街から外れた山中に位置する自宅から、時間をかけて歩いてきたがまだまだ夜は深かった。
街中には人の気配などひとつもなく、動物さえ、何か示し合わせたかのように存在をかき消している。
湊家に進入した男の服装は軽装で、極力目立たない仕様に努めていた。黒いスニーカーに同色の靴下を履き、長ズボンについても同じ黒だった。上半身に関しては白色の半袖シャツの上からやはり黒の長袖を一枚着衣し、両手には黒色の薄いゴム手袋、時計の類は着けておらず、口元にも黒のマスク、目元は隠していないが頭部に黒色の野球帽を被っており、人相も判別しづらいものだった。鞄の類は持っていなかったがポケットに小ぶりの折りたたみ式ナイフを忍ばせており、ぐっすり睡眠を取ったため精神的にも快調だった。
湊家二階に進入する男の右手には掃除道具が握られていた。
それはもふもふとしたものだった。細い棒状の持ち手があり、その持ち手の先端部分に持ち手以上の長さの、何かもふもふと柔らかいものが付属している。たんぽぽの綿毛のように思えるが、綿毛ほど弱弱しい質感ではなく、だが動物の体毛と呼ぶには柔らかい様子にある。
それは細長い瓶の内側などを清掃する際に仕様する道具で、湊家台所で男が発見したものだった。
男はその道具を右手に備え、スニーカーを履いたまま湊家二階に足を運んでいた。
男の次の目的地は湊家一人娘・湊友希那だった。
友希那の自室の扉までやってくると一応聞き耳を立てて確認し、無音が続くと扉を開いた。
友希那の部屋はそれなりに充実していた。
まず広かった。若い一人娘の部屋にしては広々とくつろげる空間で、色合いは落ち着いているように視えるのだが、ところどころに視える紫色――カーテンなど――はそれなりに派手に視えた。それでも下品な雰囲気はなく、むしろ王室のような品の感じる様子にまとまっていた。家具の色には黒色が多く、また壁には音楽関係と思われるポスターなどが貼り出されていた。巨大なCDプレイヤーだったり、音楽アルバムを収納する棚などを男は見渡した。薄暗いため詳しくは視えないが、それでもそれら内装にはただ音楽を趣味とする以上の意気込み、つまり音楽を仕事にしている人間としての矜持を感じさせた。
男は火照っていた。自分は本当に、プロ音楽家の湊友希那のプライベートに足を踏み入れたのだと自覚している最中にあった。肩幅が強張り、呼吸に躊躇が浮かぶほどの恍惚とした甘美の意識だった。
男は深呼吸をし、前を見据えた。まだこの部屋の最も重要な部分を目にしていない。男は室内中央の位置から、室内壁際の位置まで淀みなく歩いた。そこにはベッドがあった。ベッドもまた巨大に思えた。清潔感のある整った装いのその中に、友希那本人は仰向けで眠っていた。
「……」
作詞に疲れて途中で眠ってしまった、わけではないようだった。
友希那はパジャマをしっかりと着衣し、肩まで毛布をかけて眠っていた。そのためパジャマの様子を観察することはできなかったが、いつものあの薄紫の、ワンピース型の緩いものだと男は予想した。毛布は濃い紫色で枕も同じ色、シーツなどの色は白だった。
男は友希那に歩み寄った。スウスウと寝息を立てる友希那の表面に男の薄い影が落とされてゆく。友希那はそれでも目を覚まさなかった。作詞疲れがないとはいえ、規則正しい生活を送る友希那がこの時間に人の気配で起床することはなかった。
「ゆきな……」
男は呟いてみた。起床しない、と確信しているが故の火遊びのような硬い声だった。友希那は別に起床しなかった。上向いた鼻先は揺れず、頬さえ動いていなかった。
「友希那……」男はまた呟いた。明確に友希那の名前を口にした。「友希那、友希那、可愛いぞ、ゆきなっ……」
男はまるで応援をしているみたいに友希那の名前を連呼し、またその中で、自らの感情の高ぶりを意識していた。自分の中で、ひどく膨れ上がった欲求がさらなる密度に研ぎ澄まされながら友希那へ向かってゆくことを意識していた。
殺したい。
