鮮やかな桃色で成されている肉の管は、友希那という小さな体躯の中にきゅっと収まっており、腹を裂いてそれを発見した男は、さならがら、友希那という唯一無二の人体専門の探索者だった。メスという人類の神秘の器具によって強制的に開かれた女体の腹からは、友希那の体内の、その熱量の結晶とも言える、臓物からの湯気が立ち込めていた。男は顔を近づけた。まだ生きていた頃のみずみずしい友希那の肉体を感じることができ、たまらない趣きがあった。両頬に触れる柔らかい臭いは深い鉄の風味で、それを一気に吸引すると、脳にまで貫く香ばしい友希那だった。
男はそのまま舌を垂らして友希那の小腸を舐めた。血の鉄の濃い味と、肉の管のぷにぷにとした舌触りが同時に男を刺激した。男は続けて友希那の腸を舐めた。舐めて舐めて舐め続けた。それは性器同士を使って胎内を嬲ることなどよりもよっぽど不道徳で、より強く友希那を感じることができているような気がした。つまり今の男は誰よりも友希那に近い位置に到達しており、その彼女の身体を好きに押し開いていた。このまま性欲と医学が混ざり合った愉悦を、友希那の死んだ肉体に披露し、赴くままに介入していこうと思った。
友希那の乳房は貧弱だった。盛り上がりはほとんど無く、ならば張りや乳輪の形に特別な美しさがあるのかと言えばそうでもなく、どこまでも平坦で、鉄壁の、無の胸元だった。
だからこそ、その乳房を切断するということは、盛り上がった脂肪の塊を削ぐというよりは、平地をえぐるような感覚になった。男は指で友希那の乳首を摘まんだ。凝り固まった皮膚の実だった。男はそのまま乳首を引っ張った。友希那の限りなくゼロに近い乳房が、それでようやくテントのように張った。それでもそのテントは、やはり使い勝手は良いものではなく、それを目撃した男は、友希那の胸の、何か人外的な要素に呪われているのではないかと危惧してしまうほどの、純粋な平らさを体感した。
友希那の実りから手を離した男はナイフを取り出した。友希那の乳房にはこの、小ぶりなナイフで十分だった。男は右手でナイフを持ち左手で再び友希那の乳房のテントを立ち上げた。見るのは二度目だったがやはりそこに盛り上がりは無く、どこまでも貧相だったが、しかし男はそんな友希那の乳房が好きだった。この、胴にきゅっと吸着しているような何も無い胸元こそ、友希那の魅力の一つだと確信していた。
だからこそ削ぎたいと思っていた。
男はナイフを、友希那の乳房の根本に添えた。少し押し込むようにすると、すぐに皮膚がぱっくりと裂けた。男はそのまま刃をゆっくりと動かしながら、乳房の内部を切断していった。すでに友希那は絶命しているため、出血の類はなかった。
やがて刃の全体が乳房の中に侵入した。研ぎ澄まされた刃はしっかりと友希那の乳房の肉を断っていた。小刻みにナイフを動かすとぞりぞりと音が鳴った。そのまま流れるような手つきで最後まで切るとついに乳房が分離した。
男は友希那の乳房を取り上げた。ナイフを置き、素手の中でひっくり返すと黄色がかった赤色の肉が見えた。友希那の乳房の色だった。慎重に触れてみると素手の指先に血の赤色が移った。
男は次に乳房が無くなった友希那を見た。ただでさえ虚無だった友希那の胸元はさらに寂しいものになった。平坦を超えたえぐれている境地に達しており、その胸部は新鮮な赤黒さを纏っていた。
男はのこぎりを取り出した。片手で十分に扱えるほどの小ぶりなものではあったが、しかしその刃は、見る者全ての背筋を悪寒で掻き立てる鋭い牙で、これなら友希那の肉や骨も、すぐに簡単に切断できるだろうと男は確信した。右手で獲物を持った男は左手で友希那の足の適当な位置を摩った。そこは太腿の中間地点だった。野菜を切り分ける調理師のような具合で肌を摩ると、すぐにのこぎりの刃を乗せた。
その牙はすぐに友希那の肌を裂いた。小刻みに動かすだけで皮膚が開き、中の肉がちらりと覗いた。友希那の肉は赤かった。その赤色は先ほど発見した腸と同じような温い桃色ではなく、どちらかと言えば垂れ出る血と同じような刺激的な肉の色だった。男はそのまま、足に刃を押し付けるようにしてのこぎりを振るった。前後に単調に動かすとその牙はぞりぞりと足の内部に入っていった。どこからともなく滲み出る鮮血が、のこぎりの刃を赤に濡らした。その散布する友希那の体液からはたちまち鉄の風味が漂い、男のすでに恍惚としている情緒の狂いに拍車をかけた。
やがてのこぎりが骨に到達した。それは肉の柔らかさの中から突然現れた硬さだった。まさに友希那の足切断という儀式に出現した異物だったが、その硬さこそが、友希那の足を足たらしめている芯そのものだった。
男はのこぎりの手に力を込めた。そしてそのまま動かした。すると牙たちが友希那の骨を削り始めた。男は腕の動きを速めた。まるで木材を切断しているような音が鳴り、友希那の骨がどんどん削がれていった。
やがて骨が分断した。芯が途切れた瞬間に、足の肉が自由にぶるんと震えた。男はのこぎりを離して骨の断面を見てみた。白色の断面は綺麗とは言えなかったが、その不格好な様こそがのこぎりの醍醐味だと男は思っていた。
