新・嗜虐西遊記─北遊記/ビ・ク城篇【終了】 作:ドン・ドナシアン
「そんなことはどうでもいいんだよ──。とにかく、いまはこの尻穴の悩みをなんとかするんだよ──。さっさとしな──」
宝玄仙は怒鳴りあげた。
あの糞ったれ将軍のビク・トが掻痒剤を塗ったまま放置していった尻の穴は、いまや宝玄仙を半狂乱にさせるほどの火のような痒みを引き起こしている。
だが、おかしな水晶玉の仕掛けにより四肢を消滅させられている宝玄仙には、自分でそれを癒す手段がないのだ。
しかし、朱姫が来てくれたなら助かったと思った。
とにかく、いまだけでも、この痒みの苦痛から宝玄仙を解放してくれるはずだ。
ところが、老婆に変身している朱姫は、明らかにむっとした表情になった。
「な、なんだい──。わたしの言葉が聞こえないのかい──。さっさと、指をわたしの尻の穴に入れな。いいというまで掻くんだ。さっさとやらないと折檻だよ──」
宝玄仙は喚いた。
すでに、お尻の穴の痒みは、まるで刃物のような鋭さをもって、腰から背骨にかけて込みあがっている。
宝玄仙は激しく腰を左右に揺らした。
「へえ、そうなんですね。お尻が痒いんですね……」
だが、朱姫は興ざめしたような口調だ。
そして、なにを思ったのか、ほかの老婆が壁に向かって立っている側の壁に戻っていく。
宝玄仙は眼を剥いた。
「こらあ、馬鹿朱姫──。戻ってくるんだよ──。戻ってくるんだったらあ──。こらあ」
激怒の感情が込みあがり、宝玄仙は朱姫に向かって悪態をつき続ける。
だが、壁際でごそごそとなにかを始めた朱姫に動じる気配はない。そして、しばらくしてから、小さな車輪のついた箱のような台を押して戻ってきた。
その台車を寝台の横に置くと、台上に置いてきた水差しを宝玄仙に近づける。
「水差しの底を見てください。黒い板のようなものが貼ってありますよね。これは盗聴具です。いまはあたしの道術で無効になってますけど、この部屋での会話はすべて、将軍のビク・トか夫人のハク・エン、あるいは、その両方に盗聴されていると思ってください。だから、あたしがいても、無効化をしたという合図があるまで、好き勝手にお喋りならないように……」
朱姫が自分では身体を起こすことができない宝玄仙の身体を真っ直ぐにして、無水差しの底を眺めさせる。
なるほど、水差しの底になにかある。確かに盗聴の道術紋が刻まれた霊具の板だ、
しかし、それがなんだというのだ──。
「朱姫、お前、いい加減に……」
宝玄仙は激怒して喚いた。
だが、朱姫が手を離したために、寝台に仰向けに転がることになり、喋り損ねてしまって、口をつぐむことになった。
すると、不意にお尻に衝撃が走った。
「ああっ、いいいっ」
わけもわからず、突然に襲ったのは、凄まじいほどのお尻への刺激だった。
なにが起きたのか理解したのは、駆け抜けていった巨大な性感が離れて、さらに強烈な掻痒感がぶり返してきてからだ。
宝玄仙は、むっとした顔で右手に柔らかそうな毛先の筆を持っている朱姫を認めて目を丸くした。
どうやら、その筆で宝玄仙の尻穴の表面を軽くなぞったようだ。
「な、なにすんだい──」
「なにすんだじゃありませんよ、ご主人様。あたしたちは大変心配したんですよ。居場所もわからず、それでもやっと見つけて……。それで、死ぬかもしれないかの覚悟でこの軍塞に潜入したんですから……。あたしはともかく、沙那姉さんや孫姉さんなんか、わざと奴隷狩りに捕まったりまでしたんです」
するりするりと朱姫が宝玄仙のお尻の穴の表面を筆でくすぐる。
「ひいいっ、やめえおくれえ──。そうじゃないんだよ──。もっと強い刺激を……」
「ご主人様が欲しいのがこれじゃないのはわかってます。でも、その前に説明してください。一体全体、どうして、ご主人様がここの将軍の愛人になる羽目になったのか……。どういう状況なのか? 逃げられないのはなぜか? 一から十まで説明してください? さもないと、こうですよ」
朱姫が宝玄仙をうつ伏せにひっくり返した。
手足が付け根から消滅させられている宝玄仙は、それだけで寝返りも打てない。その宝玄仙のお尻を朱姫の筆が上から下に、そして、下から上にと繰り返し、双臀の割れ目に沿って撫であげる。
