アイドル冒険者拷問日誌~妹を殺されたので、復讐のため地獄を見せます~ 作:ただのリョナラー
《はじまり》
――俺が、そのことを知ったのは偶然だった。
ダンジョンで死んだ妹の遺品として、映像を記録した魔導機が届いたのだ。
俺の魔力が鍵となり、録画された映像を見ることができた。
妹からの最後のメッセージ――そこに収められていたものは、到底、予想だにしないものだった。
『ほら、ワンと泣いて這いつくばって食べなさいよ』
最初に視界に入ってきたのは、短く揃えた黄金色の髪の少女が恫喝する姿だ。
「えぐっ、えぐっ。もう勘弁して――」
『あ~ら、ギルド長に頼み込んで、あなたを一生探索者として活動できなくしてやっても良いのよ?』
「そ、そんな――困ります」
『口答えは許さないって、何度言ったら分かるのかしら~?』
それは異様な光景だった。
1人の全裸の少女が土下座しており、3人の少女が取り囲むように罵声を浴びせていたのだ。
――涙を流しながら土下座しているのは、俺の妹のリルルだ。
今はもう、既にこの世に居ない。ダンジョン探索中に、事故死したと所属ギルドからは聞いている。
俺の妹――リルルは、プリメラ・シスターズという冒険者グループの一員だった。
プリメラ・シスターズは、冒険者の中でもアイドル売りしている人気グループであり、世界を股にかける活躍をしながら歌手としても活動しているハイスペックな少女の集まりだ。
その評判は国中で高く、彼女たちの熱狂的なファンも多い。
(何なんだ、これは)
リルルは、平凡な少女だが兄の贔屓目ありで、世界で一番可愛いと思う。
おにい、なに馬鹿やってるの――そんな呆れ目と、ジト目が似合う少女だった。
そんなリルルが、人生を捧げるつもりで挑んだアイドル冒険者の道。念願のプリメラ・シスターズに合格して、将来は世界一のアイドル冒険者になると目を輝かせていた姿を、今でも昨日のことのように思い出せる。
その結果が、これか。
プリメラ・シスターズ内での、いじめ。なんていう生易しいものではない。
『このグループで私の機嫌を損なうってことがどういうことか、体で覚えるが良いわ』
「申し訳ありません、申し訳ありません――」
『ほら、ナギ。やりなさい』
『でも……』
『あ? やれって言ったらやるのよ。それともあなたが、代わりになりたいの?』
『…………ごめんね』
「いやぁぁぁぁぁぁああああ――――」
見るに堪えない映像だった。
涙を流しながらも、俺はその映像を視界に収めていく。
尊厳の破壊。
そうとしか表現のしようがない凄惨な日々。
――まず顔を焼いた。
理由は、自分より可愛らしいからなんていう下らないものだったらしい。
誰が見ても眉をしかめる醜悪な顔。アイドルとしての活動が不可能になっても、金髪の少女――アスカは、リルルのことを許さなかった。
表舞台には立てなくなってからも、冒険者としてこき使われ続けたのだ。
気まぐれに殴り。
時にゴブリンに殴らせ、オークに犯させる。
ギルド全体が、アスカという少女の味方だった。逃げ出そうとしたリルルは、ギルドの人間に連れ戻されたという。
リルルは、1年で廃人になった。
最後には、オークの集団に一週間犯され続けて死んでいった。
泣き叫び、許しを請い、それをアスカに嘲笑われ、絶望し、死んでいったのだ。
「…………」
これを証拠に憲兵に突きだす?
