全部書き直そうかと思いましたが、書こうとテキストを開いたら「あれ? 結構読めるんじゃね?」と思い、一部削ってそのまま足してみました。
きりたんと兄様がキスするまで 4
しばらくたわいもない話をしながら、兄様と私はご飯の残りを食べ終わりました。
とは言っても私の方はとっくに食べ終わってて、兄様はのんびりとコロッケを齧りながら飲み物を飲んでるんですけどね。
公園はまだ夏ではないのに日差しが強く日向にいると焼けてしまいそうですけど、日陰なら少しの風が吹いてて過ごしやすいです。
兄様はもうすぐ食べ終わりそうなので、区切りとしては良いでしょうか。それでは今日まで温め続けてた疑問を兄様にぶつけてみるとしましょう。
「兄様、少し真面目な話を良いですか? この前の話です」
兄様はコロッケの最後の一口を口に入れて飲み物で流し込むと、こっちを振り向きました。
「小説の好きな表現を借りるなら『きりたんに対して閉ざす扉はないよ』。この前の事って、どれだ?」
「どう言えばいいんでしょう? その…… 兄様が私に『好きと言えない』事でしょうか」
「それか~。時間を貰えたから考えたんだけどね」
そこで区切って、兄様は手提げ袋にゴミを入れ始めます。私も兄様と自分の分のペットボトルを、近くの自販機のごみ箱に捨てます。
整備された公園は、こういうところが嬉しいですね。
「少しさ、歩こうか」
私が戻ると、兄様は迎えるように立ち上がります。私もランドセルを背負い直して、兄様の横に並びます。
日差しは強いですけど、私たちはなるべく日陰をえらんで歩きました。
歩きながら兄様は植込みの花を見ています。
「もうそろそろ、アジサイが咲きそうだね」
「そうですね。もう、いつ梅雨に入ってもおかしくありませんからね」
兄様が見てる先には、そろそろ開きそうなつぼみのアジサイがたくさん植えてあります。これで一雨くれば、花が咲くのでしょうか。
雨なんか降る様子もなく、木々の間から差す日差しは肌を焼くようです。今年は猛暑になりそうですね。
「やはりさ、どうしても歳の差は考えちゃうんだよ。いや、歳の差と言うよりも、きりたんの歳かな」
また歩き出すときに、兄様はぽつりとそんなことを言います。
私はすぐに横に並んで、さっきよりも近寄って歩きました。兄様としても、あまり人に聞かれたい話ではないでしょう。
「でも兄様、私くらいの歳の子が好きなんですよね?」
「この場合、残念ながらになるのかな?」
そう言って兄様は、困ったような顔を私に向けます。
「相手を目の前にして言うのも難だけど、確かに俺は、君を欲望の対象にしちゃってるよ。それは事実だ。でもさ……」
少し歩いて今度は、兄様はヒマワリの前で足を止めます。
そして私を見て、優しい笑顔のまま、無言。またヒマワリを見てしまいます。
私は何を言われても、兄様を嫌いになったりしませんから。
そして、ひまわりに話しかけるように、でも私に聞こえるように言います。
「まだ幼い子を好きになってしまうのはこっちの都合だけど、それでいいのか? 俺の欲望だけって話じゃないのか? ずっと頭の中で、そんな話になっちゃうんだよ」
言葉の終わりにこっちを向いてくれますけど、それは寂しそうな笑顔。
そんな顔をしないでください。私は兄様の笑顔が一番好きなんです。
「欲望だけって、エッチの事ですか?」
「そうだね。動画のようなことをしたいと思うこともある。それは事実だよ」
せっかく私の方を向いてくれたのに、申し訳なさそうに兄様はまたヒマワリの方を向いてしまいます。
兄様、ヒマワリに相談しないでください。
「もう、何を話しても引くとか、そんな状況じゃなくなってるか。思った通り話させてもらうよ」
「そうして下さい。何があっても、私が兄様を嫌いになる事はありませんから。それだけは安心してください」
「まぁ、よろしく頼むよ。それで、何の話だっけか」
「兄様が私に動画のようにしたいって話です。私は…… 良いですよ」
「こっちが良くねぇ」
拒絶と言うよりは弱く、兄様は吐くように言います。
「やはり、大事にしたいんだよ。きりたんが痛いのも嫌だし、血を流すのも嫌だ。それに…… 俺みたいなオジサンが汚しても良い訳ないだろう!」
目の届く範囲に人はいませんが、兄様の声は囁くように、でも叫ぶようなかすれ声でした。
「それは確かに…… 私だって、痛いのは嫌ですよ? 初めては痛いと聞きますし……」
そこだけは同意します。誰だって痛いのは嫌はなずです。
でも、兄様に汚される…… そうは思いません。それこそ猫がそうするように、私の身体に兄様の匂いを着けたいとすら思います。
真剣に悩む兄様の横で、私も一緒に考えます。兄様の悩みは、私の悩みです。ましてや、私の事で悩んでるんですから。
「いつもここで立ち止まっちゃうんだよ。困ったもんだよね」
と、兄様が私に向ける笑顔は、本当に困り果てた様子でした。
「でも……」
とりあえず、頭の中に浮かんだことを、何でもいいから口に出しておきます。
「初めては痛いし血も出るようですけど、それはみんなそうじゃないんでしょうか?」
「う~む…… 出来なくはないけど、少しの時間は必要……か?」
この場合は、さすが兄様と言っていいのでしょうか? どんな方法か知りませんが。
「でもなぁ、その方法だって、汚すと言えばそんなもんだし…… う~む」
兄様は少し考えてくれたようですけど、また顎を摘まんで俯いてしまいます。顎を摘まむの、癖なんでしょうか?
