新・嗜虐西遊記─北遊記/ビ・ク城篇【終了】 作:ドン・ドナシアン
「あ、あの……お、お母様……。か、厠に行かせください……」
すでに尿意は限界を越えているのか、またしても、ハク・コは哀願の声をあげた。哀願するたびに、三方向から乗馬鞭で打たれることがわかっているにもかかわらず、しつこく許しを乞おうとするのだから、余程に切羽詰まっているのだろう。
顔は汗で濡れ光り、中腰に近い窮屈そうな姿勢で筆記をしているハク・コの固くすぼめた太腿の震えが、服の上からでもわかるほどに大きくなっている。
ずっと股間に力を入れ続けているためか、いつしか息も荒くなっていた。
そのハク・コの乱れている息の音が、周りの女官たちのくすくすという笑い声に重なる。
「ひんっ」
左右と真後ろから監督役の女官たちから鞭が飛んだ。
清書し直している書類を汚すわけにはいかないから、ハク・コが慌てたように、筆記の手を紙から離す。
「だらしないわのう。堪え性のない娘だこと……。まあいいでしょう。仕方ないから許します。でも、その前に、とにかく一冊目を仕あげなさい。そうすれば、厠に行くことを許してあげるわ。だからといって、汚い字で書いたり、書類を汚したりすれば、やり直しをさせますからね」
ハク・エンは言った。
だが、簿冊一冊分を新たに書き写すには、まだこれまでの作業分の倍以上はかかるだろう。
簡単に終わるような量じゃない。
「あ、ありがとうございます、お母様」
しかし、それでもハク・コは、ひと筋の希望を見出したかのように、相好を崩した。
その顔に接して、ハク・エンはまたもや苛立ちを覚える。
笑顔を浮かべたハク・コはやはり、かなりの美少女だと思った。だから、夫はこんな小娘に執着するのだろうか──。
こんな弱そうで大人しいだけの少女は、夫の趣味とはかけ離れている気がするが、なぜか、いまだに、ビク・トは、必ず数日置きにはハク・コを閨に呼ぶ。
しかも、この小娘は破廉恥にも、義父からの性愛の誘いを拒みもしないのである。
考えると、改めて腹が煮えかえってくる。
「その代わりに、垂れ流すんじゃないわよ。神聖な職場なんですからね。一冊分の清書が終わるまでは、死ぬ気で我慢しなさい」
ハク・エンは、嫌みを口にした。
それから、ハク・コは一心不乱に書類に格闘し始めた。
しかし、尿意が辛いのか、時折、手をとめて歯を喰いしばるような仕草を繰り返す。
また、全身はやがて汗びっしょりになり、最初は比較的静かに太腿を擦り合わせるような仕草だったのに、やがて、必死に内腿を擦り続けるような動作に変わった。
だが、それでも一生懸命に、手だけは動かし続ける。
驚いたことに、そのまま一刻ほど我慢し続け、やがて、残り一枚になった。
ハク・エンは目で合図をする。
すると、左側にいる監督官が動いた。
あらかじめ指示をしていたとおりに、こっそりと清書の終わった用紙をハク・コが筆記作業をしている左手に近づけたのだ。
さらに、蓋が開いたままのインク壺をハク・コの左手首に繋がっている鎖に接しさせる。インク壺の側面には仕掛けがあり、鎖に粘着するようになっているのだ。
だが、一心不乱に清書作業を継続しているハク・コは気がつかない。
さらに、そろそろと鎖を引いて、机上部分のたるみをなくしていく。
ハク・エンが小さく頷いた。
それを受けて、真後ろにいる監督の女官がそろそろと、ハク・コの下袍の裾に乗馬鞭の先を侵入させている。
周りの女官たちが必死笑い声を我慢して、それを見守っている。だが、筆記作業に夢中になっているハク・コはまだ気がつかない。
「ひゃんっ」
ハク・コが身体を跳ねあげさせた。
下袍に入った乗馬鞭が下袍の中で、ハク・コの無防備な股間をお尻の後ろからくすぐったのだ。
懸命に尿意に耐えている状態で受けた股間への刺激には、耐えに耐えてきたものが堰を切ってしまうのかと思うような恐怖を受けたに違いない。
そして、慌てて身体を伸ばしたために、左手首の鎖が動いて、インク壺をひっくり返した。
