新・嗜虐西遊記─北遊記/ビ・ク城篇【終了】 作:ドン・ドナシアン
「ふう……」
再び四肢が元に戻って、沙那は安堵した。
ハク・コが術を解除したのだ。
孫空女と朱姫も解放されて、それぞれ疲れたような顔になっている。
「本当に申し訳ありませんでした、宝玄様──」
ハク・コががばりと頭をさげた。
すると、そのハク・コの身体が吹っ飛んだ。
「えっ?」
「はれっ」
「ええ?」
沙那たちは唖然とするとともに、三人同時に声をあげてしまった。
なにが起きたかわからなかったが、どうやら宝玄仙が道術による衝撃波をハク・コの腹に至近距離から放ったようだ。
「ほごおっ」
ハク・コは背中を壁に激突させたが、次いで、やはり見えない手に引きずり戻されるように、元の宝玄仙の正面の位置に戻される。
そして、直立不動の体勢になる。
おそらく、宝玄仙の術で雁字搦めにされたのだろう。
「謝れば済むってもんじゃないんだよ。このろくでなしがあ──。まずは挨拶代わりだよ」
宝玄仙の凄まじい殴打がハク・コの頬に跳ぶ。
平手じゃなくて拳だ。
沙那だけでなく、孫空女も朱姫も唖然としている。
「ふぶうっ」
ハク・コの身体がぐらりと揺れた。
不自然なくらいに身体を真っ直ぐにしているので、身体を支えられなかったみたいだ。
「動くんじゃないよ──」
さらに二発目──。
宝玄仙はあんなに強い打撃はできないので、自分の手に道術もかけていると思う。
いずれにしても、容赦の欠片もない凄まじい打擲である。
「は、はいっ、宝玄姉さま──。ひびいっ」
間髪入れずに三発目──。
四発、五発、六発を繰り返される。
口から血が噴き出し、白いものが飛んだ。
鼻血も噴き出る。
だが、瞬時に治療されて、血も消滅する。これも宝玄仙の道術だろう。
とにかく、まるで鉄の塊で打たれているような打擲だが、ハク・コはむしろ悦んでいる。
だんだんと相好が崩れていくのがわかる。
「ちょっと待ってください、ご主人様──」
だが、放っておくと埒もあかないので、沙那はあいだに入ってとめた。
「なんだい、沙那──。とめんじゃないよ。危ないだろうが──。この馬鹿は身体で覚え込ませないと、なにをするにも覚えないんだよ。やっていいことと駄目なことの区別もつきやしない能無しなんだ。これは調教なんだよ。そこどきな──」
「いえ、その前に話を……。まだ敵の真っただ中ですし……。そこに浮かんでいるのはビク・ト司令官ですよね。そして、これはその正妻で司令官夫人のハク・エンなんです。先ほどの話によれば、このハク・コという少女とご主人様は知り合いなんですね」
宝玄仙をなだめながら、宝玄仙が吹っ飛ばした扉から外の廊下を覗く。
さっきまで衛兵隊長以下の軍塞の兵が集まった場所は、爆発でも起きたかのように周辺の壁や天井が壊れて、負傷しているらしい衛兵たちで死屍累々となっている感じだ。
ただ、一見するところ、死んでいる者はいなさそうだ。
さらに、まだ十数人はこちらに近づこうとしているが、見えない壁のようなものに阻まれたみたいになって、とめられている。
宝玄仙の結界だろう。
これもまた、しばらくは大丈夫そうだ。
一方で宝玄仙が連れてきたらしいビク・トは、巨大なしゃぼん玉のような透明の球体に全裸で入れられて浮かんでいる。
結界で阻まれている衛兵がそれでもこっちに殺到しようとしているのは、このビク・トの存在のせいだろう。
そして、ハク・エンは相変わらずの木馬の上だ。
いつの間にか、ハク・エンは口から泡を噴いて失神していている。
「司令官夫人? これがかい? それがなんで、こんな格好なんだい? お前らがやっているのかい?」
宝玄仙はハク・エンに視線をやって言った。
「たっぷりと痒み液を塗りたくって、木馬に載せて焦らし責めにしてるんです。あたしじゃないですよ。沙那姉さんと孫姉さんがやってるんです」
朱姫が笑うながら口を挟む。
「ほう、お前らにしては珍しく、えげつない責めをするじゃないかい。それで、泡を吹くまで気絶させたのかい」
宝玄仙は手を叩いて笑った。
すると、孫空女も口を開く。