そんな生ぬるい考えは、すぐに頭から消えていった。
リルルを殺した犯人を、ただ犯罪者として裁くなどあり得ない。
――この手で復讐を。
生きてきたことを後悔するまで。その心が壊れて、殺して欲しいと懇願するまで――徹底的に地獄を見せてやる。
そう、俺は決意した。
プリメラ・シスターズの3人に、復讐ができるなら。
力を借りれるものなら、どんな相手でも構わない。
――そうして数ヶ月かけて念入りに準備は行い。
俺は、ついに憎きプリメラ・シスターズの面々を捕らえることに成功したのだった。
《0日目》
地下牢に、3人の少女が囚われていた。
アスカ、ナギ、ティナ――腕も確かな有名冒険者であり、A級冒険者としてまさしく飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍している少女たちである。冒険者として腕前もさることながら、その整った容姿ゆえに人気も高い――俗に言うアイドル冒険者というやつであった。
プリメラ・シスターズ――少女たちは、そんな名前でアイドル冒険者として活動している。
彼女たちは後ろ手で縄で縛られており、口枷をされて冷たい石畳に転がされている。
武器も全て奪われ、鎧は剥がされて下着姿である。魔法が使えないように、淫紋を刻まれており、縄は魔法の発動を阻害する特殊なものだった。
(良い気味だ)
俺――ナユタは、地下牢に入り少女たちを見下ろす。
俺が部屋に入ると、3人が俺のことを睨みつけてきた。
(ひとまず妹のことを聞くか)
(口枷を外して――)
俺が、少女たちの口枷を外したところで、
「あんた、どこのストーカー? 私、これから撮影なの。さっさと帰してくれない?」
金髪の少女――アスカが、蔑むような目を俺に向けてきた。
短く切りそろえられたサラサラの髪は、薄暗い地下牢でも光って見えるほど美しい。整った顔立ちは、どこか西洋人形のような雰囲気を醸し出している。華奢な体でありながら、均整の取れた美しい体型。少女らしい可愛さと、大人びた色気が共存している美しい少女であった。
アスカは、プリメラ・シスターズのセンターであり、グループの顔であるアイドル冒険者だ。
そして妹の仇でもあった。
大方、事務所(バックについている大手ギルドのこと)を過信しているのだろう。
誘拐されたとしても、すぐに助けが来ると思っているらしい。
(だが、そうはいかないさ)
闇ギルドが、アスカたち3人を攫うためにどれだけの金を積んだと思っているのか。
アイドル冒険者の誘拐事件など前代未聞。裏社会の人間ですら知っている者は少ないだろう。
「……」
俺は、そんなアスカに無言で近づいていき、
「な、なによ」
怯えたような表情を浮かべるアスカを無視して、手を振り上げ――振り下ろす。
ばちぃぃぃん!!と激しい音が地下牢に響いた。
「うぐっ……、おまえっ!」
アスカは苦悶に表情を歪めながらも、生意気にも俺を睨みつけてきた。
(ふむ、さすがは上位の冒険者だ。なかなか根性があるようで)
(まずは自分の立場を、分からせる必要があるようだな)
「来い、ジン」
俺の呼びかけに答えて現れたのは、闇ギルドの1人。
ジン。身長2mを超える筋骨隆々の大男である。巨大な斧を背負っており、全身からは隠しきれないほどの暴力の匂いが漂っている。俺の仲間であり、今回の計画には欠かせない人物だ。
俺は、そんな男に向かってアスカを蹴り飛ばした。
すると――ジンはアスカの体を掴み上げると、そのまま壁に叩きつけた。
ずがぁん、と激しい音を立ててアスカの体が壁にめり込む。
「ぐふっ……、な、なにを――」
「待ってたぜ。この日をよう――俺たちを捕まえようと、調子に乗った冒険者どもに、まさかこの手で引導を渡せる日が来るなんてなぁ!」
ジンは、そう言いながら再びアスカを蹴り飛ばす。
――ジンは、闇ギルドの生き残りだ。
プリメラ・シスターズにより滅ぼされたギルドであり、俺が復讐のために協力を求めた相手でもある。
向こうとしても、散々、辛酸を舐めさせられた相手に、目にものを見せてやることができる絶好の機会だったという訳だ。
