とりあえず、今後の話の前振りかな?
「待ったぁ?」
「ううん、今来たところ」
これは少し前に流行ったドラマのやり取りだ。
それを私、ウナと東北でやってる。
「嘘言え。こんなに頬が冷えて…」
六月にやるもんじゃないのは解った。いくら東北のスベスベしたホッペでも、限界がある。
「暑い…! 暑いんじゃなくて熱いです!」
「あはは! ゴメン東北! 暑い時にやるもんじゃないね」
東北のモチモチとした頬から離れるのは残念だけど、私は頬を離す。
ホント、東北の肌、どこを触ってもすべすべなんだよなぁ!
今日は東北に頼まれて、買い物に付き合うことになってる。
それでバス停で待ち合わせてたんだ。
「東北、何を買うんだ?」
「色々悩んだんですけど、グラスが良いかなって」
何か引っ掛かる言い方だな?
「音街は何かやりたい事とかあります? せっかく駅前に行くんだし」
「ウナは特にはないかな。とりあえずは東北にくっついてぶらぶらしようかな」
私は東北と遊ぶつもりだから、別に駅前じゃなくても良いんだけどね。
でも、駅前なら色々と遊べるのは確か。
「それじゃ、グラスを見てからゲーセンでも行って、軽く休んで帰りますか」
「あ、ウナは服を見たいかな?」
「それじゃ、グラスを見て服を見て、ゲーセン、ファミレスですかね」
「それで良いかも。でも東北、グラスなんて百均でも良いじゃないか」
私が言うと、東北はそっぽを向いてしまう。
「私だって、たまにはオシャレなグラスで飲みたいこともあるんですよ」
良くわからないけど、東北だってそういう気分の時もあるよな。
「あ、バスが来ましたね。行きましょう」
バスの中で、オシャレなグラスで何を飲みたいかとか、宿題の話とか、そんな事を話してたらあっという間に終点の駅前に着いた。
「それじゃ、まずはグラスだな。どこに売ってるんだ?」
「ちょっと待って下さい。〇〇駅前、グラスっと… 居酒屋しか出ませんね。あとガラス工房」
東北はスマホで調べてる。私にも判るように操作を口に出してくれるけど、横にピッタリくっついて画面を覗き込む。
「音街、暑いですよ…」
「雑貨って後ろに入れたらどうだ?」
私は東北の文句は無視して、検索のアドバイスをする。
「暑いですって。あ、良さそうなのが2件ありますね。近い方から行ってみますか」
そこまで暑かったのか、東北は私から離れて歩いて行ってしまう。
まぁ、気温も30℃近くあるから仕方ないか。
しかし、こんなに暑いっていうのに、人が多い。
「待ってよとーほく〜!」
スタスタと行ってしまう東北を、私は早足で追いかけた。
インドア派の東北は足が遅い。私はすぐに追い付いた。
「何をそんなに急いでるのさ?」
「急いでません。こんなに暑いのにベタベタとくっついて来る親友から逃げてるんです」
と、東北は早足のまま進もうとするけど、残念ながら私のほうが早い。
東北はどこを触ってもすべすべしてて気持ち良いけど、あんまりしつこくしてへそを曲げられても仕方がない。
素直に謝っておこう。
「ゴメンゴメン東北。あんまり東北の触り心地が良いからさ、つい、ね」
「ずん姉様の太ももじゃないんですから…」
東北は呆れるけど、それはこっちも同じだ。自分の姉に何をしてるのさ…
とかやってるうちに、東北が早足だったのもあって最初の雑貨屋さんに着いた。
外から見ても、色々なものが置いてある。
「わぁ、いろいろあるね」
「ガラス細工はありますけど… グラスはどこでしょうね?」
東北と私は、お店の端から端まで棚を調べていく。
ガラス細工や陶器の置物、組木細工と色々あるけど、肝心のグラスは見つからない。
「無さそうですね…」
「お嬢ちゃん達、何を探してるの?」
見かねたのか、それまでレジにいたお店の人が、私達に聞いてきた。
「ウナじゃなくて、こっちだよ」
と東北を指差す。
「あの… 済みません、グラスを探してるんですけど、ありますか?」
と、小声。
まったく、私と一緒にいる時はバカも言えるのに、どうしてそんなに内気なのさ。
「う〜ん、グラスは今は置いてないなぁ、ゴメンね」
「そうですか、ありがとうございました…」
たま小声で返して、東北はお店を出る。もちろん、私もついて行く。
「と〜ほく〜、実近にあんなに怖そうな人がいるのに、人と話すのはまだ苦手なんだ?」
「兄様は怖くないです!」
東北は強く言ってくるけど、東北が兄様と呼んでる男の人は、かなり怖い外見だ。
服装はターミネーターみたいだし、私から見ると大きい。
東北に言わせれば『優しくて知的』だと言うけど、とてもそんなふうには見えない。
東北とその人の事を話しながら歩いてると、すぐに次のお店に着いた。