「まあ、色々あってね。あたしの沙那も、こいつにはひどい目に遭ったんだ。それで、ここでご主人様を助けるついでに懲らしめようとしたんだけど、あたしたちが突入する前に、ご主人様が自力で脱出してきたということだよ。実のところ、あたしも、いまがどういうことなのか、よくわからないんだけど」
「とにかく、わたしたちは苦労しました、ご主人様」
沙那は言った。
「まあ、迷惑かけたのは認めるよ。それよりもちょっと待ってな。こいつが司令官夫人と言ったかい?」
宝玄仙がハク・エンを拘束している木馬に近づき、ハク・エンに手をやった。
次の瞬間、そのハク・エンの姿が消えた。
「えっ?」
沙那は眼を見張ったが、ハク・エンがどこに消えたのかはすぐにわかった。
空中に浮いているビク・トを捕えている透明の球体の中にハク・エンが移動している。
後手縛りにしていたので、その拘束のままハク・エンは、裸体にされているビク・トと向かい合って抱き合うようになっている。
「揃って人質にしてやるさ。あの男には、わたしもひどい目に遭ったからね。ただで解放してはやらないけど、とりあえず、猿みたいに見世物になってもらうさ。兵士の前で乳繰り合いな。朱姫、お前の術で、あの球体の中に一番強い媚香を放り込んでやりな。できるだろう?」
「そりゃあ、できますけど……」
朱姫が得意の亜空間術で媚香を出す煙玉を出して、ふたりがいる透明の球体の中に移動させる。
沙那は嘆息した。
あの香のえげつなさは、沙那もよく知っている。
最初に朱姫がそれを作ったときには、実験だといって、あの媚香を焚かれて、寝室に孫空女とふたりきりにさせられた。
はじめは抵抗していたが、外には出られず、媚香を止める方法もなく、最後には正気を失って、孫空女と動物のように愛し合ってしまった。
その強烈な媚香をあの狭い球体の中に放り込まれたらどうなるのか……。
散々に意地悪された相手だが、ちょっとばかり気の毒になった。
「ところで、お前だよ──。金縛りを解いてやる。さっさと服を脱ぎな──。奴隷の謝罪は全裸だろう──。そんなことも覚えてないのかい──。脚を開きな──」
すると、宝玄仙がまたしても、ハク・コに視線を向けて怒鳴りあげる。
「は、はいっ」
よくわからないが、あれだけの実力者なのだが、宝玄仙には逆らえない感じだ。
宝玄仙に命令されるや否や、ハク・コはすぐに脚を肩幅程度に開いた。
術による金縛りは解けた感じだ。
「ほごおおっ」
次の瞬間、宝玄仙の蹴りあげた脚がハク・コの股間に喰い込む。
さすがに、ハク・コが上体を倒してよろめく。
「奴隷は叱られたら、お礼を言うのが当たり前だろうが──」
今度は平手だ。
往復でハク・コの頬に炸裂する。
「け、蹴ってもらって、あ、ありがとうございます──。す、すぐに服を脱ぎます、宝玄姉さま──」
「待ちな──。その前に点検だ。おまんこを見せな。下袍をまくって、下着をおろすんだ──」
また、宝玄仙がハク・コの頬を叩く。
「うあっ、は、はい──。すぐに……。で、でも、宝玄姉さま──。
「余計なご託はいいよ──」
今度はまたもや拳で宝玄仙がハク・コの顔を横から殴る。
「は、はい、いま……」
ハク・コが下着を急いで脱ごうとするが、そこに宝玄仙の蹴りがまた下から襲って邪魔される。
「遅いって言ってんだろう──」
「ひがああああ──」
ハク・コが全身を弓なりにして絶叫した。
道術による攻撃だと思う。
しばらくのあいだ、ハク・コは眼を大きく見開いて、がくがくと痙攣していた。
「まだ、もたもたしてるのかい──」
ハク・コの顔面に宝玄仙の殴打が炸裂する。
「ぶふうっ──。い、いましゅぐに──」
鼻血がまた噴き出た。
そして、やはり瞬時に血が止まり、潰れた鼻も真っ直ぐに戻る。
だが、これだけ、殴ったり蹴られたりしながら、ハク・コは明らかに悦んでいるし、欲情している。
それは表情を見るだけでわかる。
「ど、どうぞ、ご覧ください」
ハク・コが下袍を大きくまくる。
すでに下着は脱いで足元だ。
「どれっ?」
宝玄仙の手がすぐにハク・コの股間に這う。
