新・嗜虐西遊記─北遊記/ビ・ク城篇【終了】 作:ドン・ドナシアン
「いい加減に観念して出て来い──。逃げられるわけがないだろう──。無駄な抵抗はやめて出てこい──。とにかく、ハク・エン様は無事か──。声を聞かせよ──」
扉の外から衛兵隊長だという男の声が響く。
もっとも、沙那たちが籠城をしている部屋の扉を挟んですぐの廊下ではなく、少し離れた位置から、向こうが霊具の拡声具を使用して声を響かせているのだ。
当初は、扉のすぐ前まで衛兵が殺到し、扉を蹴り破らんばかりな勢いで突入しようとしていたが、孫空女が隙間から飛び出して、三十人ほどの衛兵をあっという間に叩きのめして、それこそ倒れた衛兵の山を作り、沙那が人質のハク・エンの陰毛をむしって悲鳴を聞かせてやったら、驚いて衛兵隊長が衛兵を引きあげさせた。
いまは、一級奴隷の保管場所らしいこの部屋の扉は閉めていない。
半分を開けている。
しかし、衛兵隊長には、廊下のずっと向こうまで衛兵を引きあげさせており、それなりの距離がある。
もともと、一級奴隷を監禁しておく部屋だけに、出入口は廊下との扉しかなく、ほかからは近づけない。窓すらここにはない。
沙那は、ちょっとでも近づけば、容赦なくハク・エンを殺すと告げていて、いまはお互いに膠着状態というところだ。
「うるさわねえ──。さっさと、ハク・コを連れてきなさいよ──。わたしたちの要求はそれだけよ。早くしないと、この狂い女の身体を寸刻みにするわよ──」
沙那は扉の外に向かって叫んだ。
「……諦めなさい……。こんなことして無駄よ。逃げられはしないわ……。もう投降しなさい。悪いようにはしないから……」
床に転がしているハク・エンが呻いた。
素っ裸だ。
引き剥したこいつの衣類で作った縄で後手縛りにしていて、脚は胡坐をかかせて、やはり足首を縛っている。
朱姫と孫空女がついていて、しっかりと見張っている。
狂ったような嗜虐女だが、武芸に秀でているわけでもなければ、道術のようなものが使えるわけでもないらしい。
ただの女だ。
しかし、気だけは強いようだ。
こんな格好にされているが、少なくとも態度には怯えた様子は見せない。
ちなみに、最初にいた三人の女官はもういない。
膠着状態が始まったところで、無理矢理に部屋から追い出した。
人質として価値があるのは、ハク・エンだけだ。ほかはいても仕方ないのだ。
ハク・エンを置いて解放されるのは嫌がったが、孫空女が無理矢理に叩きだした。
「うるさいよ。お前は黙ってればいいんだよ」
孫空女が後手縛りになっているハク・エンの二の腕を捻った。
ちなみに、孫空女は裸身に、ハク・エンが身に着けていた上衣だけをまとっている。
ほかはびりびりに破いてしまったのだ。
だから、辛うじてお尻迄が隠れている状態であり、剥き出しの脚が露出していて、かなり色っぽい。
沙那もちょっとどきどきする感じだ。
「痛いっ──」
ハク・エンが声をあげる。
孫空女も、さっきこのハク・エンからかなり苛められたので、いまだにかなり怒っている。
容赦もしないだろう。
それは沙那も同じ気持ちだ。
あのお仕置き調教とやらで、犬のように扱われていたぶられたのは忘れてない。
「あっ──。ハク・エン様──。お前ら、なにをした──?」
ハク・エンの悲鳴が聞こえたのか、さっきからずっと叫んでいる衛兵隊長が悲鳴でもあげるように喚いた。
「うるさいって言ってんでしょう──。ハク・コを連れてきなさい──。どいつもこいつも、頭を叩き割るわよ──」
沙那は癇癪を起したように、怒鳴りつけてやった。
「わお、怖いいい。いつも冷静な沙那姉さんらしくないですねえ」
朱姫がお
沙那は扉の位置で外を確認したまま、言葉だけを返す。
「いたって冷静よ。ただ、こういうときには、頭がおかしいと思わせるくらいで丁度いいのよ」
「実際、頭おかしいことしてますものね。軍要塞のど真ん中で、衛兵を相手に籠城するなんて。ここって、一万人くらいの守備兵がいるらしいですよ」
「一万が十万でも一緒よ。ご主人様を連れて、ここから脱出する。邪魔するんなら、三人で蹴散らすだけよ」
沙那は言った。
「確かにね」
すると、孫空女の気楽そうな笑い声が返ってきた。
「さっきからお前たちが口にしている“ご主人様”っていうのは誰のことなの? ここで捕えている奴隷? そのために、お前たちは潜入してきたの? だったら、わたしを解放しなさい。お前たちも、そのご主人様も解放してあげるわ。約束するわよ。そもそも、どうやって、ここから脱出するつもりなのかしら?」
ハク・エンだ。
この期に及んで、ハク・エンの交渉に乗るほど、沙那たちが馬鹿だと思っているのだろうか。
交渉に応じて解放すれば、その瞬間に沙那たちは奴隷に逆戻りだろう。