「ひああああっ」
宝玄仙は悲鳴をあげた。
そして、無意識にお尻全体を朱姫の動きに合わせるように突き上げていた。
浅ましいとか思ってはいられない。
だが、朱姫はすっと筆を引いてしまった。
「な、なんだよ──」
宝玄仙は苦悶の声を迸らせてしまった。
すると、再び身体を裏返されて、仰向けにされる。
今度は股間を筆でなぞられる。
さらに、肉芽……。
「うああっ」
宝玄仙は顔をのけぞらせた。
「さあ、道術の封印紋を胴体に刻まれて、四肢まで消滅させられているご主人様。力のないあいだは、あたしたちに従順になった方がいいんじゃいですか? こんな筆一本に翻弄されるくらい弱ってんですから」
朱姫が今度は右の耳を筆でくすぐってくる。
しかも、耳の穴だけでなく、耳の縁や耳の付け根、裏側……。それぞれ指などではありえないほどの微妙な刺激を柔らかく与えてくる。
朱姫の愛撫の巧みさは、宝玄仙譲りの熟達度に達している。
執拗な朱姫の筆責めに、宝玄仙はたじたじとなった。
あっという間に驚くほどの感度で全身の性感を呼び起こされる。
「やめええっ」
宝玄仙はのたうち回った。
いや、のたうち回りたいのに、胴体と頭しかない身体では、ただただ身体を左右に捻るくらいしかできない。
すると、いつの間にか両方の手に筆を持った朱姫が右側の耳だけでなく、左の耳も責めてくる。
「ひあああっ」
宝玄仙は悲鳴をあげた。
「ほらほら、ご主人様、もっと逃げてください。さもないと、いつまでも筆が襲いますよ」
朱姫の責める場所が右の乳首になった。
慌てて胴体を左に捻る。
しかし、そこには反対側からの筆が待っている。
「いいいいっ」
逃げる場所などなく、気がつくと身体をそり上げていた。
だが、すぐに、そこにも筆が追ってくる──。
「んふううっ──。も、もう苛めないでおくれったらあ──」
宝玄仙は泣き声をあげた。
そして、やっと朱姫が二本の筆を引いた。
宝玄仙はぐったりと脱力した。
しかし、結局、なんの解決もしてもらっていないお尻の穴の痒みが戻ってきた。
「ああ、やっぱり、痒いいい──」
宝玄仙は必死でお尻を寝台に擦りつける。
もちろん、そんなことでは全く痒みは消えないのだが……。
「それで、どうしてこんなことになったんですか? あのとき宿屋にあたしたちを置き去りにしてなにがあったんですか?」
朱姫が寝台に腰をおろして、宝玄仙を見下ろしてきた。
宝玄仙は涙目を朱姫に向ける。
「お、お願いだよ。謝っただろう──。お尻が痒いんだよ──」
「わかってます。ちゃんと喋ったらなんとかしてあげます。そもそも、謝られた覚えはありませんけどね……。でもそれはいいです。だけど、こうしているうちにも、盗聴具を無力化していることに気づかれて、将軍が戻ってくる可能性もあるんです。さっさと喋ってください」
「ううう……」
朱姫の言葉に宝玄仙は歯噛みした。
だが、すぐに語り始めた。
金角、銀角から勢力地を譲られて、あの魔域でそれなりの勢力を支配下に収めることになった宝玄仙だったが、なにもなしに安住に暮らすというのはやっぱり退屈だった。
それで、宝玄仙の記憶を失っている実の母親に、旅の女にやつして会うという口実で、あの東帝国に向かう「帰りの旅」を無理矢理に開始したのはもう二年前のことである。
行きは五年くらいかかった旅だったが、帰りの旅は大きな災難もなく、一年半で宝玄仙たちは東帝国に戻ってきた。
そして、無事に母親との再会も済ませ、大いに満足して宝玄仙一行は、再び西に戻ることになったのだ。
だが、折角なので、まだ行ったことがない北帝国でも見物しようということになり、北に向かう旅をすることしたのは、東帝国の西側の国境まで戻ったときだ。
これに対して、供たちはいい顔をしなかった。
特に反対をしたのは沙那であり、北帝国と東帝国は長く紛争を継続していて、戦場地域を縦断しなければならないことになるというのが、その理由だった。
しかし、宝玄仙は無理矢理に、北に向かう旅を強行した。
そして、色々とあったが、今回の災難に遭ったのは、国境紛争の先の敗戦によって、北方帝国に奪われた土地だというこの地方までやってきたときのことである。
