※この作品はR-18です。

異形少女と棲む日常   作:ジャンボ田西

3 / 4
第3話

「実際に使ってみるとそこまで難しい物ではないな、パソコン。言織(ことおり)には難しい物だったのか?」

 

「うーん、まぁ滅茶苦茶に難解な物っていうわけではないんだけどね……」

 

始めてノートパソコンを使っている所を化子(ばけこ)が目にしてから一週間以上が経った。

彼女がパソコンについて理解するために必要そうな本や、文字を覚えるための絵本や辞書等を買い与えると、彼女はそれらをたった数日で読破してしまった。平仮名や片仮名、ローマ字だけでなく常用漢字のほぼ全てを学んだのだ。

そして夕食を終えた今、継音の膝の上に座っている彼女はキーボードを叩いている。

 

「それでも、下手に触るとデータが吹っ飛んだり、そもそも起動してくれなくなったりする事もあるからね。こういう物って、使い始める時くらいは臆病すぎる程度でちょうど良かったりするんだよ」

 

「そういうものなのか」

 

画面から視線を一切離さず、継音(つぐね)のお気に入りの漫画を読み漁る少女。

その服装はいつものカッターシャツではなく、女子用の可愛らしいパジャマである。と言うのも、いつまでも男物の服装でいさせるのは申し訳無いと今更ながらに思った彼が、本と同じタイミングで下着類や洋服と一緒に買ってやったのだ。

服の裾や袖から触手がはみ出している光景にも慣れた彼は、お茶を片手に少女がパソコンと睨めっこをしている様子を静かに眺めていた。

 

「……………………」

 

渇いた喉にお茶を一口流し込み、以前から頭の片隅に引っかかり続けている問答(もんどう)について彼は考える。

一緒に暮らし始めてからそろそろ一月近くになるが、彼女に対する見方が変化していきている気がした。最初こそ無許可で生ハメし放題のキツキツマンコを手に入れたと高揚していたものだが、現在となっては彼女の純心で健気な部分に触れて別の感情が芽吹き始めている。

その感情の正体を、名前を――彼は知らない。彼が普段から重要視している三大欲求にもよく似た、遺伝子の根底に強く刻み込まれている生物としての感情。

 

「……………………」

 

「言織……、言織? 寝ているのか?」

 

名前を呼ばれて我に返った彼は、触手で頬を突かれていることに気づく。少女の赤い瞳が彼をじっと見つめている。

 

「あ、あぁ……寝てないよ。それで、どうしたんだ? 困ったことでもあったのかな?」

 

「そうだ。この『デート』とは一体何なんだ? 初めて聞いた言葉なのだが」

 

彼女は画面に映っている一コマを指さしながら訊ねた。そこには、漫画の登場人物が想い人にデートのお誘いをしている様子が台詞付きで描かれていた。

 

「デートっていうのはね、親しい人とどこかへ遊びに行ったりすることだよ。必ずしも外へ出る必要は無いけど、街や遊園地とかに行ってるイメージが一般的かな」

 

「親しい人……。私と言織は親しいと言えるだろうか?」

 

「ははは、一緒に暮らしていて親しくない事は無いでしょう」

 

「そうか」

 

笑いながらの返答に彼女は視線を下げて考える。

そして、何かを決心したように頷いてから言葉を紡いだ。

 

「言織、私はデートをしてみたい」

 

「……。街へ出たいの?」

 

「そうだ。この家に来てから、私は外に出たことが無い。言織に考えがあってそうしているのかもしれないが、街というものが見てみたい。言織と一緒に……」

 

彼女の言葉を聞いて彼は悩んだ。

彼女が部屋の外へ出る事。それは、彼が最も恐れる事態だった。もしも彼の傍(そば)から離れて行ってしまうような事になれば、もう彼女と性行為が出来なくなる。この幸せを手放す事になってしまう。――今の彼にはとても容認できる話ではない。

 

「勿論、言織が絶対に駄目と言うなら私も諦め――」

 

「…………いや、行こうよ。デート」

 

頭で苦悩している間に、彼の口はそう声を発していた。

 

「っ、本当かっ。デートしてくれるのかっ?」

 

半ば玉砕覚悟だったのか、彼女は身を乗り出して問いかける。驚きと、喜びに満ちた口調で彼に詰め寄った。だが、誰よりもその返答に驚いたのはそう答えた彼自身だった。まるで何者かに操られたかのような己の言動に、彼の思考はかなり混乱していた。

 

「あ、あぁ……。本当だよ」

 

本当ならば答えを先延ばしにしたかった彼だが、「やっぱり無しで」とは言えるはずも無い状況の中、戸惑いながらそう答えた。

その言葉を聞いた瞬間、少女は彼に抱き付いて軽くキスをする。

 

「ありがとう、言織」

 

「…………」

 

状況整理が付かない彼は何も言えず、固まることしか出来なかった。しかし、言ってしまったものは仕方無い。ここで約束を反故(ほご)にしては、それこそ彼女を失う切っ掛けになり得てしまう。

思考をある程度落ち着けた彼は、彼女の頭を撫でながら口約束を取り付ける。

 

「丁度、明日は休日なんだ。だから明日、街へデート行こうか」

 

「うんっ、わかった」

 

そう返事をする彼女の声は明るく、複数の触手を揺らしている様子はまるで動物の尻尾のようだった。出会った頃よりも表情豊かになった彼女は、はにかむような笑顔を継音に見せる。

彼にとっては不本意な展開だったが、その表情だけでも承諾した価値があった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「ふふっ、デート。デートっ♪」

 

翌日、とても楽しそうな少女の歌声で継音は目を覚ました。その時刻は午前六時。約束していたデートに期待が膨らんでいるのであろう、彼女はとても上機嫌に見える。

 

「あっ。言織も起きたか? おはよう、さぁ街へ出かけるぞ。さぁ、さぁ」

 

「ちょっと持ってくれるかな? まだ着替えや朝食も終わってないし、今すぐには出れないよ」

 

「むぅ、そうか。……ならば、出来る限り早めに済ませて欲しい」

 

「うん。ごめんね」

 

起きたばかりの彼の腕を引っ張りながら催促する彼女を宥め、彼は立ち上がって大きな伸びをする。

 

(あの子、あんな性格だったかな……。もう少し大人しい雰囲気だった気がするけど、デートの約束をした途端に変わっちゃったなぁ…………)

 

