新・嗜虐西遊記─北遊記/ビ・ク城篇【終了】 作:ドン・ドナシアン
「普通に話をして大丈夫ですよ、沙那姉さん。結界を張りましたから、あたしたちの会話は外には洩れませんし、誰も扉を開けて入ることもできません。あたしの術を上回る術者がいれば別ですけど、まず大丈夫です」
ハク・エンの女官に道術で変身している朱姫が道術を解いて、本来の少女姿に戻ってあっけらかんと言った。
宝玄仙の道術で内丹印という紋様を身体に刻まれている影響で、十六歳の姿から見た目は年を取らなくなっているものの、本来の実年齢は二十歳を超えており、れっきとした大人の女だ。
だが、いつまで経っても、沙那から見れば、朱姫は分別が十分ではない少女にしか見えない。
いまのように、悪戯ぽく笑う表情など特にそうだ。
四肢を折り曲げて拘束されて、犬のような四つん這いの格好を強いられているうえに、首を立て板に固定されている沙那は溜息をついた。
もっとも、この朱姫も、この数年で道術の力は飛躍的に上昇している。見た目は少女のままなのだが、道術師としての第二次成長期というものらしい。
「わかったわ。ありがとう。それでさっきのわたしの質問への答えは?」
「さっきの質問って、ご主人様に接触できたかどうかということですか?」
「そうよ」
「一応、二回……。ご主人様のところに行くときには、別の姿ですけどね。ハク・エンについている女官だと、ビク・ト将軍の後宮には入れないんです」
「そうなの? あんたって、このところ、道術の能力に磨きがかかってきたんじゃない? 簡単に別の相手に変身できたりするの?」
「身体の一部さえ手に入れることができればですけど。とにかく、五人ほど抑えてますから、大抵のところは怪しまずに潜入できます」
朱姫が自慢げに言った。
沙那たちが貢物奴隷として里の者にわざと囚われて、ここに送り込まれるのと、朱姫が城の者に成り代わって潜入するまでの間隔は三日ほどだ。
朱姫もその三日のあいだに、そこまで城に深く入り込んだのだと思った
「よくやったわ。でも、ハク・エンの女官がビク・トの後宮に入れないというのはどういうこと?」
「夫婦だけど仲が悪いんです。ハク・エンは北方帝国の女帝の妹で帝室の出身です。気位が高くて、それでビク・ト将軍も忌んでいる感じですかね。城の者に言わせれば、典型的な政略結婚の関係だそうです」
「ふうん。それで私生活は完全に別個ということ? 身の回りを世話するのも完全に別々なの?」
「そうです。もっとも、ご主人様に近づけるのは、女官でも、女召使いでもなく、奴婢ですね。ビク・トは奴婢にしかご主人様を監禁している部屋に入れません。しかも、老婆の奴婢です」
「老婆の奴婢?」
沙那は訝しんだ。
「できるだけ、性の対象になるものをご主人様に近づけたくないんだと思いますよ。ご主人様は男だけでなく、女も性の対象ですから……。そりゃあ、世話人の老婆たちは舌を切断されて喋れないようにもされていて……。徹底してるんです。ビク・トはそれだけ、ご主人様にぞっこんなんです。もう城中の噂です」
朱姫が笑う。
「とにかく、いつでもご主人様と接触できるということね。じゃあ、もうこんなところに用はないわ。拘束を解いてよ。ご主人様と孫女を見つけて、こんなところからは、すぐにおさばらするわよ」
沙那は言った。
潜入には苦労したし、色々と怪しげな気配のある軍塞ではあるが、宝玄仙の身柄さえ確保できれば、それでいい。
さっさと脱出しようと思った。
四人が揃うことができれば、脱走も難しくはないだろう。