そして、いきなり、秘裂を抉って、二本の指がハク・コの膣の中に押し入った。
「濡れ濡れじゃないかい──。勝手に濡らしていいと言ったかい、この変態──」
宝玄仙の手が離れた。
「あぎゃあああ──」
だが、その直後、ハク・コの口から絶叫が迸った。
今度はどうしたのかと思ったが、宝玄仙の指には、まとまったハク・コの陰毛が握られていた。
宝玄仙がそれを床に放る。
「服を脱いだら、残りの陰毛を一本残らず自分でむしりな。それが罰だ。道具なんて上等なものはないよ。自分の手で抜くんだ──。さっさとしな──」
「は、はい、宝玄姉さん──」
ハク・コが慌てたように服を脱ぎ出す。
沙那は再び、ふたりのあいだに入った。
「お待ちください、ご主人様──。ハク・コもちょっと待って──。とにかく、ハク・コは、柳枝というのが本名ですか? おふたりは知り合いなのですね?」
「ずっと以前のね……。だが、本名じゃないよ。戒名だ。わたしが八仙になるずっと前に、こいつを飼い猫にしてやったことがある。わたしが管理していた地方院に、新参の法師として入ってきたんだ。入ってきたときから、こいつが変態だというのはすぐにわかったよ。だから、調教してやったということさ」
「懐かしい思い出です……。その頃から、わたしは宝玄姉さんのとりこです。もっと苛めてください。やっぱり、宝玄姉さまの責めは素晴らしいです。ぞくぞくします……。すぐに、陰毛を抜きますね。見ていてください……」
ハク・コ──柳枝というべきか、自ら全裸になった彼女は、その場に跪いて、早速自分の陰毛を抜こうとする素振りを示す。
「ま、待って──。話が先よ──。ご主人様、まずは話を──」
沙那は慌てて、それを止める。
宝玄仙は面倒臭そうに顔をしかめたが、ハク・コに待てと指示した。
「おふたりが昔馴染みをいうことは理解できました。それで、全ては元に戻ったのですか? 朱姫の話によれば、ご主人様は命の半分を奪われて、道術を封じられたと聞いたのですが? まあ、道術が復活したのは間違いなさそうですけど……」
沙那は訊ねた。
すると、宝玄仙が顔をしかめた。
「奪われた命の一部が戻ったし、一度、こいつの全ての術が解除されたんで、身体も術も復活したけど、そういえば、全部は戻ってないねえ。多分、半分の半分、四半分が戻ってないねえ。お前、もしかして、まだどこかに、わたしの命の一部を持ってるな。すぐに渡しな──」
宝玄仙がハク・コの髪を掴んで、床に顔を引き倒して、上からハク・コの頭を踏みつける。
「か、隠してません──。も、もともと、宝玄姉さまの命は、一級奴隷としての照会のために帝都に送ったんです。わたしは、その半分を横取りしただけで……」
「はああ? どういう意味だい──」
宝玄仙がハク・コの頭を踏む足の力を入れながら怒鳴った。
「と、とにかく、ビク・トに協力する代わりに、帝都に送るものの半分を横流ししてもらう契約で……」
ハク・コが宝玄仙から頭を踏みつけられながら声をあげる。
「契約ってなんだい──?」
「で、ですから、ビク・トが東帝国を攻撃するのに、わたしの道術で協力を……。その代わりに、ここから帝都に納付することになっている淫丹石や霊丹石の一部を少しもらう約束になっていて……」
「どうでもいいんだよ──。だから、わたしの命の残りはどこなんだい──。早く出すんだ──。出すんだよ──」
宝玄仙はハク・コの頭を踏みどころか、がんがんと繰り返し床に向かって上から蹴り始めた。
凄い音が繰り返す。
「んぶうっ、むぐうっ、むぐっ、あ、ああ、ひ、響く──。お、お股に響く──。も、もっとおお──」
「なに、甘い声出してんだい──。この変態──。残りだよ──。宝玉はまだ戻ってない──。残りの四半分にあいつがいるのは間違いない──。やっぱりお前が死んだら、戻るのかい──? 死ね──。死ね──。死んで、残りの命を返せ──」
今度は頭を左右から蹴り始める。
沙那は、それを留める。
「お、お待ちください──。わたしが詳しく事情を訊きますから──」
沙那は宝玄仙を宥めた。
そして、ハク・コに改めて説明させた。