睡眠中の友希那を前にする男はそのように感じていた。それは男にとってなんの特別でもない、工夫もなく貴重ですらない欲求のことだった。友希那のことを殺したい。その純粋でどす黒い欲望は今、男を動かすたった唯一の最大の欲求として脳内にあるものだった。
「友希那……」
男はこの湊友希那という音楽家のことをよく知っていた。
友希那がプロになる前から友希那の活動を支持していた。支持、といってもただライブに参加したり、ネット上で実力について語る程度だったが男としては真剣な布教活動だった。男は自分のそういった活動があったために友希那がプロの世界に突き進んだのだと思っていなかった。ただ友希那は実力を示した。その結果として、プロの世界に足を踏み入れてさらに挑戦し続けるのだと思っていた。
男が友希那に対し殺意を向けることもまた、何の周囲の影響もない当然のことだった。
男の人生の中で殺人に対する欲求は身近なものだった。
殺人欲求が抑えられない。多くの場合若い女性に向けられるその粘ついた願望を男は嫌悪せず、危機的な体質だとか病的な悪癖だと別に思わず、ただすんなりと実行させた。殺人を達成すると心地がいい。あらゆる手段で若い女性を殺害し、その血肉を体験していると、自らの脳の部分でざわめく意識が落ち着いてゆく。そのため男は、自分とは殺人を続けている状態こそが正常であり、殺人行為が法律的に禁止されていると知った時、どこからともなく、自らの人としての全てが否定されたのだと思い至った。
「友希那……」
男は薄闇の中で友希那のことを眺め続けていた。床に対し膝を落とし、ズイ、と鼻先を友希那の頬に寄せていた。この、眉にかかる程度の前髪に触れてみたい。額を包んで撫でてあげたい。そんな欲求を我慢しつつも、その欲求を少しでも解消するために男は新距離で友希那の寝顔を視ていた。長髪はそのままで、閉じられた目元の様子は穏やかだった。口元はほどよく弛緩しており、鼻の部分に耳を寄せると寝息が聞こえた。スウ、スウ、という規則的な湿った音だった。
男の中の友希那に対する殺人欲求は強烈なものだった。
友希那を眺めているとそんな願望が強まった。こんな小さく、けれど大きな世界を堂々と歌う少女を勝手な力で強引に手折る。美しい友希那が歪みながら人として壊れてしまった時、友希那という個人は男の手の中にすっぽり収まって男のものになる。つまり独占だった。男は友希那に対し、ただその美しい肉体を蹂躙したいという以上に、殺害することでその命を、尊厳そのものを掌握してみたいと思っている。それは今まで男が感じ、実行してきたどんな殺人欲求より強烈な欲求だった。またどんな欲求より重要なことのように思えた。今までのあらゆる殺人は全て友希那を殺害するための予行練習であり、これが生まれてはじめて体験する恋なのだと男は確信していた。
「愛してる。友希那……」
願望は男の脳内で具体的な粘性を持って君臨し、時々引き締まって指先がわなわなと震えた。
ナイフを持ち、友希那の喉を切り裂くことを妄想した。ロープを持ち、友希那の首元を絞め潰すことを妄想した。ライターの火を前に焼け死ぬ友希那を妄想して、水面を前に溺れ死ぬ友希那のことを視た。友希那の顔写真をびりびりに破くだけではもう我慢できなかった。ライブハウスでのバイト中、偶然知った友希那のことがそれ以降頭から離れなくて、男の意識の九割は友希那を殺人することに関する非現実的な妄想と具体的な計画について使用された。残り一割は友希那の音楽性を嗜んでいた。友希那のことを眺めていると友希那を苦しめる作戦がいくつもどろどろわき上がってくる。それはもうどうしようもないことだった。抑えることができなかった。抑えるなど嫌だった。無理だった。不可能だった。ただ、殺人をしなければならない。友希那のことを殺さなければならない。男は友希那を愛しているだけだった。
男は友希那の寝顔から顔を離して立ち上がった。友希那に披露するみたいに右手を持ち上げていた。