すでに書き上がった書類は、インクでべっとりと汚れる。
「あっ、そんな──」
ハク・コが顔色を変えて絶句した。
ハク・エンは、我慢できずに、噴きだしてしまった。
「なにをしているのよ──。早く拭きなさい。そして、新しい紙に最初から書き直しなさい──」
ハク・コに告げる。
すると、涙目だった眼からぼろぼろと涙がこぼれ出す。
「そ、そんな……。せ、せめて、先に厠に……」
「だめに決まっているでしょう。厠は一冊分の清書が終わってからよ」
「ああ、そんな……。そんな……」
ハク・コが肩を震わせて泣き出した。
顔には絶望の色が浮かんでいる。
「……ああ、もう、だめ……。だめよ……。だめ……。あっ、ああ──」
そして、ハク・コの下袍の前に大きな染みができて、脚のあいだに水たまりが拡がり出す。
ついに失禁してしまったようだ。
ハク・エンは立ちあがって、ハク・コの頬を引っ叩いた。
「この馬鹿娘が──」
「ああっ、も、申しわけありません──」
平手の勢いでハク・コの身体が横倒しになりかける。
わざと張っていた左手首からの鎖がさらに、机の上のものをひっくり返す。机の上はこぼれたインクでべっとりだ。
そのあいだも、ハク・コの失禁は続いている。
一度始まった女の放尿は、途中でとめることなどできるわけがない。
「なんてことをしてくれたのよ、ハク・コ──。こんなにわたしの机を汚して──。しかも、お漏らしまで──」
ハク・エンは立ちあがったまま、大声で怒鳴った。
ハク・コがすすり泣きながら項垂れる。
わざと大きく舌打ちしてやる。
「とりあえず、汚れたものをきれいにしなさい」
やっと放尿が終わったところで、ハク・エンはまた怒鳴った。
「は、はい……」
ハク・コは返事をしたものの、おろおろしている。
当然だろう。
掃除をするといっても、手に届く範囲には掃除道具はない。だが、両手首は机から離れられないように、鎖で繋がれているのである。
ハク・エンは、布を裁断するために使う鋏をハク・コの前に投げた。
「えっ?」
反射的に机の上に放り投げられたその裁断鋏に手を伸ばし掛けて、ハク・コが途中で手を止める。
意味がわからないという表情で、ハク・エンの顔を見る。
「なにを見ているのですか──。床と机を拭くものがなければ、それで作るのよ。どうせ、お前の小便で汚れたままの服で業務なんかできないでしょうに? その鋏で布切れを作って掃除しなさい──」
ハク・エンは冷たく言った。
ハク・コは信じられないという顔で目を丸くした。
「そ、そんな。本気ではないですよね? 謝ります。謝りますから、それはお許しください。お願いです、お母様──」
ハク・コが必死の口調で言った。
ハク・エンが顎で合図をする。
すると、周りの三人が寄ってたかって、三方向から乗馬鞭で思い切り打ち付け始める。
顔以外はどこを打ってもいいと伝えており、最初の鞭は前から太腿を横殴りに打ち据えられた。
「ひいっ」
衝撃でハク・コは思わ両手で太腿を撫でる。しかし、鎖で阻まれて手は腿まで届かず、手前でとまる。
そうやって両手首が鎖で机と繋げられているうえに、三方向からの鞭打ちだ。逃げようがない。
しかし、二発目は反対側から腿に炸裂した。服が千切れて、そこから白い皮膚が垣間見えた。
「や、やめてください──。お願いです──」
ハク・コは必死に襲ってくる鞭を手で避けようとしながら、悲鳴をあげた。
「まだ逆らうようね。あと三人、参加しなさい」
ハク・エンは準備していた乗馬鞭を机の上に置いた。
周りで見守っていた女官がすぐに立ちあがって、三人が加わる。
さらに六方向からの連続の鞭打ちだ。
脚にしろ、胴体にしろ、どんどん鞭が当たり、服が避ける。ハク・コは悲鳴をあげる。
女官たちには、手を抜いたら、ハク・エンの怒りが飛ぶことがわかっているので容赦ない。