(やはり良い仕事をする)
俺は、そんな様子を眺めながら満足気に頷いた。
さて――ここからが本番だ。この男にしっかりと躾をしてもらおうじゃないか。
よろよろと立ち上がったアスカの腹に、ジンの蹴りが突き刺さる。
「げほっ、ごぼっ――がはっ」
――びしゃっ、とアスカの口から吐瀉物が吐き出された。
胃液混じりの汚物が床に飛び散る。
ジンは、闇ギルド随一の力自慢の男だ。
そんな大男が、身体強化魔法をかけて思いっきり蹴り飛ばしたのだ――常人なら、内臓が破裂してもおかしくはない。
「アスカッ!?」
「な、なんてことを――――」
腰まで銀色の髪を伸ばしたロングヘアの少女が、心配そうにアスカの名を呼んだ。
名はナギ――リルルの顔を焼いた張本人だ。
いまだに理解が追いつかないという様子で、黒髪の少女が息を呑んだ。
名はティナ。怯えた小動物のような雰囲気――庇護欲をそそられる姿だが忘れてはいけない。この女もまた、
プリメラ・シスターズのメンバーであり、アスカやナギと一緒に、リルルをいじめてきた女だ。
「あなたたち! こんなことをしてタダで済むと!?」
「ああ、俺たちに怖いものは何もない。ここには誰も立ち入れねえからな」
地面に這いつくばったまま、アスカが脅すように俺たちに言う。
まだ己の立場が分からないのか――いっそ滑稽であった。
「おまえこそ、ただで済むと思ってるんじゃねえだろうなあ?」
ナギとティナが、ジンの気迫に思わず口をつぐむ。
闇社会の住人。人の命をなんとも思わないような――その独特の凄みがあったからだ。
「ふ……、ふざけないで! 私たちが証言すれば、あなたたちは終わりよ!」
アスカが、必死に気力を振り絞るようにそう叫んだ。
その言葉が、どれだけ俺たちの反感を買うかということに思い至らないらしい。
「おまえらに許されるのは、俺の質問に答えることだけだ」
俺は、再び口を開く。
「余計なことを喋った罰として――そうだな。一人、20発。ジンの拳を受けてもらおうか。逆らったらどうなるか、その身に己の立場をよくよく刻み込むことだな」
俺が合図すると、闇ギルドの人間が数人現れた。
腹を抑えて蹲るアスカを数人がかりで羽交い締めにする。
衣装が剥ぎ取られ、引き締まったお腹がむき出しになった。
「待って、こんなことをしても――」
「いちっ!」
何かを言いかけたアスカの腹部に、容赦なくジンが拳を叩き込んだ。
「がっ、はあっ!?」
「勝手に喋った罰だ。どんどん行ってくれ」
「待っ――――」
ジンは、アスカのお腹に巨大な拳をあてがい、そのままぐりぐりと動かす。
拳がお腹にめり込み、アスカの口から苦痛の声が漏れる。しかし、それを無視して、さらにもう一発。
お腹に拳がめり込み、アスカの口から悲鳴が漏れる。その姿を見て、ナギとティナは青ざめた表情を浮かべていた。しかし――助けに入ることはない。すでに自分たちの立場を理解しているのだろう。
「ごっ、ろくっ、ななっ!」
「ぎぃっ、がっ、あぐぁっ!」
――べちゃ、べちゃべちゃ
アスカの口から胃液が吐き出される。すでに顔は涙でぐちゃぐちゃだ。
「汚えな、アイドル様よう?」
「ぅ……、このっ!」
「はっ、まだそんな顔ができるのか!」
気丈にもジンを睨みつけるアスカだが、それはジンの嗜虐心を煽るだけだ。
――アスカは、腹筋に力を入れて、少しでも衝撃を和らげようと必死だった。
しかし鍛えられた腹筋も、ジンの一撃には敵わず、徐々に力が抜けていく。
「おらっ、じゅうごっ!」
「うぐっ……、げっほ、げほ」
サンドバッグでも殴るように、ジンはアスカのお腹をリズミカルに殴り続けた。
アスカの橙色の目に、涙が滲む。
吐瀉物には、血液も混じっていた。それは、決して軽くないダメージをアスカが負っていることを示していた。
それでもジンは止まらない。
むしろ勢いを増して殴り続けるのだ。
「――おらっ、にじゅうっ!」
ジンの拳が、深々とアスカの鳩尾をえぐった。
「がっ、あ――ぁ」
