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「ささげますっ! 身も心も誇りも命も強さも魂も未来もぉ!全部全部全部全部全部ささげますっ! だからお救いください! 無意味で無価値で罪深くて愚かで醜い私をぉ! 償いの道に導いてくださいいいいいいいい!!」
絶望の底の底まで叩き落とされ、其処で希望の釣り針を見せられた。その大きすぎる落差により、キサラは完全に狂い、壊れてしまった。もはやそれは最強の龍にあらず、犬畜生である。餌を前にした犬のように、浅ましい嘆願を繰り返す。
その様に満足したパラドックスは、新たなる下僕に褒美を与えた。
『くくく……。よかろう。では出始めに、お前の身と心を作り替える。抵抗するなよ?』
「は、はい……!」
歓喜に震える声。それを確かめた後、彼女にへばりついていた汚泥が動き出した。まるで生きているかのように、重力とは明らかに異なる、自分の力でキサラの足元を目指す。
「んっ……? んんっ……!」
不意に、彼女の閉じた口から吐息がこぼれた。指でじっくりと肌をなぞられるような感触に、驚かされたのだ。
彼女の足元に集まった汚泥は、彼女にへばりついていた量よりも多くなっていった。おそらく、膨張しているのだろう。膨張は続き、喩えるなら、湯船の半分ほどに匹敵しそうな体積になった。しかし、床に広がっていかない上に、時折、中に魔物でも潜んでいるかのように波打つ。
これは――魔物が潜んでいるのではない。
「こ、これって……スライム?」
デュエルモンスターズの精霊として、名前ぐらいは知っている。ただし、こんな間近で接したことはない。普通なら近寄らせずに、滅びの威光で消し炭にするからだ。
しかし、いまは普通とは明らかに異なる状況下。真っ黒なスライムは、近寄るどころか、彼女の大人びた脚に絡みついてきた。
「ひあっ!?」
冷水に足をつけたときのように、キサラは声を上げる。それに気をよくしたというわけでもないだろうが、スライムは、曲線を描く腰、優しく盛りあがった胸、そそるようなうなじから肩へのライン……といった具合に、キサラの身体を覆っていく。
「んくっ……んっ……!」
艶を含んだ声を時折洩らしながらも、キサラはその愛撫を受け入れていた。この先に、罪を償う道があると、わかっていたからだ。
おおよそキサラの白い肌が、顔以外に見受けられなくなったあたりで、キサラとスライムの関係は、次のフェイズへと移行する。
(す、すごい……。全身が……ぬめぬめのスライムで覆われてる……。今度は、何を?)
剣の柄でも押しあてるかのように、スライムの一部が、キサラの穴――つまり、臍、肛門、膣口に、3本の触手という形を成して密着した。
「あっ……」
その意図を、これから起こることを、キサラは察した。
(なる、ほど……。あの、触手から……液体か何かを、流し込むんだ……。液体が、私の血に混じって、私の、身体が、吸収して……)
「はい……。きて……ください……。わたしを、作り替えて、ね……?」
『それではダメだな』
「っ!?」
先ほどまでキサラとスライムの関係を黙って見ていた――と思われる、パラドックスが、キサラに命じた。
『キサラ。お前はデュエルモンスターズを滅ぼす道具になるのだ。道具らしい頼み方というものをやってみせろ』
ただでさえ、キサラは狂わされ、犬畜生に堕とされている。パラドックスは、それすら認めず、道具――たとえば、人形だとか、便器だとか――と同じところまで、堕ちろという。
しかし、意外なほど、キサラに迷いはなかった。最強の龍が、犬畜生に堕ちている時点で、もうどこまで堕ちようと大差はなかったのである。
「はい……、パラドックス様……。わた、しは……あなた様の……道具、です……。あなた様の道具として、もっとも、使いやすいカタチに作り替えられることを、光栄に、感じて、おります……。改造、される、行為には、悦びを感じ、精一杯、喘ぎます……。だからぁ……はやくぅ……私をぉ……お救いくださいいいいいいい!!」
それでもなお、声が震えたのには3つの理由がある。
1つ目は、罪に耐えられない焦燥感から。2つ目は、これから来る快楽への期待感から。3つ目は、『あの男』のことを考えたときの、背徳感から。
だがいずれにせよ、パラドックスを満足させるには十分な内容だった。
『いいだろう……。生まれ変わるがいい、キサラよ。“Sin 青眼の白龍”にな!』
その号令と同時に、3本の触手スライムが、キサラのナカへと突進した――!