そもそも、こうやって、ハク・コ苛めは、この一年の日常だ。ハク・コにはなにをしてもいいのだというのが、すっかりと女官たちにも身に染みているので、ここでハク・コに同情するような者は存在しない。
「ひいっ、ひぎいっ、あぐっ、やめて……やめてください。言うことをききます──。ご命令に従いますから──」
打たれた脚を必死に庇うようにしながら、ハク・コがやっと下袍の腰の留め具に手をかけた。ハク・コが身につけているものは、女官用の上下が分かれる仕様のものだ。
さっきの放尿で濡れている下袍が足もとに落ちる。
すると、剥き出しになった腿に周囲から鞭が飛び始める。
布越しの鞭と、直接に肌に当たる鞭とでは桁違いの激痛だろう。
ハク・コがさらに悲鳴をあげる。
「ぬ、脱いでます。脱いでますから──」
上衣は鋏で切断しなければ脱げない。
手を伸ばして、机の上の裁断鋏を手に取る。鎖の余長は十分であるものの、伸ばした腕にも鞭が飛ぶので、うまく掴めないでいる。
ハク・エンは、ハク・コの苦悶の姿に、少しばかり平素からの溜飲がさがって満足できた。
「お前がもたもたしているからでしょう。まあいい。腕は勘弁しておあげ。その代わり、下半身を徹底的に打ちなさい」
ハク・エンの指示で、六人が太腿を交互に狙う打つ。
日頃から鞭打ちは日常茶飯事なので、一年前にはきれいだったハク・コの脚は鞭痕だらけだ。
脚だけじゃない。
ハク・コの身体には、鞭痕のない場所などないだろう。高価なポーションや治療術の遣える術士の治療を受ければ、一年前のときのような美しい肌に戻るとは思うが、懲罰の痕を残すのも反省をさせるための躾の一環だと称して、ハク・コには肌を治療するのを許さないでいる。
それなのに、夫のビク・トは、こんな痣と傷だらけのハク・コを抱き続けるのだ。
全く面白くない。
そして、ハク・コの足もとに、切断された上衣がどんどんと捨てられていく。
やがて、ハク・コは、胸を押さえている布と股間の下着だけになった。
「こ、これでお許しを……」
ハク・コが両手で下着姿の半裸を隠しながら言った。
そして、すでに切断したり、器用に足で拾い上げて、脱いだりした自分の衣類を手に持ち、まずは机を拭こうとした。
「この馬鹿──。お前が考えずに、そのまま床に落としたから、その服はお前の小便で汚れているわよ。それでわたしの服を拭くつもりなの──? その残っているもので拭くのよ──」
そのハク・コの髪を掴んで、屈んでいた身体を立たせた。
「こ、これだけはお許しを……」
だが、ハク・コは身体を小さくして許しを乞うだけだ。
ハク・エンは、胸巻きの布を掴んで強引に引き剥がした。
ハク・コの小振りの乳房が露出する。
「あっ、いや──」
ハク・コが慌てて両手で胸を隠そうとした。
だが、さすがにそこまでは鎖が届かない。
ハク・エンは取りあげた胸巻きをインクで汚れた机に放り捨てた。
「剥ぎ取りなさい」
ハク・エンは冷たく言った。
周りで乗馬鞭を構えていた女官たちが一斉に、ハク・コに群がる。
あっという間に、下着を脱がされて、ハク・コは生まれたままの姿になった。
脱がせた下着も、机の上に置かれる。
「ああっ……」
素っ裸になったハク・コは、真っ赤になって懸命に身体を隠そうをする。
ハク・エンは、そのハク・コの頬を引っ叩いた。
「早くしなさい──」
「は、はい……」
全てを諦めたように、ハク・コは裸で自分の下着を使って、机を拭き始める。
だが、さすがに、それだけではきれいにはならず、ハク・エンは女官に指示して、水の入った木桶と雑巾を持ってこさせた。
「もう手錠は外してあげるわ。その格好じゃあ、逃げようにないでしょうしね」
手首の手錠を外させる。
ハク・コは、泣きべそをかきながら、渡された布と自分の服で机を拭き、さらに床も掃除した。
汚れ物については、木桶に入れさせた。
その木桶は、部屋の外に運ばせたので、これで、ハク・コは新たに渡されるまで素っ裸だ。
このまま置いていったら、この娘はどうするだろう?
