( 暑い)
意識が浮上し、横向きの態勢で寝ている事を感じ取るのと同時に普段とは違う熱を感じて、いつも以上に暑く感じる不快感にそう思いながら目が覚めた。
すると、目の前には白い長髪で青い瞳の美女が向かい合って添い寝する形で俺を見ていたので考える間もなく、体をビクッと震わせて暫く見つめ合っていたのだが不思議そうに彼女から聞いてきた。
「どうしましたか? 我が夫よ」
「あ、あー………そうだった」
彼女の言葉に、寝ぼけていた頭が回転を始めて現実を認識した事で深く息を吐きながら昨日、モルガンを始めとしたサーヴァント達と会ったんだと思いながら体を動かすと、彼女以外にも密着している多数の存在を認識した。
「俺は抱き枕かな?」
「それだけ、心配だったんでしょう。昨日、帰りがけに怪我をなされたとか」
「あん時はエネミーに遭遇してど突かれたからなぁ。エミヤ達が来てくれなかったら哀れな犠牲者の1人になってたよ」
「助かってよかったですよ」
昨日までの俺に、世界が崩壊してサーヴァントが来てくれる、と言う話をしても『妄想乙』と言って鼻で笑って信じなかっただろうし、未だに信じきれていないのだがこうやって話をしている以上は信じるしかなさそうである。
「んんっ、起きたー?」
「おはよう、マスター♡」
「おはようございます、マスター」
「おはよう、3人とも」
そうして、モルガンと話し合っていると俺を抱き枕にしていた残りのメンバーも起きた様でバニヤン、伊吹童子、楊貴妃の順番で挨拶をしてきたのでそれに応じると彼女達は満面の笑みを浮かべながら離れた。
(暑かった、けどすっげー役得でした)
毎回の様に、密着されると暑すぎて寝苦しさによる寝不足になりかねないが、年齢=彼女いない歴のDTな俺にとって巨乳であろうと貧乳であろうと女性の柔らかさを堪能できた事は、一種の役得なので心の中で感謝の合掌をしながら起きた。
「ん、どした? 着替える姿を見てもつまらんぞー」
「えぇ。ですが、脱いだお召し物を洗濯しようかなと思いまして」
「バニヤンもやりたいかなーって思って」
「私に任せてみない?」
「あー………そーゆー感じ?」
要は着ている服の洗濯をしたいが為に、着替えようとしても一向に出ようとしないモルガン達にどう対処しようかと考えてしまった。
以前であれば、脱いだ服は洗濯カゴに入れておけば母さんが勝手に洗濯機に突っ込んで洗ってくれたのだが、今はそう言ってもいられない状況なのでどうしようかと思案していると堅苦しい雰囲気をぶち壊す様にティアマトが入ってきた。
「そろそろ起きろ、マスター。エミヤがご飯できたって言ってるから」
「サンキュー、マッマ。愛してる!」
「よくわからない。けど、どういたしまして」
普段なら、意図しない時にも入ってくるのが母親なのだが今回の場合は目の前の状況を打破する行為だったので、血の繋がりはないけどみんなの母親であるティアマトに感謝を伝えると首を傾げられながらも受け取ってもらえた。
その為、一旦はモルガン達を寝室から出して部屋着に着替えて寝間着を洗濯カゴに入れると、歯磨きをしてからみんながいるであろう居間に向かった。
「 さて、今日は姉妹の救助に向かうつもりだ」
「ふむ、場所は分かってるのかね?」
「ここと、ここだそうだ」
朝食を済ませ、姉妹とのLANEで彼女達の現在地と現状に関して聞き出せたのでエミヤ達と打ち合わせをしている。
姉妹の方でも、絆とLVをカンストさせたサーヴァントがやってきて助けられた一方で、彼女達の友人が俺達の家についてこようとしたので近場の休める場所に避難しているらしい。
その場所を、紙媒体の広域マップに書き記すと悩む俺と同じ様に彼らも眉を顰めて話し始めた。
「ほぼ反対方向にあるわね」
「ああそうだ。彼女達がそれぞれ、避難している場所同士の距離はおおよそ15km。歩いたら3時間以上は掛かる距離だ」
「私達の宝具で空を飛べればよかったんだけどねぇ」
「流石に無理だな」
「あぁ、だからどこかで足を探さないといけないな」
「そこで一つ可能性があるものを使う」