日に日に感情表現が豊かになって行った彼女だったが、それでも昨晩からの変化っぷりには彼も違和感を覚えずにはいられなかった。勿論、嫌なわけではない。ただ少しばかり気になってしまうのだ。

寝間着から外出用の服装に着替えている最中、既に洋服へ着替え終えていた彼女の視線が彼に突き刺さる。心なしか彼女の瞳に輝きが増しているような気がする継音。

 

「…………ねぇ、そんなに楽しみなの? デートって言っても、ただ街に出るだけだよ」

 

「勿論だ。私の大好きな言織と一緒に色んな所へ行けるというのに、楽しみでない理由がどこにある。…言織は楽しみでないのか?」

 

「…………そっか。いや、俺も楽しみだよ」

 

歯の浮くような台詞を口にする彼女から視線を外す継音。

恐らく彼の漫画を見て覚えたフレーズなのだろうが、実際に言われてみるとかなり嬉しいものであった。彼女のことだから、その意味を理解した上で口にしている可能性が高い点も高ポイントだった。

高鳴る胸を宥めつつ、着替えが終わった彼はすぐさま朝食の準備に取り掛かる。今日の予定も彼女としっかり考えておかなければならず、予算も確認しておく必要がある。

 

約一時間後、継音は化子と部屋から出て戸締りをすると、手を繋いで歩き出した。

彼の隣には綺麗な水色のワンピースや白い帽子を身に付け、ルンルン気分で靴音を鳴らす少女の姿。自然と口角が上がっている表情は、本当に可愛らしいものだ。

 

(娘がいたら、こんな感じなんだろうか…………)

 

傍から見れば微笑ましい親子の外出にしか見えない光景に、彼はふと感傷的な気持ちに浸る。彼が彼女の親ではない現実と、そもそも彼女自身が人ですらない事実を鑑みれば思う所もあるだろう。

 

「……あ、そう言えばだけど一つ……じゃなくて二つ約束してくれるかな?」

 

衣服の中でもぞもぞと動いている彼女の触手を思い出した彼は立ち止まり、彼女にそう言った。不意に足を止めた彼の手に引っ張られる形で彼女も立ち止まって不思議そうに彼を見つめる。

 

「約束?」

 

「そう、約束。まず一つは出来る限り俺から離れて行かない事。迷子になられると、心配するしデートを楽しめないからね」

 

「言われなくても。私は絶対に言織から離れない」

 

「まぁ、一応ね。……それで、次がとっても大事な事なんだ。外で絶対に揉め事は起こしちゃあ駄目だし、ましてや触手を見せてもいけないからね。多分、街中が大パニックになってデートどころじゃあなくなるから」

 

「そういう話か。……うん、わかった。これは出来る限り隠すようにする」

 

そう言うと、彼女は自身の腕に触手を巻き付かせる。長袖であるため触手は見えていないものの、腕だけが少女に見合わない太さとなってしまっている。

どこかのミュージックビデオで見たような歪(いびつ)過ぎるフォルムを前に、彼は苦笑いしつつ改善を要求した。

 

「…………もう少し隠せないかな? それは少し怪しいよ」

 

「これで怪しいのか? ……わかった」

 

彼の忠告に頷いた彼女は複数の触手を自身の胴体に巻き付けた。その所為で胸部辺りが不自然に膨らんでいるものの、背中で何かが蠢いていたり腕だけが太かったりするよりは怪しまれないだろう。

最近だと小学生でも胸が育っている子はいるものだと、彼はネットで見た情報から納得することにした。

 

「…………宜しい。良い子だ」

 

それ以上は高望みになると断念して、彼は彼女の頭を優しく撫でる。

 

「約束は守る。だから早く行こう」

 

普段なら頭を撫でれば喜んでいる彼女も、今日ばかりはデートに対する期待が勝っているらしい。彼の手を素早く取って握り、駆け足気味に歩き出した。それに引っ張られるように彼もまた再び歩き出す。

 

暫く歩いて街に着いた二人は、最初にショッピングモールへと入って行った。まずは軽くウィンドウショッピングをする予定だ。

色々な商品を見て回る少女に継音は付いて行く。

 

「言織、ここはどういう店なんだ?」

 

「ここはテレビゲームを売ってるお店だね」

 

「テレビゲーム、か……。覚えはしたが、見るのは初めてだな」

 

「うーん、俺の給料だと流石に手が出ないんだよなぁ。まぁ興味があんまり無いんだけどね……。欲しいのか、化子?」

 

「気にはなる……が、別に欲しくはない。ゲームが無くても、言織と一緒なら私は幸せだからな」

 

そう言う彼女は本当に幸せそうな顔を彼に見せる。それを見た彼は、胸が痛んだ。

実際、彼女と暮らし始めてから食費は上がった上に服や本も買い与えて、ソープ貯金は殆ど底を尽きた。しかし中古品ならば、ハードも併せてギリギリ変えなくはない。

彼がゲームを買い与えないのは、単純に興味が無いのもある。しかし彼女がセックス以外の娯楽に触れることが懸念点となっている部分も大いにあった。

 

「他の店も見て回ろう」

 

「……ああ。そうだね」

 

彼女に対する申し訳無い気持ちを抱えたまま、彼は手を引かれて別の売り場へ移動する。あの日に生じた胸の曇りは、少しずつ大きくなっていった。

 

それから数時間、化子は様々な店舗に足を運んだ。服,食品,本,靴にアクセサリー、雑貨や玩具等々とジャンルを問わず目に付く商品全てに興味を示した彼女は、その度に継音へ質問を投げかける。それに彼が答えてやると、彼女は目を輝かせて聞いた。

 

「そろそろお昼にしようか」

 

時計の針が十二時を回り、彼が彼女に提案する。

本来であれば外食も控えたい所だったが、流石に一度家へ帰るというのは体力的に厳しいものがある。それに、いつまでも自分の手料理しか与えないのは彼女にとって良くない気がしたのだ。

 

「うん、わかった」

 

歩き回って流石に疲れたのか、彼女の歩みはかなりゆっくりになっていた。ペース配分が下手な部分がやけに子供らしく、彼は微笑ましい気分になる。

 

「何か好みとかある? 中華とか、和風とかさ」

 

「……、別に無いな。言織が選んだ所ならどこでも問題無い」

 

「…………そっか。じゃあ、少し本格的なラーメンが食べたいから中華にしようね」

 