それも面白いかもしれない。
真夜中になっても、見張りの兵が廊下から消えるということはないから、この部屋で必死に巡回の兵に見つからないように、隠れて過ごすだろうか。それとも、とりあえず裸で廊下に出て、なんとか身体に巻くものでも見つけて、自室に戻ろうとするだろうか。
いずれにしても、見ものというものだ。
「じゃあ、始めなさい」
ハク・エンは言った。
ハク・コはまだすすり泣きをしていたが、諦めたように再び簿冊を新たに書き写す作業を始める。
こうやって、苛めで全裸作業をさせるのは、初めてではない。
だが、やはり、自分ひとりだけ全裸でさせられるのは恥辱なのだろう。片脚をあげて股間を隠すようにして、胸も腕を縮めて少しでも隠そうとしている。
それにしても、やっぱり少女らしい身体だ。
こんなに鞭痕だらけにしても、まだまだ瑞々しい肌だし、なによりも、この娘には、十七歳くらいの少女にはあり得ない色香がある。
そんな不思議な不調和が、ビク・トが飽きることなく、この娘に手を出す理由だろうか。
「それにしても、相変わらず、薄い陰毛だこと。まだ子供のままなの?」
ハク・エンはできるだけ、ハク・コを侮辱してやりたくて言った。
改めて見ると、ハク・コの股間の毛はとても薄い。
はっきり言って、ほとんど生えてないかのように短いのだ。だから、亀裂もクリトリスもはっきりとかたちが見えてしまっている。
ハク・エンは、すでに大人の身体をしているハク・コがその部分だけは、まだ子供のままなのだと思い込んでいた。
「あっ、いえ……、これはお父様が……定期的にお剃りになって……」
「はああ?」
ハク・エンは思わず声をあげてしまった。
お父様というのは、ビク・トのことだ。
あの夫は、ハク・コとの閨での行為のとき、そんな破廉恥な遊びまでしているのか──?
だが、結婚生活がうまくいっているときでも、ビク・トはそんなことをハク・エンに要求したこともない。
かっと頭に血が昇る。
どうしてやろうかと思ったが、ハク・エンはまたもや、ハク・コが身体をもじつかせていることにきがついた。
ハク・エンは、ほくそ笑んだ。
利尿剤だ。
ハク・コに飲ませたのは、かなり強力な利尿剤である。
一度放尿したくらいで、尿意がとまるはずもない。
だから、また尿意が迫ってきたに違いない。
今度は、どうやって辱めてやろうか……。
また、失禁するまで放っておき、今度は自分の舌で掃除をさせるもいいかもしれない……。
あるいは、全員の前で小さなコップにでも、放尿させるか……。
いっそのこと、尿意を与えたまま、廊下に放り出すか?
さすがに、男の兵士たちの前で失禁するような恥をかかてやれな、さすがにビク・トは興醒めして抱かなくなるか?