俺と姉妹の年齢は姉が19で妹が14、そして俺が16と大高中の学生なので通う学校も全く違っている為、どうしても距離が長くなってしまうので歩きで行ったら何時間も移動に費やさないといけない。
これが、崩壊する前の日常であれば電車やバスを使って移動するのでそこまで気にしないのだが、崩壊した世界においては中々にハードな移動になるので赤の他人なら見なかった事にするのだが、確認が取れている肉親なのでそうも行かない。
できれば、助けたいと思っているので崩壊する前の法律を破る事になるがバスを使った移動を行おうと思う。
「バスってそう言う駐車場に乗り込むのか?」
「いや、駅前に残っているであろうバスを乗っ取って移動しようかなと思う。なければそう言う場所に行くけどね」
「ふむ、では予め調べておいた方がいいね。幸い、このぱそこん?ってのは機能してるっぽいから調べられそう」
「分かった」
俺の言葉に、エミヤ達は出発の準備をし始めたのでバスが多数ある場所を検索して家庭用プリンタで印刷し、それをクリアファイルに入れてから着替えして外出する準備をした。
「待機組はトラロック、山の翁、紫式部の3人でよかったの?」
「彼らも彼らで強いっちゃー強いんだけどねー。トラロックは家全体を守ってもらう必要があるし、じぃじからは自分を頼りすぎるな、なんて言われてるからねぇ。香子は2人のサポート役かな」
「なるほどね」
移動中、バスが停まっていそうな場所に目星を付けていたのでそれに沿って移動しているのだが、その道中で伊吹童子に疑問を投げかけられたのでそう答えた。
本来なら、全員で移動した方が戦力の集中と言う意味で安心なのだが、そうすると今度は自宅兼生活拠点となる場所の警護ができないと言う問題が発生するので、殲滅力と継戦能力がある3人に任せて移動している状況だ。
今回の移動は、姉妹の救出をメインに据えて行動しているので可能であれば物資の補給なんかもできたらいいな、と思っているが姉妹とそのサーヴァントだけではなく、10人にも満たない人達の救助も含まれているので少し不安がある。
何しろ、世界が崩壊した事によるショッキングな光景が脳裏に焼き付いてサーヴァントに原因がある、と錯覚してエミヤ達に八つ当たりするんじゃないかと言う心配なのだが姉妹を助ける為には必要なリスクだな、と考える様にした。もしも八つ当たりしたらその時、考えれば良いしね。
そう考えつつ、エミヤ達に守られながら自宅の最寄駅に到着してバスがないかを確認すると1つだけ、無事そうな外観のバスが停車していたので周囲を警戒しながら近づいて扉を見ると開きっぱなしになっていた。
「どうやら、乗れそうだな」
「あぁ、動くのか確認するからタイヤがパンクしてないか、確認してくれる?」
「分かった。他のメンバーはどうすれば?」
「楊貴妃以外のみんな、周囲を警戒してくれると助かる! 楊貴妃、来てくれ」
エミヤの言葉に、みんなに指示を出すと了承の言葉が返ってきたので、普段はドライバーが座っている席に近い方の扉から慎重にバスに入って中を確認すると、何もいないので軽く息を吐きながら彼女に車内の警戒を任せて運転席に座った。
動かし方に関しては、エンジン始動のやり方をネットで調べた範囲なので全くのど素人な上にそもそも車はおろか、バイクすら運転した事がないので安全な運転は無理だな。
まぁ、無免許運転から他の車両と接触して壊した際の罰則を下せる執行機関が機能しているとは思えないので、身内を救う為にも好き勝手にやらせてもらうとしよう。
「えーっと、バッテリーのスイッチはっと………これか」
そう呟きながら、調べた範囲でわかるエンジンの始動の手順を踏むとエンジンが掛かったのでみんなに乗る様に声をかけた。
「エミヤ、足回りは?」
「外から見た範囲では問題はなさそうだ。無傷なのが奇跡みたいなもんだ」
「まっ、後はちゃんと動くかどうかだけどね。サイドブレーキを操作してっと」
サイドブレーキのロックを外し、ギアを入れてから扉を閉めて目的地へと移動した。