それでわかったことは、やはり、宝玄仙から奪った命の半分の全部は、この軍塞にはずでにないということだ。
この軍塞から、病に冒されている北帝国の女帝の命を繋ぐために、魔石の代用品である淫丹石と霊丹石を定期的に一定量を帝都に納付しているというのは、主に、朱姫の調査で判明したとおりだったが、このハク・コは、高い道術の能力とたぐいまれな戦闘力をビク・トに提供する代わりに、この軍塞が生産する丹石の一部をハク・コに横流しするという約束を交わしたということだ。
北帝国の女皇帝が病のために、毎日大量の魔石が必要なことは以前からのことであり、戦争の勝利によって、新たな占領地にこの軍塞ができれば、当然に、丹石生産と納付が義務づけられることは予想していたらしい。
そして、ハク・コは、北帝国と東帝国の国境紛争において、北帝国を勝利に導いた。
ビク・トは約束を守り、この軍塞の司令官として入った以降は、ずっと、納付する丹石の数をごまかして、ハク・コに与えていたのだそうだ。
宝玄仙の命の一部を自分の身体に入れたのは、その過程の中でやったことらしい。
一級奴隷というのは、丹石納付ではなく、病の女皇帝の魂を移植する新しい肉体を探すために、命の一部を送って、帝都の検証を待つ役割の奴隷のことだ。
ハク・コは、帝都に送られる命の一部が、自分よりも遙かに力がある道術師の命であることを知り、その一部だけでも取り込んで、自らの能力向上を企てたということのようだ。
従って、まだ宝玄仙に戻ってない命の四半分はここにはない。
元々の予定のとおりに、帝都に送られているのだ。
「なんてことしてたんだい──、この馬鹿女が──」
宝玄仙がハク・コをまた蹴り飛ばす。
「ご、ごめんなさい──。で、でも、宝玄姉さま──。もともと、わたしが横取りしたから、まだ四半分が残ったのですよ。本来であれば、全部、帝都に送られていたはずだったんですから──」
「やかましい──。そもそも、なんで、そんなに魔石がいるんだよ。なんに使ってんだい──?」
「そ、そのう……。若作りのために……」
「若作りって?」
これまで黙って話を聞いていた朱姫が口を挟む。
「若い外観を保つために、毎日一定の魔石を……」
「そんなくだらない理由のために、お前、あの可哀想な老婆たちを生け贄にしたのかい──。あの後宮にいた年寄りの女たちは、あれは生命力を抜いた若い女の成れの果てだろう──。なんということしてんだい──」
「ま、待ってよ。あれは、ここの軍塞の連中がしているのよ、宝玄姉さん。帝都に霊丹石を送るために……。本来であれば、放逐されるのを、後宮で使って死なないようにしているのはわたしなんだから……」
「うるさいよ──。お前くらい淫乱だったら、淫気を力の根源にして、若作りの術に使い回しできるだろうが──。その術を教えてやるから、せめて、あの連中の生命力を戻してやりな。それくらいはできるだろう──」
宝玄仙が言った。
「えっ? 本当ですか──。それって、道術の秘術ですよね。本当にわたしに──?」
ずっと土下座に近い格好をしていたハク・コが顔をあがて相好を崩した。
「持っている秘術を他人にうつすのも秘術だけどやってやる。その代わりに、奪った生命力だけは戻すんだ。あの司令官たちも説得しな」
「する、する、する──。絶対にします。ビク・トとは、もう十年の付き合いなの。今回の契約とは別に、ずっと気心しれているし、本当は気のいい男なの。ちょっと、奥さんが怖い恐妻家だけど……。宝玄姉さんの言うとおりにするから、どうか、若帰りの秘術を私に伝授ください──」
ハク・コが全裸土下座した。
「……なんとなく、話がまとまったような、そうでないような気もしますけど、結局、ご主人様の残りの命は帝都に送られたということなんですか?」
朱姫が口を挟んだ。
「まあ、そういうことだね。どこに、どう送られたかは、白状させるけど、まあそういうことなんだろう……。仕方ない──。とにかく、取り戻しに行くよ。わかったね、お前たち」
宝玄仙が言った。
取り戻しにいく?
北帝国の帝都に?