ハク・エンはあれこれと、ハク・コをさらに辱める方法を思考する。
「う、うう……」
だが、ハク・エンはなんとなくだが、ちょっとハク・コの様子が不自然になってきたことに気がついた。
なんだか、艶めかしい息とともに、内腿を擦り合わせる間隔が速くなったし、そうかと思えば、極端に片膝を曲げて、さらに自分の股を脚で隠そうとしている。
尿意もあるのだろうが、そうでない感じもする。
そして、ハク・エンははっとした。
剥き出しの乳首がぴんと勃起しているのだ。
「この娘──、欲情しているのかい──。この変態娘──」
大声を出すとともに、机の前に出てハク・コの正面に割り込んだ。
周りの女官たちに、ハク・コの両手を押さえさせる。
そのハク・コの股間に手をやった。
「あっ、いやっ」
ハク・コが真っ赤になって、必死にハク・エンの指を避けようともがく。
だが、それを無視して、ハク・コの股の亀裂に指で触れる。
ねっとりした愛液が指に絡みついた。
「お前、全裸にされて欲情しているの? とんだ変態娘だこと」
「ち、違います。違うんです──」
ハク・コは泣きそうな顔で懸命にハク・エンの指から股間を離そうともがく。
だが、ハク・エンはさらに執拗に指でハク・コの股間を抉った。
これは、ちょっと濡れているというどころじゃない。大量に股間を濡らしている。
「なにが違うのですか。これはお前のおしっこじゃないわよ。ほらっ」
ハク・エンはハク・コの愛液で汚れた指をハク・コの顔に擦りつける。
女官たちが一斉に笑い声をあげた。
そのときだった。
閉じている廊下との扉の前に誰かが立つのがわかった。
そして、いきなり扉が左右に開かれた。
「あっ、きゃあああ──」
人が入ってきたことを悟って、全裸のハク・コが悲鳴をあげて、女官たちの手を振りほどいてその場に座り込む。
一方で、入ってきた者に視線を向けて、女官たちが息を呑んで硬直してしまう。
部屋に入ってきたのは、ハク・エンの夫であり、この軍塞の司令官のビク・トだったのだ。
護衛は一緒ではないが、部屋の外に待たせている気配である。
なんで、ここに……。
ハク・エンは、小さく舌打ちした。
「なにをしておる?」
ビク・トが裸で蹲っているハク・コの前にやってきて、ハク・エンを見た。また、自分が身につけていた上着を脱いで、ハク・コにかけた。
ハク・コが振り返り、やっと入ってきたのがビク・トであることに気がついて、驚いている。
「見てわかりませんか。躾ですよ。なにか不都合が?」
ハク・エンがビク・トを睨んだ。
気に入らない──。
気に入らない──。
この軍塞でもっとも権力のある司令官のビク・トがわざわざやってきて、ハク・コを助けようとしている?
