新・嗜虐西遊記─北遊記/ビ・ク城篇【終了】 作:ドン・ドナシアン
ハク・エンは憤怒していた。
今頃は、あの小娘がハク・エンの夫であるビク・トの寵愛を受けているのだろう。
この昼間から……。
もう二年以上もハク・エンを抱かないビク・トがなぜ、あの小娘を気に入っているのかわからない。
考えると、どうしても苛々が収まらない。
目の前にいる赤毛女には気の毒かもしれないが、なにかで発散しないと、やり場のない嫉妬心と焦燥で頭が爆発してしまいそうだ。
「なんだい、居眠っていたところ、引きずり出しやがって、あたしは眠いんだけどね」
両手を束ねて革枷を嵌めて天井から伸びた鎖で宙吊りにしている赤毛女が不貞腐れたように言った。
女の両足首には、二つの穴が開いた鉄の拘束具を嵌めさせており、女は脚を閉じることもできない。また、鉄板の重さが身体を吊っている手首にかかるのだから、それだけでもかなりの苦痛のはずだ。
もちろん、全裸である。
しかし、その苦痛をおくびに出さないし、無防備な股をさらけ出さされても、不安そうな顔ひとつしないのだから、余程に気が強いか、それとも人一倍感受性が弱いかだろう。
まあいい。
こんな女が泣き叫んで哀れみを乞う姿を見せてくれれば、ハク・エンも少しは気が削がれて、ハク・コに対する苛立ちもひと晩くらいは忘れられるかもしれない。
一級奴隷を保管している奴隷部屋である。
二級・三級奴隷の管理施設とは別棟になり、壁をくり抜いて作った小さな檻が五個あり、そこで、帝都からの検査結果が連絡くるまで待機させるのが、本来のこの部屋の目的だ。
ただし、一級奴隷の待機用の檻には、いまはこのソンしかいない。
一級奴隷に選ぶのは、魔道力の高い個体と決まっている。このソンは魔道……、東帝国では“道術”と呼ぶようだが……、いわゆる道術使いではないようだ。しかし、体内の魔道力は異常に高いという不思議な身体だ。
ともかく、念のために一級奴隷として、魂の一部を抜いて、帝都に送ることになった。
本当は、もうひとり、ホウという東帝国出身の女道士がいるのだが、そいつについては、ビク・トが気に入って、後宮側に連れて行ってしまった。
だから、現在の一級奴隷は、このソンひとりというわけだ。
それを檻から出して、いまは部屋の真ん中に、両手首を鎖で引きあげて宙吊りにして、ぶら下げている。
一級奴隷をこうやってなぶるのは、ハク・エンにとって珍しいことではない。いつもの日常だ。
二級、三級奴隷は、丹石生産のための家畜のようなものだから、ハク・エンの性的嗜好のためには使えないが、一級奴隷は待機させておく以外の用途はないので、今日のように、どうしても耐えられない鬱憤が溜まったときには、その発散のために使わせてもらっている。
つまりは、一級奴隷というのは、帝都からの命令によって、ある一定の魔道力、道術力を保持した個体の魂の一部を抜き、検体として送って判定待ちをしている女奴隷のことということだ。
判定の結果、「不適合」となれば、二級もしくは、三級として扱うが、それまでは「適合」判定の可能性もあるので、ここで保管するのである。
その保管場所がここなのだが、最近では、ハク・エンの苛々を解消するために、一級奴隷を苛め抜くための調教部屋にもなっている。
だから、今日もこのソンを檻から引っ張り出した。
首には、力を十分の一にする首輪も装着させているし、胴体には魔道を封じる紋様も描いた。この女はもともと首と四肢の手首足首に赤い環の装飾具をつけていたので、二重に首の環をしている感じだ。
本当は魔道具の疑いがあるので、装飾具は全て外させる決まりなのだが、なぜかどうしても外れなかったのだ。
そのこと自体で、おそらくなんらかの魔道具の可能性があるが、詳細に調べてもなんの変哲のない装飾具と判定された。
まあいい。
あの赤い環がなんであろうとも、いくらなぶっても抵抗しなかったのだから、結局、なんの意味もない装飾具なのだと判断した。
とにかく、このソンは完全に無力化状態だ。
こうやって、宙吊りにするときも、幼児並みに筋力を弱めているので、なんの抵抗もできなかったと聞いている。
「あんなに検査のときに、電撃で遊んでやったのに、いまだに立場がわかってないのかしら」
ハク・エンは腰に差している乗馬鞭を抜いた。
まずは、弱るまで鞭打つでもしてやろう。
この女も、徹底的に弱らせれば、少なくとも悪態をつく気力は削げるに違いない。