一瞬、拒否すべきかと思ったが、そうもいかないのだろう。どういうことなのかは、沙那にもわからないが、宝玄仙の命がまだ、四半分足りないために、宝玄仙の中のもうひとりの人格の宝玉が復活できないらしい。
まあ、やるしかないのか……。
それにしても、朱姫の話によれば、後宮に監禁されていた宝玄仙は、道術を封じられたうえに、命が半分奪われたために、力が発揮できなかった状況だったはずだ。
自力で脱出して、ついでにビク・トまで捕らえてきたのは、ハク・コが一度死んで、道術封じと四肢消滅が解除されたからだと思うが、道術そのものは、いまでも道術師としての命が四半分ないのだから、完全ではないはずだ。
それでも、これだけ威力があるのだから、宝玄仙の術師としての能力は、やはり桁外れなのだろう。
「……それはいいけど、結局は、ご主人様とこいつは知り合いで、ご主人様がここから脱出できなかったのは、これがご主人様の能力を封じていたからなんだろう? そもそも半月も一緒にいて、気がつかなかったのかい? そうだったら、あんなに苦労することなかったのに」
孫空女が不満そうに言った。
「それもこいつが馬鹿だからだよ──」
宝玄仙がハク・コの頭をまたもや踏みつける。
「ひぶうっ──。ああ、もっとです──」
ハク・コは痛がるどころか甘い声を出している。
沙那は嘆息してしまった。
「いずれにしても、場所を変えませんか。多分、後宮がいいと思いますよ。あそこは、結構、警戒もしっかりしてますから。ビク・トたちを連れて籠城するのはもってこいです。そして、準備ができたら、そこから逃亡しましょう。ねえ、沙那姉さん」
朱姫だ。
「まあ、そうねえ……」
沙那は頷いた。
「だったら、このハク・コの折檻はそこでするよ。お前、ちょっとやそっとで許されると思うんじゃないよ──。覚悟しな」
「ありがたき幸せです、宝玄姉さま」
ハク・コが嬉しそうに応じた。
沙那は、ふと、宙に浮いたままのビク・トとハク・エンが入っている透明の球体を見た。
いつの間にか、本格的な性愛をしている。
ハク・エンは拘束されたままであり、それを乱暴にビク・トが犯している。しかし、どことなく、ハク・エンは満足そうだ。
「やっぱり、猿のように乳繰り合いだしたかい──。じゃあ、全員で移動するよ。とにかく、その猿ふたりは人質だ。いくよ──」
宝玄仙が言った。
次の瞬間、沙那を含めて全員が移動術によって跳躍した。
峠を越えると、突然に風が変わって肌寒さを感じた。
生い茂っていた草木もなんとなくまばらになってきたのがわかり、いよいよ北帝国に入ったのだと実感した。
一応は、これまでいたビ・ク城も北帝国なのだが、もともとは東帝国の土地であり、元来はこの峠越えで国境を通過することになる。
北帝国──通称であり、正式には「ノーザン聖教国」である。
代々、聖女と呼ばれる信仰の中心人物が女性皇帝となって治めている国であり、国土の半分以上が一年中、雪と氷に覆われているそうだ。
そのため、生活に魔道という道術に匹敵する技術が欠かせないらしく、厳しい環境下における人々の暮らしを支える道具もかなり普及しているらしい。
魔道具と称する魔道の道具の技術も、かなり進んでいるという。
まあ、書物の受け売りではあるが……。
とにかく、これから、北帝国を縦断する旅が本格的に始まることになる。
旅の目的地は、北帝国の帝都であるノーザンパルスだ。
あのビ・ク城で奪われた宝玄仙の命の一部は、どうやら間違いなく、帝都の宮殿に送られた気配であり、それを取り戻しに行くのである。
北帝国の帝都は遠い。
普通に大きな街道を歩いて旅をすれば、歩けば半年はかかる行程だ。
もしも、主要な関所を全部避け、抜け道を探して北進するということになれば、もっと時間はかかるだろう。
もっとも、北帝国の主要街道に整っているらしい「皇帝の道」と称される宮廷専用の魔道移動手段を使えば話は別だ。
実際、宝玄仙の命の一部については、それを使って帝都に運搬されたようだ。
いずれにしても、どうなることやら……。
そもそも、全ての関所を通らずに、北帝国の帝都まで辿り着くことは可能なのだろうか?