「あ、グラス…」
今度は表から判るところにグラスがあった。
グラスはその一角だけだったから、東北は足を止めて真剣に見てる。
時折、首を傾げたり眉間に指を当てたり、見てて飽きない。
「お嬢ちゃん達、どんなグラスが欲しいのかな?」
幸いにも、また女性店員だった。
是が男の人だったら、東北は逃げてただろうな…
無理もないけど。
東北は多分、出てもいないツバを飲み込んで言う。
「店員さん… お耳を…」
不思議そうな顔で店員さんは東北に耳を寄せたけど、驚いて目が開いて、それから笑顔になる。
「だ…駄目ですか?」
東北は足元しか見てないけど、店員さんは満面の笑顔で東北の頭を撫でる。
「良いんじゃないかな? 好きは人それぞれなんだし。お姉さんは応援しちゃうな」
「本当ですか!? 兄様は凄く良い人なんです!」
あ、東北のスイッチが入っちゃった。
たまに聞いてくれる人がいると、東北のスイッチが入る。
それを止めるのは、いつも私だ。
「はい、ストップ! 東北が愛する兄様の事を語ると、一晩じゃ終わらないんだよ」
「あ、私、暴走してました? 済みません…」
いつも止めてるから、これの事で東北は私に頭が上がらない。
気にしなくて良いんだけどな〜。
私達の茶番は無かったかの容認、店員さんはグラスの説明をする。
「ウィスキーかぁ、だったら、口の広いほうが良いと言うわね。これなんかどう?」
「値段が… 出来れば2つ欲しいんです」
さっきのやり取りで、東北も喋れるようになってる。
うんうん、少しづつ慣れて…
今、なんて言った⁉
ペあか!? ペアグラスか!?
東北はあのオジサンの事を考えながら、そのグラスで牛乳を飲むのか!?
私が勢いよく振り向いても、誰も気にしない。
「だったら、シンプルなデザインになっちゃうけど、こっちはどうかな?」
「あ、兄様の好みかも知れません! これにします! 2つ下さい!」
「はい、お買い上げ有難うございます。プレゼントでしょ? ラッピングはサービスしとくね」
「あ、有難うございます…」
なぜか東北は赤くなって頭を下げる。
まったく… もう少し対人スキルをどうにかした方が良いと思うな。
お店の人は、何をどうしてるかわからない早さでグラスを包んでいく。
しかし東北の買い物って、オジサンへのプレゼントだったのか…
この前に、授業参観に来てたから、そのお礼かな?
まぁ、東北がファザコンって事はないよね?
「はい、ありがとうございました」
私が色々考えてる間に、東北の買い物は済んだ。
店員さんは、芝居掛かった言い方で、東北に包みを渡す。
「いい買い物をしました。音街、次はどうします?」
東北は、あんなオジサンがいいのかなぁ?
歳なんて、親子以上に離れてるじゃん。
「音街、どうしました、ボンヤリして」
あ、東北の声を聞き逃してた。
「いやぁ、東北はオジ専なのかなぁ? って思ってさ」
「ち〜が〜い〜ま〜す〜! 私が好きなのは兄様であって、オジサンじゃないです〜!」
ボンヤリした事を隠すために、東北のいつもの弱点を突く。
これを言うと、東北はむきになるんだ。
思った通りになったから、私は落ち着いた風を装う。
「ウナは服を見たいかな?」
「音街はアイドルもやってますしね。出演してるときの服とか、どうしてるんです?」
あんまり声が掛からないけど、それでも私はたまに、ネットとかTVに出てる。
「私のと借りるので半々くらいかな? 先輩のお古とか、結構あるんだよ?」
先輩も大きくなるし、事務所で衣装は纏めて管理してる。
歌の仕事の時の衣装は、借り物が多い。 お喋りの時の服は自前が多いかな。
まぁ、そんなにお小遣いは無いから、見るだけになっちゃうだろうけどね。
今度は私がスマホをポチボチやって、お店を探す。
駅前に何軒もあるから、どこに行くか絞る方が大変だ。
「ま、ユニクロで良いかな」
適当に服を選ぶなら、そこが手っ取り早い。
私が歩き出すと、今度は東北が付いてくる形になる。
「アイドルらしからぬ選択ですね。どんなのを買うんですか?」
「取り敢えず見るだけかな。部屋着なんかなら、ユニクロで充分だし」
場合と物によっては、ステージでも使えるけどね。
「東北は服とかは買わないのか?」
ちょっと遅れ気味な東北がを振り返って、私は歩くのを遅くする。
「私は服よりもゲームが欲しいですね。部屋着と普段着があれば充分です」
「色気ないなぁ。そんなんじゃ、可愛いって言ってもらえないぞ?」
「残念でした〜。いつも言ってもらってます〜」
ぐぬぬ! 東北が可愛いのは分かるけど、いつも言われて… 誰に? オジサンか?