アスカの体がくの字に曲がり、口から胃液が吐き出される。
口から血を吐き出し、身体を大きく痙攣させる。その姿を見て、ナギとティナは思わず目を覆った。
ぜぇ、ぜぇと肩で息をしながら、それでもアスカは気丈に俺を睨みつけてくる。
まるで耐えきったぞ、と。
そんな意思を、俺に見せつけているようだった。
――そんな目をされたら、ますます嬲りたくなってしまう。
良いだろう。そのプライド、粉々に砕いてやる。
すでにアスカは、自力では立てないほどにボロボロだった。
それでも羽交い締めにされており、倒れることすら許されない。
俺はアスカの髪を掴み、強引にこちらを向かせる。
「おっと、言い忘れてた。この罰は、回数をカウントしてもらおう――つまりはやり直しだ」
「っ、ふざけないで! こんなことして――ぐっ!?」
ジンが、アスカの腹に拳を叩き込んだ。
お腹からミシッと嫌な音がして、アスカは苦悶に表情を歪めた。口からは吐瀉物が垂れ流され、足元を汚す。その惨めな姿は、見る者の嗜虐心を煽った。
「俺がここでのルールだ。余計な口答えに、タメ口――さらに腹パン20回追加。ジン、40回だ――やれ」
そう告げた時のアスカの顔は、見ものだった。
勝ち気な顔に覗くかすかな怯え。それでも気丈に俺を睨みつけようという意思は感じたが、体の震えを抑えきれていない。
無理もない。
さっきまでの腹パン20回だけで、何度も嘔吐する地獄の苦しみを味わったのだ。
その倍の回数など、到底、弱りきった体で耐えられるとは思えない。
「おうおう? だいぶ腹筋、弱ってきてるんじゃないの?」
「うるっ、さい――ごほっ」
アスカが咳き込んだ。吐瀉物が口からこぼれる。
すでに何度も吐いたのだろう、口元からは胃液の臭いがした。
「おらっ! カウントしろって」
「こんっ……な数、数えられるわけ――」
「おらっ! 死ね、くだばっちまえっっっ!」
何かを言いかけたアスカであったが、その言葉が最後まで紡がれることはない。
ジンの渾身の一撃が、深々と腹を打ち据えたからだ。
「がふっ……! あがっ……! あがっ……! ――がっ、はあっ!」
どすんっ! ずどんっ! ぼこっ! ドスンッ!
アスカの腹筋が、ジンのパンチでボコボコに変形していく。その度に、大量の吐瀉物がまき散らされる
「連打、連打連打連打ァ!」
息つく暇もなく、巨大な拳が、アスカの体を蹂躙していく。
度重なる暴行により、撃たれるがままになるアスカ。
少女の腹部は、大きく腫れ上がり、所々青黒く変色していた。ジンは容赦なくアスカの腹を殴り続ける。その一発一発が、確実に内臓を破壊していった。
「ひゅー、いいねえ。アイドル様の腹が、面白い形になってきてるぜ?」
ジンが、心底楽しげに笑う。
アスカの腹筋は、もはや限界を迎えていた。
あまりの傷みに、アスカは溢れ出す涙を抑えきれない。
アスカという少女は、今まで高圧的な言葉だけで相手を従えてきた。
こんな状況は、知らないのだ。
幾度となく吐いた。
胃の中には、もう何もない。それなのに、胃液がこみ上げてくる。
お腹が痛い。息ができない。お腹が、苦しい――! お腹を殴られるたびに、口から胃液が飛び出す。すでに体は限界を迎えているというのに、終わらない責め苦は、アスカの精神まで破壊しようとしていた。
(もう……無理)
永遠とも思える時間が経ち、ようやくジンの拳が止む。
(ああ、やっと…………、終わ――――)
「カウントしろって、言ったよなあ?」
俺は、アスカの顔を覗き込み、そう告げる。
「そん、な……。不可能、で――」
「ああ? まだ口答え? 答えは、イエスかはい、だけ。はい、腹パン20回追加で――計60回。もっかい、やり直し」
その言葉を聞いて、アスカは絶望の表情を浮かべた。
気丈に振る舞っているが、もう限界であることは明白だ。それでも、アスカはなお気丈に振る舞おうとする。自分がまだ屈服していないことを示そうとしていたのだろう――しかし、それも無駄な抵抗に過ぎないのだが。
ナギとティナが、俺に許しを請うように見つめてくるが、それは逆効果だ。