沙那は、峠を越える山道に入ったところで、全員を脇道に誘った。
まずは、もともとの国境であるこの山岳を下ったところに、入国を管理する施設があるのだ。それを避けて進むためには、この脇道から街道を逸れて、いくつかの難所を突破して抜ける必要がある。
いずれにしても、沙那たちが、国境管理施設も関所も通過するわけにはいかないのは、あの軍塞を慌てて出立した理由と同じものである。
「ここから先は、しばらくは道なき道を進むことになります。どうしても、所々では道が切れている場所もあるということでした。それに、念のために夜まで移動しません。闇に紛れて国境を越えたいと思います」
道から外れた適当な岩場である。
沙那たちは四人でそれぞれに、適当な岩を椅子代わりにして囲んで座っている。
「夜の山越えかい? しかも、道ではない経路を進むと言わなかったかい。それしかないのかい?」
宝玄仙は不満顔だ。
かなり険しい道を進むことになる。
一番体力のない宝玄仙には酷なのはわかっている。
「ご主人様は手配されていると考えていいと思います。わたしたち四人は、全員が死んだことになっていますが、北帝国の女帝の魂を受け入れる器として、ご主人様の身体が合致したということであれば、たとえ、死体であっても探し出そうとするでしょう」
沙那は言った。
宝玄仙とハク・コこと、
その三日間、宝玄仙はひたすら、あの軍塞で乱交に励んでいた。
ハク・コが宝玄仙の昔馴染みであり、かつ、宝玄仙の百合の趣味の昔の相手だったことがわかると、宝玄仙は、例によって、司令官のビク・トと正妻のハク・エンを巻き込んだ盛大な嗜虐遊びをやり始めたのだ。
調子に乗っている宝玄仙を無理に引きとめると、むしろ状況が悪化することはわかっているので、沙那は、しばらくは好きにさせることにした。
なによりも、今回は宝玄仙の主な責めの相手が、ハク・コであり、ビク・トであり、その正妻のハク・エンになり、沙那たちはその乱交そのものに参加すること免れたのだ。
失われた宝玄仙の命の四半分を追うのであれば、すぐにでも行動した方がいいというのはわかっていたが、沙那は放っておいた。
休んでいいと言われれば、休みたかったのだ。
朱姫の操心術でかなり負担は軽減されたとはいえ、あの軍塞に潜入してからは二級奴隷として、多くの将兵の性の相手などをしなければならなかった。
いまさら、守らなければならない貞操ではないが、ちょっとはゆっくりして、心を休めたいというのが正直な心境だった。
それが破れたのは、ビ・ク城に北帝国からの緊急連絡が入り、宝玄仙の身体が病に侵されている女帝の新しい身体に適合したから、すぐに身柄を送れと命令が入ったからだ。
それで、ビク・ト将軍を説得──いや、脅迫し、宝玄仙は死んだという報告をさせて、慌てて、城を脱出してきたのだ。
もっとも、宝玄仙が奪われた命の四半分を取り戻すという行動方針は変わらない。
その命の一部が帝都に運ばれてしまったのは間違いなく、それを取り返すには、帝都に向かうしかなく、こうやって、北帝国を縦断して帝都に向かう旅が始まったということなのだ。
「そもそも、ビク・ト将軍は、ご主人様が生きて逃亡していることを隠さないと思います。間違いなく、北帝国中のすべての軍が血眼になって、ご主人様を追っています。その中を突破して帝都まで行くのです。相当の覚悟が必要ですよ、ご主人様」
沙那は言った。
「はああ? いや、あれほど、強烈に脅したし、完全にビク・トは屈服してたさ。死んだと報告するくらいの約束は、あれは守るさ。ハク・エンとの仲が深まって、感極まっていたしね。あれは、わたしに相当に感謝していたんだよ」
宝玄仙だ。
これもまたよくわからないのだが、宝玄仙たちのビ・ク城でも最後の乱交に中で、冷え切っていたはずのビク・トとハク・エンの夫婦仲が改善し、熱烈な愛をかわすように変化したというのだ。
ビク・トは、かなりの嗜虐趣味の持ち主らしいが、女帝の実の妹であるハク・エンに、その嗜虐愛を押しつけるのを躊躇い続け、それで、ほかの愛人などに手を出しているうちに、ふたりは仲違いをしてしまったのだそうだ。
それが、宝玄仙の今回の介入による乱交の中で、ハク・エンは完全に被虐癖を植え付けられてしまったらしい。
ビク・トは、なによりも、気の強い女が被虐されてよがり狂うのが大好物であり、気の強いハク・エンが被虐に乱れるのを悦び、早速、調教を開始したという。
ハク・エンも、口では忌避するも、夫のビク・トから責められるのは満更でもないようであり、夫婦仲は劇的に改善されたということだ。
