※この作品はR-18です。

湊友希那リョナシリーズ。   作:美肉。

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湊友希那と首絞めプレイをする猟奇小説。


湊友希那と拙い愛してるゲーム。

 愛してるゲームなどというものがある。

 カップル二人組が行うゲームで、ルールは互いに「愛してる」と相手に伝えてどちらかが照れてしまったら負け、というだけだった。

 ゲームのルールを聞いた時、僕はなんて単純なゲームなんだろうと歓喜した。聞いただけでルールが予想できるゲーム・タイトルも耳障りがいいし、ぜひやってみたいと思った。

 そういうわけで僕は自分の恋人――湊友希那に提案した。もちろん愛してるゲームのルールを伝えた。けれど僕はルールの中に普通は存在しないとある趣向を追加した。愛してるゲームには色がある。甘ったるくて明るい色だと僕は思う。そうしたゲームに僕の趣向という別の色を投げ入れた。すると、愛してるゲームは世間一般では考えられない特異な別の色を含み、僕と友希那はそんなゲームに二人きりで挑戦することとなった。

 

 寝室は天井の照明さえ灯っていなかった。

 ただベッドの脇に円形のサイドテーブルが置かれ、上に設置されたキノコのような形の小さな照明器具だけが橙色の光を放っている。光は静かに室内を照らし、これからはじまる不思議なゲームを唯一見守っていてくれる。

 ベッドの上に僕と友希那は二人きりだった。

 僕はズボンにシャツという簡素な服装でこれはパジャマ代わりだった。対する友希那は緩い薄紫色のワンピース型のパジャマを着衣していた。胸元に備えられた小さな白いリボンの飾りが愛らしいのだけれど、派手というわけではないため友希那の全体的な落ち着いた雰囲気によく合っていた。

 僕たちは互いに相手のことをみつめていた。友希那はベッドの上に仰向けで、僕はその上に馬乗りの状態だった。ちょうど友希那の骨盤の位置をパジャマの上から両足で探り当てるようにして腰を引き締めていた。友希那の頭部の左右の位置に両手をそれぞれ置き、二人して緊張していなかった。

 僕は友希那の首元に手を伸ばした。友希那の首はすらりとしている。痩せ型の友希那は首筋だって最低限の太さで、僕は砂浜の中で貴重な貝殻を掬い取るみたいに両手を狭めた。ヒト……、と優しく肌と肌が触れ、僕は友希那の首に合わせて両手で筒を造った。最後に親指を、まさしく友希那の胸元のリボンを真似るみたいに絡ませることで両手が首元を一周し、友希那は完全に固定されることとなった。

 僕は自分でも知らない間に前傾姿勢になっていた。橙色の光がそんな僕のことを引き伸ばしながらめいっぱい壁に映し出している。その様子は人というより巨大な怪獣に似ていた。

 ふと、友希那が手を伸ばした。

 それは最初から決めていた次の行動だった。友希那は僕には視えない夜の喧騒をかき分けるみたいに僕の首に向かって手を伸ばした。僕もまた何も気にせずそれを受け入れているのだが、友希那の腕は僕の首に絡み付かなかった。左右両方の指先はまるで花びらみたいに僕のすぐ近くで緩く広がり、それぞれ僕の頬に触れていった。

「ふふ……」

 両手十本の指先、指の腹の部分が僕の頬に流れてくる。友希那はベッドに身体を預けたまま、僕のことを撫でてそれで緩くほほ笑んでいた。何が楽しいのか僕には少し理解できる。友希那の目元にも、血の通った相手の柔らかい部分を小さく愛撫した時のあの高揚感がよく通っていた。

 そうして花弁がはらりと落ちてゆくように友希那の指先は僕の頬から首元に流れ着いた。

 僕が友希那の首を掴んだら次は友希那が僕の首を掴むという手筈だった。

 細い色白な両手の表面に、橙色の光が少し伸びながら通過している。両腕は逆再生のように淀みのない所作で僕の首元に左右から集結し、やがてさらに細い五つの指がそれらしく弧を造った。手のひらがしっとりと首元の表面に振れ、それから細かく居住まいを正すような短い時間で狭まってゆくのだった。