「わかった」

 

自分の意見を持とうとしない彼女に少しばかりの心配を覚えつつ、彼は彼女の手を引いて中華料理店に入った。店内はお昼時であるにも拘らず、客が殆ど座っていない。平日とは言っても人が少なすぎる光景に、不安を感じざるを得ない。

 

(大丈夫だろうか、この店。安そうだから入ったけど……ちょっと怖いな)

 

彼はそう思いながらも、一先ず注文を済ませて料理を待つ。

彼が頼んだのは担々麵と炒飯のセット、化子は回鍋肉定食。そしてサイドメニューに唐揚げも注文し、二人分のお冷をコップに注いだ。

 

「そう言えば、化子ってお肉をよく食べてるけど好きだったりするの?」

 

暇な待ち時間。そこで彼は気になった事を訊ねた。

と言うのも、部屋で彼が料理する際にリクエストを聞いてみると必ず彼女は「肉があれば何でも良い」と答えるのだ。

 

「好き……と言うよりも、山では肉しか食べることが無かったから。言織と出会う前までは、生肉ばかり食べてた」

 

「あぁ~……、成る程ね。それじゃあ、どうして今日は特に何も言わなかったの? もしかしたら、お肉を取り扱ってないお店に入る可能性もあったのに」

 

彼は、普段の彼女が必ずと言って良い程にリクエストする肉を、今日に限って要求しなかった事が疑問だったのだ。彼としては、思い出の一品とも言える焼肉辺りを要望するものだと思っていた。

それに対して、彼女はこう答えた。

 

「今日はデートだからな、普段食べない物を食べる特別感を味わうものだと覚えた」

 

(あー、昨日読んでた漫画の影響か。この子影響受けやすいな……)

 

彼女の返答を聞いて彼は納得する。

彼が思っている以上に、彼女は感受性が強いようだった。色々な物から影響を受けやすい性質をしている。だからこそ、物事の吸収が速いのだと彼は思った。

 

「それに、言織が出してくれる物は肉以外も美味しかったからな。言織が選ぶ物なら私は信頼できる」

 

「……前々から思ってたけど、俺に対する信用すごいな」

 

「当たり前だ。私を幸せにしてくれる物は全て、言織が教えてくれた。言織がいなければ今の私はいない」

 

「……………………」

 

真っ直ぐな瞳を向けて言葉を紡ぐ彼女に、彼は何も言えない。

雛鳥は産まれてすぐ目にした者を親だと認識するものだと言うが、彼女の彼に対する妄信っぷりもそれに通ずる部分があるのだろうか。少女を警戒して様々な物と遮断させてきた彼の意思とは裏腹に、彼女は盲目的に彼を信頼している。

継音は段々、彼女を信じ切れていない己が愚かしく思えてきた。

 

「お待たせしました、担々麵セットと回鍋肉定食です。唐揚げはもう暫く、お待ちくださいませ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

そうこうしていると、店員が二つのお盆を運んできた。

すっかり腹をすかせた二人は「いただきます」と手を合わせて箸を持つ。

 

「ズズズッ」

「はぐはぐっ」

 

男が麺を啜り、少女は野菜と肉をかきこむ。

ピリピリする辛みの奥深くに感じられる旨み。スープとよく絡む麵は固めであり、しっかりとした歯応えと食感がある。値段の割には味の完成度が高かった。

 

(これでこの値段なら充分だろうに……)

 

味覚に対して人並み以上の自信があるわけではないものの、彼はこの店の味に満足していた。少しだけ得をした気分になった彼は普段より速いペースで箸を進めていく。

伸びきる前に麺を完食し、炒飯をレンゲで掬って口に運んだ。少しだけ米がしっとりしているもののパラパラ感を感じられ、普通に良い味付けだった。

 

「美味しいな、言織」

 

「あぁ、そうだね。結構旨いな」

 

化子が注文した回鍋肉の方も味に問題は無いようだった。

 

(まぁ、偶々だったんだろうね。大きな話題になる程の味では無いし、今日は人がいなかっただけだね)

 

入店時に抱えた不安は完全に払拭され、継音は安心する。少し考え過ぎていたと反省しつつ炒飯を平らげるとほぼ同時に、唐揚げが運ばれてきた。

揚げたてなのか湯気が上がっており、とても美味しそうな匂いが彼の鼻孔をくすぐる。

 

「どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください」

 

店員がカウンターへ戻って行く中で唐揚げを箸で摘まみ、二人がかぶり付く。

一つ一つがかなり大きいそれは、ザクザクの衣に包まれた柔らかい鶏肉の食感や特有のスパイスで下味が付けられており、文句無しに美味しい出来上がりだった。噛めば噛むほど溢れ出てくる旨味とパンチのある味付けは、白米とよく合うこと間違い無いだろう。

それに店側の配慮も素晴らしく、皿の上に添えられているはずのレモンは既に搾り終えた汁を小皿に入れて置かれている。

 

「旨っ。えっ……、旨ぁっ」

 

もう唐揚げの専門店としてやっていった方が良いのでは思う程の完成度に、彼は語彙力を失った。向かい合って座っている化子は目を輝かせ、凄まじい勢いで唐揚げを食べ進めていく。

皿の上に乗せられていた唐揚げの山が瞬く間に減っていき、二分も経たない内に彼女がその殆どを平らげてしまった。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

二人が手を合わせて箸を置く。

スープまで残さず完食し、継音が会計を済ませる。あれだけの質と量を二千円足らずで提供しているのは、本当にバグっているレベルだった。

 

「また来ようね、化子」

 

「ああ、絶対に来る。とても美味しかった」

 

かなり満足度の高い食事を終えて、二人はショッピングモールの中を歩いて行く。ただし午前中のような自由に歩き回るわけではなく、彼らは明確な目的地を持っている。と言うのも、昼食後は身体を休める意味も込めて映画館でゆっくりすることにしようと、出発前に決めておいたのだ。

暫く歩いた二人は目的の場所へ到着し、適当な映画のチケットを購入した。

 

「映画とやらを見るのも初めてだな」

 

「そうだね。俺があんまり、そういう物に興味を持たないからね」

 

「ちょっと楽しみだ」

 

彼に買って貰ったチケットを握り締め、彼女は頬を緩める。

彼らが見る予定の映画は、オカルトホラー物だ。目にすると呪われて、一週間以内に死んでしまうと噂されている物の正体を調査している若者グループが、次々と怪奇現象に襲われていく――という感じの内容である。