男の右手にはもふもふとしたあの道具が握られている。男は道具の先端を友希那の鼻先に寄越した。毛並みのように逆立つもふもふが友希那の鼻孔を撫で、やはりくすぐったいのか、友希那はすぐに口を開いてクシャミをした。男はその瞬間を見逃さなかった。開いた口にもふもふの先端を差し込むと持ち手を力みながら下方向に押し込んだ。友希那が目を見開いた。口の中に唐突に触れる異物について驚きながら意識が覚醒したようだった。しかしもう遅い。男は持ち手を両手で握りながら友希那のベッドに乗り上げた。慌てて四肢を動かす友希那を固定するように馬乗りになり、両手で持ち手を握って友希那の喉にもふもふを押し込んだ。
「んぐっ、ごっ、ごぐごっ……!」
友希那はベッドの上で慌てていた。くぐもった声を漏らしながらどうにか男から逃れようとしていた。しかし不可能だった。もう逃れられなかった。男は友希那の身体に被さる毛布ごと友希那のことを馬乗りで拘束している。さらに口元にねじ込まれたもふもふは友希那の口の中の水分をよく吸いながら喉にまでぱんぱんに詰まり、間もなく友希那から呼吸を奪っていた。
「んんっ、んーっ、んぐ、んぶっ!」
友希那が暴れている。狭まる生に必死に縋り付いている。男は全身を強く、下方向に力みながらその様子を眺めていた。友希那は男の股の内側で暴れている。酸素の供給がほとんど途絶えたことで脳が萎むような危機感に苛まれ、上手く思考もできぬままただ苦しく暴れているようだった。きっともうすぐ死ぬ。きっともうすぐ殺せる。男はほとんど身体を動かさずに友希那のその様子を眺めていた。特等席だった。友希那に跨り、身体を拘束して死にゆく様子を全て目にすることができる。友希那の命がどんどん縮んでゆくことがわかる。呻き声がさらに大きくなり、悲鳴となり、劈く甲高い絶叫となってそれから唐突に友希那の動きがパタリと停止した。
それから数秒後に男が両手で握った道具から手を離しても友希那は動かなかった。
ただベッドの上で身体をコテンと広げ、指先さえ震えていなかった。
窒息死だった。
男は友希那から降りた。床にスニーカーで立つと、友希那の口から道具を引き抜いた。
友希那の唾液を吸ったもふもふ部分は湿りながら若干縮こまっており、表面にとろとろと粘ついたものが纏わり付いている。道具を抜き取った後の友希那の顔は悲痛そのものだった。口を大きく開きながら天井に顎先をが向き、見開かれた眼窩の中で眼球が飛び出す勢いだった。大きな涙の筋を垂らし、口角から、だらだらと唾液を落として友希那はしっかり絶命していた。
友希那が死んだ。男が殺した。あんなに燦然とする道を勇ましく歩む友希那でさえ、たった酸素の供給を断つだけで簡単に死滅する。まるで本の途中のページを破り捨てるみたいに、男は友希那の人生を唐突に奪ったのだった。
男は絶命した友希那のその毛布の中に一緒に入り込んだ。
それは眠っている男女と添い寝をするというよりは、温かい母親の懐に入って眠りたい男児のような所作だった。
毛布を捲り、最小限の隙間に向かって身体を揺らす男はスニーカーと靴下にズボンを脱いで、上半身もシャツのみだった。マスクや野球帽、手袋に関しても全て外して、友希那が普段から使用していたであろうあの机の上に置いた。それで友希那にそそくさと寄り添い、毛布を自らの身体に寄せて密着した。友希那は当然死んでいる。男はそういう友希那に無造作に抱き着いた。胸元に顔を突っ伏して腰を寄せ、全身をすりすりと自由に触れ合った。友希那は死んでいるため男がどんな態度を示そうが拒否しなかった。なんの反応もなかった。その無機物のような様相が男に安心感を与えた。毛布が二人の身体をほとんど覆い隠しており、男と友希那は互いの体温が香る寝具の中で二人きりだった。
男と友希那は寝具の中だけではなく、実はこの湊家という家の中においてもすでに二人きりだった。
ひとつ屋根の下、などという表現があるが、今まさに男と友希那はそういった状況にある。男は思い出していた。死体となった友希那に抱き着き、どれだけ工夫してもコテンと左右のどちらかに倒れてしまうその首元に鼻先を押し付けながら、男はこの友希那の自室に入る前に、友希那の両親を殺害したことについて想起していた。