「音街だって、良く言われてるじゃないですか」
「どうせお世辞か、ロリコンでしょ。嬉しくないよ」
東北の隣に住んでるってオジサンは、ロリコンなのかな?
それでも東北は、可愛いって言われて嬉しいのかな?
東北とオジサン、どういう関係なんだろ?
授業参観に来てたし、でも血は繋がってないって言うし、どういう関係かって聞くと、しどろもどろになって訳わかんないし。
私はまったく別のことを考えながら、東北と適当に話をしながら歩く。
そうこうしてる間に、駅ビルの中のユニクロに着いた。
ここは種類も多いけど、色のバリエーションも多い。
色々選べるのが楽しいな。
私は入口で部屋着になりそうなのを探してると、東北はつまんなさそうに小物とかを見てる。
同じ年頃の女の子なんだけどなぁ。
「東北はさ、部屋着とかどんなのを着てるのさ?」
お店の中に進みながら、東北に聞いてみる。
いつも訪ねると和服みたいなあの服か、赤いワンピースだ。まさか、他に持ってないとか無いよな?
「家の中では、兄様のTシャツを借りてますよ。私が着ると、ちょうどワンピースみたいになるんですよ」
と、顔を見ると、どこか嬉しそうだ。東北のオジ専は、何とかしないといけないかも知れない。
私の部屋着は水色のジャージだけど、眼の前にあるようなスウェットも良いかも知れないな。
私に似合いそうな色といえば… やはり青系かな?
後はサイズの合うのを探してみる。
探しながら、東北に聞いてみた。
「東北はさ、他の格好とかしようと思わないのか?」
「パッと思い付かないんですよね。結局、いつもの格好で良いかなって」
「じゃ、こういうのはどうかな?」
良いことを思いついた私は、東北の手を取って引きずり回して、お店の中で洋服一式を集めた。
「こんなのは、東北に似合うんじゃないかな? ほら、試着試着」
「そんな、買う気もないのに悪いですよ」
「良いから良いから」
私は強引に東北に選んだ服を持たさて、試着室に押し込む。
「し、仕方ないですね。ちょっとだけですよ? すぐに脱ぎますからね」
私が試着室のカーテンを閉めると、東北は早速着替え始めたみたい。
「こんな色、私に似合いますかね?」とか「これ、短パンですか? 足の付根まで見えちゃうじゃ無いですか」とか言ってる。
思わず私は試着室の中に顔を突っ込んでいた。
「いつもの服だって、パンツとか見えそうなくらいじゃないか」
ツッコミを入れると、東北はとっさに胸を隠した。
「何で覗くんですか! 見ないで下さい!」
「別に一緒にお風呂に入る仲だし、構わないで良いじゃないか。それに、隠すほど胸はないだろ?」
「余計なお世話です!」
私は良く東北の家に泊まらせてもらってるし、一緒にお風呂にも入ってる。
だから東北の胸がペッタンコなのは知ってるし、お股にまだ毛が生えてないのも知ってる。
私だって東北よりは胸はあるけど歳なりだし、お股に毛は生えてないけどね。
「そんな事より、早く着ちゃいなよ。それともウナが手伝う?」
「一人で着られます!」
東北は私の鼻を潰すように押して、顔をカーテンの外に出した。
まぁ、パンイチだったからな。
少しして、中から東北が言ってきた。
「音街、良いですよ。カーテンを開けてください」
「自分で開ければいいじゃないか」
「は、恥ずかしいんですよ! 何ですか、この服は!」
東北はそう大声を出して、周りの人の視線を集めてる。
私が選んだのは、ジーンズ地のホットパンツに迷彩柄のタンクトップ、赤いキャップは包丁型髪飾りがあるから無理だったか。
普段の大人しそうな東北を、ワイルドに仕立て上げてみました。
「良いねぇ良いねぇ♪」
私は思わずスマホで撮ってしまう。
「ちょっ!? 音街! 撮るなぁ!」
遂にいつもの敬語まで出なくなってる。
「可愛いと思うんだけどな。きっと、東北の好きな人も、可愛いって言ってくれるぞ」
「えっ? でも… でも… そうですかね…?」
「東北は可愛いんだから、もっと自信を持て!」
東北に自信がないのは知ってる。
クラスの男子に、包丁型髪飾りや和服っぽい姿を馬鹿にされてたからだ。
まったく、バカ男子たち目… お前らには東北の可愛らしさが解らないというのか!?