 友希那は僕の首を完全に掌握した。僕もまた友希那の首を両手で包んだままだった。

 ベッドの上、男女が折り重なってそれぞれ互いの首を射止めている。四つの腕がそれぞれ、相手の運命さえ束縛する不思議な管のように相手の首元に向かって伸び、絡み、引き寄せたり捕まえたりしている。

 これこそが僕が考案した誰も知らない愛してるゲームの準備であり、この寝室の中でそれは完了した。

「あなたの首を私が掴むなんて、不思議な光景だわ……」

 友希那が呟いた。恋人に首元を狙われているというのに、その口ぶりはいつものそれと変わっていなかった。

「僕は嬉しいよ。君を感じるから」

 僕は囁いた。友希那に首を掴まれているがそれでも平然とした口調を続けていた。

「……それで、最初に台詞をいうのはどっちなの?」

 友希那が訊ねた。腰まで伸びる長い髪は今はシーツの上に全て打ち上げられており、頭部を中心にあちこちに波を造って余裕を持っていた。

「最初にいいたい?」

 僕はフフンと口元を揺らしながら訊ねた。短い頭髪がそれでも下方向に垂れ、友希那を狙っているように伸びているのがわかる。

「いいえ」友希那はキッパリと宣言した。「構わないわ。あなたが先で」

「わかった」僕は頷いた。両手で友希那を固定している。何か、友希那のことが物理的に小さく視えてより可愛らしかった。「じゃあ――」

 僕は両腕を引き締め直した。友希那も呼応するように両手を狭めた。僕は友希那の瞳を視て、その奥の輝かしい光を視線で愛撫しながら短く息を吸った。

「愛してる」

 僕は明瞭な声で友希那に向かって囁いた。

「愛してる」

 友希那はそういう僕の態度を真似るように落ち着いた様子で発音した。

 それから僕と友希那は殺し屋になった。

 互いに何か声ではない合図で示し合せたみたいに両手を少しだけ相手の方向に引き締めた。お互いに相手だけを狙う特別な誰も知らない殺し屋、そんな二人は今まさに互いの首に掴みかかって、その手で命をねじ切ろうとしている。

「愛してる」

 囁くと同時に僕は両手を少し力んだ。友希那の顔色に変化はなく、まだまだ正常な呼吸をしている。それは目で視てわかることではなかった。そうではなく、今まさに両手で掴み取っている友希那の首の皮膚のすぐ下で蠢動する、その喉の動きで理解でいることだった。友希那は口を少し開いた。スッ……、という空気を吸い込む短い音がして唇が人らしく突き出た。

「愛してる」

 友希那は冷静に台詞を発音して両手を力んだ。手の甲の中に骨らしき形が筋張って浮き出てくる。僕はさっそく異変を感じた。頭で、これだけの空気を吸うためにこれだけ肺を動かそう、という指令を出すのだが、その指令に見合った空気を取り込むことができず喉元が不自然だった。原因はもちろん友希那だった。めり込んでくる。今、首元を外から強く圧迫する友希那の両手によって僕は呼吸が窮屈になりはじめていた。

「愛してる」

 僕は仕返しのように友希那に向かって愛を囁き、友希那の首元を引き締めた。両手の筋力がひしめき合って友希那に沈んでゆく。何か友希那の命の大きさを強制的に縮めているような感覚があった。手のひら全体に柔らかい歪んだ質感が触れている。友希那の首の感触が物理的にしみ込んでいる。美しく、艶めいた友希那の肌色が僕の手の形に内側にへこんでいる。友希那はついに微弱な呼吸困難に陥っている。

 それでも友希那はあくまで平然とした顔つきを続け、手元を少し勢い付けてから口を開いた。

「愛してる」

 まだまだ明瞭な声だった。同時に僕の首に巻き付く両手も狭まり、拘束された喉元が引き締まった。絞められている。流石に呼吸から自由が消え、僕は何か水中と水中の外を行ったりきたり、それも他者の手で強引に頭を水中に上げ下げされているような複雑で窮屈な感覚に陥っていた。

