※この作品はR-18です。

地獄でキックオフ! ~サッカーバトルロワイヤル~   作:綺羅良 影

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第1話

 

「僕たち」

 

「私たちは」

 

「「スポーツマンシップに則り」」

 

「「正々堂々」」

 

 

「「殺(・)し(・)あ(・)う(・)こ(・)と(・)を(・)、(・)誓(・)い(・)ま(・)す(・)。」」

 

 

序章

 

 少年サッカークラブ。

 

今や世界的に有名で、知らない人などいないスポーツ・サッカーを少年少女が楽しむスポーツクラブである。

 

日本各地には、少年サッカークラブが数えきれないほど存在する。

 

そして、この物語は、サッカーが好きな少年少女が生き残りを懸けて殺しあう青春劇である。

 

 

第1話『地獄へようこそ』

 

1

 

S県H市。

 

首都であるT都から北に位置するS県のなかでも北部に、H市はあった。

 

H市立夕陽小学校。

 

H市のなかでも南部に位置するその小学校は、どこの学校もそうであるように、児童たちの笑い声で賑やかだった。

 

また、笑い声でもなく、賑やかな領域というものも、おそらくどの小学校にもあるだろう。

 

「おい」

 

「な、なに」

 

「ここ汚れてる。はやく洗えよ」

 

「あ、う……うん」

 

夕陽小の校舎2階には4年生のフロア。

 

4年2組と札のある教室と廊下を挟んだ向かいの男子トイレ内で、それは行われていた。

 

「はやく、はやくっっ! 先生来ちゃうぞ、おい、コグレ! ココ、ココだよコグレ! ったく、さぼってんじゃねえよ!」

 

「だ、だっていまさっきのところ洗ってるから……」

 

「うだうだうるせえ! こっちは待ってやってんだよ、コグレを! 先生来たら怒られるんだぞ! おまえが掃除しねえから!」

 

「…………」

 

「なんか言ったか?」

 

「ごめんなさい」

 

小便器をブラシで磨いている男の子ー−−コグレは、小さな声でそう言った。

 

トイレの入り口で堂々と立ちふさがっている男の子は、ポケットに手を突っ込んでいる。

 

その男の子に、隣にいた男の子が口を開いた。

 

「ロイ君、ロイ君。

ねえ、本当に先生に声聞こえてないのかな?」

 

「あ?」

 

「え、えっと、外に……廊下に」

 

ロイ君、と呼ばれた男の子は、囁いてきた男の子の肩を組んだ。

 

「大丈夫大丈夫!!

あのババア耳遠いから! あとトイレの音ってあんま聞こえねえんだよ。うんこ流した音でもしない限りな。なー? うんコグレー!」

 

「……」

 

「おい返事しろよコグレェェッ!!」

 

びくっ、と肩を震わせるコグレ。

 

ロイはデッキブラシを持って小便器を洗っているコグレに近づく。

 

「あっ」

 

そしてコグレの持っているブラシをぶんどって、ロイはコグレの顔に先ほどまで小便器内を掃除していたブラシの部分を押し付ける。

 

「ぶ、ッ?!!?」

 

「たしかにまだ汚れてるわ。

おまえ、うんこグレだからなー! うわー、くっせくっせ!! おれが掃除してやんねーと!!」

 

ぎゃははははははははは、と笑い、ロイに囁いていた男の子も、ロイまではいかずとも小さく くすくすと笑う。

 

「立花くーん、間宮くーん、木暮くーん」

 

と、そこで廊下から女性の声が聞こえた。

 

「お、ババアだ。

マミヤ、おまえ出てけ」

 

ロイは、くすくす笑っていた少年・間宮の肩をどんと押す。

 

間宮は素早く扉をあけて、廊下に出て、すぐさまトイレの扉を閉める。

 

これで、トイレの中の出来事は、あのババアには知られない。

 

間宮と先生が話している声を聴きながら、ロイは言う。

 

「あーあ! おまえのせいでマミヤが怒られちまったじゃねーか!」

 

水の入ったバケツにデッキブラシを突っ込み、ブラシを振って、付着している水をコグレの服に付ける。

 

「ほーら、ほーら! ぎゃはははははは!!」

 

「…………」

 

