「じゃあ、はい…」
それだけで良いと思っていた。
男の子と女の子。ベットの上で二人きりになったなら、後はもう覚悟を決めるだけ。トレヤくんが私に何を求めてきても、そうさせてあげるのが女の甲斐性みたいな風に。
でも、それは怠慢だったらしい。
「はいって、言われても…さ。その、困る」
頬を染め、困ったように俯いたまま、だけどトレヤくんは動かない。
むしろ動けないという風に、僕の事をチラチラと盗み見るばっかりで、視線が合う度に逸らされてしまった。
「あぁ…。あははは、そりゃそっか。そう、だよね…」
流石に急ぎすぎたのか。
それとも単に、トレヤくんが断りきれなかっただけなのか。
「困る」って、呟いたその一言に、ガツンと頭を殴られた気がした。
それはだって、僕への罪悪感がなくなった訳では無いはずだもん。
もちろん、エッチへの興味がゼロではないにしろ、僕に求められたなら、たとえ一方的でも断りづらかったって事もあると思う。
なんか、急に自分が恥ずかしくなった。
お姉ちゃん風の次は、臆病風に吹かれている。
あんな事故みたいなことで、年下の男の子相手に舞い上がっちゃって。
なによりも、このままなし崩し的にエッチをして、ただただ関係が壊れるだけに終わるのを想像してしまった。
「あぁ、やっぱりなし。ごめんね、僕一人で盛り上がっちゃって。トレヤくんにも準備っていうか、急ぎ過ぎたよね、うん。やっぱり、こういうのはさ…」
本当に好きな人と…。
言うべきにだったのに、言えなかった。
考えただけで涙がでそうになり、喉元に詰まった嗚咽に次の言葉が塞がれる。
「あ、あははは…。おやつでも食べよっか? クッキーとかあったはずだし、お茶入れてくるね」
笑って誤魔化して、ベッドから立ち上がる。
だって、怖くなってしまったんだ。
想像と違うトレヤくんの反応に、煮えきらないその態度に。
どうしよう…。僕、全然おかしくなってる。
逃げ出そうとしてる。こんなにも好きなのにって、腹立たしくも思っていた。
早く、元に戻らないと。エッチなお姉ちゃんだって、トレヤくんに嫌われるのだけはイヤ。
「ちがっ。まってよ…ハナっ」
「へ?」
だけど、立ち上がった僕の手はトレヤくんに掴まれて、逃げ出そうとした僕の足は、そのまま動けなくなっていた。
振りほどくのは簡単だ。
あの時の触手に比べれば全然弱い。
なのに、彼への期待がそうさせたのか。でも、彼の方を見れないまま、僕は何も出来ずに立ち尽くす。
「嫌なんじゃなくってっ」トレヤくんの声が耳を撫でた。
聞きたくないのに、続きが欲しくて、ハタと、獣の耳が反応してしまう。
「イヤじゃないなら…どうしてさ」
拗ねたような声音だった。
いつもお姉さんぶっていた彼の前で、初めて見せる子供じみた言い草。
それに驚いた様な反応が、掴まれた手からも伝わってきた。
「だから、はいって言われても困るんだよ…。俺、ちゃんとした事無いから。あの時だって、ハナがしてくれたから…。それともなに? ハナはさ? なんか、こう…。俺に押し倒されて、メチャクチャにでもしてほしかった?」
「別に…僕はそのつもりでいたんだけど。トレヤくんの意気地なし」
「…っ!」
苛立たしげな気配。小さなケンカをした時でさえ、見せる事のなかった暗い感情に引きずられ、逃げ出そうとしていた僕の足はベットの上に引き戻されていた。
抵抗はしない。
なんなら、そのまま押し倒してくれたって構わなかった。
肩を掴まれ、キスをされる。
それは強引で、乱暴で、打つかりあった歯と歯がカチッと鳴ってしまうくらい下手っぴで。
いや、違うな。違うよね。
下手っぴだったのは僕の方。
男の子一人誘うのに、こんなやり方しか出来なくなっている。
もっと色々あったはずだ。トレヤくんの初めてに暗い色を残してしまった。
いつもお姉さん風を吹かせておいて、その関係に一番甘えていたのは僕だった。
「…しないの?」
肩を押され、押し倒されて。
見下ろしてくる彼の視線から顔を背ける。
たとえこんな風ででも、求められた事に安心してしまったのか、さっきまで嬉し恥ずかしと、苛立ちと腹立たしさで泡立っていた感情が、すとんっとさっぱり落ち着いてしまった。
「…」「…」
何もない、ただの無言。
見つめ合ってるわけでもなければ、思いが通じ合ってる訳でもない。
1秒、2秒と、時間だけが進み。それがどれくらい経ったんだか。
ポツリと、静かな声音でトレヤくんが口を開く。
「なぁ、ハナ? こういうのって何処で教えてくれるんだ?」
「は? 知らないけど。そんなの…娼館にでも行ったら?」
「行って、良いのかよ?」
「…絶対ダメ」
「なんだよそれ…」
トレヤくんがコソコソと娼館に入っていく背中を想像して、猛烈に腹が立ってくる。そんな人達と言ったら失礼なんだけど、そこに答えはないはずだ。
あるのはせいぜい女遊びの仕方だけで。
僕の身体の事は僕に聞くしかないんだから、ちゃんと聞いて欲しいと思う。
「練習…すればいいじゃん。なんだってそうだよ。森の歩き方だって、狩りの仕方だって、魔法の使い方だって練習したんでしょ? エッチの仕方だって、僕の、その、抱き方だってさ…」