怪奇現象が日常茶飯事の継音からすればあまり楽しめそうな内容でもないが、今公開されている中で最も高い評価を得ている作品と聞けば気になるものだ。と言うのも、その映画を見た者は怪奇現象に遭遇するようになる、と噂されているようだった。

 

「席は…………、あそこか」

 

指定された、スクリーンからもっとも遠い席に向かって彼は歩みを進める。

 

(やっぱ人が多いなぁ。流石は人気作、平日でもこれ程なのか……)

 

土日でもないのに若者から高齢まで、男女を問わず多くの人で席が埋まっていた。感想を話している声も聞こえることから、恐らくはリピーターが多いのだろう。

彼が予想外の盛況っぷりに感嘆していると、彼女の手が不意に袖を引っ張った。

 

「ん? 化子、どうし――」

 

「言織、席を入れ替えよう」

 

不思議そうに問いかける彼の言葉を遮(さえぎ)って、彼女はそう言った。

あまりに冷たく真剣そうな声色に背筋が凍り、継音は彼女の視線の先に顔を向ける。するとそこには、青白い顔の中年男性が席に座って眠っていた。顔色が悪いものの、何か怪しい雰囲気は特に感じられない。しかし化子の様子から考えれば何かあるのかもしれない。

彼女の言葉に黙って頷き、彼は歩いて行く。そして彼女の予約していた席に腰を下ろす。

 

(こういうのは慣れてたつもりだったけど、俺でも感じ取れない何かがあるとは…。やっぱり化子は凄いな)

 

より近くで見てみても何の変哲も無い男性の様子に、彼は首を傾げた。霊感には自信があった彼でも、彼女が察知した違和感には気が付かないようだ。

心強い味方がいて安心し、継音は背凭(もた)れに体重を預ける。

 

「…………始まるな」

 

席についてから暫くすると、流れていた広告が注意喚起に変わり室内の灯りも段々と消えていく。ホラー映画にぴったりの雰囲気が漂い始め、遂に映画が始まる。

呪いの噂話を主人公たちが偶然聞くことになるプロローグ。柄にもなく、新鮮な空気に呑まれた彼は少しばかりワクワクとしていた。

 

映画が終わったのは凡そ二時間後。

欠伸(あくび)をして歩く少女の隣で、虚無顔の男が並んで歩く。結論から言えば、期待していた程の面白い出来ではなかった。やはり彼にホラー映画は合わなかったのか、どうしても演出全てが安っぽく見えてしまったらしい。それに何より、出演者の演技で不自然な部分が多数見られた。

 

(何で仲間内との会話中にこっち見てるのか、って話だよな。あれは流石に意味が分からなさ過ぎて逆に怖かったわ。監督も注意しろよ)

 

「言織、どうだった?」

 

「イマイチ、だったかな。……そう言う化子は途中で寝てたみたいだね」

 

「うん。思ってたよりつまらなかった」

 

あれだけ楽しみにしていた彼女も、あまり合わなかったのだろう。物語に集中していたのは最初の方だけで、終盤には既に眠っていた。

 

「だよね……。そう言えば、席を変えるように言ったのってどうしてだったの? 凄く真剣な様子だったけど」

 

「……? あぁ、あれか。どうしても何も、あの男の気分が悪そうだったから言織に迷惑をかけさせないよう、私が間に入っただけだ。私なら異変に気が付いた瞬間、すぐにでも外へ運び出せるからな」

 

「へぇ、そうなんだ。…………え、そうなのっ!? 幽霊とかではなかったの?」

 

かなり真面目な雰囲気をしていた彼女のことだから、彼はてっきり男性が幽霊か何かの類で、自分を守る為に彼女が態々(わざわざ)席を入れ替えるように言ってくれたものだと思い込んでいた。だが、実際にはそのような意図が無かったらしい。

彼女なりに彼を気遣っての行動だったが、勝手に思い違いをしていた継音は肩透かしを喰らった気分だった。

 

「何だ、そんなことだったんだ。……はぁ」

 

「? どうした、幽霊の方が良かったのか?」

 

「いや、別に。ただ…………ね?」

 

きょとんとした表情を向ける少女。

恥ずかしいような安心したような、何とも言えない気持ちになった彼は深く溜め息を吐き出して彼女の頭に手を乗せる。

 

「映画とやらは少し退屈だったからな。さぁ、早く別の所に行こう」

 

自分の頭を撫でている手を掴み、握り締めると彼女は駆け出した。

 

「ちょっ、待てって――」

 

彼女に引っ張られるように継音も足を前に出す。

その時、横から喧しい笑い声が聞こえた。咄嗟に声のする方を見るも、反応が遅れた彼は何者かとぶつかってしまった。

 

「いってぇなぁ。何だぁ、てめぇ」

 

背中からぶつかって来たその人物は彼を睨みつける。年は二十代前半と思わしき青年で、頬を赤らめて吃逆(しゃっくり)をしている様子や酒臭い息を振り撒いていることから酔っぱらっているであろうことが予想出来る。そんな男の背後には数人の若者が立っている。恐らくは男の仲間だろう。

 

「すいません、怪我はありませんか?」

 

あまり関わりたくなかったものの、黙って素通りするのは良くないと思った継音は紳士的な対応を心掛ける。が、それは悪手だったようだ。彼の対応で青年が調子に乗り、彼の胸倉を掴んで引き寄せる。

 

「どこ見て歩いてんだ、コラ。怪我したらどうすんだよ」

 

(俺もだけど、お前だって前見てなかっただろうに)

 

言いかけた言葉を飲み込み、彼が青年を宥めようと口を開きかけたところで化子が彼らの間に割って入る。

 

「言織から手を離せ。お前に構っている時間は無い」

 

「ちょっ、化子……」

 

火に油を注ぐような物言いをする彼女に、彼は慌てて制止しようとした。だが彼女の言葉はしっかりと青年の耳に届いてしまっており、相手の怒りの矛先は彼女に向くことになった。

 

「なんだぁ、このガキ。随分と偉そうな口利いてくるじゃねぇか」

 

「何度も言わせないで欲しい。お前に構っている時間は無いから、さっさと手を離せ」

 

継音に掴みかかった事が許せなかったのか、彼女はいつになく鋭い目つきで相手を睨む。その態度が更に相手を激昂させ、青年の手が継音から離れる。

 