どうも兄様がつっかえてるのは、私を汚したくないってところなんでしょうか。
「兄様? 私を汚さないようにしてくれるのは嬉しいんですけど、エッチな事をすると、汚れるんでしょうか?」
「それは違うんじゃないかな? それを言ったら、世の中の大半が汚れてるって事になっちまう。だよなぁ……」
応えてくれますけど、頭の回転が速すぎるのか、兄様はすぐに自分の思考に戻ってしまいます。
それでも、兄様自身を説得しているようにも思えます。
「汚れるって表現自体がおかしいのかもな。だけど、少女を騙して無理やり…… でもないなぁ」
「騙してるんですか?」
「そんな質のいいものですらないだろうね」
今度は軽蔑したような顔。それは私にではなく、兄様自身に向けてるものなんでしょう。
「騙すというか、弱みや甘い言葉で付け込んで、思うようにするのが悪党のすることだ。ある意味は騙すよりも質が悪い」
「兄様は私にそうしたいんですか? してるんですか?」
してても構いませんし、そもそもするような人じゃないでしょう。しかし、意外な答えが返ってきました。
「してる…… と思う……」
兄様は俯き過ぎて、とうとう真下を向いてしまいます。
上を向かせてあげるには少々キツい姿勢になりそうなので、私は兄様の視線の先に入り込みます。
思い当たることが無い訳でもありません。
「それは兄様が、私に優しい言葉を掛けてくれることですか? 実際に優しくしてくれることですか?」
「それは……」
目を逸らそうとする兄様ですが、私は今、決めました。言います。
「確かに…… 兄様の優しい言葉も、してくれたことも、下心があったのかも知れません。でも……」
私たち三姉妹しか知らない、本当は三姉妹ですらない、音街にも言った事の無い、秘密……
「私、兄様がしてくれたように話しかけてもらったの、初めてなんですよ……」
思い出して、私まで俯いてはいけません。
「5歳まででしょうか。座敷牢って言うんですか? そんなところに居ました。ご飯も…… たまに貰えました」
「えっ?」
どこか魂の抜けてたような兄様の目が、私を見てくれます。
「私、身体が小さいでしょう? 栄養不足からでしょうね。でも、こんな小さい身体でも、兄様の好みなら嬉しいと思います」
「ダメだろ!」
勢いよく兄様に肩を掴まれました。
「何なんだよ!? 何があったって言うんだよ!」
声を荒げる兄様に、私は首を横に振りました。
「知りませんし、判りません。覚えているのは、イタコ姉さまに連れられて電車に乗って都会に行って、ホテルでコンビニのご飯を食べてた事くらいです」
あの時に食べたフライドポテトとピザの味は、今でも忘れられません。
とても、とても美味しいものでした。
「だから兄様のように、頼ってもいいとか、甘えて良いとかいってくれる人は、初めてだったんです。えへへ…… 嬉しかったんですよ、本当に、本当に」
駄目です。私の目の端から、涙がこぼれ落ちました。
いつまで続くか判らなかったあの生活。いえ、生きても活きてもいなかったのに、生活なんでしょうか。
話しかけて応えてくれるのはイタコ姉さまとすん子姉さまだけだった日々。
そこに変なお隣さんが現れて、頼ってもいいと、甘えても良いと。何をしても、苦笑いで済ませてくれそうな大人の男の人……
「もう、大丈夫だよ」
私の視界が真っ暗になります。これで二度目でしょうか。
兄様のお腹。私がチビなんで、兄様のお腹に顔が埋もれてしまいます。
兄様は、痛いくらいの強さで私を抱きしめてくれます。
ふふっ、私が痛いのは嫌だと言いながら、こんなに強く抱きしめてくれるなんて…… 良いんですよ、兄様。
私のお日様。もう、あなたがいないと、私の世界は真っ暗なんです。
「俺が護る。誰からも何からも」
兄様、泣きそうな声で言わないでください。あなたの腕の中にいるのは、世界一幸せな女の子なんですから。