 そんな息苦しさが快感だった。

 この息苦しさはただ友希那が、その手で僕にもたらした特殊な愛情以外の何でもない。

 友希那が首を絞めている。そこには一時的だが、愛情由来の殺意が込められており、僕は友希那の瞳を視た。今、友希那だって僕の両手により命を責められている。苦しそうに目元を細め、僕のことを睨む友希那に対し僕は少し口元を緩ませた。首元が四方から攻め立てられ、喉が付き上がってゆく緊急事態だが友希那に愛を伝えないわけにはいかなかった。

「愛、してる」

 僕は少しぎこちない語気で呟き、友希那の喉元を圧迫した。友希那は口を半開きにし、目元から人らしさが少し消えた。何かぼうっと、どこを視ているのかわからない虚像のような表情となり、口元で必死に酸素を取り込んでいる。普段、耳を隠すように流れる左右の束がそれぞれ頬の上に少し雑に流れ、汗ばんだ肌色にへばり付いている。

 ああ、愛らしい……。

 友希那をそのような醜態に追い込んだのはもちろん僕だった。そしてこんな姿、他の誰にもみせたくない。そんな独占欲が僕の両腕をいかにも雄々しく盛り立たせてみせた。友希那の額に少しのシワが浮き、軽く突き出た舌先から垂れる唾液が口角を伝って筋のように頬に落ちていった。

「あい、してる……」

 友希那はなんとか動かない喉で言葉を組み上げたような不自由そうな発音だった。それでも両手は僕の奥のほうへ突き上がってくる。さらに力強く僕の根本を圧迫したことで僕は何か脳が干上がってゆくような感覚に突入した。友希那も似たような症状が脳に発生しているといいな、なんて勝手に想いを寄せた。

 皮膚が分厚くなったような圧迫感だった。身体の末端が薄いような気がする。友希那の両腕は僕に向かってピンと張り、僕はどれだけ身体を揺らしても少しも動くことができなくなった。

「あい、し、てる……」

 僕はどうにか呟いた。それから身体を力んだ。友希那に沈むのではなく、むしろ肩幅を友希那真上で盛り上げてゆくと自然と両腕に力が入った。カハッ……、と吐き出すように声を上げる友希那は顔が真っ赤だった。膨れたような印象で、さらに見開いた瞼、その眼窩から眼球が飛び出す勢いを呈していた。

「あいしっ、てる……」

「あいしてる……」

 僕は友希那の声色に被せるように素早く呟いた。掠れた空気のない声だった。

「あい、し、てるっ……」

 僕は後方でパタパタという音を聞いた。それは酸素不足に陥った友希那の身体がほぼ無意識に蠢く音だった。細い両足が何かから逃れようとしているみたいに激しくのたうち、シーツを揺らしてマットレスを 責するように叩いている。僕は身体を浮かばせて友希那に対し顔を狭めた。友希那が、もう僕以外を視ることができぬように接近してさらにさらに両手を引き締めた。粘ついた汗にまみれた友希那は目元からほとんど光を失い、シワが浮くほど開いた口で必死に酸素を取り込んでいる。理性ではなく本能で生命の危機と感じているらしく、友希那は海から陸へ打ち上げられたイキのいい魚類のように身体そのものをくねくねと動かしていた。口から無数の唾液が垂れ、少しすると鼻水まで漏れ出てきた。目元から涙が滲み、あらゆる体液は汗と混ざって化粧を溶かしはじめた。引っ掻くような掠れた友希那の声が続き、「ア……」とようやく呟いた瞬間に僕は友希那から手を離した。

 友希那もまた両手を僕から突き飛ばした。僕は両手で友希那の頭部を包むと上半身を倒し、友希那の右頬の位置に頬を添えた。

 猛烈に酸素を取り込む友希那の鋭い喉の音を僕は至近距離で耳にしていた。唇の奥から、ヒューヒューと掠れた音がする。胸板に素早く上下する友希那の胸部が触れたり離れたりしていた。僕は呼吸を整えながら、小さな友希那の輪郭を全身で撫で続けた。

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