コグレは俯いている。

 

それを見て愉快そうな立花ロイは、コグレの髪を乱暴に掴む。

 

「おまえ、昨日の試合でおれにパスしなかったよな?」

 

「……」

 

二人は小学校のスポーツ少年団のクラブチームで一緒にサッカーをするチームメイトである。

 

「おれにパスしなかったせいで試合に負けたんだぞ。

な、おまえの責任だろ? な、コグレェェ!!」

 

髪を掴んだ手を乱暴に動かす。

 

「(死ね)」

 

コグレは、口に出さず、心の中で念じる。

 

「(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね………)」

 

 

2

 

「声出してこー!!」

 

夕陽小学校のグラウンドで、元気な大きい声が響く。

 

「「「おーう!」」」

 

それに呼応して、チームメイト全員が返事を上げる。

 

いや、一人だけ返事がなかった子がいたことに、ゴールキーパーをつとめる少年・篝火熱血(カガリビ・ネッケツ)は気づいた。

 

「コグレー! 大丈夫かー!!」

 

こちらを向いたコグレは、こくん、と頷く。

 

「そうかー! じゃあ、コグレ、きょうも頑張ろうな!!」

 

また、こくん、と頷くコグレ。

 

笑顔で返した熱血だったが、しかし、やはり違和感がある。

 

「(最近、コグレの様子がおかしいな)」

 

右サイドのバック(ディフェンスを主にするポジション)である木暮佑馬(コグレ・ユウマ)は、1年前にクラブに入ってきた4年生の男の子だ。

 

熱血は5年生だから、1個下ということになる。

 

木暮はそこまでサッカーが上手いわけではない。

 

が、一生懸命練習している姿を熱血は知っていた。

 

だから俺は、あいつが好きだ。

 

でも2か月くらい前から、木暮の動きが更にぎこちなくなった。

 

もともと上手いディフェンスはできなかったが、それまで出来ていたことさえ、出来なくなっている印象だ。

 

一番わかりやすい変化は、右サイドのトップ(フォワード。シュートを主に決めるポジション)の立花ロイのいる場所をちらちら見ていること。

 

「(立花と何かあったのか?)」

 

試合終了のホイッスルが鳴る。

 

俺が所属している夕陽小学校のクラブチーム『夕陽イレブンス』は、毎回全員参加の試合を最後に行ってから、練習が終わる。

 

練習の終わりには、後片付けがある。

 

俺はトンボ(グラウンドを整備するT字形の掃除具)を取りに行く集団に、コグレがいることに気づき、トンボを取りにいくついでに話しかけた。

 

「おっすー、コグレ! きょうもお疲れ!」

 

手の平をハイタッチのように構え、コグレからの返事を待つ。

 

が、返事は来ない。

 

これは恒例なので気にすることなく、俺はコグレに気になっていたことを聞く。

 

「……ううん、べつに意味なんてないよ、ねっくん。

僕が上手くないのは元からだし……」

 

ねっくん、というのは仲の良い友達から呼ばれる俺のニックネームだ。

 

熱血、だからねっくん。

 

「うーん、上手下手じゃなくてさ。なんか気になったんだよね」

 

「……ねっくん」

 

「ん?」

 

急に立ち止まるコグレ。

 

俺も合わせて立ち止まる。

 

コグレは今まで下を向いていた顔をあげる。

 

「あのね」

 

そこには一筋の涙を流しているコグレの姿があった。

 

「コグレ……」

 

俺は悔しかった。

 

コグレは、一見弱弱しそうに見えるが、泣いた顔を熱血は見せたことはこれまでなかった。

 

そこまでのことが、彼にあったことを、気づけなかった俺が情けなく、歯を食いしばった。

 

そこで。

 

ピーーーーーーーー!と。

 

ホイッスルの音が聞こえた。

 

クラブチームのコーチの笛の音だ。

 

チームメイトは、コーチの笛の音が聞こえたら、コーチのもとへ集合しなければならない。

 

「あ……」

 

コグレはそう言って、ユニフォームの左袖で目元を拭う。

 

雫はなくなったが、彼の目元は赤い。

 

「集合しなくちゃだね。ねっくん、また、後で話すよ」

 