おそらく、そうなのだろう。
それに、いま自ら上着を脱いで、それをハク・コにかけてやったような行為……。
ハク・エンは結婚してから、そんな風に優しく扱ってもらった記憶はない。
ものすごく苛々した。
「衆人環境の中での全裸業務が? そんな躾があるのか?」
「やり方に文句は言わせませんよ。一年前に、ハク・コのことは受け入れました。でも、それは、この者の躾をわたしが受け持ち、旦那様がそれに一切の文句を言わないというのが条件でしてよ。この娘は愚図で、ちっとも仕事を覚えないのです。多少の懲罰は必要なのです」
「なるほどな。わかった。文句は言うまい。しかし、そのときの契約で、その代わりに、ハク・コをわしが抱くことについて一切の文句は言わぬし、阻害もしないというのがあったな。それは覚えているか?」
「だから、一度も文句を言ったことはないじゃないですか──」
ハク・エンが声をあげた。
苛立ちのまま怒鳴ったので、かなりの大声になった気がする。
一方で、ほかの女官たちは、ちょっと顔色を悪くして、その場に立ち尽くしている。
養女ということになっているハク・コが、ビク・トと男女の関係出あることは知っているが、ビク・トがハク・エンの執務室にやって来たのは初めてだし、私生活側の様子を知ることもない。
だから、ビク・トがハク・コを頻繁に抱くほどに気に入っていることまでは知らないだろう。
だから、いまのビク・トのハク・コに対する態度を見て、もしかしたら、ハク・エンの言いなりになり、ハク・コをいたぶっていたことは失敗だったとか思っているかもしれない。
そんな表情をしている。
「ならば、文句を言うなよ。これから、ハク・コを抱くから連れていく。わしがこれを閨に連れていくことに、一切の邪魔をしない約束だ。ハク・コ、来い──」
ビク・トがハク・コの腕をとって立たせる。
裸身にビク・トの上着だけをまとったハク・コが戸惑いながらも、慌てたように両手で前を上衣で隠す。
上着は大きいので、上衣だけではあるか、ハク・コの尻を隠すほどの丈はあった。
「躾の途中です──。この娘は大事な書類に書き損じがあったのです。それで懲罰として、書き直しをさせていたところなのです──。それが終わるまで、出すわけにはいきません」
ハク・エンが金切り声で叫んだ。
だが、ビク・トは素知らぬ態度である。
「そうか。ならば、その懲罰もわしが代わりにやろう。帳簿もこちらで受け取る」
ビク・トは外から護衛を呼び、ハク・エンの机上にあった帳簿を抱えさせた。
「おう、そうだ。懲罰を私が引き取ったのだったな」
すると、ビク・トが急に相好を崩して、護衛から手錠を受け取ると、ハク・コの両手を背中に回させて、後ろ手に手錠をかけています。
「あっ、そんな──」
ハク・コが顔を真っ赤にして羞恥に顔を歪めたような表情になる。
前側は留めてはいないので、上衣の前が開いて上衣はハク・コの裸身が露わになる。
「袖は通してないので、肩から滑り落ちたら終わりだぞ。裸体を晒したくなければ、大人しく歩くことだ」
ビク・トが言った。
それに対して、ハク・コは打ちのめされたような顔になりながらも、欲情をした雌の表情を浮かべる。
また、ビク・トが相好を崩しながら、ハク・コに被せている上衣のボタンを留めていく。
ねっとりとした視線を向けながら……。
そういうことか……。
ハク・エンはいまこそ理解した。あんなに辱しめて苛めても、変わらずにビク・トがハク・コを抱く理由も……。
気が強いハク・エンか見向きもされないわけを……。
そのビク・トは、今度こそハク・コを書類の簿冊ごと持ち去ってしまう。
あっという間だった。
そして、やっと我に返ったハク・エンは口惜しさのあまり、机上にあった乗馬鞭の一本を手にして、机に叩きつける。
乗馬鞭がへし折れ、半分がどこかに飛んでいく。
「帰るわ。お前たちも解散しなさい──」
そのまま執務室を出ていく。
慌てたように、奥の本来の主任政務官室から、侍女としてつけている三人の部下がついてきた。
彼女たちは政務官ではないので書類業務は実施しないが、ハク・エンの身の周りの世話を世話をする者として、朝、私室から執務室に入るときに帯同していた。
さっきの場面では、邪魔だから奥で控えさせていたのだが、ハク・エンが廊下に出たので、慌ててついてきたのだろう。
「ハク・エン様、どこへ──?」
速歩で進むハク・エンに追いつき、侍女のひとりが声を掛けた。
「一級奴隷を管理している檻に向かうわ──。むしゃくしゃするのよ──。この苛つきを発散させてもらうわ──。誰か奴隷室に先に行きなさい。コク・ジョがいるから、あの赤毛を檻から出して、宙吊りにしていくように伝えておいて──。奴隷の名前は、確か、ソンだったわね──」
「いますぐに──」
ハク・エンの言葉に、侍女のひとりが慌てて駆けだした。