宝玄仙曰く、それをビク・トは感謝しているから、相当の融通は利かせてくれるだろうと断言している。
「いえ、必ず、ビク・トはご主人様が生きていると報告をします。そもそも、もしも、ご主人様が死んだとすれば、帝都に送られてしまった命の欠片は、ご主人様の新しい命となって、帝都から消えて戻るはずです。そうならないということは、帝都側でも、ご主人様が死んだというのが嘘ということを容易に見破れます。ビク・トの報告の内容に関わらず、ご主人様が死んでないのを帝都は確信します」
「そういえば、そうですね。じゃあ、ご主人様の手配書が出回っているということですか?」
朱姫が口を挟んだ。
「そう思っていいわね。もっとも、まさか、こっちが帝都に近づいているとは思わないだろうから、北帝国の捜索は東帝国側に集中するのではないかと思うけど、女帝側はビク・トたちを拷問してでも行先を聞き出すだろうし、わたしたちが国内に入ったのは、すぐに発覚するでしょうね。だいたい、ビク・トは隠さないと思うわ。誤魔化しが効かないことは明白だもの」
「つまり、お前は、ビク・トが約束を破るというのかい? あの柳枝だって見張っているんだよ。誤魔化してくれるはずさ」
宝玄仙は驚いたような表情になった。
なぜ驚くのか、沙那には理解不能だが、沙那は首を横に振った。
「口約束なんて信用できません。絶対に、ビク・トは、ご主人様が奪われた命の一部を取り返すために、帝都に向かったと報告します。だから、今回の旅は信じられない程も危険なものになります。その覚悟をしてください」
沙那は断言した。
すると、宝玄仙が嘆息した。
「わかったよ。万事、お前に任せる……。でも、奪われた命の一部には、多分、宝玉の人格がいるんだと思う。やっぱり、ずっと出てこないんだ……。道術そのものは影響はない。でも、宝玉がいないんだよ。絶対に取り返さないと……」
「わかってます。取り戻します。でも、現段階では情報が圧倒的に不足してます。帝都に向かいながら、各地から集めたはずの一級奴隷の命の一部がどうなっているかについて情報を集めましょう。でも、とりあえずは、国境越えです。実際には東帝国が領地を割譲したので、すでにビ・ク城が最前線ですが、以前からの国境だった山下りの麓側が実際の国境越えとみなしていいでしょう。警戒も厳重です。だから、夜闇に紛れて、国境監視をすり抜けて内側に入ります」
沙那は改めて言った。
「わかったよ」
宝玄仙が頷く。
沙那は孫空女を見た。
「孫女、あなたが先頭よ。次いで、わたし。最後尾は朱姫ね。特に孫女は夜目は利くし、気配を読むのも得意だから、とにかく、国境監視兵やご主人様の捜索隊と接触しないことに心掛けて。場合によっては、一日かけて進むところを三日かける。やり過ごすことに専念するの」
「わかったよ」
孫空女が頷いた。
「わたしは、誰の後ろを歩けばいいんだい? 悪いけど、当たり前の眼しか持ってないよ。お前たちのように、足腰は強くないしね。健全で普通の女さ」
宝玄仙だ。
沙那は首を竦めた。
「ご主人様が普通の女性とは全く思いませんが、今回は特別な方法で国境を抜けたいと思います。現段階で手配されるのは、ご主人様だけなんです。それに、孫女は群を抜いていますが、わたしもそれなりに夜でも行動できますし、朱姫も問題ありません。夜の山越えとなれば、ご主人様が問題なのは承知しています。だから、今回は、これを準備しました……。朱姫──」
沙那は朱姫に視線を向ける。
「はい、沙那姉さん」
あらかじめ指示をしていた道具を朱姫が亜空間から出す。
それは、一個の「籠壺」だ。
あのビ・ク城に貢物奴隷として入ったとき、身体が吸い込まれた不思議な霊具だ。そのときには、沙那は陰核だけを小指ほどの大きさの壺から出した状態にされ、ほかの肉体は籠壺の中に封印されてしまったのだ。
いわゆる亜空間術だとは思うが、肉体の感覚が消え、唯一外に出ている陰核だけ責められ続け、死ぬほど苦悶した。
その「籠壺」だ。
ビ・ク城から、それをもらってきたのだ。
「なんだい、それ?」
宝玄仙が訝しんだ。
沙那は、肉体をこの小さな壺の中に封印する道具だと説明した。
「つまりは、その中にわたしを封印して、お前たちが国境越えの道を運んでくれるということかい?」
「そういうことです。術式については、朱姫が教わってきました。中に入ると、ご主人様の能力も封印された状況になりますが、それはわたしたちを信頼してください。無事に安全な場所に移動できれば、必ずお出しします」
「確かに強い術がかかっている霊具だねえ……。こっちでは魔道具って呼ぶんだっけ……。まあ、今更、お前たちを信頼してないということはないけど、どうすればいいんだい?」