だが、そのハク・エンが乗馬鞭を持つ手に、後ろかコク・ジュがそっと触れる。
「……身体に傷つけるのは……。このソンは、まだ一級奴隷です。外観への傷つけはまずいです……」
コク・ジョが耳元でささやく。
「そうだったわね……」
小さく舌打ちをして、乗馬鞭を腰帯に戻す。
「なんだよ。怖じけずいたのかい? ずっと檻に中に入れられて拘束されてたんで、背中が痒いのさ。ちょっとばかり叩いてくれたら、すっきりすると思うんだけどね」
すると、ソンが小馬鹿にするような物言いをハク・エンにぶつけてきた。
かっと頭に血が昇る。
「生意気な奴隷だこと。もしかして、なにをしても殺されるかもしれないと、高をくくっているかい? だけど、それは了見違いよ。口のきき方を改めないと、そのまんこに死ぬまで電撃を流してもいいのよ」
「ふん、あたしは、一級奴隷なんだろう? あんたらの帝都から答えが来るまでは、殺すことはもちろん、傷つけることもしないんだろう? もしかしたら、帝都に移送を命令されるかもしれないから、それまではちゃんと保管しておかなければならないんじゃないのかい」
ソンが笑った。
ハク・エンは仰天してしまった。
「な、なんで、それを……。いや、お前はそれを誰に聞いたのよ──?」
この施設を管理しているのは、侍女頭のコク・ジョだ。
振り返って、そのコク・ジョを見る。
だが、コク・ジョも唖然としている。
どうして、そのことを奴隷自身であるソンが知ったかの事情を認識している気配はない。
「さあ、誰だったかな? ハク・コって名乗ったかなあ。あたしがどういう仕打ちを受けるのかとかを丁寧に教えてくれたよ。こんな目に遭わせて申しわけないとか謝っていたっけ」
ソンがあっけらかんと言った。
ハク・エンはさらに驚いた。
一級奴隷というのが、帝都に検体にした魂の一部を送って、その適合・不適合の判定を待つあいだ、待機させるのが本来の役目というのは事実なのだが、この軍塞内でそれを知っているのは十名もいないだろう。
ソンがいま口にしたのは真実であり、それを当てずっぽうで言い当てることは不可能だ。
一級奴隷として監禁されていたソンがそれを知ったというのは、間違いなく、誰かがここにやって来て教えたというのは間違いない。
しかし、あり得るか?
いくら、ハク・コが気が弱く真面目な娘だとしても、この軍塞の機密事項を奴隷に教えたりはしないと思うが……?
「ここに、ハク・コ様が来たの? それを知っている者は?」
コク・ジョが部屋の中にいる五人ほどの女官たちに言った。
その五人も、驚いたように首を横に振っている。
コク・ジョがこの詰め所にいないときは多いが、そのときにも、数名の女官はいるので、夜中であろうとも、ここが無人になることはない。
まあ、交替で詰めるので、この五人が当番でないときに、ハク・コがやってきた可能性はあるが……。
わからない……。
「少し席を外します。念のために、ハク・コ様にも事情をお訊ねします」
コク・ジョが再びハク・エンに近づいて耳元で言う。
「ハク・コは、ビク・ト様と一緒に後宮よ」
ハク・エンは吐き捨てた。
「事情が事情です。緊急連絡で中に伝言を送っていただきます……。それに、もともと、ハク・コ様にはほかにも確認したいことがありました」
「ほかにもって……?」
「まだ確かなことではないので、確信を抱いてからと思っておりましたが……」
コク・ジョが手で覆うようにして、ハク・エンの耳につけている口元を完全に覆う。
そして、驚くことを口にした。
「……横流し……?」
コク・ジョが口にしたのは、この軍塞から帝都に送る淫丹石と霊丹石の管理帳簿に細工があり、もしかしたら、実際の生産数と帳簿上の生産数に差異があるかもしれないという疑いだ。
だが、あの気の弱いハク・コがそんな大それたことを?
それに、もしも、本当であれば、ハク・コだけのことではない。宮廷に対する裏切り行為として、ハク・コはもちろん、ハク・エンもビク・トもただではすまないだろう。
しかし、帳簿に細工?
そんなことはあり得ない……。いや……?
ハク・エンははっとした。
そういえば、さっきハク・コに書き直しをさせていた丹石の管理簿だが、ところどころに書体が変化したり、不自然な記号がついてたりした……。
てっきり、ハク・コが手を抜いたと思っていたが、それこそが小細工の記号だったのでは……?