いわばこれは分かりやすいショーだ。俺に逆らえばこうなると、プリメラ・シスターズの心を折るための見せしめ。
「ちゃんとカウントしろよ? これじゃあ、いつまで経っても終わらないぞ?」
「そ、んな――」
(良い気味だ)
(もっと、もっと無様なところを見せてくれ)
「おらおら、どうしたあ!」
ジンの拳が、ひたすらアスカを蹂躙していく。
土手っ腹を、横腹を、鳩尾を、腹筋を、お腹のありとあらゆるところを殴り続ける。
殴られるたびに血反吐をまき散らし、アイドル様の威厳もへったくれもなくなった姿。
それはまさに、サンドバッグと呼ぶに相応しい。
俺は、そんな光景を見て、満足げに笑っていた。
「ぐぶぉえっ!? いちっ――がはぁっ!? ……に――ぁぁ……」
いつまで経っても、この責めは終わらない。
そう悟ったアスカは、本当に馬鹿正直に腹を殴られた回数を数え始めた。
――みんなの注目を一心に浴びるアイドルが。
リリルの死を笑顔で見届けた極悪人が。ただ、されるがままに、殴られた回数をカウントするなんて作業をしているのだ。その姿は、あまりにも無様だった。
「無様だなあ、アスカ。殴られるのは楽しいか?」
「そんっな、訳――ごふっ! ……は、うぐっ」
アスカが何か言おうとする度に、ジンの拳がお腹に突き刺さる。
もう胃液も残っていないのだろう。胃酸を吐きながら、それでもなおカウントを続けるその姿は、あまりにも惨めで、哀れだった。
ナギとティナは、そんなアスカを見て涙を浮かべている。
仲間が殴られ続ける光景。しかし、俺に逆らえばどうなるか――それを理解しているからこそ何も言えないのだ。
「今、何回だ?」
「に、じゅう……、ご?」
「残念。30だ――はい、やり直し。誤答ペナルティで腹パン20回追加で、80回だな」
「そ、そんなの無理っ! 一生、終わらな――」
「また、口答えか? もう10回追加で――」
「やり、ます。やります、から――」
随分と素直になってきたようだな。
アスカを拘束していた男たちが、くっくと笑い出した。
いわばプリメラ・シスターズは、闇ギルドにとって天敵のようなもの。
憎き相手が無様に許しを乞うているのだ。面白いに決まっている。
「おらっ、自力で立て」
「うっ……」
乱暴に突き飛ばされるアスカ。
羽交い締めから解放されたアスカは、生まれたての子鹿のように、足をプルプルと震わせていた。
それでもアスカは、気丈に振る舞おうとする。弱った姿を見せたくないのだろう。――だが、そんな意思もすぐに打ち砕かれることになる。
「支えていただて、ありがとうございます。だろうが!」
「う、ぐっ……あ、ありが――」
よろよろと壁に寄りかかり、アスカはかろうじて立ち上がる。
このまま倒れていても、終わらない。この男たちは、それほど甘くない。
この短い時間で、そうアスカは悟っていた。
「どういたし、ましてっ!」
「おごぉぉお!?」
男の飛び膝蹴りが、アスカのどてっぱらに突き刺さる。
面白半分に振るわれた予想もしていなかった一撃。粘性の高い胃液が口から垂れ下がり、アスカの体がぐらりと揺れる。
「さすがに100回以上殴ったからな。少し疲れた――他に殴りたいやつが入れば、変わってくれ」
「良いんですか?」
「すっかり腹筋も弱ってますね。柔らけえっす!」
アスカの前には、何人もの男が立っていた。
彼女に恨みを持つ男が、この場には無数に集まっているのだ。
――二人の男が、同時に殴りかかった。
「げぶっ!?」
「おっ、一発で吐いたぜ! 汚ねえ!」
腹筋に力が入らないのか、アスカは簡単に吐瀉物を吐き出す。
胃の中が空っぽだからか、ほとんど透明な液体だった。それでも男は楽しげだ。吐瀉物が床に飛び散るのを見て、ゲラゲラと笑っている。闇ギルドの下っ端職員の拳など、普段の彼女なら軽々と受け止められるはずだ。しかし、度重なる暴力によって、アスカの腹筋はボロボロになっていた。
――さらに二人。
――さらに二人。
三人目が、アスカの腹に拳を打ち込む。
四人目が、アスカの顔に拳を叩きつける。