「うっ――うわあああああああ――っ!! すごいっ! これぇ、すごいいいいいい!!」
臍の触手は血管へ至り、動脈と静脈の何本かを、黒く脈打ちながら浮き上がらせた。
膣口の触手は、ヒダの1つ1つを擦りながら子宮まで至り、彼女の引き締まったお腹を、新しい命を宿したかのように膨らませる。
肛門の触手は、栄養素として彼女の身体に溶け込み、彼女の血肉と融合を果たしていく。その証拠に、彼女にとって自慢の、清流のごとき銀髪で、毒物を放り込まれたように黒いグラデーションが始まりつつある。
常人ならおぞましいと感じるような変化。しかし、狂人と化してしまった彼女にとっては、そうではない。
(はあっ……はぁっ……。これっ、すごい! 血管が、新しく心臓が増えたみたいに……激しく脈打っちゃってる! お腹、パンパンで、こんな汚いスライムが、私の子どもになっちゃってる! 腸を通して、こんな汚いものを、食べちゃってる!)
「きもちいい! きもちいいいいいい!! もっとぉ! もっとぉ!! キサラも! 白き龍も! ブルーアイズも! 犯して! 穢して! 壊して! 堕として! 罪深いわたしの存在をぉ……終わらせてええええええ!!」
恍惚とした表情を浮かべながら絶叫し、身体と精神が侵食される感触を全身で味わう。
(あぁ……終わっちゃうんだ……。変わっちゃうんだ……。堕ちちゃうんだ……わたし……)
最後に残った一欠片の理性。言うなればもうひとりのキサラとでも言うべき存在がそんなことに気づくが、もう遅い。同時に、かつて本当に夢見ていた幸福が頭に浮かぶが、それも遅すぎた。
セトと共に国を守る白き龍となった自分――。若きファラオを支える妃となった自分――。
瀬人を勝利に導く最強の龍となった自分――。若き社長の右腕として活躍する妻となった自分――。
(なんて……きれいなの……)
この幻想が現実になれば、2人にはきっと幸せすぎる日々が訪れるだろう。一瞬、彼女の心が揺れる。しかし、所詮幻想は幻想。絵に描かれた食卓は、目の前の餌に勝てなかった。
(ごめんなさい……セト様……。こんな夢を見た私が馬鹿だったんです……。罪深い私には、こんな夢を見る資格はない……。叶いもしない夢を追うよりも、私は、自分の罪を清算したいんです。償いを果たしたいんです……。)
彼女はもう――身も心も誇りも命も強さも魂も未来も……全てを捨てたのだ。捨てられたあと、パラドックスに拾われ、穢された身体と心は、
(あ……イキそう……! 快感が……溜まって……もう……! イク! イクッ!)
勝手なことを口走りながら絶頂を迎えた。
「ああ! すてきぃ! パラドックスさまああああああああ!!」
スライムの注入がクライマックスを迎えたのか、射精と見間違えるほどの勢いで、膣口から黒いスライムの残骸が放出される。
(気持ち、よかった……。すごく……。――わたし、もう、戻れない、かな……)
気絶する直前、理性的な意識が主導権を取り戻したが、せいぜい言の葉をひとつ呟けば眠りにつくことになるだろう。
(あぁ……それでも……)
これだけ堕とされても、自分の心が2つに分かれたのではないかと錯覚するほどに追い詰められても、彼女が最後まで捨てなかったもの。それが、彼女の、キサラとしての、最後の言葉となった。
「あ、い……して……います…………。セ、ト……さ……まぁ…………。」
それだけ言い残して、キサラは身体を倒す。倒した先は、黒いスライムの沼。
キサラの身体はズブズブと音を立てながら、黒い黒い深淵へと……沈んでいった……。