疑いの余地がある。
ハク・エンがぞっとしてきた。
「……そのことを知っているのは……?」
「現段階ではあたしだけです。慎重に調査をしておりました。報告が送れて申しわけありません……」
「慎重なのは当然ね。事が事だし……。とにかく、ハク・コに確認しましょう。わたしは、もう少しこいつに事情を聞いてみるわ」
「了解です」
コク・ジョが出ていく。
ハク・エンは、ソンに向き直ったs。
「それで、お前はいつ、そのことをハク・コに聞いたのかしら?」
訊ねた。
だが、ソンは不敵に微笑んだ。
「さあね。忘れたよ。そのハク・コって娘をここに連れてきてくれたら、思い出すかもしれないけどね」
ソンが言った。
ハク・エンはソンがどうして、そんなことを言うのがわからず、混乱してしまった。
まあいい……。
ちゃんとしたことを喋るつもりがないなら、喋らせるだけだ。
ハク・エンは、振り返って、五人いる女官に視線を向ける。
「あれを持っておいで。原液のままでいいわ。大壺ごと持ってきなさい」
女官ふたりがすぐに動き出す。拷問用の道具は隣室の倉庫にあるので、そこに行ったのだ。
また、“あれ”というのは、一級奴隷を拷問するときに使う媚薬液のことだ。
強烈な疼きとともに、発狂するような痒みが発生して、これを使われて啼かない女はいない。
一級奴隷は、もしかしたら、女帝陛下の新しい身体になる可能性があるので、悪戯に身体を傷つけることはできない。
だから、拷問方法は、色責めとなるのだが、あの痒み液は鞭よりも、余程に女を追い詰める。
普通は、水と混ぜて少量ずつ小さな容器に入れて使うようにしているが、このソンは徹底的に責めないと落ちない気がする。
ハク・エンは女官たちが運んできた大釜に両手を突っ込んだ。
そして、どろりとした薄茶色の原液の媚薬をソンの形よく上を向いている乳房に塗り始めた。
「うわっ、なにすんだよ──」
ソンがびくりと身体を動かす。
「あら、さっきまでは威勢のいいことを口にしていたけど、いざ、拷問が始まると、そんなに怯えた顔をするのかしら? 可愛いところもあるじゃないの?」
「ご、拷問って……。棒で打ったり、鞭で叩くんじゃんないのかい──」
「世の中には色々な拷問があるのよ。色責めも立派な拷問よ」
ハク・エンは胸を押し上げては撫で回し、乳首にはよりたっぷりと何度も液剤を塗っていく。
それでわかったが、このソンは、随分と身体の感度がいいようだ。
胸をちょっと揉むだけで、すぐに息を荒くしたり、すでに乳首は固く勃起している。
ハク・エンはくすりと笑った。
「……どうやら、こういう調教を受けるのは初めてじゃないのね……。いつ、調教を受けたの……」
「くっ、いつって……。ご主人様にいつも……。い、いや──。そんなことをあんたに関係ないだろう──。いい加減にやめろよ。気持ち悪いんだよ──」
「気持ちいいの間違いじゃない? そもそも、ご主人様って誰なの?」
「し、知らないったら──」
ソンが真っ赤な顔で喚いた。
ハク・エンは、何度目かの液剤の塗り直しをすると、無防備に開脚されているソンの太腿の付け根にも媚薬を塗り込み始めた。
「ううっ、くっ、や、やめろったら……。あっ、ああっ……」
ソンが身悶え出す。
やはり、感じやすい身体のようだ。
液剤を塗り込めるために、股間をまさぐるたびに、びくんびくんと派手な反応をする。
ちょっと面白くなってきた。
とにかく、陰核から割れ目の入口から奥の襞、さらに、後ろの菊蕾にまで指を滑り込ませた。
たっぷりと執拗に……。
「あとは、待つだけね。どんな声で啼くのか愉しみよ」
ハク・エンは作業を終わらせて、両手を壁際で待機している女官に向かって出す。
女官たちが慌てて駆け寄って、布でその手を拭き始めた。
コク・ジョがハク・コへの緊急の要件があると後宮の入口に立っていた護衛に告げると、驚くほどあっさりと、中への立ち入りが許された。
まさか、許可か出るとは思わなかったので、コク・ジョの方が面食らったくらいだ。
ビク・トが管理している後宮区間には、彼が魔道で許可した者しか入れないようになっている。
しかし、いまは、護衛を通じて、ビク・トからの許可が出たらしく、目の前の壁がすっと変色をした。
護衛の指示のまま、それに身体をぶつけるようにすると、そのまま壁を通り抜けることができた。
「コク・ジョ様、なんのご用でしょうか?」