このままじゃ埒が明かない。
だって、僕のほうがお姉さんなんだから。それは確かにそうなんだから。
練習だって。戸惑うトレヤくんにも都合の良い言い訳に思う言葉。失敗しても怒らないからと、手招くように言ってみる。
「練習って…でも」
僕のことを見下ろして、ゴクリと喉まで鳴らしてみても、それでもまだまだ手は出てこない。
「僕とエッチしようっていうのに、僕以外の誰と練習する気? 君のお姉さんにでも頼むつもりなの?」
「でっ、できるかよっ、そんな事っ!!」
「でしょうよっ! したら怒るかんねっ!!」
やっぱりそれは腹立たしかった。
たとえそれがお姉さんを相手にしても、どうしても抑えられない嫉妬が僕の独占欲を突き動かす。
「だから、さ。この間の続きから…で、いいじゃん」
「続きって…」
期待されてる。
もとから赤みの帯びた瞳を更に色づかせて、熱っぽい視線が僕の身体を舐め回していく。
そこまでは良かった。
でも、見てしまう。視線が、どうにも吸い寄せられる。
ズボンを押し上げるほどに勃起した おちんちん。
それは何を置いても、僕の身体で興奮してくれている証明に他ならない。
「ほら、はやく」
結局、先に我慢が効かなくなったのは僕の方。
急かすように、ぶっきら棒な口調で彼を小突いてしまっていた。
「わかったよ…」
ズボンの留め具が外され、ずらされた下着の向こうから、おちんちんが顔を出す。
でも、それだけで、それがなにか物足りない。
緊張が邪魔をしているのか、あの日に比べれば勃起は幾分か大人しい。
皮に覆われたおちんちん。ピンク色の先端こそ見えてはいるものの、すぐに射精するかと言われれば首を傾げてしまう。
「そんな、緊張しなくたって」
「無茶言うなよ。あの時はだって、変な匂いもしてたし…」
「うん、まぁ…。そうだけど」
それが獣人共通の性癖なのか。
単に僕がエッチな子ってだけなのか。
襲うよりも襲われたいと思ってしまう。
それこそ あの日の様にして。それこそ我慢の必要なんか無くて。
思うまま、がおーって襲われるつもりでいただけに、受け身に回る彼の仕草に戸惑ってしまう。
まぁ、それも僕の怠慢か。
日頃からお姉さんぶっておいて、こういう時だけリードして欲しいとか、虫が良すぎる。それならもう、僕の方からするしか無かった。
トレヤくんを一杯気持ちよくしてあげて、あわよくば、僕の方も気持ちよくしてくれればそれでいい。
「じゃあ、今は?」
「今って何…がっ、あっ…くぅっ」
聞きながら、トレヤくんのおちんちんを指先で撫でた。
先端をくすぐりながら、皮に包まれた部分を剥いていくと、ビクビクと震えた おちんちんの頭が顔を覗かせる。
「これは、気持ちいい? 痛かったら言うんだよ?」
「ハナっ、ま…ってっ、あ、ひぅ。んぅぅぅ…っ」
じわりと、先端の割れ目から滲む先走り。
それを塗り拡げながら、おちんちんに指を這わせ、濡れた手の平で輪を作る。
小指から、薬指、薬指から中指へ。
膨らんだおちんちんが、熱い肉の塊が、僕の手の中に入ってくる。
凸凹と、雁首が指の腹に引っかかり、おちんちんを覆っていた皮が捲れ上がると、人差し指と親指の隙間から、ピンク色をした可愛らしい先端が顔を覗かせた。
はぁっ…はぁっ…。
最初はトレヤくんの吐息だと思っていた。興奮で熱くなって、快感で濡れぼったくなったエッチな吐息。
興奮してくれてる。僕の指で、おちんちんが気持ちよくなってる。
辛そうで、でも気持ちよさそうで。そんな彼を見ていると、どうしても収まりがつかなくなり「はぁっ…はぁっ…」と、エッチな吐息を繰り返していたのは僕の方。
だって、クラクラしてしまう。
おちんちんの匂いのせいか、勃起したそれを見つめていたせいなのか。心臓のドキドキが収まらない。彼の興奮が、自分に向けられているのが堪らなかった。
「ね、ねぇ? 気持ちいい? 僕、ちゃんと出来てる?」
「わかんない。わかんないけど…俺、おちんちんピリピリして、苦しくって」
「精液、出そう? ほら、前みたいな…あの、白いやつ」
「…っ、くっ…」
苦しそうな声のあと、揺れた首は縦にではなく横に振られていた。
何かを耐えるというよりは、何か物足りなさそうな反応。
あの日に比べると、確かにゆるい勃起の反応に申し訳無さも生まれてくる。
もっと興奮して貰わないといけない。
我慢とか、緊張とかも忘れさせるくらいの刺激がいる。
やっぱり太ももなんだろうか?
でも、あんな変態みたいな行為は、なかなか正気で出来るものでもない。
太ももを貸すだけなら良い。だけど、なにより僕を躊躇わせたのは、快感に溺れてしまうのが怖かったから。
今でこそ、お姉さんぶってはいられるけれど。もう一度、彼の膝の上で力強く擦られたら。想像しただけでも、どうにかなってしまいそうだった。
気持ちいいので一杯で、訳も分からなくされて、恥ずかしい声を上げてしまう。
我慢したいのに、自分ではもう何一つ止められなくなって。
お互いに、おかしくなっていから見逃されていた部分はある。
だけど、今僕たちをおかしくしているのは、恋の熱。愛情ともまた違う衝動的な感情だけでは、まだ僕をそこまで大胆にはしてくれなかった。