「年上に敬意を払えない糞ガキには教育が必要だよなぁ、この野郎っ」

 

そして空いた手で拳を作り、彼女目掛けて振り翳した。迫りくる握り拳と剥き出しの敵意を前にしても、彼女は一歩も動かない。

――化子が危ない。――

頭にその一言が浮かんだ瞬間、継音は彼女の腕を引っ張って拳の軌道上に入る。そして――、

 

「がふっ」

 

彼の左頬に鈍い痛みが走った。酔っぱらった人間に力加減というものが存在しないのか、殴られた衝撃で彼は口の中を切った。舌の上に鉄の味が染みわたる。

 

「言織っっ。…………お前ぇっっ!」

 

目の前で彼が殴られた化子は遂に堪忍袋の緒が切れる。相手の青年を殺してしまいかねないオーラを纏わせ一歩踏み出した瞬間、彼女の手が引かれた。そして大きな声が屋内に響く。

 

「誰かぁっ、助けて下さぁいっ! 酔っぱらったペド野郎にうちの子が襲われてまぁすっ!」

 

「はぁっっ!?」

 

恥も外聞も無い、情けない叫び声を聞いて青年は怯んだ。それと同時に、彼の声を聞いた数人の警備員が彼らの下(もと)へ駆けつけてくる。いや、それにしては到着が少し速すぎる。もしかしたら野次馬の中の誰かが既に助けを呼んでくれたのかもしれない。

ともかく、騒ぎに駆け付けた警備員が事情を尋ねた。

 

「い、一体何があったんですか?」

 

「助けて下さい、この男に殴られました。それに、うちの子にも手を出そうと」

 

「お、おいっ。俺はそんな事……」

 

どんどん大きくなっていく事態に酔いが醒めたらしく、青年はしどろもどろに慌てふためく。だが、継音が殴られた事実は存在している上に化子に殴り掛かったことも周囲の人たちは目撃している。最早言い逃れのしようが無い。

 

「……とにかく、詳しいお話が聞きたいので場所を変えましょう。三人ともついて来て下さい」

 

警備員がそう言って三人を案内する。酔っ払いの仲間たちは警備員の接近とほぼ同時に逃げ出していた。

薄情な仲間に見捨てられた青年は逃げようとするも、三人の大人に囲まれてしまい退路を断たれる。逃げ場の無い状況に追い込まれた男は、酷く青ざめていた。

 

警備員室で事情を話していた継音たちが解放されたのは、午後四時頃。彼と青年の周囲に対する注意力不足から生じたトラブルだったが、やはり手を出した青年の方が立場は悪かった。が、継音と化子が早く話し合いを終わらせたかったため、青年は特に大きな罰則を受ける事が無いように示談で話しを付けることにしてこの騒動は幕を閉じた。

思わぬ災難でかなりの時間を奪われた彼女は、見るからに不機嫌な様子だ。

 

「全く、あんな馬鹿の所為で時間を無駄にしてしまった。もっと言織と一緒に色んな店を回りたかった」

 

「はは……そうだね」

 

結局、騒ぎを起こしてしまって居心地が悪くなったショッピングモールから足早に立ち去り、彼らは近くにある広めの公園で散歩をすることにした。大きな草木が所々に生えているこの公園は、遊具等が無く落ち着ける散歩道として近隣住民にとっての憩いの場となっている。また、人だけでなく飼い猫まで散歩している様子がここでは頻繁に見られる。

未だにヒリヒリと痛む頬を擦りながら、彼は少女の隣を歩いて行く。

 

「……それにしても、ちゃんと言いつけを守ってくれたね。偉いな」

 

「当然だ。言織とのデートを楽しむため、約束はしっかり守る」

 

「ん~、良い子だなぁ。偉い化子にはご褒美をあげよう」

 

「っ、本当かっ? 何をくれるんだっ?」

 

出発時の約束事を守った彼女の頭を撫でながら言うと、彼女は目を輝かせて『ご褒美』に食いついた。

 

「何でも良いよ。俺の所為でデートが台無しになった部分もあるし、金銭的に不可能なレベルでなければ何でもあげよう」

 

浮かれた気分でいる彼は、いつかの日と同じような台詞を口にする。しかし、今回は後悔の念など微塵も無く、寧ろ彼女の為に何かしてあげられる事が嬉しいくらいだった。約束を守ってくれた事だけでなく、自分のために体格の大きい相手へ怒ってくれた事も含めて、今日は彼女の行動全てが喜ばしいものだったのだ。

 

「何でも。…………何でも、か……」

 

デート中に見た物を思い出しながら、彼女は欲しい物を考える。

テレビゲームに未知の食品、読んだ事の無い本や綺麗な服。目にした物はどれもが輝いていて、とても興味深かった。一つだけ、という制限も無いのだから本音を言えば買える範囲で全てが欲しかった。

しかし、今日見知った物よりも欲しい物を彼女は既に知っている。

 

「それなら、言織の精液が欲しい」

 

「…………え?」

 

耳を疑うような返答に、彼は驚きのあまり目を丸くした。

 

「だから、私は言織の精液が欲しい。今すぐに」

 

彼を見上げる彼女の瞳は真っ直ぐで真剣そのもの。そもそも彼女が嘘や冗談を口にしたことなど無いが、それでも彼女の言葉は彼の理解を超えている。

 

「いや、だって……。今日は色んな物を見たでしょ? 知らない物が沢山あって、その中から一つと言わずに財布が許す限りは幾らでも買ってあげるんだよ?」

 

「ううん。それでも私は、言織が良い。言織に私のおマンコを気持ち良くして欲しい」

 

「…………、化子」

 

彼女は本気だった。誰かに聞かれているかもしれない場所で、恥ずかしげも無く言葉を紡いでいる。

普段であれば一秒とかからず乗っていたであろう誘惑に、彼は困惑していた。

 

「……………………」

 

――自分は彼女の願いを聞き届けるべきなのか。――

彼の胸中で渦巻く何かが大きくなる。彼女と肉体的に繋がりたい欲望が枯れたわけではないが、彼の知らない感情がそれを必死に阻み続けている。理性とも、常識とも違う、別のストッパー。

答えを決めあぐねている彼に彼女は痺れを切らし、手を強引に引っ張って茂みに入る。

 

「っ! 化子っ――」

 

