姉達と合流してから1ヶ月程が経った。
その間に、自宅周辺を区画整理して最大で1,000人程が住める小規模な城塞都市風の要塞を構築し、崩壊後に生き残った人達を避難させながら行政やら治安やらは経験者にぶん投げた。
何せ、崩壊前まではただのボンクラ高校生だったので避難してきた人達をまとめ上げるだけの能力はないし、避難民の中には市役所や警察、病院などに勤めていた人がいたので一般人相手なら経験者である彼らに任せた方が対処が楽だ。
その代わり、エネミーやサーヴァント関係に関してはサーヴァントと契約を結んでいる俺達が引き受ける形で、彼らと交渉したので区画整理が済んだ後はエミヤや一ちゃん達に頼んでトレーニングを手伝ってもらっている。
如何せん、ほぼ帰宅部だった俺の身体能力はポンコツと言って良いレベルなので戦闘の際は逃げたり、サーヴァントが対処するまで生き延びられれば良い程度には鍛えておきたい。直に戦って勝てる程の身体能力はないし。
そんな訳で、この1ヶ月間は暇を見つけては稽古をつけてもらいながら生存者と娯楽の確保の為、姉妹が遠征に行く合間に近場の施設へ足を運んで生き残っていた物品を回収していた。
理由は単純で、この10年ほどはスマホが1つあれば大抵の事はできる便利な生活になってきたのだが、スマホに電波が届かなければ単なる記憶媒体に成り下がるし、内蔵のバッテリーも寿命があるので一定のサイクルで新しいのを買わないと使い物にならなくなってしまう。
しかも、世界が崩壊した事によってバックアップしたスマホのデータを管理するメインサーバーの生き残っている可能性が低くなっているので、新しいスマホを手に入れる事ができてもデータの移動やらがかなり面倒になっていると推測できる。
無論、崩壊したのと同時期にサーヴァントと契約した奴が持っていたスマホなんかは、物理的に壊れない限りは魔改造されている可能性があるので何とも言えないのだがそうでない連中、特にこれからサーヴァントと契約する輩が律儀にスマホを持ち続ける可能性は低くなる。
その為、必要だから持つ層以外のニーズに合わせて紙媒体の本やDVDなどのスマホ以外の娯楽を楽しむ手段は多い方がいいと考えて、回収していくとTSUT○YAやブ○クオフと言った縮小傾向だった中古屋を中心になかなかの収穫があったのでやっておいて正解だった。
そんな事を思い返しつつ、第三級アマチュア無線技士の資格を使って親父の自室に無線機を操作して、午後1時とかの決まった時間に応答がないかを確認する準備をしていると姉妹に呼び止められた。
「それで何だね?」
「本当にリーダーになるつもりないの?」
「今だったらなし崩し的になれるのに」
「以前も言ったがないな。それに力の独占は持つ奴を暴走させるし、持ってない奴らからすれば反逆の意志を持たせるからやりたくないのが本音さ」
姉妹は、俺をトップに祭り上げて自分達は楽したいと言う考えを持っているのがはっきりした一方で、俺自身は自分自身と自分と契約してくれたサーヴァントの安全が保障されていればいいと言う考えを持っている。
実際、トラロックの能力によってインフラが整った要塞型の都市を保有し、シャドウ・サーヴァントやエネミーを蹂躙できるだけの戦力を有している以上、これ以上の権力を求めるのは分不相応だと考えている。
例えるなら、今の俺は銀河英雄伝説と言う作品に登場するゴールデンバウム王朝が誕生するきっかけとなった1人のカリスマに立場上は近い形であり、今の姉妹は政治の全てを丸投げした民衆に近いと言っても過言ではない。
何しろ、1人のカリスマに丸投げすると独裁体制になって民衆に理不尽なやり方を強行するし、そのカリスマと彼に付き従う一部の人間に権力が集中すると彼らによると独占と腐敗が起こりやすくなる。
その結果、独裁体制に反感を持つ人達によっていつになるかはわからないが反乱が起きて、時の権力者達が立場から追い出されるのが作中で描かれていたし、歴史上でも何度か起きているんじゃなかったかな。詳しくは覚えていないが。
その為、この都市に避難してきた人達に生活の安全を提供する代わりに彼らの自治は彼らに任せる事を、受け入れ始めた当初から決めていた上に彼らである程度のまとまりが出来た時点で取引した。