私は顔を横に向けて喋れるようにします。
「兄様? こんな風に抱きしめてくれたり、大事にしてくれる男の人は、兄様しかいないんです…… 兄様だけなんですよ」
「そこなんだよなぁ」
兄様は私の頭を抱きしめていた腕を開いて離します。ちょっと残念です。
でも、兄様は私を離して続けます。
「俺以外にも、絶対にきりたんを好きになる奴はいるって。その中には俺よりもいい男は絶対にいるよ」
「いませんよ。そんな人」
即座に私は返します。いるはずないじゃないですか。
「兄様も授業参観に来て見たでしょう? 私の同級生なんてあんなのばっかりですよ。好きになれると思いますか?」
「いや、この先だよ。今じゃなくて」
「今は…… 今のこの気持ちはどうするんですか?」
兄様を見上げると、私の視線を正面から受け止めてくれます。でも、何か言おうとしたのか口を開こうとして、閉じてしまいます。
「兄様? 私は兄様を愛しています。この気持ちだけは、嘘じゃありません。兄様は素敵で優しくて面白くて…… 兄様がいないと、私は嫌なんです」
「俺は、そんなんじゃないよ」
「兄様は、自分が思ってるほど悪い人じゃないですよ」
どうしても兄様は、自分を悪い人だと思いたいようです。どうして……
確かに兄様の女性の好みはそうかも知れませんけど、そこだけです。
それに私としては兄様がロリコンなのは、いっそガッツポーズをしたいくらいです。
あ…… 今、判りました。判っちゃいました。
兄様、自分の評価が低いんです。私と釣り合わないと思って、そこで腰が引けちゃってるんですね。
私も兄様も、自分の評価が低くて相手の評価が最高。それじゃ、いつまでたっても近づけませんね。
「兄様、こっちへ来てください」
私のやる事は決まりました。兄様の手を引いて、近くの日陰のベンチに座ってもらいます。
そして私はランドセルを降ろして、中からグラスを出しました。
「ウナちゃんが、渡すものがあるって言ってたけど……?」
「はい兄様。音街と選んできたウィスキーグラスです。どうぞ」
「突然だな。でも、ありがとう」
兄様は受け取って、プラスチックケースの外から色々な角度から眺めます。
「うん、いい形だね。ウィスキーの香りや味を充分に生かしてくれそうな形だね。飾りや模様が無いのも俺好みだ。気に入ったよ」
店員さんのおススメですけど、大正解だったようです。
でも、兄様に差し上げたいのはこれだけではありません。今、差し上げるものが出来ました。
えぇ、まだ私には、兄様にあげられるものがあったんです。
「それでですね、兄様。目を瞑ってもらえますか?」
「ん? 構わないけど、どうして?」
「良いですから」
私の答えになってない言葉でも、兄様は言う通り目を瞑ってくれます。
私と兄様は、立ってれば頭二つ分くらいは背が違いますけど、兄様が座ってる今なら、立っている兄様の顔は私の頭よりも下にあります。
「兄様、まだ目を瞑ったままで…… 失礼しますね」
自分がこれからしようとすることに、手が震えてきます。でも、その震える手で兄様の両頬に手を添えます。
「きりたん……?」
兄様が私の名前を呼びますけど、構わず足を進めて顔の高さを同じにしました。
もう、私の心臓は100m全力疾走したように高鳴っています。耳鳴りまでしそうです。
何を言っても、どんなに愛してると伝えても越えられない壁。
超える方法は、これだけです……
兄様の顔を引き寄せて、私も顔を近づけます。
「きりた……」
私の名前を呼ぼうとした口を…… 私の口で塞ぎます。
手もお腹も、どこを触っても硬い兄様。でも、唇だけは柔らかいです。
兄様は驚いて目を開けますけど、もう遅いです。
伝わってください、判ってください。
私は、きりたんは兄様の事が大好きなんです!
