新・嗜虐西遊記─北遊記/ビ・ク城篇【終了】 作:ドン・ドナシアン
「うあああ、お願いだよ。もう一回、もう一回、木馬に乗せてよ」
ソンが宙吊りの身体を揺すって泣き叫んだ。
原液の掻痒剤を塗ってやってから、そろそろ一刻になる。
いまだに狂わないのは、余程に気丈な性質なのかもしれない。
だが、最初は凛としていた眼がだんだんと昇天を失いかけている。
もう少し放っておいてもいいけど、狂ってしまっては面白くない。
ハク・エンは、持っていた乗馬鞭でソンの脇腹を一閃した。
「あぐうっ」
ソンの汗まみれの裸身は跳ねる。
ただ、いまのソンには、その激痛も救いだろう。
だが、これで終わりだ。一瞬だけ我に返らせれば十分だ。
次の一撃は、またしばらくしてからでいいだろう。
しかし、ハク・エンは、そのソンの前で乗馬鞭を腰に戻してしまう。
「ああっ、打って──。もっと打っておくれったら──。お願いだよ──」
「ふふふ、鞭打ってくれとは、随分と素直じゃない。でも、お
「あ、だから、ハク・コを連れてきたら喋るって……」
「あっ、そう……。まだまだ長くなりそうだね……。椅子と机を持ってきてちょうだい。それとお茶の準備も。それから、ソンには追加の掻痒液を塗り足してあげなさい。お茶の時間のあいだ、退屈だろうからね」
壁の女官たちに指示すると、すぐに彼女たちが動き始める。
だが、さらに放っておかれるうえに、掻痒液を追加されそうなことを悟って、ソンは信じられないという表情になった。
「や、やめてよ──。そんなの嘘だよね──」
「嘘のはずないでしょう。お前たち、始めなさい」
ハク・エンは運ばれてきた椅子に腰掛ける。
簡単なものだが茶器も準備され始める。
そのあいだに、侍女がふたり、さっきの掻痒液の桶を持って、ソンの横に行く。
「ふふふ、おっぱい揉み揉みしましょうね」
「ちょ、ちょっと、あんた……」
「いいんですって」
女官が両手に掻痒液を浸して、その手でソンの胸を揉み始める。
「はううっ」
すると、ソンはそれだけで、汗びっしょりの裸身を反り返らせて、絶頂するような仕草になる。
「お前、やめええ──」
ソンが暴れ続ける。
しかし、容赦なく、その女官は掻痒液で濡れた手でソンの胸を揉みしだく。
どことなく愉しそうだ。
だが、ハク・エンはなんとなく違和感を覚えた。
顔を知っている女官だが、なんとなく態度がいつもと違う気はする。あんなに嬉々として女責めをする性格だったろうか?
「じゃあ、次はおまんこですね。うわっ、こっちも濡れ濡れ」
その女官がくすくすと笑う。
「わ、わかった、言う──。言うよ。なんでも白状する──」
ソンが叫んだ。
「えっ?」
すると、戸惑ったように、ソンに液剤を塗りたくっていた女官が手をとめた。
それはともかく、やっとか……。
ハク・エンは腰をあげた。
「なにを白状するの? 言いたいことがあれば、言いなさい」
「言う……。言うよ──。と、取り引きしたんだ──。ハク・コ様と──。取引きだよお──」
ソンが絶叫した。
「取引き──?」
ハク・エンは、訝しんだ。
正直に言えば、目の前のソンをいたぶるのは、苛々の発散が八分と、一級奴隷を集める本当の目的をどうして知っているのかを白状させるためというのが二分いうところだが、なにかを白状するというのであれば興味はある。
ハク・コが一級奴隷ごときと取り引きをしたなどという戯言は、全く信用していないが、万が一、情報を漏らしたということになれば、大変な裏切りだ。
確かな証拠があれば、さすがにビク・トもハク・コを庇えないだろう。
忌々しいハク・コを処分することができる。
そもそも、ハク・エンは、ハク・コを義理の娘などには認めていない。
また、コク・ジョがさっき口にしたことも気になる。本当に、ハク・コには帝都に納付する丹石の数を誤魔化して、それを横流ししたりしているのだろうか.
「言うよ──。なんでも喋るから、意地悪しないでよ──。だ、だから、こっちに……。あ、あんただけに言う。だら、こっちに……」
ソンが激しく内腿を擦り合わせながら、奥歯を噛み合わせる。
「こっちって、なんだい?」
「あ、あたしの口に耳を……」
壁の女官たちには聞かせたくないということか?