不意に引っ張られた彼は躓(つまず)きそうになりながら、彼女に続いて草むらへ倒れ込むように身を隠す。彼女を呼び止めようとするも束の間、彼の手は慎ましい胸の膨らみに当てられる。

頬を紅潮させて目尻を軽く潤ませている少女が、男の手首をしっかりと掴んで離さない。

 

「もう、我慢できない」

 

そう言って、彼女は彼の唇に口付けをした。隠してきた触手で彼の後頭部を包み込み、柔らかな感触を強く押し付ける。

脂っぽい匂いのする唾液は仄かに甘く、彼を抑えつけていた何かが急激に薄まっていく。

 

「わかった。……声は抑えるようにね」

 

股間を膨らませながらそう言って、継音は彼女を抱き締めた。

自分からも唇を押し付け、彼女の口内へ舌を捩じ込む。まずはセックスの挨拶代わりに彼女の口腔を愛撫する。口粘膜の隅から隅まで舐め回し、自身の唾液を塗り込んでいく。

 

「んっ、んふぅっ…じゅぷ、じゅるるるっ」

 

その気になった彼を受け止め、化子からも舌を突き出して絡ませ合う。

出来る限り誰からも見られないように彼女を押し倒し、更に強引に涎を流し込む。右手で彼女の頭を撫でながら、舌を吸い上げては擦り合わせる。そして、左手で彼女の胸を少し強めに揉みしだいた。

 

「ぷはぁっ。……化子、少し胸が大きくなったか?」

 

「んっ…はぁっ…。そんなの、わからない」

 

彼女は横に顔を振る。しかし、毎日のように彼女の胸を触り続けた彼には分かる、微妙な変化があった。目で見るだけではわかり辛くとも、以前よりも柔らかく揉み心地が良くなっている彼女の胸。それは確かな成長の証だ。

心だけでなく、身体も成長している実感を得た彼は頬を緩める。

 

「そんなことより、早く続きをして…」

 

心の奥から湧き上がる喜びを噛み締めていると、彼女が腰をくねらせて催促する。より身体を密着させるように抱き着き、反撃と言わんばかりに彼の口内へ舌を突き入れた。

小さな舌が柔軟な動きで口内を舐り、少しだけ甘い涎を流し入れてくる。

 

(全く、こんな大胆になって…………)

 

出会った頃には想像も出来ない程に乱れ、性に対して奔放となった彼女。

責めっ気が出て来た彼女の舌技に継音も負けじと舌を巻き付ける。お互いがお互いの敏感な肉を舐め合い、得も言われぬ幸福感に満たされていく。

 

「んぅっ、ふあぁっっ。はぁっ、……ぁぁ」

 

彼女の頭を撫でていた右手で下着の上から割れ目を擦ると、蕩けた声が漏れ出て来た。

彼女の秘部は既に濡れてビショビショの状態だった。パンティー越しでも愛液の温もりが伝わり、少し強めに指を押し込むだけで軽々と受け入れてくれる。

 

「凄い濡れてるね。化子はエッチだなぁ、本当に」

 

「あっ、んんっっ…。言織が、そうしたんだ…。私の身体、言織に変えられたんだ」

 

「そうだね、その通りだ。だからもっと気持ち良くなれるようにしてあげる」

 

発情しきった彼女を見て興奮してきた彼は、彼女のワンピースの中へ顔を移動させる。そして、両手で彼女の下着を脱がせると秘部へ舌を這わせた。

 

「ひぅうぅぅぅっっ!」

 

濡れそぼった割れ目を丁寧に舐め上げては愛液を啜(すす)り、蜜壺の中へ舌を押し入れる。柔らかい膣襞を細かく擦ってみると、彼女の腰がガクガクと震え出す。

 

「だめっ、だめぇっ………。んぅぅっ、いぅっ……あぁぁっ……」

 

「声を抑えて、化子。誰かに見つかったらどうするのかな」

 

「あぁっっ、……んふーっ。ふーっ、ふーっ」

 

継音にそう言われて彼女は自分の口を両手で塞いだ。

かなりの無茶振りにも応えてくれた事が嬉しくて、彼は彼女の陰核を優しく頬張った。

 

「んんんんんっっ! んぅぅぅっっ!」

 

鋭敏な器官を温かい空間に包まれた瞬間、彼女は激しく喘いだ。軽くキスをするような刺激でも、今の彼女には強すぎるようだ。

しかし、それでも彼の猛攻は終わらない。舌先でちょんちょんとつついて遊び、時折息を吐きかける。

 

「~~~~~~っッっ」

 

そうすると呆気無く彼女は絶頂し、腰を浮かせて細かく痙攣した。これまでにも何度か彼女の陰核を弄った事はあったが、ここまで激しく反応を示したのは初めての事だった。もしかすると、開放的な屋外という環境が彼女を普段以上に昂らせているのかもしれない。

乱れた呼吸を整えながら彼女は地面の上で身体を休ませる。

 

「ちゃんと声を抑えられて偉いぞ、化子。少し休んだらチンポを挿れてあげるからね」

 

言いつけを全て守る彼女を撫でて褒める彼は、ズボンのチャックを下ろしていく。完全に怒張して反りかえっているイチモツを露出させて、彼は少女を抱き上げる。

大きな木を背凭れにし、肉棒の上に彼女の割れ目を乗せて座った。溢れ出る粘液と大陰唇の感触が気持ち良く、それだけでも射精できそうな程だ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、…………いいよ。もう、入れても大丈夫だから……」

 

継音の上で身体を落ち着かせていた化子が、彼を抱き締めてそう言った。彼女の呼吸はまだ少しだけ乱れているものの、絶頂の波は充分に引いたようだ。

彼女が腰を浮かせて、そそり勃つ肉棒を自ら膣口へ当てがった。真っ赤に腫れあがっている亀頭が触れ、割れ目から漏れ出る愛液がイチモツを伝って落ちていく。

 

「さぁ、自分で挿(い)れてごらん」

 

「はぁ、はぁ……、うん。わかった」

 

彼の言葉に頷いて彼女は少しずつ腰を深く落とし始める。暖かい柔肉に陰茎が呑み込まれていき、何度も味わった快感が彼の脳へと染みこんでくる。

 

「あっ、ふあぁぁっっ……んっ。んぅぅ~~っっ……っ、はぁっ」

 