そう言って、コグレはコーチのもとへ走っていった。

 

「あ、おい!」

 

急いで引き留めようとするが、コグレも落ち着いたときに話したいだろうと思い、俺もコーチのもとへ駆けて行った。

 

それが、俺の知っているコグレを最後に見た瞬間だったことを、俺はのちに後悔することになる。

 

 

3

 

「知っていると思うが、明日は『ゼンセン』だ。

きょうは早めに寝るように。ゆっくりときょうはからだを休めてくれ」

 

はいっっ!と大きい返事がチームメイトたちから上がる。

 

『市立小学校サッカー全国選手権』。

 

略して『ゼンセン』。

 

全国の公立小学校のクラブチームがリーグ形式で戦い、勝ち点が1番多い学校が優勝する、公立小学校サッカーの頂点を決める大会。

 

全国の公立小学校のチームは、ここで優勝することを第一に練習しているといっても過言ではないほどの有名な大会。

 

実際に全国のチームと戦うためには、まず県で行われる県大会を優勝しなければならない。

 

そしてそのためにはH市代表にならなければならず、そのH市大会の一日目が、明日なのである。

 

「では、解散!」

 

ありがとうございましたっ!!とチームメイト全員が声を出して頭を下げる。

 

チームメイトはグラウンドに一斉に向いて、同じく感謝の意を述べる。

 

使わせてもらったグラウンドへ感謝するためだ。

 

それが終わると、チームメイトおのおのばらばらになって帰路へと着く。

 

あるものは自転車置き場へ。あるものは保護者と一緒に車へ。

 

俺も帰るかな。

 

夕陽小学校のクラブチーム『夕陽イレブンス』のコーチをつとめる河内馬佐良(コウチ・バサラ)は、駐車場へ向かうために、スポーツバッグを手にとる。

 

そこで。

 

「お父さんは優勝するからな」

 

彼はスポーツバッグの中にある小さなハンカチを触って、そう呟く。

 

「亜衣……」

 

「コーチコーチ!!」

 

「っ、びっくりした。なんだ、ケンタか。どうした?」

 

河内に話しかけたのは、彼の膝くらいの身長の男の子だった。

 

「おとーさんとおかーさんが あした、ぼくをおくったら かえっちゃうんだって」

 

「ああ、ケンタ君ちは共働きだからな。しょうがない。お父さんお母さんは仕事頑張ってるんだよ」

 

「ぼく、さみしい」

 

ケンタは俺の服の裾を掴む。

 

ぎゅっ、という掴み方に、俺は『亜衣』のことを思い出してしまう。

 

「大丈夫だ、ケンタ!

俺がいる、俺がおまえを寂しい思いになんかさせないからな!」

 

そうだ。

 

絶対にさせてたまるものか。

 

ケンタまで亜衣のようにいなくなってしまったら、俺はどうにかなってしまう。

 

ケンタの肩を力強く叩くが、ケンタは「いたいよーコーチー」とぽかぽか俺を叩き返してきた。

 

 

4

 

『大変お待たせ致しました。皆、お静かにお願い致します。お静かにお願い致します』

 

ざわざわ、と小学生たちの話し声がぴたりと止まった。

 

市立小学校サッカー全国選手権のH市大会はH市を大きく横断するK川に近い河川敷グラウンドで行われる。

 

河川敷グラウンドには、数百人の小学生が、規則正しく並んでいる。

 

小学生たちが見つめる先には、校長先生が上がるような台が置いてあり、そこに初老を過ぎたであろう男が登っていく。

 

台の隣には、30歳くらいの女性がマイクを手に立っている。

 

ばっちりメイクを決めた女性は、アナウンサーになったかのように堂々と声を紡いでいく。

 

『それでは、市立小学校サッカー全国選手権H市大会運営委員長、追崎身近(オイサキ ミヂカ)様より、開会の挨拶を賜ります』

 

雑音が入らないように、そっとマイクに手をあてる。

 

そして追崎の言葉を待つ。

 

「(完璧)」

 

30歳くらいの女性は手ごたえを感じていた。

 

「(いけるじゃない!? やっぱり私なのよ!!

やっぱり私をとればよかったんだわ、Fテレビ!