「そう言われても… 私に可愛いなんて言ってくれるのは、音街か兄様だけですよ」
「東北は可愛いんだけどなぁ」
「お世辞でも有り難いですよ」
寂しそうな顔を見せてから、東北はカーテンの向こうに消える。
お世辞じゃないんだけどな。
何か面白くないぞ。
バカ男子もそうだし、あの様子じゃ東北、好きな人が居るみたいじゃないか。
私が一人でむしゃくしゃしてると、またカーテンが開いた。
東北がさっきまで着てた服を差し出してくる。
「どこにあったか覚えてません。音街、お願いします」
まぁ、東北を引っ張り回したのは私だしね。
それくらいはやってあげよう。
さっきまで東北が着てた服…
買いたいけど、残念ながら持ち合わせがない。
私は涙を飲んで、元の棚に戻していった。
私が服を棚に戻して回って戻ると、東北は不安そうな顔でキョロキョロしてた。
そして私を見つけると、安心したような顔で向かってくる。
東北には、アウェーにいる気分なのかな? 誰もイジメやしないのに…
「ゴメンゴメン、手間取っちゃった」
「良いですよ。そんなに時間は経ってませんし」
真顔で返してくる東北だけど、そんなに不安だったのか、目の端に涙が見える。
ホント、東北は私が居ないと駄目なんだな。
だから私は、東北の手を取って次のところに向かう。私の手の温度、感覚で安心して欲しい。
「次はゲーセンだっけ? こっちだね」
最近はゲーセンも減ってるらしい。
この近所にも一軒しか無いから、どこに行くも何もない。
「可愛いぬいぐるみが安く取れると良いな」
「その前に、可愛いのがありますかね?」
確かに。
キャッチャーの景品も、最近はキャラ物だったりネタに走ってるのが多い気がする。
世界的クラフトゲームの爆発する奴のぬいぐるみなら欲しいけどね。
「東北は欲しいぬいぐるみとかあるのか?」
「そうですねぇ…」
考えこもうとした東北が人にぶつかりそうになるのを、とっさに引き寄せる。
ホント、東北はすっトロイなぁ。
「済みません音街」
「いつも言ってるだろ。こういう時は『ありがとう』だって」
「そうですね、ありがとうございます」
駅前だからそんなに離れてなくて、ゲーセンにもすぐに着いた。
お店の前にも数台のキャッチャーがあるけど、アクセサリーとかそんなのばっかりだ。
ぬいぐるみはお店の中かな?
そんなに欲しいものがある訳じゃないから、私はぼ〜っと色々眺める。
たまにしか来ないけど、相変わらず色々な音が溢れてる。
逆に東北は、こういう所に来ると元気になる。
「これ! これ、兄様がやってたんですよ!」
東北が指差すのは、ガンシューティング?
ご丁寧に本体からチューブが伸びて、銃を抱えられるようになっている。
「うわ! お…重いです…!」
お金を入れる前に東北が持ち上げたけど、そんな事を言ってる。
「東北は軟弱だなぁ」
と笑ったら、東北は私に銃を差し出してくる。
その手が震えてるから、もしかしたら本当に重いのかも知れない。
「はい」
その声で、東北は私に銃をっ!? 重っ!?
何これ!?
「調べたんですけど、このゲーム機、試作機だそうです。重すぎてやる人が居なかったとか…」
「それを早く言え〜!」
私は怒鳴る勢いで、東北に銃を返す。
東北は抱きかかえるように、銃を持った。
「あ、兄様がこういう風に持ったのって、そういう事だったんですね」
何一人で納得してる。
「音街、後で返すから、お金入れてください…」
「大丈夫か? 東北。始まる前から辛そうだぞ?」
まだ一分も持ってないのに、東北の腕がプルプルと震えている。
「早くしてくださいぃ」
こんなのでゲームになるのかね?