「ねえ、沙那……。こいつ、さっきの木馬に乗せていいかい? どうせ、ハク・コという女はすぐには来ないだろう? それまでちょっとでも仕返ししたいさ。さすがに、こいつには腹が煮えかえっているしね」
すると、孫空女が言ってきた。
比較的に能天気で、あまりそんなことをいう性質でないので、ちょっと沙那は驚いてしまった。
離れている衛兵の集団に大きな動きがないことを確かめ、孫空女たちに振り返る。
「仕返し?」
「駄目かい? あたしもひどい目に遭ったんだよ」
「そうね……」
沙那は部屋を見回した。
ここにあるのは、掻痒液をたっぷりと充満した木桶と三角木馬か。
沙那はにんまりと微笑んだ。
「いいわね……。賛成よ、孫女……。朱姫、見張りを交代して」
沙那は朱姫と場所を交代した。
隅に寄せてあった三角木馬をがらがらと寄せてきた。ついでに、掻痒液の入った木桶も持ってくる。
「な、なにする気なのよ。あんたら、本気?」
さすがに、ハク・エンが怯えた態度を示した。
「当たり前でしょう──。本気に決まっているだろう」
「そういえば、外にいる連中があんたの声を聞かせろって喚いていたわね。たっぷりと聞かせてあげましょうか……。朱姫、こっちも風の術かなにかで、この気狂い女の悲鳴を流してやって」
沙那は孫空女とともに、ハク・エンの足首を縛っていた紐を解き、無理矢理に立たせた。
孫空女とともに、ハク・エンの二の腕を掴んで、そばに寄せた掻痒液を代わる代わるに股間に塗ってやる。
「や、やめなさい──。やめるのよ──。こ、こんなことして……。あっ、ああっ、ちょ、ちょっと──」
ハク・エンが顔を真っ赤にして抵抗しようとする。
しかし、沙那と孫空女のふたりで押さえつけているのだ。なすすべもなく、局部の奥から入口、陰核、そして、肛門にと、掻痒液を繰り返し塗りこめられる。
「ふうっ、うっ、くっ……」
淫らな声を出したくないのか、必死に口をつぐんでいるが、執拗に沙那たちが愛撫を繰り返すので、いつしか甘い声を漏らすようになっていく。
「ほらほら、外に絶賛、声を放送中よ。もっと我慢しなさい」
「沙那って、ときどき陰険でおっかなくなるよね」
孫空女がハク・エンの尻の穴に幾度目かの重ね塗りをしながら笑った。
「ふふふ、沙那姉さん、そういう手合いは、痛めつけるよりも、羞恥責めの方が効果的ですよ。かなり自尊心が高そうですから。その木馬も、いずれの責めにも対応できるようになっているみたいです。木馬の頂点の真ん中が外れるようになってますから、それをとってみてください。さっき見つけたんです」
沙那に代わって扉のところに立っている朱姫がこっちを見ながら、木馬の頂点の中央部分を指差した。
なるほど、よく見れば切れ目のようなものがあって、外れるようになっている感じだ。
それを外してみる。
すると、股間の当たる部分に拳ほどの大きさの球体が五個ほどあり、それが連なるように取り付けてある。
しかも、ただの球体ではなく、表面に柔らかそうな短い刷毛がついていた。
「なんだ、これ? どうやって使うんだよ」
孫空女がハク・エンの腕を掴んで揺する。
沙那は木馬の後ろ側に魔石が嵌っていて、操作盤のようなものがあることに気がついた。
試しに操作盤を押してみると、球体に左右から媚薬のような半粘性の液体が噴出し、刷毛を立ててゆっくりと回転を始めた。
「いや、だいたいの操作はわかったわ。なるほど、こっちの方が面白そうね。確かに、痛みの悲鳴をあげさせるよりも、恥ずかしい声を外に連中に聞かせてあげる方が、この女には堪えそうだわ」
沙那は言った。
「ま、まさか、わたしを載せようというんじゃないでしょうねえ──」
ハク・エンが喚いた。
「当たり前だろう──。朱姫、声を拡散させるのは頼むよ」
「了解です」
朱姫が愉しそうに返事をした。
孫空女が木馬にハク・エンを引っ張ってくる。
沙那もハク・エンの腕を掴んで、孫空女とともにハク・エンを球体部分が股間に当たるように無理矢理に跨がせてやった。
木馬の側面には、左右それぞれに五か所ほどの革紐もついていて、脚部分は雁字搦めにできるようになっていた。
それで固定していく。
全部の革紐を使うと、股間を球体部分に押しつけたまま腰をあげるどころか、左右にもずらすことができない程にがっちりと固定できた。
すでに、木馬の上の球体は回転をしているので、早速、ハク・エンの股間を苛み始める。
開いている股間に顔を寄せて観察する限り、球体は媚薬を噴出しながらゆっくりと単調な動きで秘裂やお尻の周りを刷毛でくすぐるように回転しながら刺激をする感じだ。
「あっ、や、やめなさい。やめるのよ──。ああっ、あっ、は、刷毛が──。あああっ」
ハク・エンが木馬の上の身体をがくんと倒して、甘い声をあげた。
「ハ、ハク・エン様──。ハク・エン様──。お前たち、なにをしている──? ハク・エン様に危害を加えるな──。ハク・エン様──」