確かに、ハク・コがここに監禁している一級奴隷のソンに接触したとすれば、ここを交代で監視していた女官たちの中に裏切り者がいたとした考えられないのだが……。
まあ、いずれにしても、なにをほざくのか、話くらいは聞いてもいいか……。
ハク・エンは、横にいたふたりに離れるように申し渡すと、ソンに近づき真っ赤な髪の毛を掴んだ。
そして、ぐいと引っ張って、自分の耳元に口を寄せる。
「……なにが言いたいのよ?」
ハク・エンは、ソンの口にぴったりと耳を接触させて言った。
「……不用意に近づくのを待っていたよ。脚だけでも自由にしてくれて感謝するよ……」
すると、ソンがそう呟いた。
「えっ?」
困惑したが、次の瞬間、ソンの脚がハク・エンの胴体に絡みつき、次いで、首に巻きついた。
一瞬にして息がとまる。
「ぐあっ」
しかも、そのまま、身体が宙に浮かびあがった。
ソンがハク・エンの首を脚で絡ませたまま、両手を吊っている鎖を伝って、天井に昇ったのだ。
「あがっ、がっ、がっ」
慌てて、両手で引きはがそうとするが、もの凄い脚の力だ。
とても振りほどけない。
力を失わせる首輪を装着させているのに、どうしてこんな力が……。
「ハク・エン様──」
「なんてことを──。衛兵を──」
「こいつ、離しなさい──」
女官たちが血相を変えているのが見える。
数名が駆け寄るとともに、ひとりが外の衛兵を引き込もうと、廊下に通じる扉に走る。
この女官たちがそれぞれに手練れなので、男の衛兵はこの一級奴隷の詰め所から少し離れた場所に配置させていた。ここでハク・エンが一級奴隷を性的になぶるのをそいつらに見られたくなかったからだ。
だから、この部屋とは少し離れた位置に衛兵はいるのだ。
しかし、なぜか、外に飛び出そうとしたその女官を別の女官が蹴り飛ばした。
いや、彼女だけでなく、ハク・エンに駆け寄ろうしたふたりの女官もひっくり返された。
「ぎゃあ」
「うわっ」
「うごおっ」
そして、その三人がさらに殴られて倒される。
あっという間だ。
だが、その三人もこんなに簡単に無力化されるような者たちじゃない。
ハク・エンは目を見張った。
「ど。どうして……。あっ、お前、誰?」
「なに、お前……。えっ?」
「ええ?」
女官たちが殴られた場所を押えながら、呻き声をあげる。
ハク・エンもソンの脚に身体をぶら下げられながら、さらに眼を丸くした。
女官を扉から蹴り飛ばした女官の頭から、かつらが落ちたのだ。
黒髪のかつらがなくなり、栗毛の髪が現れる。
すると、その女が顔から膜のようなものを剥して、別の顔を露わにした。
その顔に記憶がある。
このソンと一緒に貢物奴隷としてやって来た別の奴隷だ。名前は確か、サナ──。二級奴隷として、性供地区で男兵の性便所になっているはずなのに、どうしてここに──?
「防音の結界を張ります──。でも、孫姉さん、手筈と違うじゃないですか──。ハク・コという女が現れるまで、好きなようにさせるはずじゃあ……」
すると、もう別の女官の姿が変化し、小柄な少女の外観になる。
こっちは、魔道による変装──?
瞬時に、背丈まで変わった。
やっぱり、別人?
こいつは、さっき愉しそうにソンに掻痒剤を塗りだしたので、違和感を覚えた女官だ。
偽者だったのだ──。
「うるさい──。我慢なんかできないよ──。狂いそうなくらい痒いんだよ──。そもそも、お前、調子に乗って塗り足さなくていいだろう。ふりでいいんだよ。ふりで──」
「ふふふ、だって、女官に化けてるのがばれるじゃないですか」
「なに言ってんのよ。逆に怪しまれてたわ──。いいから、孫女の拘束を解いてから、早く解毒の道術かけなさい、朱姫──」
指示を飛ばしたのは、二級奴隷にしたはずのサナだ。
「あああっ、痒いいい──」
一方で、ソンがハク・エンの首に絡めている脚に力を入れる。
首が強く締められる──。
「んがっ、ぐっ──」
ハク・エンは白目を剥きそうになった。
一気に意識が遠のく。
「わっ、孫女──。脚を離して──。死ぬわ──」
さっきのサナが駆け寄る。
ソンの脚がやっと離れて、床に身体を放り投げられた。
懐から電撃を浴びせる攻撃具を出す。
だが、サナに蹴り飛ばされた。
「いた──っ」
うつ伏せに倒されて、背中を脚で踏みつけられた。
そして、眉間に指が当たる。
「動くな──。ここを突けば、この女は即死する。ちょっとでも動けば殺すわ──。お前、抵抗するなと命じなさい」
その指がじわじわと眉間に喰い込む。
途端に、視界が消滅して、息ができなくなった。全身に痺れも襲う。一気に全身の力が抜ける。
身体が冷たくなる。
死の恐怖がハク・エンに襲う。
「や、やめ──。動かないで──。命令よ」
慌てて言った。
指の力が緩む。
呼吸が少し楽になって、視界が戻った。
だが、痺れるような身体の脱力感と得体の知れない寒さはそのままだ。
「如意棒──」
ソンが叫んだ。
金属が割れる音がして、人が降ってくる。
床に押しつけられているハク・エンの視界に、砕けた首輪と引き千切られたように壊れている革枷が落ちてきた。
降り立ったのは宙吊りになっていたソンのようだ。
ハク・エンは目を疑った。
身体を弛緩させる首輪を毀せるのか──?