そう言った背景から、姉妹の話を断ったのだが彼女達は不満気だったのでこりゃあ近いうちに荒れるな、と思いながら親父の自室へ向かった。
崩壊前であれば、普通に姉妹達と学校の事で駄弁ったり、勉強を教え合ったりして時には買い物の荷物持ちをやったりとかしたのだが、世界が崩壊した後はサーヴァントと契約できた事も相待って、気持ちが大きくなって互いの要求を押し付け合う事も起き始めている。
そう言った揉め事に、今まであまり関わってこなかったので軽く考え込んでいると偶然、居合わせたであろうアーチャーの方のノッブが気になる事を言ってきた。
「のぅ、毎日お主はこのカラクリを弄っておるのだろう?」
「そうだけど何か?」
「さっき、このカラクリから音が出ておったぞ?」
「マジで?」
崩壊前であれば、時間帯にもよるが電源を入れたらよく反応していた無線機が、崩壊後はうんともすんとも反応しなくなったのに数分前に反応したと言う事は、アマチュア無線の資格を有する生存者がいるかもしれないと言う事を示していた。
通常、アマチュア無線を使う際はコールサインと言う物を使って目に見えない呼び出す相手を呼んだり、自分を認識させるのだがコールサインを使って無線を操作しているのなら、胡散臭さ満点のアプリを使うよりも簡単に情報のやり取りができるかもしれない。
その為、ノッブに姉妹と手の空いているサーヴァントを呼びに行かせてから無線を操作した。
「非常非常非常、こちらはJK1TBG。○○県○○市です。誰か聞いてますか?」
「本当に無線が反応してたの?」
「非常非常って繰り返してたからの」
「なるほどね。一先ず、暫くやってみるよ」
実際、ネットの回線がかなり不安定になっているので短波と呼ばれる無線周波を送受信できるだけの電源とアンテナさえ、確保できれば情報のやり取りができる無線はそう簡単に馬鹿にできない。
とは言え、ネットと比べて情報量の少ないやり取りになるので姉妹達はかなり懐疑的だったものの、俺が発信する物以外で初めての反応があった。
『非常非常非常、JK1XYXです。東京都新宿区です。誰か聞いてますか、どうぞ』
「ほらな! 来たじゃろ!?」
その反応に、ノッブが大声を出したので彼女を制してから応答した。
「JK1XYX、こちらはJK1TBG。○○県○○市です、どーぞ」
『ちょっ!! ちょっとぉぉおおお!! 初めて応答がありましたああ!! こちらJK1XYX、メリット4です! はじめましてぇ!』
「JK1XYX、よく聞こえますよ。メリット5です。そちらはビルの上か何かですか?」
無線の資格を持っている者同士でわかる会話に、みんなが困惑しているので無線の感度であるメリットについて軽く説明してから無線相手と話をした。
『そーですそーです!! 高層ビルの最上階になります! どーぞ!』
「新宿区と言うと○○市から100km程になりますね。私のモービル機は100ワットなので普通はそこまでハッキリ聞こえない距離ですね。そちらは何ワットですか?」
『こちらのモービル機も100ワットですね、多分。他の電波が大分飛んでない分、よく聞こえるんじゃないでしょうか?』
「なるほど。では、JK1XYX。そちら東京は今、どの様な状況でしょうか?」
俺の質問に、この場にいたメンバーが固唾を飲んで見守っているとある程度の希望がある回答が返ってきた。
『東京全体はよく分かりませんが、新宿区を含めた23区で言えば自衛隊や警察の協力で何とか組織は保っています。後はサーヴァントと言う輩と契約した人が何人かいて、そのおかげで助かってます』
「そうですか。となれば、かなりの人が避難していると思うんですが大体の人数を聞いてもいいですか?」
『すみません。自分も避難した1人なので人数は分かりません。それに暴徒化しつつある人もいるので分かっていても言えません』
「なるほど、では一定の治安維持はできても危険な状況だと言う事ですね?」
『そーですそーです』
それに関しては、こっちも似た様な状況でカルト宗教やら犯罪組織の影がチラついているとの報告を姉妹から受けている。
その為、本当に身の危険を感じたら避難してきた人達も住んでいるこの街を畳んで放浪の旅に出るしかねぇな、と思いながら情報交換をしていった。