セッ○スしか娯楽がない! 作:性戦の別府
白いパンを手に取り一口かじる。ほどよい甘さと香りが口の中を満たしていく。
チラリと視線をあげる。すでに朝食を終えたのか、母は──ティルテュは本を片手に紅茶を嗜んでいた。
娘の視線に気付いたのか、母は本から顔をあげてニコリとほほ笑む。しかし……
(笑ってない! 目が笑ってないよぉ!)
微笑んでいるのは口元だけ。その目は一欠けらも笑ってはいないことに娘ティニーは戦慄を覚えた。
(これ絶対バレてるよね! ユリウス様と、その、シちゃってること! 絶対にバレてるよね!? 助けてユリウス様!)
冷や汗をダラダラと流しながら、心の中で“ご主人様”に助けを求めるバカ娘。
朝起きた時、ティニーの目の前には「朝食の時間よ」と今のように微笑んでいる母がいた。そう、汗や体液で全身が汚れている自分の目の前に母はいたのだ。いつもなら私の方が早く起きているのに!
朝一番から追い詰められたティニーは「この窮地をどう乗り越えるべきか」と必死になって考えていた。俗にいう無駄な抵抗というやつである。
さて、彼女の母親たるティルテュはというと?
(別に怒ってないんだけどね。考えることが増えちゃったなってだけで)
実は何も怒ってはいなかった。
本当ならティニーの行動は叱責されるべきものだろう。何しろ賭けセックスの敗北条件である“ティニーは手を出してはいけない”に抵触してしまったのだから。
しかしティルテュは二人のセックスを間近で見て、かつそれをオナニーのオカズにしてしまったことでかえって冷静になれた。自分達の現状を客観的な視点で見て考えられるようになったのだ。
(どうしてユリウス様は勝利宣言しないのかな? 昨日のティニーを見た限り、結構前から条件満たしているでしょきっと)
ティルテュの場合、心はともかく身体は完全に屈服していた。そしてティニーは身も心もユリウス無しでは生きていけないレベルで染まっているのではないかと予想する。
二人はもうどうあってもユリウスの手からは逃れられない。ならば勝利宣言という名のトドメをさすべきではないのか。
実はこうではないか、という予想ならばある。しかしそれはあまりにも都合が良すぎる予想だ。誰に対して? ティルテュ達母娘に対してだ。故にそれは複数存在する予想の中から真っ先に排除された。
しかしユリウスとの一ヶ月近い交流を経て、その予想は実は正しかったのではないかと今では考えている。
だからこそティルテュは確認したかった。例え自分が恥を晒したとしても。
テーブルに置かれていたベルを鳴らす。二十秒も待たずに室内へメイドがやってきた。
「お待たせいたしました。ご用件をお伺いいたします」
「手の空いてるメイドさんをさ、ここに連れてきてもらってもいい? 聞きたいことがあるの」
「──かしこまりました。少しお時間をいただきます」
「うん。お願いね」
メイドが踵を返し部屋から出て行った。
この屋敷で働いているメイドは、ここから少し離れた位置にあるメイド用宿舎から通っている。いま部屋から出て行ったメイドもそうだ。
再び二人きりになったあと、ティニーは母に訊ねた。
「お母様、メイドの皆さんに何を質問されるのです?」
「ん……ちょっとね」
今はまだ言いたくないのか、彼女は言葉を濁す。
若干イヤな予感を覚えつつ、ティニーは残ったスープに手を付けた。
そして数分後。
「ティルテュ様、ティニー様。大変お待たせ致しました」
最初に来たメイドを含めて五人のメイドが入ってきた。
「ありがとう。それじゃ早速だけど質問するね。とても答え辛い質問になるけれど、それは許してほしいな」
「どのような質問であろうともお答えいたしましょう」
「そっか。なら質問ね。ここで働いているメイドさんはさ、全員処女?」
「──はい。すべてのメイドは純潔の乙女でございます」
母の言葉に思わずせき込むティニーだったが、メイドは顔色一つ変えずに質問に答えた。
ティルテュは「そっかー」とため息をつき、メイドを見渡す。
「それじゃちょっと変わった質問。メイドさんのお友達の中でさ、恋人持ちとか夫持ちとかいる?」
「…………」
質問に受け答えしていたメイドが他のメイドに視線をうつす。それを受け、三人のメイドが手を挙げた。
ティルテュは求めていた人がやっときたと満足気に頷く。そして質問を続けた。
「それじゃ次の質問。わたしはさ、これまで狭いコミュニティの中で過ごしてきたから男女の営み……セックスに関する“常識”というものを知らないの。だから教えてほしいんだ。お友達の体験談でもいいから、あなた達が知っていることをね」
「かしこまりました」
「男が女のマ〇コに顔突っ込んで舌で愛撫したり愛液をすすったりするのって一般的なセックスでもやったりする?」
「えっ」
「男が女に自分のチ〇コを口で奉仕させたあとに精子飲ませて、あまつさえその直後に舌を絡めたディープキスとかする?」
「ゑっ?」
「男が女の全身をペロペロとなめまわすってことある? こう、手とか脇とか耳の裏とか首筋とか背中とか足とか……」
「えぇーっ!?」
女達の絶叫が部屋の中に響き渡った。
◆ ◇ ◆
「結論から申し上げます。そのような常識は存在しませんっ」
「マン……あそこに顔を突っ込んで舌で愛撫? 愛液を飲む? そんなの聞いたことありません!」
「逆ならあるよね、逆なら」
「まあ、そうね。殿方のアレを口奉仕して、出されたモノを飲むというのはよく聞くお話ね」
「だけどその後のキス云々はちょっと……」
「ないよね」
「ないわー」
「殿方が嫌がります。自分のとはいえ精子を飲み込んだ女とのキスなんて、まずありえません」
「最後の全身ペロペロ?ですけど。それもちょっとないですね」
「さっきのおマ……コについてもそうなんですけど。それって言ってしまえば“奉仕”なんです」
「女が殿方に、でしたらまだわかります。しかしその逆は……」
「ないよね」
「ないわー」
その場にいたメイド全員がうんうんと頷く。全員が処女であるはずなのに揃って否定的な態度だった。つまり彼女達の言葉が“この世界におけるセックスの常識”なのだろう。
ティルテュは頬を若干ひくつかせながら「質問に答えてくれてありがとう」とメイド達に感謝する。一方娘のティニーはテーブルに顔を突っ伏した状態になっていた。顔だけでなく耳や首まで真っ赤だ。
最初に呼び出されたメイド──おそらくメイド長──がほんのり赤く頬を染めながら訊ねてくる。
「その……もしかして今の話は……あの……」
「……そうだ、思い出した。あなた確かいつもの……」
このメイド長、賭けセックスが終わった後のシーツなどを毎回片付けているメイドだった。
ティルテュはイジワルそうな笑みを浮かべながら答える。
「想像に任せる、なんて野暮なことは言いません。……つまりはそういうことよ」
「は、は──はぅ!」
メイド長に必殺の一撃! メイド長は倒れた!