絶頂したばかりの膣内は激しい収縮を繰り返しており、ただ包まれているだけで射精と同程度の充足感を彼にもたらす。彼女との性行為は、どれだけ経験しても飽きが来ることは無かったが、今日の満足感は既に並々ならぬものだ。

出来る限り声を殺しながら腰を下ろし、亀頭の先端が最奥と触れ合ったと同時に彼女はひときわ大きく息を漏らした。

 

「まだ休んでた方がよかったんじゃないかな? 大丈夫?」

 

「んぅっ、ふぅぅ……。大丈夫、気にしないで…………」

 

「本当に? それじゃあ、動くよ」

 

念を入れて確認すると彼女は頷いて応える。呼吸が荒く、とてもまだまだ平気そうには見えないのにも拘らず彼を優先させる少女。嗜虐心をそそられるその光景を前に、彼はそれを抑えつけてゆっくりと彼女を持ち上げて膣壁と肉棒を擦り抜く。

 

「んうぅっ、はっ…あぁぁぁ。これぇっ、しゅごいぃぃっっ」

 

動きとしては非常に緩やかだが、その分だけ細かい部分まで丁寧にカリ首が引っ搔く。速さによる誤魔化しが無いため、寧ろ今の彼女にとってはより大きな快楽を刻み付けられる。

膣内の半分くらいまで肉棒を引き抜き、少し休ませてから彼女の身体を股座へ落とす。

 

「ひぐっっ、ぃぐぅぅゥぅぅぅぅっっ!!」

 

すると彼女の体重がそのままスピードに変換され、かなりの衝撃が膣奥へ直撃した。滑るように擦り上げられる感触も相まって、耐え難い快感と刺激に彼女は大きな声を漏らす。

 

「こら。誰かに聞かれたどうするの? 君が大丈夫って言ったんだから、ちゃんと声は我慢してね」

 

「だってぇ、だってぇぇ…………」

 

「言い訳は無しだよ、ほら。もっと強く抱き付いて」

 

彼女の顔を自身の胸に埋めさせ、彼は弾むように腰を打ち付ける。軽やかなリズムでイチモツが出入りを繰り返し、パチュパチュと水の弾ける音が奏でられる。

想像以上に身体が感じているのか、亀頭が膣奥をノックする度に化子の肩がビクンビクンと震えている。

 

「~~っ、~~っ」

 

声を出したくとも出せない状況の中で、彼女は必死に快楽を耐え忍ぶ。彼の身体を力強く抱き締めては顔を胸板に押し当て、押し出されそうになる喘鳴を押し殺していた。

そんな彼女が愛おしく、継音は半ば無意識的に彼女の後頭部を優しく摩(さす)る。

 

「はは、大丈夫だよ。周りに人なんて――」

 

そう言いかけた時、遠くから人の声が聞こえてきた。それも一人や二人ではない、六人前後はいるであろうグループの声。その中の一つは、彼らにも聞き覚えのあるものだった。

 

「いや、本当にマジで逃げるとか有り得ねぇよ、お前ら。話し合いで済んだから良かったけどさぁ、マジで危なかったって」

 

「逃げたのは悪かったけど、そもそも手を出すのが悪(わり)ぃじゃんか」

 

「そうそう。まぁ、私は人来なかったら笑いながら見てたけどね」

 

その声の主は、彼らが映画館から出て来た所で揉めた青年の集団だ。警備員室から出てあまり時間が経過していないにも拘らず、片手には缶ビールを持って既に酔っぱらっている様子だった。

これはマズイ、と流石の継音も抽挿を止める。仮に見つかりでもすれば、彼も化子もどんな目に遇うのか分かったものではない。

二人は息を殺してやり過ごす。

 

「それにしても、だ。あのガキ、結構ツラは良かったよなぁ。ナメた態度が癪(しゃく)に障るけどよぉ」

 

「おいおい、マジでペドかよ」

「引くわーー」

 

「はぁ!? ちっげぇよ、馬鹿っ。そんなんじゃあねぇよ。俺にそんな趣味は無ぇって」

 

「本当かな~?」

「引くわーー」

 

青年たちの声が段々と二人に近づいて来る。

 

「まぁでも、あれだな。出来ることなら一発ヤッてみてぇ感じではあるよな。あんだけ生意気な性格してるし、マンコをハメたらいい声で啼(な)きそうじゃん」

 

「分かるわー。ああいうのってチンコで黙らせるのが一番効くよなー」

 

「ちょっとー、男子サイテーー」

 

「俺はそんな事思ってねぇよっ!」

 

青年たちの会話が聞こえて、彼はピクリと反応した。どうやら彼らは化子の事で話が持ちきりで、剰(あまつさ)え彼女を犯すことを考えているようだった。

継音には我慢ならない話だった。今すぐに飛び出して、殴り掛かりたい衝動に駆られる。

 

「……………………」

 

だが、そんな事をしても彼に利は無い。それどころか色々な意味で自分の立場を悪くするだけである。

募(つの)る苛立ちを抑えて息を殺し続ける。

 

「……おい、なんかここら辺クサくね? ぜってぇ誰かヤッてるって」

 

「――っ」

 

二人のすぐ近くを集団が通り過ぎようとした時、その中の一人がそんな事を言い出して彼の背中に冷や汗が流れる。途轍(とてつ)もない緊張感が二人を襲った。

 

「マジかよ。見てみよーぜ」

 

「えー、嫌だよ気持ち悪い。青姦してる奴とかキチガイしかいないって」

 

「おいおい偏見が酷いな」

 

一人の発言から青年たちは一斉に騒ぎ立ち、遂には周囲の探索まで始め出した。

 

(やばいっ、どうする!? どうすれば――)

 

イチモツを化子の膣内に挿入れたまま、彼は打開策を思案する。このままでは集団に見つかってしまうだろう。それだけは、何としても避けなくてはならない。

と、その時彼の身体が凄まじい勢いで引っ張られた。

 

「っ、おいっ! そっちで茂みが動いたぞっ」

 

茂みの一部がガサガサと音を立てたのを、一人が聞いていて仲間たちに大声でそれを伝える。それを聞いた瞬間、彼らはキャッキャッと喜びながら二人に急接近した。

――最早、絶体絶命だった。

 

「どれどれ~……って、んだよ猫じゃねぇか。つまらねぇ」

 

青年たちの視界の先。そこには二匹の猫がじゃれ付いている光景が広がっていた。

それを見た瞬間に彼らは興味を無くし、そそくさとその場を後にした。

 