「お義父さんのことはね、包丁で刺したの」
男は毛布の中で呟いた。友希那の頬に口を向けていた。
「台所に包丁があるでしょ? それで喉元を刺したの」
男は友希那に対し、友希那の父親の殺害方法を説明した。やはり男児が母親に、その日の幼稚園の中で発生した出来事を詳しく話す様子に似ていた。
「寝ているでしょ? だから簡単に喉を狙えたよ。上から貫いてうなじも貫通して、そのまま枕も刺して、少しシーツも破いたと思う。出血がひどくてさ。包丁が刺さったところからどろどろ溢れてくるの。喋れてなかったよ。なんなか、アとかウみたいなことはいってたけど、それだけ」
それからお義母さんは、と男は口を上向かせた。毛布を頭で持ち上げるように動いて友希那のうなじに接吻し、口そのもので友希那の頬を動かした。筋力など完全になくなった友希那は男の動きに合わせて揺れるだけだった。
「お義母さんはビニールの紐で殺したの。絞殺ってやつだね。というかご両親、まだ隣で寝てるんだね。本当はお義母さんのこともお義父さんと同じように包丁で刺したかったんだけどさ、お義父さんに刺さったやつがなかなか抜けなくてさ、仕方なく紐を使ったの」
口ずさみながら、男は友希那の母親を絞殺した時のことを思い出していた。
それは鮮明な記憶だった。細い紐を引き絞ると母親の首に紐が食い込み、同時に呻き声がざらついてぎこちなく変化する。そのままじいっとしているだけでやがて母親は力を失くし、ベッドの上でくたびれた。
「お義母さんを殺した後にお義父さんの様子を視たんだけど、死んでたよ。多分喉からの出血で息が詰まったんだろうね」
男は友希那に知らせてやるみたいに囁いていた。両手の中に、あの紐を引き絞った鋭利な感触をまだ思い出すことができた。
「友希那……」
男は友希那野母親を殺害した後にその死体を強姦した。
いわゆる死姦だった。毛布を退かしてベッドに乗り上げ、股間を突き合わせるとすぐに挿入した。友希那の母親の膣は柔らかかった。窮屈な部分に入ってゆく感覚はほぼなく、すでにほどけた部分に自らを落とし込むような優しい感覚だけが触れていた。それは母親が死んでいるという以前に、母親の年齢のことも考えられた。挿入後も締め付けられるような感覚は皆無で、むしろ男が動けは動いただけ友希那の母親の膣肉は広がった。自由で雑で荒々しい雄の全ての部分を、その形のまま肯定されているような感覚で、行為中は友希那の母親のことを自分の母親なのだと本気で認識し甘えていた。
男は仰向けの友希那の母親の死体に乗り上げ、股間を突き出して揺れ動いた。射精感はすぐに睾丸の位置で芽吹いて持ち上がり、男は少しも我慢することなく突き出した。死体に被さるように位置する男だったが、そのうえで身体をエビ反りにして股間を前に主張し、死んだ友希那の母親の子宮、友希那が最初に居た場所に自らをぶちまけていた。
「友希那、入れるね……」
友希那の死体に乗り上げる男は呟きながら腰を落していった。
硬く勃起した陰茎は友希那の未開拓の部分を容赦なく突き、やがて薄い膜を引きずりながら奥に進入した。何か一瞬だけ、弾けるような、破き抜くような感覚を男は感じた。同時に肉棒の形が友希那の中心部分を丁寧にかき分け入ってゆく。内側からとろとろと溢れる粘性が手伝って、男は友希那の手付かずの膣に一番に竿を挿入した。
「うう、キツキツだぁ……」
彼は呻いた。思わず漏れた感嘆の声だった。
「友希那の死体まんこ、キツキツなんだぁ……」
男はそのままいくらか腰を揺らしていった。自分と友希那のことをじっくり馴染ませておく。その間も、友希那から与えられる死してなお続く女性としての実力がさっそく彼をもてなしており、口角を歪ませる彼は時おり呻いた。
今、死んだ友希那と獰猛な男はひとつベッドの中にあった。