取り敢えず私はお金をゲーム機に入れた。
短めのオープニングが流れて始まった。
画面の中では、兵隊のグラフィックが右から左から現れては流れていく。
あれを撃つんだろうけど、東北はとてもじゃないけど狙えてない。
銃も重かったしねぇ。
画面が変わりもしないうちに、東北の腕が下がっていく。
そして、あっという間にゲームオーバーになった。
何のゲームだかさっぱりだ。
「私にはこのゲームは向いていないようですね…」
東北は銃をラックに戻して、腕を振ったり揉んだりしている。
本当に重かったからねぇ。
「音街も…やってみますか?」
と、東北は辛そうな顔で汗までかいて言ってくる。
私の答えはもちろん決まってる。
「ノーサンキュー」
さっき東北に渡された時に持ったけど、たしかに重かった。
あんなのを長い時間抱えてるなんて、マトモな人のすることじゃない。
あれをやってたって言う東北のところのオジサン、何者なんだ?
ま、それはどうでもいいや。
そんな事より東北を見ると、まだ腕を揉んでる。
東北は無事?そうなので、私は周りに目を向ける。
あ、取れるならマインでクラフトなゲームの爆発する奴、欲しいかな?
私がクレーンゲームを見てると、東北は言ってくる。
「音街、いい目をしてますね。あれは狙い目です。多分、前の人は途中で諦めたのでしょう」
「そ〜なのか〜?」
そんなに欲しい訳じゃないけど、東北が狙い目だって言うならやってみようかな?
私はお金をガマ口から出してクレーンゲームに入れる。
「東北、サポートよろしくな」
私が言うと、解ってる東北はクレーンゲームの横の方に移動する。腕を揉みながら。
私が正面からクレーンを右に動かして位置を合わせる。
横方向はこれで良さそう。
後は縦だけだ。機種によっては回転できるのもあるけど、これは縦横だけ。
私は声も掛けずに縦方向を動かした。
「そこっ!」
無駄に鋭く東北の声がして、私はそこで止めた。
後は祈るだけ。とは言っても、何度も言うけどそんなに欲しいものでもない。
そんな私の気持ちは置いといて、音楽が変わってクレーンがマインでクラフトの爆発する奴の頭を掴む。
立っていた奴の上の方から掴んでるから、クレーンの爪が首に引っかかって、うまい具合に掴んでいる。
下が埋もれてるから力が足りないかと思ったら、あっさりと引き抜かれて取り出し口に向かう。
「やった! 音街、一発でしたね」
私の横に戻ってきた東北は、取り出し口に手を入れて緑のアイツを引っこ抜いた。
「シュ~」
と、私に近づけて震わせて、例の鳴き声を真似てくる。
東北がゲームをやってる時に色々爆破されたのを思い出して、私も楽しくなってきた。
「シュ~」
二人してソイツの鳴き真似をして笑い合う。
「あはははは…」
あ〜、面白い。
何が面白いか表現できないけど、ただただ面白い。
あんまり笑い過ぎて、まず東北がむせた。
「ちょっ! 音街! 音街! ストップ!」
笑いながらむせて苦しそうにしてるよ。多分、私も同じような顔をしてるんだと思う。
ツボってやつに、二人して入ってる。もう、笑ってるのが面白くて笑ってる。
でも、そのうちに息が切れてきた。
「は〜っ、は〜っ、は〜」
東北は美少女がしちゃいけない顔をしてるけど、私も同じなんだと思う。
あ、私はヨダレまで垂れてきた。いけないいけない。
コッソリとよだれを拭いて、何とか息を整える。
でも、東北は私の耳に口を寄せてくる。
「シュ~」
「ぶはっ!」
止めろ東北! 収まりかけてた笑いが込み上げてくる。
堪らず私は体を折って笑ってしまう。
でも最初ので少し慣れてるから、思ったより短めで笑いは収まった。
「まったく、もうやるなよ、東北」
「あはは… 済みません」
東北は謝ってくれるけど、涙とヨダレまで流して言われても説得力はないぞ。
「全く、女の子がしちゃいけない顔だぞ、東北」
私はハンカチで東北の顔を拭ってやる。ハンカチに東北の涙とヨダレが染み込んで、東北はすっかり美少女に戻った。
ついでにそのハンカチで私の顔を… いや、宝物にするべきか?