すごく長い間、唇を重ねていた気がしますが、やがて兄様の方から離してくれました。
「あ~、あのだな、きりたん。唇は腫れやすいから、あんまり長くキスしない方が良いぞ」
そう言う兄様の口調はいつもと変わらず、表情もいつものままです。
でも、首から耳まで、もちろんお顔も真っ赤でした。でも、それは私も一緒でしょう。
ついに兄様にキスしてしまった…… その思いは私の鼓動をさらに早めてますし、熱があるかのように顔が熱く感じます。
「きりたん、良いんだね?」
と兄様は、私の答えを待たずに手を伸ばしてきて、座ったまま私を抱きしめてきます。
今度は優しく、いつでも離れられる力で。もちろん、私に離れるつもりなんてなく、されるがままに近づきます。
この姿勢だとさすがに兄様の頭の方が低いので、兄様の顔は私の首筋に埋まります。
髪、くすぐったくありませんか? って聞こうと思ったら、首筋に唇の感触っ!? 軽く吸い付く感触がっ!
「兄様、あっ、汗もかいてるのにっ!?」
と兄様の顔を見ようとしたら、兄様のお顔が迫ってきます。あっ……
唇についばむようなキス……
「に、兄様ぁ……」
もうダメです、立っていられません。
兄様もそれを感じたのか、私を支えてベンチに座らせてくれます。
「こんなになるまで頑張ってくれて…… ありがとうね、きりたん」
と、横に座った私の頭を、大きい手で撫でてくれます。
「そっか…… きりたん、そこまで俺を好きでいてくれるのか…… こんな嬉しい困りかたはしたことがないな」
私を撫でながら、兄様はすごく力の抜けた笑顔で言います。
でも、困るんですか……? やはり、迷惑だったのでしょうか?
「さて…… イタコさんやずん子さんに、何と言ったものか……」
あ…… そうですね。
イタコ姉さまもずん子姉さまも、誰かとお付き合いしてる様子はないのに私が、しかもすごい歳上の兄様とお付き合いすると言うのは……
「兄様、一緒に考えましょうね。私の問題でもあるんですから」
と微笑みかけると、兄様も笑ってくれます。
「そうだな。俺一人だけの問題じゃないしな、っと、電話か」
兄様が話してる最中に、携帯が鳴りました。
「済まない、待ってね。はい、はい、はい。えぇ」
と、兄様が電話に応対してる間に、今度は私のスマホが鳴りました。急がしいですね、もぅ。
と電話の主はずん子姉さまでした。
『もしもし? きりたん? 今大丈夫かしら?』
「大丈夫ですよ? 何かあったんですか?」
なんだかずん子姉さま、慌ててるみたいですね。息も少し早いです。
『今、帰ったらポストに手紙が入ってたんだけど、管理会社からね! アパート、取り壊しになっちゃうんですって!』
「はい?」
あまりの事に、気の抜けた返事しか出来ませんでした。
『きりたん、今どこにいるの? 早く帰ってきてね! イタコ姉さまもすぐに帰ってくるって言ってたわ!』
「判りました、なるべく早く帰ります」
と電話を切ると、兄様が私を待ってました。
「参ったね。とんでもない話になっちゃったなぁ」
「えぇ、聞きました。アパートが取り壊しになるそうですね。すぐに帰って来いと言われました」
「まぁ、お隣さんだから、同じ話になるわな。きりたん、立てる?」
「多分……」
って、立とうとしましたが、足に力が入りません。途中で腰が砕けて、ベンチに尻もちをついてしまいました。
「仕方がない、ランドセルを抱えて」
兄様は先に立って…… え……!?
ランドセルを抱えた私を、軽々と抱き上げました。横抱きに!
こ、これってお姫様抱っこ……!?
兄様のお顔が近いです!
でも兄様は苦労してる様子もなく、普段のように歩きます。
「きりたんは軽いなぁ」
確かに30kgありませんけど、それでもそこまで軽くないはずです。
本当に、兄様は頼もしいんですから……
私は嬉しくなって、兄様の首に両手を回してしまいます。
「兄様……」
「待ってくれ」
察してくれた兄様は、辺りを見回します。人目を気にしてるのでしょう。確認が済んだのか、兄様の首から力が抜けましたので引き寄せます。
歩きながら…… 愛しい兄様にキスしてしまいました。えへへ……
でも帰ってからが大忙しだったのです。
ウナ「一年ぶりか~。オジサンが文字の書き方を忘れてなくてよかったぞ」
さすがにそこまで忘れるかぃ。
ウナ「色々と止まっちゃってるから、走れなくなって丁度いいから、色々やろうな」