しかし、朱姫が困ったように首を横に振る。
「そうはいかないんですよ。ご主人様が逃げられない状況なんです。力を抜かれていて、逃げられなくされているんです。一応、できる範囲で調べ回たんですけど、どうしても、ご主人様を元に戻す方法がわからなくて……」
「はあ? どういうこと?」
すると、朱姫が宝玄仙の現在の状況を説明をした。
宝玄仙があの里で、お忍びでやってきたビク・ト将軍に誘拐同然でこの軍城に連れて行かれたということは、事前の調査でわかっていた。
だから、おそらく、将軍の後宮にでも監禁されているのだろうと予想はしていたが、果たしてそうだったようだ。
しかし、宝玄仙は身体に道術封じの紋様を刻まれ、部屋の中から出ると四肢が消滅するように術を掛けられているらしい。
沙那は舌打ちした。
「……わかったけど、問題ないわ。そのまま連れて出ましょう。四肢を元に戻す方法も、術封じの道術紋を消す方法も、脱走してからゆっくりと考えればいいわ。いまは、少しでも早く、ここから脱走することよ」
沙那はきっぱりと言った。
「だから、だめなんです。ご主人様は、命の半分を人質に取られているんです。それを取り戻さないことには、ご主人様の道術の力は、永遠に戻らないかもしれません。そもそも、あのご主人様が術封じの紋様くらいのことで、道術を一切使えなくなったのは、多分、命を半分削られたことで、道術を使う能力の半分以上を失ったからだと思うんです」
「なによ、それ?」
沙那は顔をしかめてしまった。
命をの半分を奪われたという意味は不明だが、それで連想されるのは、あの魔域で起こった「魔域大戦」のことだ。
あれは、もともと、宝玄仙の魂の欠片をお蘭が作ったことから、端を発したものだ。
お蘭とは宝玄仙の妹であり、宝玄仙に勝るとも劣らない道術の遣い手なのだが、道術力のない沙那に道術の力を強引に作りあげようとして、宝玄仙がそのお蘭に魂の欠片を作れと頼んだのだ。
そのときの騒動のことは思い出したくはないが、とにかく、宝玄仙の魂から削った魂の欠片を沙那の中に入れて、沙那は本来は道術を使える者にしか使用できないはずの、さまざまな霊具を扱えるようになった。いまは、それも沙那から抜かれているので、もう沙那には道術力はなくなったが、宝玄仙の魂の欠片というのは、それを身体に入れた者が道術力を極限まで引きあげられるという効果があるのだ。
それはともかく、魔域戦争というのは、宝玄仙の魂の欠片が、実は三個できあがっていたことが切っ掛けになった魔王同士の大戦争のことだ。
すなわち、実は三個できあがってしまっていた宝玄仙の魂の欠片は、ひとつは沙那の中に、残りふたつはお蘭が管理していた。
ところが、そのお蘭が管理していた二個は奪われ、紆余曲折あって、魔域を棲み処とする大王たちのうち、雷音大王と牛魔王が手に入れたということだ。
大きな能力の増幅を果たした雷音大王たちは、瞬く間に魔域を席捲し、群雄割拠状態だった魔域の支配者になった。
その雷音大王たちの勢力に反発した金角・銀角などのほかの魔王たちの戦いが魔域戦争だ。
結果として、雷音大王と牛魔王の力を失わせることに成功し、魔域大戦は反発者陣営の勝利となった。勝利者は、金角・銀角の両女魔王であり、
つまりは、事実上、宝玄仙は現在の魔域の盟主の立場なのだ。
まあ、本人には、その自覚もその気もないが……。
もう二年前のことだが、いまとなっては懐かしい。
それはともかく、「命の施術」とやらは、あの「魂の欠片」の施術と同義なのだろうか?