こんな私を落とすなんて、テレビ業界の損失よ、大損失よ!!)」

 

彼女は自ら進んでいまこの場所にいるわけではない。

 

彼女が市立小学校サッカー全国選手権H市大会運営委員になったのは、単なる土台に過ぎないのだ。

 

「(私を見て、私を見るのよガキども!

そうして記憶に私の声を、美貌を、植え付けなさい!

そして私の知名度は一気に引き上げられて、Fテレビは大恥をかくの。私をなんで雇わなかったんだ、ってね。

あはははははははははは!!!)」

 

市立小学校サッカー全国選手権は、多くのスポンサーがついている。

 

そして、小学校のサッカー大会にしては非常に珍しいことなのだが、この大会は地上波で放映される。

 

なぜかというと、市立小学校サッカー全国選手権の運営委員長(追崎はH市運営委員長であり、ゼンセンの委員長は別)が、日本で有名な公共放送局の人間と特別なコネを持っているからだった。

 

ここでアナウンサーとしての才能を大きくテレビで映されれば、きっと私を落としてくれやがったFテレビは激しく後悔することになる。

 

もしオファーが来たとしても、Fテレビにだけは行かないんだから!

 

彼女は心の中で高笑いを上げる。

 

「……?」

 

だが、来ない。

 

もう追崎は壇上に上がっているというのに、一向に開会の挨拶をする気配がない。

 

気配というか……、

 

「(あのジジイ、どこを見ている……?)」

 

女性は左方にいる壇上の追崎の目が、どこか中空を見ていることに気づく。

 

「(まさか、死んだ??

追崎身近だけに、老い先短いってか、あはははははははははは)」

 

顔には出さず、心中で馬鹿笑いする女性。

 

しかし、女性の顔は直後に驚愕の色へと染まっていく。

 

             

なぜなら、追崎のからだが、膨(・)張(・)し(・)て(・)い(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)だ(・)。

 

 

再びざわめく小学生たち。

 

小学生だけではない。

 

運営委員たちが座るテーブルからも、囁きが大きくなっているのが30歳くらいの女性でもわかった。

 

「え、え? え、なに? なに?」

 

マイクはオンになっており、彼女の声はエコーがかかってグラウンドに響く。

 

女性の問いには誰も答えない。

 

しかし、唯一の反応は壇上にいる追崎自身のからだからあった。

 

それは、信じられない光景だった。

 

水風船のようにからだが膨れ上がった追崎のからだから、何かが生えてきていた。

 

いや、わかりやすく表現するならば、追崎のからだの中に『何か』がいて、出てこようと皮膚を突き破ろうとしているような。

 

ごきごきぶちごきぶちちごきびちぶちぶちごきぃぶちぶち、と。

 

グロテスクな音を立てながら、『何か』ははい出てくる。

 

「入れ物」から出てきた『何か』は、まるで人間大のヒルのようだった。

 

ヒルは二足歩行で、前足は人間でいう手のように陸から浮かせている。

 

「「「「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ」」」」」」

 

もちろん小学生たちは大騒ぎ。

 

多くの小学生がその場から逃げようとする。

 

が、

 

「逃ィがさなァアアアアアアアアアアアアアアアアアい☆」

 

妖艶さを備えた耳障りな『音』が、白い人間大のヒルの口から発せられた。

 

ヒルが出てくると、追崎のからだはまるでコンドームみたいにべろべろになっていた。

 

ヒルの前足にあたる両腕が目にも止まらぬ速さで伸びていき、その場から逃げ惑う小学生たちをハエ叩きの要領で次々に潰していった。

 

グラウンドのところどころに、血の水たまりがぽつぽつと出来ていた。

 

その中心にはどこにもぺちゃんこに圧縮された肉塊があった。

 

どれも逃げた小学生だったものだ。

 

逃げ遅れた無事な児童たちは地面にへたり込み、わんわん泣きわめく子もいれば、ぼーっとただ一点を見つめ口をぱくぱくさせる子もいて、大きな声を出して大暴れし始める子もいた。

 

もう、そこは地獄と化していた。

 

皆が狂い始め、皆が正気を失っていた。

 

かと、思っていた。

 

「うむ? そこのおまえ、正気を保っているな。名前を教えてくれないか?」

 