ハンカチは仕舞って、私は袖で口元を拭うことにする。
「あ〜、笑いました笑いました。音街、このあとはどうしましょうか?」
「今、3時くらいですか… もうちょっと音街と遊びたいですね」
嬉しいことを言ってくれる。
「そんじゃ暑いし、ファミレスでも入るか」
「そうしましょう。私も涼みたいです」
満場一致、って二人しかいないけどね。確か南口にファミレスがあったはずだから、そっちに向かう。
相変わらずの人混み。みんな暑いんだろうなぁ。
私達は涼みに行くけどね。
駅ビルをくぐって反対に出て、野外エスカレーターを下る。
大きくないロータリーを周り込んだ先にファミレスがある。
「ふぁ〜…」
入るなり東北は変な声を出した。
まぁ、気持ちは分かるよ。
肌を刺すような日差しから一転して、私達の珠のお肌をヒンヤリとした空気が包む。
私も声までは出ないけど、思わずため息が出てしまう。
ファミレスは混んでないので、待つ人用のボードには「お好きな席にどうぞ」と張り紙がしてあった。
「どこが良い?」
「どこでも良いですよ」
と答えながら、東北は手近な席に座る。脚が疲れてたんだろうね。
私も東北の対面の席に座る。
こういう事は手早い東北は、タブレットを手にとってメニューを見てる。
「とーほくー、ウナにも見せろ〜」
私は東北が見てたタブレットを横向きにして、二人で見られるようにした。
「私は、う〜ん… ドリンクだけで良いですかね」
そう言って東北は私にタブレットを回す。
どうしようかな?
私は東北みたいに少食じゃないから、ドリンクだけじゃ足りないかな。
と言うか、東北は食べなさ過ぎなんだ。
コンビニで一緒にご飯を買ったことが何度もあるけど、飲み物とオニギリかサンドイッチで済ませてしまう。
だから細いんだよ。決めた!
私はタブレットを自分の方に向けてドリンクとフライドポテト、ついでにピザも頼んじゃおう。
「音街、晩ごはんまで食べるんですか?」
「そんなわけ無いじゃん。東北も食べて良いよ」
そう、少食なくせに東北はこういうジャンクなものが好きなんだ。
だから目の前に置いてやれば、食べるに違いない。
「そんじゃ注文するぞ〜」
ボチっとな。
注文を確定すると、画面が更にオススメに変わる。
そんなに食べられるか。
ドリンクはセルフサービスだ。
「私が行きますよ。音街は何にします?」
「それじゃ、オレンジジュースで」
「わかりました」
二人で行っても荷物が心配だから、東北に行ってもらう。
そんなに掛かるものではなく、東北はすぐに戻ってきた。
「氷、勝手に入れちゃったけど、構いませんよね?」
「良きに計らえ」
実際、まだ身体は火照ってるから有り難いよ。
私は半分くらい飲んで人心地をつけた。
同じように、東北もコーラをゴクゴク飲んでる。
暑かったもんね〜。
「音街、あのロボット、猫に見えます?」
一息ついた東北が、配膳ロボットを指差す。
「猫かなぁ? もっと耳が大きければ、猫に見えるんじゃないかな?」
「あ、こっちに来ましたね」
配膳ロボットのお腹? 棚? そこにポテトとビザが載ってる。
さすがに配膳は店員さんなんだ。
何も言ってないのに店員さんが二人の真ん中に料理を置いてくれたので、場所を変える必要は無かった。
「東北も食べていいぞ」
言っといて、私も一本口に入れる。まぁ、普通にポテトだね。
私はケチャップをお皿の端のほうに盛り付ける。
「私はケチャップは邪道だと思うんですよね」
「そうか〜? ウナは美味しければ何でも良いと思うぞ」
「私も少し貰いますね」
東北もポテトを一本持っていく。
「少しなんて言わないで、ピザも半分良いぞ」
「そんなに食べたら、晩御飯が入らなくなりますよ」
「そんなんだから、手足も細いんだぞ。食べろ食べろ」
「う〜ん…」
私が勧めるけど、東北は齧ったポテトを顔の前に持ってきて眺める。
結構深刻そうだ。
「う〜ん…」
「どうした? ポテトがそんなに気になるのか?」
「でもなぁ…」
「お〜い、東北さ〜ん」
「あ、済みません。ちょっと考え事しちゃいました」
何を考え… あ!