「め、め、メイド長ぉぉぉ!」
「メディック! メディィィック!!」
「申し訳ございませんティルテュ様ティニー様! 我々はこれで失礼します!」
「やっべ! ユリウス様やっべ!」
「まずい想像しただけで鼻血が……!」
ティルテュはメイド長をかかえて去っていく彼女達の背に向かって「あなた達もそのうち食われるだろうから覚悟だけはしておいてねー」と声をかける。二人ほど鼻血を出した。どんまい!
「は~…やっぱりそうか~。うん、そうだよね~。アレが普通なワケないよね~」
納得したようにうんうんと頷く。
ティルテュはセックスに関する経験はこれ以上無いというほど豊富だが、そのセックスはほぼすべてが強姦によるもの。まともとは到底言えない。真っ当なセックスなど“夫”としたセックスぐらいなものだ。それだって回数はそれほど多くない。
要は彼女は知らなかった。セックスに関する常識を。だから知る必要があった。知ることが出来れば“判断材料”になるからだ。
「ねぇティニー。ユリウス様のセックス、普通じゃないんだって」
「…うん」
「すごいよね。お母さんが話したセックスの内容が実際にユリウス様としたものだって分かった瞬間、メイドさん達の目が爛々と輝いてたよ。すっごい興奮してたし、すっごい羨ましそうな目でこっちを見てた」
「……うん」
「メイドさんからお話を聞いて本当に良かった。あの人達のおかげでわたし達母娘が目指すべき未来、それが明確になった」
「………お母様?」
ティルテュが目指した未来。それは娘ティニーをユリウスの庇護下に置いてもらうというものだった。
可能であれば家臣として。最低でも愛人として。娘を傍に置いてほしかった。
そうすればあの女は……ヒルダは娘に手を出せなくなる。娘の未来が約束されたものになる。
愛娘の未来が手に入るのであればティルテュはどんな条件でも受け入れる覚悟があった。ユリウスの庇護下に入る条件に自分はフリージ家に戻ることという条件が出されたとしても、彼女は喜んでそれを受け入れた。今の彼女には自分の命よりも娘の未来が大事なのだ。
しかしその覚悟は無駄だったのかもしれない。
この一ヶ月、ユリウスと共に過ごしてきて分かったことがある。
ユリウスという少年は、きっと……
「ねぇティニー。お母さんね、賭けの敗けを認めてユリウス様の奴隷になってもいいんじゃないかなって思うようになってきたんだ」
「お母様!?」
母の口から信じられない言葉が出てきた。
性欲処理用の奴隷ではなく、家臣、あるいは愛人の座を“二人”で目指す。それが母から聞かされていた計画だった。しかし実際はその計画の対象はティニー一人のみ。ティルテュ自身は最初から勘定に入っていない。当然ティニーはそのことを知らない。
娘のその反応に、母は笑いをこらえるように口に手をあてながら言う。
「ねぇティニー、あなたに質問があるんだけど」
「……質問ですか? なんでしょう?」
「ユリウス様が奴隷という身分だけでわたし達母娘を粗末に扱う御方だと思う?」
「ありえませんね。だってご主人様はドスケベですし」
「奴隷、いえ性奴隷が相手となるとまた態度が変わってくるかもしれないわよ?」
「いえ、やはりありえません。ご主人様がそういう殿方でしたらこの一ヶ月で必ずそれらしき兆候が出たはずですから」
そう。彼はスケベなのだ。ドスケベなのだ。スーパースケベなのだ。
ユリウスは果てしないスケベではあるが、暴力を振るうタイプのスケベではない。好みの女体を骨の髄までしゃぶりつくすタイプのスケベである!
それを理解してしまえば取るべき選択肢など一つしかない。
ユリウスの庇護下に入れてほしいと懇願し、対価として性奴隷として仕える。それだけでいい。
性奴隷という身分であったとしても、主がユリウスであるならば決して無体な扱いはされない。そういう確信がティルテュにはあった。
「今日の夜、ユリウス様にすべてお話します。……いいですね?」
「はい! お母様!」
母の問いに娘は笑顔で答える。後悔など一欠けらもない、眩しい笑顔だ。
賭けセックスが始まってから今日で二十一日目。今日がこの母娘との最後の性戦となる───