垂れかかる毛布の中に男女は身を潜め、それから男は仰向けの死んだ友希那のその真上にのさばっている。友希那の両足は毛布の中で緩く左右に分けられており、男はその狭い股間の位置に自らの腰を落し込んでいる。
冴え渡る肉棒は、友希那の奥の部分にまでずっぷりと突入して雌を味わっている。また驚いたのは、その友希那の優秀な圧迫感のことだった。死んでいるというのに友希那の肉体は甘美で、まだまだみずみずしく肉棒を包み込み、さっそく適度に締め付けてくる。確かに、筋力が抜けたことである程度の弛緩は感じるけれど、それでもまだまだ若い肉圧は、たとえば母親のそれと比較すると食べ応えがあるように感じる。
あのふかふかとした母親の膣も味わい深いものがあったが、肉壺としての締まり具合に関しては娘のほうに軍配が上がると男は思った。
それにしても、死んだ女性の肉に現れる、この不思議な魅力はなんなのだろう。
友希那に乗り込む男はそのまま考えていた。この妙齢の肉体ではあるが、すでに息絶え、力などというものは微塵も感じない。いつの間にか血の気なんてものは抜けていて、半開きの口は戻らなそうにないし、瞳は虚ろでどこを向いているのかわからない。ただ男としては、そんな朽ちた肌肉のことが気になってくる。
息をしていくつか複雑な生活を送る人々よりも、すっかり死んでピクリとも動かぬままの人のほうが、生理的に好意を感じる。死に化粧などというが、いいや、死こそが化粧なのだと思う。そうして今、友希那に対し死という完成された美しさを与えた男は、まるでその報酬のように、死に絶えた友希那のことをいただいてもいい。
それは小学生が隣の席の女子に抱く恋慕によく似ていて、次の瞬間に男は、死体となった友希那に対し一方的な求愛を開始した。
「うう、友希那っ」
仰向けの友希那を覆い、どれだけ腰を振り落としてもこの人形がガクガクと震えるだけだった。あらぬ方向に首が垂れ、鼻先が知らない方向に落ちてゆく。目元は動くことがなく、ずうっと無表情のまま、焦点の合わない瞳は光が薄れてぼうっとしている。
男はその様子を眺めて膣を掘っていた。その腰遣いは乱雑だった。それでよかった。なぜなら友希那は死んでいる。死人のことをまるで生きているみたいに扱うなんて狂気の沙汰なので、男はこの若干緩んだこの死肉の穴をただ一方的に使用した。
「気持ちいいよ、友希那……」
死体とは――もちろんそれは好ましい形の女の死体に限るが――そういったものは、こちらの様子についてなんの反応も示さない。すでに命を落とした後なのでそれは当たり前なのだが、ここで倒錯した男は、死体のそんな様子が、自分のどんな不手際の含む醜態のこともよしとして、受け入れてくれているなどとよく解釈する。死体と性交すれば何より落ち着くし、自らの生についてさえ、その後も生きていくには十分な程度には肯定できる。
死んだ生娘を起点として自らの生を肯定するとは、ある意味で男女たちの死を背負い、前に進むという意味にも重なるところがあるような気がするが、これもまた死体性愛者としての戯言のように感じ、男はもう詳しいことは思考しない。とにかく美しい死体さえあればいいので、今は愚直に友希那の死体に急いてゆく。
もう、どんな邪魔も入らない。たった男と友希那だけの空間の中で、いよいよ男は生物的に窮屈に、友希那へ昇り込むことになる。
「ゆきなっ……!」
最後の呻き声と共に男は死体へ突っ伏した。額を胸元に当てこすり落とし、臀部を強く沈み込ませてゆく。その最奥の部分で重たいものが花咲いている。一度目よりもたくさん出た。綺麗なまま、若いまま、ほとんど外傷もないままあの世へ昇った友希那が、唯一残してくれたこの死に袋の中に、男はたっぷり己のことを詰め込んだ。それは何か報われたような心地だった。ああ、ヤッパリ殺してよかった。生きたままの友希那を強姦することだって、そりゃあ最高の思い出になる。だけれどヤッパリ、死体が一番だった。
男は友希那の膣に注入を続けながら、その傍らで友希那を殺害したこと、その行為そのものを肯定し、浸り尽くしていった。