「そう言えば東北、買ったグラス、オジサンにプレゼントするのか?」
「え? えぇ、いつもお世話になってますから、たまにはお礼をしないと」
「それだけかなぁ〜?」
「それだけに決まってるじゃないですか。兄様はいつも、イタコ姉様とお酒を飲んでますし…」
「そう言えばイタコさん、二十歳になったんだっけか。オジサンと飲んでるのか〜」
「そりゃあもぅタコ姉様、嬉しそうにオツマミを作ってますよ」
「イタコさんも、オジサンが好きなのか?」
「多分そうでしょうねぇ。目の中にハートが見えそうですよ。あ、ピザ貰いますね」
やっとピザに手を出したか。
「そっか〜。イタコさんも、かぁ」
「音街、何が言いたいんですか?」
「な〜んにも。そっかそっか〜」
「お〜と〜ま〜ち〜、そんなんじゃないですってば」
東北が頬を膨らませて睨んでくるけど、私は気にしない。
と言うかバレバレだよ。
「でも東北、イタコさんがライバルじゃ手強いんじゃないか?」
「ぐぬぬ… はぁ、隠し事は出来ませんか…」
「バレバレだって。東北はオジサンのどこが良いのさ?」
私としては、そこが気になる。
でも、大丈夫かな。東北は細身の小学生だし、イタコさんとお酒飲んでるくらいなら、東北は振られるだろうな。
そしたら私が慰めてやるか〜。
「兄様って、怖そうな外見ですけど優しいんですよ。話を真面目に聞いてくれますし、頭も良いんですよ?」
何だっけ、こういうの。あ、「立板に水」だ。
そんな感じで東北は、その人の事を次々と語りだす。
「それに兄様、料理も出来るんですよ。この前なんて、自家製のドレッシングを作ってましたよ」
「ドレッシング? あれって家で作れるものなのか?」
「ものの5分くらいで作ってましたよ」
「料理人か何かなのか?」
「違いますよ。単に料理は趣味だそうです。人に食べさせるのが楽しいとか」
「まるで善人みたいだな。東北、そんな人が義兄になれば嬉しいんじゃないか?」
「義兄様ですか… 義兄様…」
悩んじゃったよ。
でも、親友のオジ専は治してやらないとな。
「それも悪くないですけど…」
「なんだ? 東北は歳上が好きなのか?」
「優しくしてくれる人は好きですよ。子供っぼい人は嫌いです」
あ〜、これはクラスの男子共のせいだな、うん。
と言うか、そのせいでオジ専に走ったのか?
かと言って、私も男子共は嫌いだしなぁ。
「あっ、もう食べ終わっちゃいましたね」
ホントだ。東北が夢中で喋って、私が聞いてるうちに無くなってた。
私はまだ食べられなくはないけど…
「どうしましょう? お腹いっぱいになっちゃいました」
やっぱり。
「まぁ、帰るまでに少しでも食べられるようにしとけば良いんじゃないかな? 歩くか」
食べ終わったし、気が付いたら一時間近く話し込んでた。
バスの事もあるし、家の方に着く頃には5時近いんじゃないかな。
「音街、停留所一つ分くらい、歩きませんか?」
そんなんでお腹が空くかなぁ?
でもその分、東北と話せる時間が増えるから良いか。
「良いぞ。でも東北、バテたりしないのか?」
お腹は減るかもしれないけど、東北は体力もないし。
「だ、大丈夫ですよ」
ホントかなぁ?
ま、駄目だったら私がおぶってやれば良いか。
東北にくっつける約得だ。
ついでに小さいお尻も揉んでやろう。
「そんじゃ、行こうか」
私がレジで全部払おうとしたら、東北が半分出すと言ってきた。
「良いんだぞ。ウナが東北に食べさせたかっただけだから」
「そんな、悪いですよ」
「良いの良いの。アイドルウナちゃんに奢らせてよ」
と、強引に支払っておいた。
「それじゃ、歩くぞ!」
「お〜!」
とは言うものの、今は6月。夕方でもまだ明るいし暑い。
私もだけど、すぐに東北は汗だくになった。言わんこっちゃない。
「音街… 少し、休みませんか…?」
うん、知ってた。東北は体力がないんだ。
まだ1kmも歩いてないのにな。
「そんなんじゃ、日が暮れるぞ。冗談じゃなく」
「何で音街はそんなに元気なんですか」
「伊達に歌って踊ってないぞ〜!」
「こっちは普通の小学生なんです。休ませてくださいよ」
「仕方がないなぁ。次の停留所まで頑張れるか? そこまで行けばベンチがあるだろ」
私は脚を止めようとする東北の手を取って、引っ張って停留所に向かう。
汗ばんでるけど、東北の手って、柔らかいのな。
「お〜と〜ま〜ち〜、お〜ん〜ぶ〜」
なんて言ってくる。
「良いけど、尻を揉むぞ? 揉み揉みするぞ?」
「それでも良いですぅ〜」
虚弱女子め。
どうにか停留所について東北はベンチで休んでる。
人通りがないのを良いことに、脚をだらしなく放りだしてる。
顔までたらしなくなってるけど見なかったことにして、私は考えた。
私は東北の恋、応援すれば良いのかな?