とりあえず、訊ねた。
「うーん、あたしたちの知っている道術系と北方帝国側では、ちょっと術の系統が違うんですよね。こっちでは“魔道”っていうんです。ルードの大海に果てにある大陸と一緒で、術の体系が違ったりするんです。詳しく喋れば、魔術と呼ばれるものについては、三大体系があって……」
「どうでもいいわよ。じゃあ、ご主人様がやられたのは、あの魂の欠片を削ったのとは違う術ということでいいの?」
沙那は朱姫の言葉を遮って訊ねた。
話が長くなりそうだし、どうせ、沙那には道術の細かいことはわからない。結論だけ聞けばいい。
まあ、この朱姫もこのところ、道術について深い勉強を極めつつあり、術者としての能力は宝玄仙が上だが、知識者としては朱姫がもう勝るのではないかと思っている。
「そうですね。とにかく、その命の施術で、ご主人様は、術使いとしての命の半分を持っていかれてしまったらしいです。見つけて戻さないと、ご主人様の道術はもしかして、戻らないかもしれません」
「見つけて戻すって……。誰に奪われたのよ?」
「さあ……。あたしも探ってるんですけど……。ビク・ト将軍は知っていそうですけど、術に対する防護具も完備していて、さすがに操心術かけられなくて……。ただ、ビク・ト将軍自身ではないと思います。ビク・ト将軍だったら、ご主人様が気がつきますから。同じ命は引き合いますから、接触すれば、いくらなんでもわかります」
「……じゃあ、ビク・トがどこかに隠したということ? それで、その場所の心当たりはあるの?」
「わかりません……。ただ、魂の欠片と同様で、命の破片というものは、生きている生命の中にしか保管はできません。そして、ご主人様の命の破片ということになれば、必ず、桁違いに能力向上したはずです。この軍塞の中で、最近、顕著に術の力があがったと思われる存在を探してはいるのですが……」
「ふうん……。それで見つければ、どうしたらいいの? ご主人様には、その施術は使えないんでしょう? あんたは使えるの?」
「あたしは……。まあでも、命の破片の場合は、元に戻すのは難しくはありません。命の破片を体内に入れている存在を殺せばいいのです。そうすれば、死体から破片部分だけが引きはがされて元の肉体に戻ります。」
「そういうものなの? 魂の欠片とは違うものなのね。あれは、入れ物がなくなれば、欠片が消滅するだけで、元の身体に戻るということはなかった気がするわ。そもそも、欠片を削っても、しばらく経てば元に戻るから、いくらでも作ることができたりしたみたいだけど……」
沙那は思い出しながら言った。
「命の施術の場合は、元の持ち主が死んでも、欠片側を入れていた体内から、命の破片が勝手に戻ります。破片を入れるといっても、あくまでも仮の入れ物なんです」
「ちょっと待ってよ。だったら、ご主人様の命の半分を誰が身体に入れているかわからないけど、もしも、ご主人様が死ねば、その半分はご主人様に戻るということ? そして、ご主人様は生き返る……」
「正確に言えば、生き返るのではなく、命が二個ある状態で一度じゃ死なないということですけどね。まあ、そういうことです。ただし、道術使いの命は道術力に直結してますので、復活しても、道術は破片の大きさに合致する分しか戻りませんけど」
「ああ、だったら、ご主人様に一度死んでもらえばいいんじゃないの? そうすれば、誰が破片を身体に入れていようと、その命の部分はご主人様に自動的に戻るんでしょう?」
「なんてこと言うんです、沙那姉さん。それに、そうしたら、ご主人様の道術力は、半分に減ってしまうということですよ。元に戻らないんです」
「問題ないわよ。なまじ、道術で自分にかなう者など存在しないと思い込んでいるから、毎回毎回、間抜けな油断をするんでしょう。半分どころか、全部なくなっても問題ないわよ。ご主人様を守って金角城に帰るわ。ご主人様は魔域に帰るのに、また、かつての道のりを大回りをして、数年かけて戻るようなことを言っていたけど、道術が失われば、考えも変わるでしょう。通天河を越えて、独角兕大王と接触して、彼の能力で送ってもらうわ。半月もすれば、金角城に帰還できる。残りの人生は、せいぜい大人しくしてもらいましょう」
「そんなことすれば、ご主人様が激怒して、なにをするか……」
「激怒して結構よ。もう道術は遣えないんだもの。そうなったら、立場は逆転よ」
沙那は吐き捨てた。
いつだってそうだったし、今回もそうだ。
沙那たちが苦労するのも、死ぬ目に遭うのも、宝玄仙の気儘と懲りない油断のせいにほかならない。
道術などなくても生きていけるはずだし、なければ、我が儘による淫靡な悪戯を受けなくて済むようになる。
「だから、駄目ですって……。ご主人様から奪われた命の半分を見つけないと……。おそらく、そっちに宝玉様がいるって言ってました」
「宝玉様?」
宝玉というのは、宝玄仙の中にいるもうひとりの宝玄仙だ。つまりは別人格であり、我が儘で子供のような癇癪持ちの宝玄仙に対して、優しくてしっかりとした考えができる大人の人格である。
嗜虐癖と被虐癖の両方である宝玄仙に対して、宝玉は徹底的な被虐癖だ。
淫乱という面では同じだが……。
それはともかく、宝玄仙から奪われた命を見つけて戻さないと、宝玉が戻ってこないということになるのか?
