「大丈夫かな? マスター」
「ふっふっ………ふーっ………まるで意味がわからないよ」
FGOにおけるエネミー、大多数の人からすれば未知なる生物によってそれまでの日常が崩壊し、街全体が混沌としている状況の中で赤い外套を着た浅黒い肌の青年に声を掛けられたので、うつ伏せからすぐ近くの壁にもたれかかる様に座り直して唸る様に呟いた。
今の状況になるまで、普通の高校に通って友人と駄弁る程度に普通の学生だったのでファンタジーな物語を妄想する事はあっても、実際にエネミーなどの化け物が来た時の対処を想像する事はなかった。
精々、防災用の道具を取り揃える事はあってもゲームにおけるFGOのエネミーが実際に来るなんて、予想の範疇を越えていたので友人達にまで気を回す余裕なんてないままに学校からすぐに逃げ出す事しかできなかった。
その事に対して、申し訳なさを感じながら彼の言葉を待っていると近くに来て片膝をつく人影を認識した。
「まぁ、大変。腕が折れてるじゃない。すぐに治療しないと」
「?????」
その人物を見て、右腕に鈍い痛みを感じている事を忘れるほどエネミーが大群で現れた際の混乱とは別の意味で混乱を併発する事となった。
なんせ、赤い外套の方はアーチャーのエミヤなのに対して折れた腕の治療を始めたのはセイバーの両儀式なのだ。
その為、妄想のし過ぎて知らない内に違法薬物に手を染めたかなと思って顔を青ざめていると、エミヤが話しかけてきた。
「安心しろ、マスター。アンタはまともさ、今はまだな」
「今は!? 今はって言ったよね!?」
「そうだとも。理由はわからんが、オレ達の世界とアンタの世界が混ざり合っちまったんだからな。オレらは兎も角、平和な世界で生きていたアンタはこれからの世界に耐え切れるかはわからんだろうし」
「………それもそうか」
エミヤの言う通り、俺は平和な日本に生まれて社会に文句はあっても生死を彷徨うレベルの大きなトラブルに巻き込まれず、平和な世界の中で今まで生きてきたのだ。
そんなぬくぬくと生きていける社会が絶賛、崩壊中な上に当面は戻りそうにない現状において殺伐とした社会で生きていけるかなんて、悪い方向にしか考えられないので正に詰み一歩手前といった感じだが詰みではない。
なんせ、エミヤと話している間に察したのだが少なくとも彼との関係はマスターとサーヴァントの関係と言っても過言ではないだろう。じゃないと俺に対してマスターなんて言わないだろうし。
両儀式に関しては分からんが、ゲームでは絆とレベルをカンストさせていたので最低でも仲間であってほしいなぁ、と思いながら彼女に話しかけた。
「それで、君はセイバーの方の両儀式で良いんだよな?」
「そうよ。イベントの際は散々、連れ回したんだからその責任を取って貰わないと困るわ」
「俺が取れる範囲でな。じゃねぇと返すもんも返せん」
「勿論。折角、来たんだもの。長く楽しまないとつまらないじゃない」
「せやな………っと、そろそろ終わるか?」
とまぁ、こんな感じで話していると治療が終わった様で痛みが引いた腕を動かしてみるとそこまで違和感がない事から、日常生活において支障が出ない程度に治療してくれたのだろう。
その事を確認し合ってから、家に向かうとその道中で両儀式からこんな事を言われた。
「あぁ、そうそう。他のサーヴァントも何人か来て、貴方の自宅に向かったそうよ」
「マジで!? 本当かい、エミヤ」
「勿論だ。皆、楽しみにしていたよ」
「君らに会えたし、他のサーヴァントとも会えるのは嬉しい。だけど状況が状況だから納得できねぇ」
会うんだったら平和な世界で会いたかったよ、と歯を食いしばる感じで言うとエミヤ達は呆れた様子で肩を叩いてくれたので、彼らに守られる形で自宅まで歩いていった。