五人、六人と、次々に男が現れ、アスカを痛めつけていく。
まるで、リンチのような有様。
「げぶっ!?」
「おらおら! あの時の威勢の良さは、どこ行ったんだよ!?」
「がはっ!? ぐぶぅ、うげぇぇえっ!?」
「おらぁ! 死ね死ね死ね死ね死ね!」
「ごっ、あがぁぁあああ!?」
「ははっ! 楽しいなあ!」
ついにアスカが限界を迎え、腹を抑えたままうずくまってしまう。
それでも男たちは、攻撃の手を緩めない。
ドゴォッ! と鈍い音がして、アスカの体が吹き飛んだ。
ジンが蹴り飛ばしたのだ。だが――まだ終わらない。うずくまる少女に、次々と激しい蹴りが襲いかかる。分厚い鉄製のブーツで容赦なく蹴られ、踏みつけられていくアスカ。頑丈なブーツに踏みにじられたアスカの指の骨は、変な方向に折れ曲がっていた。
1人の男が、アスカの髪を掴み顔を上げさせる。
その顔面にブーツによる鋭い蹴りが突き刺さり、少女の鼻から鮮血が飛び散った。鼻の骨が折れたのだろう。男たちはアスカを心配する素振りすら見せず、その顔面に次々と蹴りを叩き込む。
「おら、どうした! さっさと数えろや!」
鼻が折れて、上手く発音ができないのかアスカは、
「っ――あ」
と、言葉にならない声を漏らしていた。
(あ~あ、カウントなんて俺も分かんねえや)
俺は、無様に嬲られ続けるアスカを見て、笑った。
5分後。
意識の朦朧としているアスカの顔を覗き込み、
「カウントはいくつだ?」
「あ――分か、り、ま――せん」
アスカは、息も絶え絶えにそう答える。
無理もない。10人以上の男に囲まれ、四方八方から暴力を振るわれているのだ。事実、俺だって答えを知らない。それでも俺は、にっこり微笑み告げる。
「無様だな。ペナルティ20回追加――これでちょうど100回だな」
――無慈悲な宣告。
息も絶え絶えのアスカを、宙から垂れ下がる鎖に括り付け、強制的に立たせる。
そこからは再び、容赦のない腹パンが再開された。
「ごっ、がはっ!? ぐぶぉおっ!?」
ジンは、金属バットを構えて、アスカのお腹をフルスイングした。
その一撃は、これまでの比でないほど、重く鋭い。それを何度も、何度も何度も――到底、アスカにカウントすることなど不可能だろう。
「ごっ、あがぁあっ!? うげっ、おえっ」
断末魔のような悲鳴が、アスカの口から吐き出される。
ナギとティナは、それを見て、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
このままでは、アスカは死んでしまうかもしれない。それでも2人は、助けるために動こうとはしなかった――結局のところ保身。実際のところアスカの心配など、1ミリもしていないのだ。
「さすがに頑丈だなぁ! アイドル様はよう!」
「がはっ!? ごぶっ、うげぇぇえ!?」
再び金属バットでのフルスイング。
アスカは、口から黄色い胃液を吐きながら、体をくの字に曲げる。
もうアスカはまともにカウントできる状態ではなかった。ほとんど意識を失いかけており、白目を剥きかけている有様だ。口から泡を吹いており、このまま続ければ死んでしまうかもしれない。
それでもなお、男たちは暴力をやめない――アスカが100回とカウントするその時まで。
そしてついに、その時が訪れる。
「ちっ、気絶しやがったか」
――アスカは、ついに意識を手放した。
もちろんこの責め苦は、気絶した程度では終わらない。
俺は、こんなこともあろうかと部屋に用意してあった拷問道具の傍に、アスカを引きずっていく。
それは水がなみなみとはられた巨大な桶だった。
俺は、アスカの足を縛り上げ、逆さ吊りにする。
そして、巨大な桶にアスカの体を突っ込んだ。水が血で真っ赤に染まっていき、アスカの傷の深さが伺える――まあこの程度で、くたばるような奴なら冒険者になっていないだろう。
水中で息ができず、もがき苦しむアスカ。
(ふん。最悪の目覚めだろうな)
1分ほど沈め、アスカを水中から引き上げてやる。
「げほっ、ごほ――うぇええ!?」