この占領地を収めているのは、ビク・トという北方帝国の将軍であり、宝玄仙たちは、その軍塞近くの里までやってきていた。
その里で四人で宿屋に宿泊している最中に、ふらりとひとりで外出した宝玄仙は、この軍塞の主人であるビク・ト将軍にたまたま出会い、そのままさらわれて、ここに閉じ込められてしまったというわけなのだ。
「あの日の夜、ご主人様は、あたしたち三人に、ずいきの股縄をして置き去りにして、出かけましたよねえ。そして、戻って来ませんでした。あたしたちは大変に苦労したんですよ。そのとき、どうしたんですか?」
朱姫が頬を膨らませた。
変身術で老婆にやつしているから、顔は老いているのだが、そんな表情は確かに朱姫だ
宝玄仙は朱姫に哀願の顔を向ける。
「お、お願いだから……ちょ、ちょっとだけでも、このお尻の痒みを……」
すると返事の代わりに、朱姫は肉芽を筆で数回撫でる。
「はううっ」
痒い場所とは違うところを責められるのは、焦燥感を爆発させられて苦しい。宝玄仙は涙目で顔を左右に振る。
「あたしたちは、あのとき、次の日の昼までずいき縄の股縄に七転八倒したんです。少しくらい我慢したらどうなんですか、ご主人様? どうして、ここの将軍に捕まるような間抜けを?」
朱姫が筆を引きあげて言った。
宝玄仙は荒くなった息を整えつつ、さらに語りを続ける。
「お、お前たちを待たせて……い、意地悪しようと、近くの酒場に……」
「ひとりで酒場に行ったんですね。それで?」
「そ、そこにお忍びで来ていたビク・トと会って……。ちょ、ちょっとした賭けを……」
「賭け? お酒の勝負とかですか?」
「いや、性愛の勝負を……」
「性愛の勝負?」
老婆の顔の朱姫の眉間に皺が寄る。
「抱き合って、先にばてた方が負けっていう勝負だよ……。それで、負けたら、わたしの供たちの相手をしろって言って……」
「供の相手? そんなことしようとしてたんですか──? なんで、知らない男の人となんて──」
朱姫は男嫌いだ。
顔が怒ったように真っ赤になる。
「よ、酔ってたんだよ──。それに、もしもの話じゃないかい」
「まあいいです。それでどうなったんですか? つまり勝負に負けたんですか?」
「よ、酔ってたからねえ……」
宝玄仙は自嘲気味に笑った。
性技では百戦錬磨の宝玄仙が性愛勝負に負けるなど、魔が差したとしか言いようもない。
確かにあいつは、性技もうまくて、絶倫ではあるが、負けるような勝負じゃないはずだったのだ。
「ふうん……。でも、なんでここに監禁されるようなことに……?」
朱姫が嘆息した。
「そ、それが……賭けの結果が……。ああああっ、もうだめだよおお。お願いだよ。痒いんんだよ──。もう喋れはしないよ──」
宝玄仙は絶叫した、
痒い──。
もう我慢できない──。
すると、朱姫が突然に宝玄仙のお尻の穴に指を突っ込んで、激しく抽送した。
「ほおおおおっ」
宝玄仙はがくがくと腰を揺すって、愛液を股間から迸らせてしまった。
だが、すぐに朱姫は指を抜いてしまう。
「お預けです。続きを話してください」
朱姫が冷たく言った。
宝玄仙は身体を震わせて、歯噛みした。
「ううう……。か、掛けに負けたら、あいつの愛人になって、一生、ちんぽを舐めて暮らしてやるって言ったんだよ──。そしたら、あいつ……。くそおっ、そんなに冗談に決まっているだろう──。でも、なにをとち狂ったのか、性交の最中に寝ちまったわたしを、あいつはこの軍城に連れ帰って、監禁しやがったんだよ──。逃げられないように、道術の封印紋を刻んで、しかも、おかしな術で四肢を消滅させて──。魂の人質まで取りやがって──。ああ、お、お願いだよ、朱姫──。反省してる──。反省してるから助けておくれよ。あれを始末してくれ──。そして、わたしを助けておくれ──」
宝玄仙はついに泣いてしまった。
あまりの痒さに頭の線が切れた感じになったのかもしれない。
とにかく、痒い──。
お尻の穴が痒くて、痒くて堪らない──。
もう、ほんの少しもじっとできない。
指でほじりたい。
気が済むまでお尻で自慰をしたい──。