「…………はぁぁ、めっちゃ焦ったー」

 

その様子を継音たちは木の上から見下ろしていた。実は、青年たちが青姦探しを始めたとほぼ同時に化子が複数の触手を頭上にある木の枝に巻き付け、勢いよく二人の身体を持ち上げたのだ。

彼女の機転によって彼は危機一髪、どうにか助かったようだ。

 

「有難う、化子。お陰で見つからずに済んだよ」

 

樹上から地面に降り立ち、自身の胸元で顔を埋めている彼女の頭を強めに撫でる。

 

「フーッ、……フーッ、……フーッ」

 

と、そこで彼は気づいた。彼女の膣圧が尋常ではない程に強まっている事に。

息も荒くしながら、彼女は膣壁をきつく締め上げて自ら腰を振り始める。恐らくは、見られるかもしれないという非日常によって、無意識的に性欲が高められたのだろう。

彼女は彼の胸へ寄りかかるように力をかけ、そのまま地面の上へ押し倒す。

 

「おマンコ……、おマンコが…疼くの……。言織ぃ…………」

 

肩を大きく上下に動かしつつ、彼女は潤んだ瞳で彼に訴えかける。美しくも妖艶な色気を振り撒いている彼女を見た彼の表情に浮かんでいたのは、言いようも無い困惑だった。苦しそうな色はあるものの、自ら進んで肉悦を貪っている彼女の様子を前にして彼の性的な興奮度が低減していく。

 

「どうしたんだ、化子? 少し落ち着いた方が……」

 

突如として様子が豹変した彼女を彼は宥(なだ)めようとする。

彼女の太腿を手で押さえながら、言葉をかけ続ける継音。しかし彼女に肉棒の抜き差しを止める意思は無いようだった。馬乗りの状態で激しく腰を上下に動かし、彼のイチモツで自身の性器を必死に刺激している。

 

「ば、化子っ!? 止めるんだっ、今すぐっ……」

 

性行為に対して積極的な仕草が増えつつあった彼女だが、このような暴走状態に陥った事は一度も無かった。大抵の場合は彼が「止めろ」と言えばすぐに行為を中断していた。

明らかな異常事態を感じ取った彼は心配になり、力づくでも彼女を制止させようと藻掻き始める。が、彼女の膣に咥えられている陰茎が愚直に快感を受け入れてしまうため、四肢を動かす力に集中出来ない。

 

「はぁっ…はぁっ…、言織……。大人しくしてて……」

 

暴れ始める彼を鬱陶しく感じたのか、彼女は触手で彼の身体を雁字搦(がんじがら)めにする。

 

「はぁっ、んぅっ……あぁぁっっ、…精液。っ、ふぅっっ、……精液が欲しいぃ……、私の……膣内に…………、ああぁぁっ」

 

「ば…、化子……」

 

化子の異変を目にして彼の気持ちは性行為どころではない。兎にも角にも心配で仕方が無い。病院には連れて行けなくとも、出来る限りすぐに彼女を自身の部屋に連れて帰り休ませたい。

だが身体は快楽に抗えない。初夜を想起させるような膣の締め付けに、経験を重ねた肉襞や腰の動き、そしてそれをスムーズに行わせている愛液の量。

 

「……っ、ああ射精(だ)すぞっ。たっぷり膣内(なか)に射精してやるからな、化子っ!」

 

「うんっ、うんっっ。お願いっ……出してぇっっ、私の膣内で……いっぱいぃぃっ」

 

――このセックスを終わらせるには、自分が射精するしかない。――

そう考えた彼は込み上げる欲望の濁流に身を任せ、彼女の蜜壺に包まれている肉棒を精一杯硬くさせる。今の彼に我慢は必要無かった。

 

「でっっ…射精(で)るぅぅぅっっっっっっっっ!」

 

宣告通り、彼女の膣内で彼は果てた。脈打つイチモツが白濁粘液を吐き出し、子種汁を充満させていく。

 

「んぃっっ、くぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!」

 

その勢いで彼女もまた絶頂に達して身体を震わせる。鈴口から解き放たれる精液が子宮口を打ち付ける度に潮を吹き、押し寄せる快感で激しく痙攣する。

そしてそのまま、彼女は倒れ伏して意識を失った。

 

「…………化子? 化子、どうしたんだ?」

 

自分の上で倒れ込んだ彼女を抱え上げ、継音は何度も身体を揺らす。

彼女の口元に耳を近づけると呼吸音が聞こえ、胸に手を当てると鼓動が感じ取れた。どうやら、彼女は深い眠りに就いているようだ。恐らくは彼女も自覚している以上に体力を消耗してしまったのだろう。

一安心した彼は胸を撫で下ろし、帰り支度を始める。

 

(……………………ぁ、そうか)

 

彼女を気に掛けて後始末をしている中で、彼は自身の胸の内で十数日もの間で燻り続けていた感情について漸(ようや)く答えを出した。切っ掛けとしては、彼自身があまり分かっていない。一緒にウィンドウショッピングをしている最中だったかもしれないし、酔っ払いに絡まれた時だったかもしれない。もしかしたら、今日の出来事全てが等しく決定的な要因だったのかもしれない。

 

(俺は、化子を……本当の娘のように思っていたんだ…………)

 

彼は小さくそう呟いた。

彼女に何かを買い与えたい気持ちも、彼女が何かを覚えて成長するのが嬉しい気持ちも、彼女の身に何かが起きて心配になる気持ちも、全ては彼が化子という少女に対して芽生えた父性に起因していたのだ。

そしてその父性が、彼女に対する性欲とせめぎ合って知らず知らずのうちに葛藤し、胸の中に蟠(わだかま)りを生じさせていた。性欲はあって、彼女との行為が気持ち良いのにも拘らず気分が乗らなかったのも、その事が突っかかっていたのが原因だった。

 

(……この子は、俺なんかの傍にいて良い存在じゃない。もっとしっかりした場所で、しっかりした教育を受けて生きるべきだ)

 

その事に気が付いた継音は決断した。――化子と別れて生きる道に進む事を。

彼にとっては今がその時だったのだ。

 

「……帰ろうか、化子」

 

穏やかな様子で後始末を終えた彼は、未だに眠っている少女を抱きかかえて立ち上がる。赤く染まる夕日に向かって、彼はゆっくりと歩き始めた。

彼女を広い世界に解き放つ準備は、今日からしなければならない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。