廊下側から衛兵隊長の焦ったような声が響く。
沙那は、粘性液を手につけると、さらにハク・エン乳首にも塗りつけていく。
「はっ、ああっ、な、なにをするの……。あっ、や、やめ……」
ハク・エンは懸命に声を押し殺すように口をつぐもうとする。
「もっと恥ずかしい声を聞かせたらどう、ハク・エン。みっともなく悶えなさい……。孫女、余りの紐を持ってきてよ。上半身も動かないように、縛ってしまおうよ」
こいつから脱がせて作った紐の縄を孫空女に持ってきてもらう。
木馬の前後に金具があったので、それを利用して前後からハク・エンを縛っている後手縛りの紐に繋いでやる。
これでハク・エンは、どうもがいても、股間の刺激から逃げられることはできなくなったということだ。
「う、うくっ、ああっ、お、お前たち……。こ、こんなことをして……。お、覚えておれ……。ああっ、あああっ」
ハク・エンが痙攣のような震えをしながら、口惜しそうに声をあげた。
「ああ、覚えておくわ。みっともなくよがるビ・ク要塞の司令夫人の姿をね」
沙那は俯くハク・エンの髪を掴んで顔をあげさせる。
「沙那姉さん、そのままこいつを載せたまま木馬を押して、外の囲みを抜けるというのはどうですか? ご主人様が監禁されているのは、ここの将軍の後宮の方なんです。どっちにしても、そこにいかないとご主人様を救出できませんし……」
扉にいる朱姫がこっちを振り返って言った。
悪くない案だと思った。
外の連中が子のハク・エンの命をかなり大事に思っているのは、もうわかった。だから、ハク・エンを人質にして、囲みを突破するというのは可能だろう。
木馬には車輪がついているので、押しながら動くのは難しくない。
この要塞そのものから脱走するきにも、このハク・エンは使えそうだ。
「な、なに言ってんのよ──。こ、このまま連れて行くなんて……じょ、冗談じゃない……」
ハク・エンが喘ぎ声をあげつつ、びっくりしたように目を見開く。
「お前はただよがってればいいんだよ──」
孫空女がハク・エンの乳房を横から軽く平手打ちする。
「あああっ」
すると、ハク・エンがひと際大きな嬌声をあげた。
「ハク・エン様──。ハク・エン様──。どうしましたか、ハク・エン様──」
外からのハク・エンの安否を確認する隊長の声が響く。
「ふふ、孫姉さんも火がついてきましたね。ところで、沙那姉さん、回転の速度には気をつけてください。そいつがいきそうになったら、回転をゆっくりにしてやったらいいです。そういう調整もできるようになっているみたいですから。生殺しの苦しさを味わわせてあげましょうよ」
朱姫がにこにこしながら、こっちを見て言った。
「わかったけど、しっかりと見張ってなさい。ちゃんと外を見えるのよ」
沙那は怒鳴った。
そのとき、なにかの気配を感じた。
外の廊下だ──。
「朱姫、外おお──」
沙那は怒鳴るとともに、扉に走る。
「えっ?」
朱姫が慌てて視線を廊下に戻すが、異変を感じられないのかきょとんとした様子だ。
沙那は朱姫のいる扉に着いた。
「天井よ──」
構えながら絶叫した。
天井をものすごい速度で這い動く人影を見つけたのだ。
だが、そのときには、その人影が扉から飛び込んできてしまっていた。
「きゃあああ──」
朱姫がその人影に蹴り飛ばされて吹っ飛ぶ。
沙那は後ろに跳ぶことで、蹴りの勢いを殺して避けた。だが、沙那の目にも捉まらないくらいの凄まじい速度だ。
「ちっ」
孫空女が如意棒で侵入してきた者に殴りかかる。
しかし、孫空女の如意棒が叩きつけられたときには、その人影は既に別の場所に避けてしまっていた。
孫空女の轟打を避けるなど信じられない。
「ふふふ、わたしに用事があるんですって? 来てあげたわよ。ところで、なんの用事かしら。とりあえず、お母様を返してもらっていい?」
部屋に飛び込んできたのは、ひとりの少女だった。
長い黒髪をした十五、六の美しい少女である。
いつの間にか、ハク・エンを載せている木馬の横に立っている。
「朱姫、扉を閉めて──。もう一度、結界──。衛兵を防いで──」
床に転がっていた朱姫が慌てたように扉に向かう。
だが、少女が瞬間移動するように、朱姫の前に飛び出して、朱姫の腹に蹴りを喰らわせた。
「ひがああっ」
朱姫が壁に叩きつけられる。
沙那は、少女に向かって飛び出す。
孫空女も如意棒で攻撃するが見えた。
だが、腕を掴もうとした沙那の手を軽く払って、少女が横に動く。
孫空女の如意棒──。
宙を舞うように上に避けて、少女が孫空女の後ろに逃げた。
「ちょこまかと──」
少女を追う──。
これも寸前でかわされる。
そして、すれ違うときに肘で強く脇腹を打たれた。
「ほごっ」
途端に息がとまって、気がつくと両膝を床につけていた。
「まずは一匹……」
少女の手が頭に置かれた?