不快な音で問うヒルの対象は、小学6年生の男の子。

 

名は、篝火熱血。

 

夕陽小学校の『夕陽イレブンス』の正ゴールキーパー。

 

「お前に教える名前はない!!」

 

熱血は、小刻みに震えていた。

 

からだが、本能が、この化け物に恐怖していた。

 

しかし、彼は理性でそれを押さえ込んでいる。

 

「おまえ、この私を『視て』狂わないでいられるとは。

……きゃはははははははははははは、おもしろー☆」

 

口調がまったく安定しないヒル。

 

熱血は怯まず言葉を発す。

 

「お前は、なんだ!?」

 

「あらあら。おまえは名乗らないのに、私には名乗れですって?

きゃはははははははははは、面白れェ奴ばってん!!」

 

「うるさい!! はやくみんなを元に戻せ!」

 

それを聞いてヒルは一瞬黙った。

 

そして、

 

「げへへへへへへへへへへへへへへへ、ずははははっはははっははははっは、がははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!」

 

聞いただけで脳が震える不快な笑い声を、彼は聞いた。

「こ(・)れ(・)が、元に戻ると思うとるのかえ? きゃははっは、愉快な子だぜよ、ぎひひひひひひひ!」

 

ヒルは心底機嫌が良さそうに笑う。

 

「い(・)い(・)ぞ(・)」

 

「……」

 

あっさりと、ヒルは承諾した。

 

「その代わり」

 

熱血はヒルを睨みつけている。

 

「わしの望む大会にしてやろう。

なに、殺しはせん。わしが殺しは、な」

 

そう言うと、ヒルは熱血の瞳を見つめる。

 

「おまえを、オレ様は覚える。

変わりきった世界で、おまえを見ているぞ。

もしおまえが正気を失ったり、死んだりしたら、おまえはわしに屈服したことになる。

あちしはあんたを狂わせる。それが当面の目標になったぜい☆」

 

「……」

 

ぎろっ、と睨みつける熱血。

 

「はいはい、早くしますよせんぱーい。そんなカッカしなさんなって」

 

一人称も口調も、話すたびにころころ変わるヒルは、その醜悪な顔を長い長い両腕でこねくり回す。

 

まるで粘土のように。

 

「おれっちは宇宙。アタシの思い描く世界に今から、世界を創り直す。……よ、よっと、ほい!!」

 

軽妙な掛け声とともに、熱血の視界は真っ暗になる。

 

 

 

 

そして、世界は再構築される。

 

 

 

5

 

『大変お待たせ致しました。皆、お静かにお願い致します。お静かにお願い致します』

 

ざわざわ、と小学生たちの話し声がぴたりと止まった。

 

市立小学校サッカー全国選手権のH市大会はH市を大きく横断するK川に近い河川敷グラウンドで行われる。

 

河川敷グラウンドには、数百人の小学生が、規則正しく並んでいる。

 

小学生たちが見つめる先には、校長先生が上がるような台が置いてあり、そこに初老を過ぎたであろう男が登っていく。

 

台の隣には、30歳くらいの女性がマイクを手に立っている。

 

ばっちりメイクを決めた女性は、アナウンサーになったかのように堂々と声を紡いでいく。

 

『それでは、市立小学校サッカー全国選手権H市大会運営委員長、追崎身近(オイサキ・ミジカ)様より、開会の挨拶を賜ります』

 

『えー、きょうはお日柄もよくー−−』

 

一通りの挨拶を終え、追崎身近は壇から降りると、運営委員会のテント内にあるパイプ椅子に腰かけた。

 

こっちは炎天下の下でおまえの長話をずっと聞いていたんだよ、と聞こえてきそうな児童たちの顔。

 

そんな児童の群れの中から、二人の背の高い男女が壇上に進んでいった。

 

男女は30歳くらいの女性からマイクをそれぞれ受け取ると、言った。

 

 

「僕たち」

 

「私たちは」

 

「「スポーツマンシップに則り」」

 

「「正々堂々」」

 

 

 

「「殺しあうことを、誓います。」」

 

 

 

 

 

地獄でキックオフ! 〜サッカーバトルロワイアル〜

 

第1話『地獄へようこそ』完

 

 

 

 

つづく

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