宝玄仙が籠壺を手に取って、しげしげと眺める。
「あたしの術を受け入れてくれれば結構です。ご主人様の道術への抵抗力は高いですから、それを意図的に低めてください。お願いします」
朱姫が宝玄仙から籠壺を手渡してもらいながら言った。
「わかったよ。やっておくれ」
宝玄仙が頷く。
次の瞬間、宝玄仙の身体が籠壺に吸い込まれて消えた。
宝玄仙が身に着けていた服は、その場に落ちている。
「やったかい、朱姫?」
「入ったのね。大丈夫ね?」
孫空女に続いて、沙那は朱姫の手の中を覗き込んだ。
そこには、宝玄仙の身体を吸い込んで封印した籠壺がある。
その口の部分は、以前に沙那が接したものよりも、三倍ほど大きくなっていて、陰核ではなく、宝玄仙の肛門の穴がある。
朱姫に改良してもらったものであり、陰核ではなく、お尻の穴だけが外部と接触するようにしたものだ。
「完全に大丈夫です。もうご主人様にはなにもできません。ただ、お尻が外気に触れる感覚があるだけです。ほかの感覚は一切が無です。でも、本当にやるんですか? あとで怒るんじゃないですか?」
朱姫が言った。
「怒るに決まってんでしょう。当たり前よ──。だけど、怒っているのはわたしも、孫女もよ。あんたもそうでしょう? 間抜けな失敗で勝手に捕まって……。それで大変な苦労して潜入して……。しかも、一番の強敵が昔馴染みってなによ──。だったら、わたしたちの苦労はなんだったのよ──。朱姫、痒み液──。そして、筆よ」
沙那は、朱姫からビ・ク城から持ってきた痒み液と、さらに責め用の筆を出させた。
筆で壺の口から出ている宝玄仙の肛門に、痒み液を塗っていく。
壺の口の菊唇がひくひくと左右に動く。
「沙那に賛成だね。このくらいの仕返しをしたくらいは許されるさ……。朱姫、あたしには、あの震える棒をくれるかい」
孫空女だ、
朱姫が霊気を込めれば、先端が震える細い棒を出して、孫空女に差し出す。
孫空女は、それを宝玄仙のお尻の穴にぴたりと当てた。
壺の口に出ている肉の部分から汗がどっと噴出する。
沙那は筆を一度置き、両手で肛門をぐっと開く。そこに孫空女が淫具を奥に押し込む。
壺口に見えているお尻の穴の部分の震えが激しくなる。
「わっ、ご主人様、悦んでますねえ……。わかりました。あたしも加わりますね。こうなったら、遠慮しても一緒ですし……。ところで、どのくらい、ご主人様をこのままにするんですか?」
朱姫が手にしたのは、小さな紙の札だ。
絶頂防止の道術がかかった札であり、これを貼られると、絶対に絶頂ができなくなる。
そして、剥したとき、堰き止められて溜まりに溜まった快感が一気に襲うというものだ。
絶頂を止められるのも辛いが、まとめて数回分の絶頂をさせられるもの辛い。沙那も孫空女も、散々に宝玄仙と朱姫から、これでいたぶられた。
それを端っこに貼った。
これで、宝玄仙はあらゆる刺激に対して、七転八倒するしかない。
「最低三日ね……。今回のことは、それくらいやらないと気が済まないわ」
沙那は言った。
それに、しばらくは宝玄仙の姿を外に出さない方がいいのは確かなのだ。
手配されている宝玄仙さえ顔を出さなければ、もしかしたら、北帝国の都への旅も多少は楽かもしれない。
「わお、三日。じゃあ、その三日間、ご主人様も地獄ですね」
「まあ、たまにはいいだろうさ」
孫空女が笑った。
そうやって、しばらく筆責めと淫具責めをしてから、籠壺を三人の真ん中に置く。
かなり快感を溜めたし、すでに痒み液もたっぷりと塗った。
こうなってしまえば、放置されるのも苦しいのだ。
案の定、外に出ている宝玄仙の肛門が激しくうごめいている。
肌からの汗も凄い。
相当に堪えているのは間違いない。
「これで、ご主人様も多少は反省をしてくれるかなあ?」
孫空女が呟くように言った。
「まさか。烈火のごとく怒って爆発するに決まっているわ。三日後には覚悟を決めましょう」
沙那はさらに震えが激しくなる宝玄仙のお尻の穴を眺めながら、しっかりと断言した。
すると、まるで返事をしたかのように、宝玄仙の肛門がぱくぱくと開いては閉じ、閉じては開くという動作を繰り返す。
封印された宝玄仙が、さぞや籠壺の中で苦しんでいるのだろうということを想像し、沙那たちは三人で同時ににんまりと笑ってしまった。
(『新・嗜虐西遊記─北遊記/ビ・ク城篇』完)
*
『新・嗜虐西遊記/北遊記』の導入です。現段階で続きの執筆の予定はありませんが、また、気が向けば、なにかを描くかもしれません。
宝玄仙、沙那、孫空女、朱姫の淫乱道中については、また機会がありましたら……。