そう思ったときには、突然に胴体が床に倒れてしまっていた。
起きあがろうと思ったが、両腕が身体からなくなっている。腕だけでなく脚もだ。
「沙那──」
「沙那姉さん──」
孫空女と朱姫の悲鳴のような声がした。
なにが起きたのか全く理解できない。
沙那の身体から四肢が付け根から消滅しているのだ。
また、床すれすれの視界に、五個の水晶玉が転がっているのは見えた。その中の一個を少女が拾って消してしまう。
「お前、沙那になにをした──?」
孫空女が少女を見て怒鳴る。
また、腹を押えている朱姫がやっと扉に辿りついて、解放されていた半面の扉を閉めた。
いまのところ、外の衛兵が突入してくる気配はない。
「ハ、ハク・コ──。お前、どうして……。と、とにかく、わたしをおろして……。早くしなさい──」
木馬の上のハク・エンが金切り声をあげた。
「あら、素敵な恰好ですね、お母様。とってもお辛そう……。ふふふ、どうしましょう……。でも、もう少し我慢してくださいね。残り二人を片付けますから」
「い、いますぐよ──。か、痒くて死にそうなのよ──。いますぐに、わたしをおろして、これを解いて──」
ハク・エンが拘束された身体を揺すりながら絶叫した。
「ふふふ、どこが痒いんですか、お母様? ハク・コが掻いてあげましょうか?」
少女がくすくすと笑う。
すると、木馬の上のハク・エンが真っ赤な顔をして怒鳴り散らした。
だが、少女はどこ吹く風だ。
それはともかく、やっぱり、この少女がハク・コらしい……。
沙那は床に転がったまま、孫空女に視線を向ける。
すると、孫空女が大きく頷いた。
「……うん、間違いないよ。ご主人様の霊気がこの女に充満している。ご主人様の命の一部を吸い取っているのはこいつだよ……」
沙那も朱姫も同じなのだが孫空女は、かつて宝玄仙によって、内丹印という道術紋を身体に刻まれた。
孫空女はそれにより大量の宝玄仙の霊気を注がれたのだが、その影響で孫空女は怪力を得ただけでなく、なぜか霊気の流れや濃淡を見ようと思えば見えるようになったのだ。
だから、ハク・コを孫空女が見さえすれば、宝玄仙から奪った命の半分を身体に入れているかどうかがわかると思っていた。
そのために、執拗にハク・コを呼べと喚き続けたのだが、やはり、わかったようだ。
宝玄仙から奪った命の半分は、このハク・コの体内だ──。
間違いない……。
ならば、あとは、やることはひとつだけ……。
「孫女、朱姫──。こいつを殺して。それで、ご主人様の命は自然とご主人様に戻るわ」
沙那は言った。
「あら、わたしを殺すつもり? でも、すでに、この部屋はわたしの結界に包んだのよ。そんなことできるのかしら」
ハク・コが優美に笑った。
そして、消えた。
いや、消えたようにしか見えなかった。
一瞬にして、孫空女との間合いを詰めたハク・コが孫空女を蹴り飛ばし、孫空女が壁に背中を激突させた。
孫空女の如意棒が床に転がる。
なんという速度だ。
まるで疾風を相手にしているようだ。
沙那は唖然とした。
「二匹目ね」
ハク・コは背中を壁に叩きつけられて尻もちをついた孫空女の目の前に立った。
そして、孫空女の頭に手を伸ばす。
「孫女──」
「孫姉さん──」
沙那と朱姫の悲鳴が轟いた。