「ま、まさか、あの首輪をしているのに、どうして……? 全身の力が脱力するはずなのに……」
呟いたのは、残っている三人の女官のうちのひとりのようだ。
「孫女が本当の力で首を脚で締めれば、今頃、こいつは死んでるわよ。十分の一に力を弱めてたから、まだ死んでないのよ」
ハク・エンを踏みつけているサナだ。
「あああっ、もう、だめえええ──」
一方で、自力で拘束を解いたらしいソンが床に蹲って、自分で自分の乳房と股間を擦り始める。
ハク・エンの視界の延長なので、ソンが泣くような顔で必死に自分の身体を愛撫しているのが見えた。
「ちょ、ちょっと、孫女」
「孫姉さん、こんなときに自慰なんかしないでくださいよ」
サナともうひとり、シュキと彼女たちが呼んでいる少女だ。
それにしても、この三人は何者なのか──?
「だけど、これ、どうするんですか? 沙那姉さんの作戦が台無しじゃないですか。暴れるのは、ハク・コという魔女を見つけて、ご主人様の魂を体内に入れているかどうかを確認してからのはずじゃなかったんですか?」
「あんたが、言うんじゃないわよ、朱姫。早く、孫女に解毒しなさい」
「はーい」
シュキが気楽そうに返事をする。
すると、ソンが蹲ったままがくりと脱力した。
ソンが両手を床につけて、肩で息をしている。
このシュキはやはり、魔道士? 東帝国では道術師というようだが……。
「ここで、暴れるのは予定外ですけど、どうします、沙那姉さん?」
そのシュキだ。
「こうなったら、予備の案に移行よ」
「予備の案って?」
「行き当たりばったり作戦よ──。このまま暴れるわ。そして、ハク・コを見つけて捕まえ、ご主人様を連れ出す」
「そんな行き当たりばったりの作戦なんて、沙那姉さんらしくないですね。ハク・コが目当ての入れ物じゃない場合は?」
「そのときはそのときよ」
「わおっ──。ほんとに行き当たりばったり──」
朱姫が笑い声をあげた。
「あんたに言われたくないわよ。あんただったら、孫女が暴れ出す前に、こっそりと、道術で解毒できたでしょう」
「孫姉さんが暴れ出したのは、孫姉さんのせいですよ。あたしは関係ないし……」
「うう、ごめんよ……」
ソンが立ちあがって、サナに押さえつけられているハク・エンと、壁にいる女官たちのあいだに立つ。
そのときだった。
廊下側から扉が強く叩かれる。
大勢の人間が廊下側に集まっている気配だ。
「ハク・エン様──。なにかありましたか──? 突然に気配が消滅しましたが、どうかしましたか──? 結界術の気配もするんですが──」
叫んでいるのは衛兵隊長だ。
外の廊下とは分厚い扉で阻まれているが、なにかの異変を感じて、衛兵隊長が隊を率いてやっていたようだ。
もしかしたら、さっき防音の結界を張ったとか、彼女たちが口にしていたので、逆に、それでなにかを察したかもしれない。
「サナだったわね……? どうするの? なにも返事をしなければ、兵が殺到するわよ……」
ハク・エンは言った。
すると、サナがいきなりハク・エンの髪を掴んだ。
「ひがっ」
そのまま髪の毛を引っ張られて立ちあがらされる。
「朱姫、孫女──。こいつの服を脱がせて。なにもかも剥ぎ取って、素っ裸してしてやって」
そして、サナが叫んだ。
ハク・エンはびっくりした。
すぐに、両側からソンとシュキの手が伸びる、
「や、やめなさい──。なにをするのよ──」
さすがに抵抗しようとしたが、さっきサナに額を指で突かれてから、いまだに身体が痺れていて、力が入らない。
どんどんと服を脱がされていく。
「兵をここに入れて恥をかきたいかしら、ハク・エン? それが嫌なら、兵に入ってくるなと言いなさい。そして、ハク・コを呼ぶのよ──。すぐに──。朱姫、防音解除──」
サナに後頭部を掴まれて、扉に身体を押しつけられる。
また、そのときには、ほとんどの衣類を引き千切られて、身体が扉に叩きつけられるとともに、最後の腰の下着を剥されてしまった。
「防音は解除しました。一応、施錠術はそのままです」
シュキだ。
「わかったわ──。ほら、ハク・エン──。なにか言いなさい──」
サナが怒鳴った。
「あっ、聞こえました。突入します──」
外で衛兵隊長が怒鳴った。
「は、入ってはいけません──。命令です──」
慌てて、ハク・エンは叫んだ。
「いま、聞いた通りよ──。ハク・エンの命を奪いたくなければ、ここにハク・コを連れてきなさい──」
サナが扉越しに大きな声をあげた。