でも、できないのだ──。
「つまり、気がついたらこうなってたということですか? だけど、こんな封印紋くらい……。あたしには無理ですけど、ご主人様なら、強引に封印くらい解けないんですか?」
「な、何度もやったよ──。でも見たことがない紋様で歯が立たなかったんだ──。それだけじゃない。魂の施術で魂を半分削られた。それで力が半分以下になってるんだ。封印を破れないのは、それもあるんだよ」
「まあ、北方帝国では、道術ではなく“魔道”と称するくらいで、術の骨幹が異なっているみたいですしね。でも、魂の施術ですか?」
朱姫が唖然としている。
いずれにしても、あのときの宝玄仙の驚愕と動顛は表現のしようもない。
とにかく、気がつくと、ここに監禁されていて、道術も使えず、四肢もなくなっていたのである。
さらに、魂の半分が失われてた。
魂の施術というのは、道術使いとしての道術力と生命の源を分割するという施術であり、最高級難度の術だ。
これをされて、道術の能力を本来の半分以下に弱められてしまったのである。
それだけではない。
どこかに隠された魂の半分には、おそらく、宝玉の魂がまるまる含まれていると思う。
その証拠に、監禁開始以来、宝玄仙は自分の中のもうひとりの人格である「宝玉」に一度も心の中で会っていない。
それを朱姫に言った。
「宝玉様が?」
朱姫は驚愕している。
「……と、とにかく、ただ逃げるだけじゃだめなんだ。逃亡したら、隠している魂の半分を始末すると脅迫されている。そうなれば、道術の能力が半分以上、未来永劫に失われたになるんだけど、それはともかく、宝玉は死んでしまう。頼む。魂の欠片の場所を見つけておくれ──。見つけ出してくれさえしたら、わたしの手で戻せるんだ」
魂の施術は本来、宝玄仙しかできないはずのものであり、命の源を分割するということだ。あるいは、その施術ができるのは、妹のお蘭だ。
それは、その一部を隠すことで、もしも、本体が死んでしまっても、分割した一部をもとに復活できるという使い道ができる。ただ、宝玄仙ほどの能力者の魂の一部となると、それを身体に入れると、とんでもなく能力が向上することにもなる。
実際、知らぬ間に分割された宝玄仙の魂の一部が、魔域の魔王にわたり、雷音大王や牛魔王が手に入れて、魔域でとんでもない騒動になったというのは記憶に新しい。
だから、もう二度とできないように、自分の魂に結界まで張ったのだ。
ところが、寝ているあいだに破られて、半分も削られていたのである。
宝玄仙も、実際になにが起きたのか、いまだに理解できない。
あのビク・トにしても、正妻のハク・エンにしても、そこまでの術使いには見えないのだ。
「魂の施術──? またですか?」
朱姫が声をあげた。
「ま、まずは、奪われた魂の半分を見つけておくれ。魂は生きている生命という器にしか保管できない。お前なら探せるはずだ。そして、なんとか、この胴体の封印紋を解除する方法を……。あとは、自分でなんとかする。あああっ、そして、いい加減に、お尻の痒みをなんとかしておくれったらあ──」
宝玄仙は絶叫した。
「わかりました」
すると、朱姫が立ちあがった。
筆を台車に戻して、どこかに向かう気配だ。
宝玄仙は唖然とした。
「ま、待ちなよ。どこに……」
「一度、沙那姉さんと孫姉さんに合流します。まずは状況を説明してきます。沙那姉さんなら、いい脱出方法を考えてくれると思いますから……。あたしが出るときには操心術も、盗聴の無効化も解除していきますから、変なこと喋らないでくださいね」
朱姫が離れていく。
宝玄仙は愕然とした。
「ま、待っておくれ──。お、お尻だよ──。お尻──。か、痒いんだよ──。ああ、なんとかしてから、待っておくれよ──。お待ちったらああ──」
「あのとき、宿屋に置き去りにされたあたしたちの痒み地獄は、そんなものじゃなかったですよ。じゃあ、また来ます」
朱姫が扉を開けて、そのまま部屋の外に出ていった。
ばたんと扉が閉ざされる。
宝玄仙は唖然とした。
また、部屋の中には、四肢のない宝玄仙と、我に返って、ちょっと呆然としている感じの四人の老婆だけが残った。