示せばどうなると思う? フフフ……。君は私の下僕になるという訳だ」
邪悪な笑みを浮かべながらも、淡々と恐ろしいことを告げてきました……。
自我が――壊される? それって、私が私でなくなる、ということ?
「さあ。早速……着けてみようじゃないか……」
「あ、ああ……!」
顔が青ざめていくのがわかる。
逃げたい……怖い……! でも……耐えなきゃ……!
「わ、私は……何があっても、絶対に屈しませんからっ!」
震える声で自分の覚悟を示した後、すぐに……。
私の顔に、罪の仮面が被せられました。
「う……うう!?」
い、息苦しい!
仮面を着けただけなのに、水の中にいるかのようさ苦しさを味わいます。目も思わず閉じてしまいました。
息苦しさと共に、激しい耳鳴りによって聴覚も奪われて――。
私の意識は、闇に閉ざされていきました――――。