「……わかったわ。ご主人様を殺して、奪われた命の半分を取り返すというのは、最悪の手段ということにするわ」
「最悪の手段にも入れないでください。それはだめです」
朱姫が言った。
「まあいいわ。それで、いまのところ、ご主人様から削られた命の半分を宿した相手はわからないということね……。ところで、ほかにわかったことは? 孫女が無事ということは、あいつらの会話でわかったけど、一級奴隷って言ってた? そもそも、一級とか、二級とかってなによ? わたしは二級ってことだっけ?」
「孫姉さんとはまだ接触してません。でも、一級なら悪い扱いは受けないはずです。一級って、ハク・エンの相手をするって話ですから。二級は男兵の性欲解消ですね」
「ハク・エンの相手? 性の相手ってこと?」
女同士ということだが、まあ、そういう性のかたちもある。
沙那たちだってそうだ。
「うーん、よくわからないんですよねえ。ただ、わかるのは、一級奴隷というのは、少なくともしばらくは、ハク・エンのところで飼われるってことです。でも、これまでに一級として連れて行かれた者も、しばらくしたら、二級になります。だから、ハク・エンの性の相手をして、飽きられたら二級落ちになるんじゃないかってことだろうという噂で……」
「噂ねえ。実際に、二級に落ちされた女奴隷はいるの?」
「いますけど、操心術で聞き出しましたが、これといった話は……。ハク・エンはとても気難し家で、いつも苛々していて、その鬱憤解消の相手をさせられたってことくらいです」
「ふうん……。それで、二級は? 淫丹石って、なによ? いい加減に抜いてくれない。さっきから気持ち悪いのよ……」
沙那は腰をもじつかせた。
できるだけ意識しないように我慢しているのだが、どうしても気になってしまう。
女官に変身していた朱姫から、強力そうな媚薬を飲まされたこともあるのだろう。それが効果を発揮していて、いまでも股間が火のように熱い。そのうえに、お尻に押し込まれた異物がお尻の中の敏感な部分を苛むので、実はいまでも疼きを我慢するのに必死なのだ。
「気持ち悪いじゃなくて、気持ちいいの間違いじゃないんですか? 沙那姉さんのおまんこはびしょびしょですよ。乳首だって、こんなに尖って……」
すると、朱姫が沙那の胸と股間に手を伸ばして、突然に愛撫を始めた。
しかも、股間に指を入れて、くねくねと動かす。
媚薬の影響を受けている沙那の女体が一気に爆発した。
「ひあっ、いやっ──。さ、触らないで──。なにすんのよ、この馬鹿朱姫──」
沙那は自分の反応に驚いてしまって、身体をくねらせながら怒鳴った。
だが、朱姫は沙那の真横に移動すると、本格的に沙那を愛撫する体勢になる。懸命に手足をばたつかせて、朱姫の手を払おうとするのだが、肘と膝で折り曲げられて革帯を巻かれている四肢ではなにもできない。
朱姫が後ろから沙那の局部に挿入している指をいやらしく抽送しはじめた。しかも、一番感じる場所のひとつである入口に近い上部分の膨らみをしつこく揉み動かされる。
「ひいいっ、いっ、いやだってばあ──」
快感がせりあがる。
沙那は背中を弓なりにして、がくがくと身体を痙攣させた。
「いっちゃいます? それにしても、ご主人様といい、沙那姉さんといい、ご自分が抵抗できないのがわかっているのに、あたしに上から目線で語るんですね。いまこの瞬間の沙那姉さんは、あたしになにをされても抵抗できない状態なんですよ。大きな態度はとらない方がいいんじゃないですか?」
朱姫がくすくすと笑いながら、別の指を伸ばして、陰核をびんびんとはじく。
「んぐううっ」
沙那は四つん這いのまま、総身をひきつらせて絶頂をしてしまった。