すると、壁を通り抜けた廊下で、ハク・コが待っていた。
ひとりである。
ビク・トの姿はない。
それはさておき、ハク・コは、明らかに性行為の真っ最中だったという感じであり、太腿の半分くらいまでの丈の薄いガウンを肩に引っかけただけの格好で立っていた。
ガウンの前はとめられてないので、彼女がその下になにも身につけてないのまで見えてしまった。
そもそも、髪は乱れているし、身体は赤く火照っていて、全身に汗をかいている。
さすがに、むっとしてしまう。
ハク・コが義理の父でもあるビク・トと男女の関係なのは知っているが、ここまで隠そうとしないのは、なにを考えているのか……。
ハク・エンははっきりとは言わないが、夫であるビク・トがハク・エンを女としてないがしろにしていることに苦しんでいるし、ビク・トが抱く女たちには強い嫉妬をして、口惜しい思いをしているのを見抜いている。
それなのに、これ見よがしに、毎日のようにビク・トに抱かれたりして、せめて、隠せよと言いたい。
「あたしは一介の侍女ですよ。呼び捨てにしてください。いつまで経っても、ビク・ト様とハク・エン様の娘であるという自覚はないようですね」
上から下まで蔑むような視線を技を送りながら嫌みを言った。
すると、ハク・コが手でガウンの前をやっと押さえて、裸身を覆う仕草をする。
「お父様に愛されている最中だったのです。でも、大切な用事というので中断されました。まさか、お説教のための呼び出しだったのですか?」
ハク・コが小首を傾げる。
この馬鹿娘が──と思った。
怒鳴りあげたいのをじっと我慢する。
こんな娘でも、主家の娘なのだ。
「ところで、ビク・ト様は?」
「ホウのところに行きました。もしかして、お父様にもご用件が?」
「いや、ハク・コ様にだけです。問題ありません。どこか空いている部屋はございますか?」
ビク・トがいないのであれば、むしろ都合がいい。
いずれは、ビク・トにも報告することになると思うが、まずはハク・コの反応を確かめたい。
ソンの不可思議は発言はともかく、横流しの件についてはもっとしっかりと下調べをして、動かぬ証拠を見つけてから動こうかと思っていた。
だが、成り行きでハク・エンにはすでに報告したし、こうなったら、単刀直入に疑念をぶつけたい。
場合によっては、ハク・コといえども、拷問にかけてでも白状させる……。
「なら、こちらにどうぞ。わたしも、コク・ジョ様にはお訊ねしたいことがあったのですよ」
「様は必要ありません──」
「そうでしたね……。こちらです」
ハク・コが連れていったのは、すぐ横の一室だ。
中に入る。
むっとするような匂いがした。
部屋の真ん中には、四本の脚の部分に革帯のついた長細い台があり、その台の足もとには、水たまりのようなものがある。
なんだ、これ──?
コク・ジョは唖然とした。
「ああ、お気になさらないでください。さっきまで、お父様にお尻をそこで犯されていたのです。わたしったら、感極まって粗相をしてしまって……。それは恥ずかしながらわたしのおしっこです。我慢できなくて……。お触れにならないように気をつけてくださいね」
「はああ──?」
コク・ジョはハク・コに振り返った。
だが、そのときには、ハク・コの手がすぐそばに迫っていて、コク・ジョの首をどんと突かれていた。
「なにを……?」
叫ぼうとしたが、身体が急に脱力して、目の前が急に暗くなった。
なにが起きたかわからなかった。
ただ、天井が見えて、コク・ジョを見下ろしているハク・コの顔が視界に入った。
それで、コク・ジョは自分が仰向けになって床に横たわっていることがわかった。
背中が冷たい……。
「まあまあ、先程、わたしのおしっこにはお触れにならないようにとお伝えしたのに、その上にお倒れになったのですね、コク・ジョ様、いえ、コク・ジョ」
しゃがみ込んだハク・コがコク・ジョの胸に触れた。
驚いて起きあがろうとしたが、なぜか身体が痺れて動かない。
コク・ジョは焦った。
「わざわざ、ここまで緊急の用事ということでやってこられたのは、余程の話があるのでしょうね。是非とも、お聞かせくださいな」
ハク・コの手がコク・ジョの胸の中に入った。
コク・ジョは驚愕した。
「はぐうっ」
わからない──。
心臓がわしづかみされるような苦しみが襲った。
そして、コク・ジョはなにもわからなくなった。