アスカは、口から水を吐きながら咳き込んでいた。
体中がボロボロで見るに堪えない姿だった。
「おら、何寝てんだ」
「げぼっ、ごぶっ、うべぇぇえっ」
そんなアスカに、ジンは怒号を浴びせ、再び金属バットでのフルスイング。
アスカは咳き込みながら、飲み込んだ水を吐き出していた。
カウントをしなければならないアスカは――もはや意味のある言葉を発することができなくなっていた。その目には涙が浮かんでいるが、それでもなお必死に口をパクパクと動かしている。
数えようとしているのかもしれない。聞こえないから無効だけどな。
「ジンさん、俺にもやらせて下さいッス!」
「ああ、構わないぞ」
「やった!」
瀕死のアスカに、男たちが群がった。
逆さ吊りにされているアスカに、男たちは一斉に拳を振りかざした。
――そして、アスカの体が、逆さ吊りのまま宙に浮く。
4人分の拳が、容赦なく少女を殴りつけていた。殴られる度に、アスカの体は力なく揺れていた。
やがて、またアスカが意識を失い、その度に俺はアスカを水中に沈めてやる。
水責め、腹パン、水中――そしてまた意識を失い、水責め。
アスカは何度も何度も拷問を繰り返されていた。
(さすがに反応が無くなってきたか)
(本当に殺してしまっては、意味がない。この程度で復讐は終わらせられないからな)
俺は、アスカを地面に下ろす。
ぐったり力なく横たわっている姿は、まるで死体のようだった。胸が上下しているから、かろうじて生きていることは分かるけどな。
俺は、ナギとティナに目線を送る。
目の前で数時間に渡りアスカが拷問されているのを見て、2人は声も出せないほどに震えていた。
そんな2人に、俺は、アスカの腹を殴るように促す。
「この女を殴れ。よりこの女を痛めつけた方だけ、この後の腹パンを逃れる権利をやろう」
プリメラ・シスターズ。
仲良し3人組――世間では、そう言われていた。
そんな姿は、偽りのもの。実態は、アスカの権力にものを言わせた独裁政権だ。こうして力関係が逆転してしまえば、ナギたちが命令を拒絶する理由はない。
「――うそ、でしょ?」
かろうじて目を開けたアスカが目にしたのは、己を殴ろうとするチームメイトの姿。
ナギが、ティナが、アスカの腹を蹴り、踏みつける。
アスカは咳き込み、口から水を吐き出した。
もう数えているどころではないだろう――それでもナギとティナの暴行は止まらない。一度、タガが外れてしまえば、もう止まらないのだ。
ナギとティナは、アスカの腹を蹴り続けた。時には、ブーツでぐりぐりと踏みつけたりもする。足を上げる度に水しぶきが上がり、それが血に染まっていく――その光景は凄惨だった。
「もう終わりか?」
「っ――」
ナギが、苦悶の表情を浮かべていた。
心は痛いのだろう。瀕死のチームメイトを、ひたすら足蹴りし続けているのだから。
やがてナギは、一歩下がり、これ以上は勘弁して下さいなどとのたまった。
――あれほどの脅しをかけられても、完全には掌握できないか。
俺は意外な気持ちで、ナギを見返す。
「いえ、まだまだこの女には余力があります」
一方、ティナは、アスカの腹をブーツで蹴り続けていた。
彼女の瞳は、無感情だった。ただ自分が生き残るため、アスカに暴力をふるい続けている。
アスカの瞳が、絶望に染まる。
その瞳から、一筋の涙が流れ落ちていく。
(ふむ、もう十分か)
結局、ティナは俺が命じるまでアスカの腹を全力で蹴り続けた。
力なく横たわるアスカの腹を、躊躇なく踏み続けたのだ。そこに一切の情はない――当然、アスカが途中で意識を失っても、ティナは構わず暴力を続けた。
「ふん、良いだろう」
「はい」
ティナは、俺に敬語を使って恭しく頭を下げた。
そこに今をときめくアイドル冒険者としての誇りなんてない――ただ暴力に怯え、媚に媚びた態度だった。
「ジン、こいつらを地下牢に戻しておけ。アスカのことは、死なない程度に治療しておけ」
「へいへい」
やる気のない返事をするジンをよそに、俺は地下牢を後にする。
次は、どんな拷問をしようか。