だけど… 振られるのは判ってるし、諦めさせれば良いのかな?
東北は、オジサンと付き合えたら、私には構ってくれなくなるのかな?
だったら東北が振られたほうが、私には良いのかな?
でも、東北には笑ってて欲しいし…
「あ、音街。バスが来たようですよ」
私が色々考えてるうちに、随分と時間が経ったようだ。
「これで一安心ですね」
「そうだな」
バスはサラリーマンの人たちで混んでて座れなかったけど、ギュウギュウ詰めでもないから良しとしよう。
私達は吊り皮に捕まりにくいから、くっつくように手すりに掴まってる。
「音街、さっきから何を考えてるんですか?」
声に振り向くと、東北がすごく近くで覗き込んでいた。近いよ!
クラスの男子共はブスとか変とか言うけど、そんなはずがない。
東北は整って綺麗だし可愛い。
そう、同性の私でも好きになっちゃうくらい。
それも友達の好きじゃなくて、東北がオジサンを思ってるのと同じ好きだ。
自分でも変だと解ってるけど…
「音街ってば」
「ゴメン、考え事してた」
近いってば! あぁもう! 可愛いな!
「オジサンとイタコさんなら、お似合いかなって思ったんだよ」
とっさに適当な事を言ってしまった。
「私じゃ、駄目ですか」
私の思ってもなかった言葉に、東北は俯いてしまう。
何やってるんだ私!
「そんな事無いと思うぞ! 東北だって可愛いし!」
思わず声が大きくなってしまう。
近くのお客さんがこっちを向くけど、そんな事より東北が落ち込んてる方が大事だ。
「ウナがオジサンだったら、東北に好きなんて言われたら、こっちもだって言っちゃうよ!」
「そうですかね?」
私の大きな声に、東北がもう一度こっちを見た。
「そうに決まってるよ」
「でも…」
東北は私を見てるけど、小声になってしまう。
私に顔を近づけてきて…
「私と付き合ってくれるって、それって兄様、ロリコンって事になりません?」
「あっ…」
そうだよな。
でも、イタコさんとお酒を飲んでるって言うなら、悪いけどおっぱい目当てかも知れないしな。
「どうなるか判らないけど、ウナは東北を応援するぞ」
「ありがとうございます。音街」
少し寂しそうだけど、それでも東北は笑ってくれた。
そんな話をしてたら、私達の家の近くのバス停に着いた。
元々そんなに遠くないしね。
「それじゃ音街、今日はここまでにしましょうか」
「そうだな。あんまり遅くなってもいかないからな」
「それじゃ音街、今日はありがとうございました」
東北は私に手を振る。
まったく、丁寧なのは良いけど他人行儀にも思えるぞ。
「それじゃ、また明日、学校でな」
私も手を振って、東北に背中を向けた。
東北がまだ手を振ってくれてるのは解るけど、何かモヤモヤして振り返れない。
オジサンと東北か…
まず無いだろうけど、付き合っちゃったら…
無いよね、うん…
私の気持ちは、心の中に仕舞っておいたほうが良いんだろうな…
私は心の中のモヤモヤと一緒に、家に帰る事になった。
(おわり)
随分と書いたつもりだけど、最大の1/10にも満たないか・・・
今後はR-18も増やして・・・ 増やして・・・
ウナ「良いから早く書け!」
きりたん「そうですよ、私も早く、兄様と・・・」
君たちねぇ!
Twitterのノリで話すなよ。
ずんだもん「それよりも、ボクにも出番を寄こすのだ。あ、でもエッチは嫌なのだ」
そのうちに出番はあるよ。エッチかどうかは知らんが。