男は残りの友希那の足の肉を切断し始めた。もう芯も何も無いため、のこぎりを当てて動かすと全ての振動が足全体に広がってがたがたと震えた。男は左手で足を押さえながら、右手ののこぎりを中に進めていった。強靭な歯列はどんどん肉を切断した。
反対側の皮膚を断って、ようやく足の切断が終わった。のこぎりを置いた男は両手で切り取った足を持ち上げた。不思議な感覚だった。身体にくっついていた時よりも大きく、その上どっしりと重いように思えた。歩くための部位ではなくただの肉塊と化した友希那の足は美しかった。真っ赤な断面を見ると口内に唾液が充満した。このままかぶりつきたかったが、その食の衝動をぐっと抑えて次の作業に取り掛かった。
男は湾曲した鋏を取り出した。全体が銀色で、ひやりと冷たかった。右手で鋏を持った男は友希那の右目の上部にその曲がった先端を突っ込んだ。瞼を押し退けてずるずると入った鋏はそのまま何かを掴んだ。それは友希那の眼球を動かしている六つの筋肉のうちの一つ、上直筋だった。男は勢い良く鋏を閉じた。パチン、と高い音が鳴り眼球が少し動いた。上直筋を無事に切断したようだった。友希那の筋肉を直接切断する喜びは予想よりも上質だった。友希那の体内に器具を突っ込み、あまつさえ破壊する愉悦はそのまま快楽となって男の脳裡に咲いていた。
男は鋏を眼窩に突っ込んだまま、無理やり動かした。もともと眼球のためだけに存在していた眼窩という室内に、鋏という異物がねじ込まれると、当然窮屈さが襲ったが、それでも男は、そんな眼窩側の事情を無視して鋏を動かした。するとすぐに二度目の違和感を掴んだ。友希那の上斜筋だった。ニッと笑いながら力強く鋏を絞ると振動が伝わって眼球が浮いた。二本目の筋肉を無事に切断したようだった。
男は止まらず鋏を動かして眼窩の中を探った。ゆっくりとかき回すようにすると鋏は滑らかに流れ、三つ目の筋肉を察知した。友希那の内直筋だった。躊躇わずに切断すると眼球がさらにビクリと跳ねた。まるで別の生き物のように蠢く眼球が、何よりも目立って愛らしく感じた。
次に男が掴んだのは友希那の下直筋だった。男は力を入れて切断しようとしたが、なぜか硬く、上手く切断できなかった。男は少し焦りながら鋏に力を込めた。友希那の取り出した新鮮な眼球を今すぐ見たかったため、さっさと筋肉を切除したかった。もどかしそうに何度も摘まむようにするとようやく切断できた。プチッ、というぐぐもった音が鳴った。眼球がさらに浮き、もうほとんど眼窩から飛び出していたがまだ分離はしていなかった。不安定になったため浮き沈みする眼球は、もどかしそうに眼窩から出たがっているようにも見えた。ならば素早く全ての筋肉を切断し、この眼球を救ってやるべきだと男は思った。
男はさらに眼窩の中を探った。まだ見ぬ筋肉をすぐに切断してやろうと意気込んでいた。友希那の筋肉を切断する喜びに、鋏を持つ手が震えていた。
次いで捕まえることができたのは友希那の下斜筋だった。ぐっと押し込むとすぐにブチッ、という音と共に切断できた。眼球はほぼ眼窩から分離していた。瞼を押し退けるようにして露出している眼球は、腸に勝るとも劣らない性的な雰囲気を纏って男のことを見上げていた。
男は、こみ上げてくるはやる気持ちを抑えながら眼窩の中を慎重に探った。最後の筋肉だった。これが終わればついに友希那の眼球を取り出すことができるはずだった。
最後に残ったのは友希那の外直筋だった。男はすぐに、潰すように鋏を握って切断した。プツリ、という小さな音が鳴った。それはただの友希那の筋肉を切断した音だったが、男にとっては同時に、全ての工程の終了を告げる音でもあった。これで友希那の眼球を縛り付ける要素はほぼ消え、ついに眼球そのものを取り出すことができるはずだった。
そのまま視神経も処理してから鋏を抜き、一度置くと眼球に指を伸ばした。つるつると滑ったため眼窩そのものに指を突っ込み、そうしてようやく眼球そのものを摘まむことができた。男は少しどきどきしながら眼球を持ち上げた。
眼球は何の抵抗も無く持ち上がった。眼窩から完全に分離していた。二本指で摘まんだまま、少し押し込むと軽く潰れた。弾力があり、全体的にてかりてかりとしており、さらにどこか、妖艶だった。
男は友希那の眼球を素手の中に転がした。
友希那の眼は美しかった。淀みの無い白色をよく見てみると血管のようなものが這いずっており、それすらも蠱惑的だった。そしてその白色の中に、透き通る黄金色の瞳が浮いていた。男にとってはどんな宝石よりも高価で神々しい存在であり、自分の素手の中で見つめていると、興奮から腰が震える思いをした。生前はこの眼でさまざまな物を見、その全てを創作に活用していた友希那の、輝かしい音楽家人生を男は想起した。その、友希那の視覚的な結晶をこうして身勝手に取り出し、最高級の玩具として鑑賞している現状が、どうしようもなく背徳的で、恍惚とするひと時なのだと感じた。