※この作品はR-18です。

なのはさんが堕ちる話   作:ジクサー先輩

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なのはさんが堕とす話(後)

「お前、―――なの、は……か?」

 

茫然自失の体で、ヴィータは半ば己に問いかけるようにして呟く。

目の前にそそり立つ肉欲の塔の頂上から己を見下ろしているその少女の顔は、まさに、眠りに就くその直前に言葉を交わしていた親友のそれと瓜二つと言って良かったのだ。

しかし。

 

「そうだよぉ。もう、ヴィータちゃん、オナニーのし過ぎで私の事も忘れちゃったの? そんなに、気持ち良かった?」

 

ニヤリと、根底にある嗜虐心が透けて見えるような歪んだ笑み。

それは、彼女の知る高町なのはであれば決して浮かべる事は無いだろう、酷く凄惨なものだ。

確かにその顔立ちや仕草、左右に可愛らしく跳ねる結髪といった個々の部分的な容姿は、ヴィータの記憶となんら相違無い。

だが、そこに付加される情報は、いっそ別人であると言っていい程に、明らかな変貌を遂げていた。

平均的な日本人らしく僅かに黄色を帯びていた白い肌は、まるで闇の中に長らく漬け込まれてしまったかのように浅黒い褐色となり、その額や頬には、トライバル柄にも似た禍々しいタトゥーのような紋様が浮かび上がっている。

柔らかな栗色だった筈の頭髪は、肌の色と相反するかのような銀灰色に染まっていて、異空間と化したブリッジの中、何処から訪れているとも知れぬ光を艶かしく反射していた。

服装だけは彼女の記憶そのままに、薄布一枚を繋ぎあわせただけの簡素な病人服に袖を通しており、そのたった一つの共通点が、けれどもまるで楔の様に心中に食い込んでいく。

それは、あり得ない、というヴィータの思考に止めを刺す揺るぎようのない真実として、目の前の少女が本当に高町なのはであるという現実を突きつけていた。

 

「まぁ、仕方が無いよね。まるまる五日間も、ずうっと一人でシてたんだし」

 

優に数十メートルはあろうかという高みから、音も無く触手の這いまわる床上に降り立ち、愉悦を隠しきれぬといった具合に笑いを零す。

脈動し、震え続けるグロテスクな肉塊の折り重なるカーペットを素足で踏みしめながら、なのははもはや何を言うべきかも分からぬヴィータに向けて、ゆっくりと近づいていった。

 

「そぉんなに、気持よかった?」

 

二人の背丈は同じ程度で、現在では僅かになのはの方が上回っているだろうか。

しかし彼女は意図的に上目を使いながら、徹底的に媚びの入ったわざとらしい声色でヴィータの顔を覗き込みながら繰り返して言った。

目の前にぐんと拡大された、友人らしき人物のその変わり果てた仕草に、ヴィータは知れずゴクリと唾を飲み込む。

 

「一体、何が起こってるんだ、よ。説明、しろ」

 

甘い熱に浮かされた頭の中、尚も抵抗を続ける冷静な部分が辛うじてその言葉を喉から絞り出す。

なのはは、少しだけ意外だった様に目を開いて、それからクスクスとさも愉快そうに笑った。

 

「ふふふ、もう、分かっているくせに。私、ヴィータちゃんのそういうところ、とっても可愛いと思うなぁ」

「やっぱり、お前が、これを………?」

「そうだよ。みんなみんな、私が気持ち良くしてあげてるの。皆、とっても嬉しそうでしょう?」

 

ヴィータの震えた声の問いかけに、なのはは何ら悪びれた様子も見せず、寧ろ誇らしさすら感じられる程の陶然とした微笑みを浮かべながら答える。

両手を大きく開いて、自身を包み込む空間の惨状にぐるりと目を向けながら。

あぁ、やはりそうなのか。

彼女が目の前に現れてからのぼんやりとした想像、もしくは信じたくなかった事実、そういったものがはっきりとした確信へと変わり、鉄槌の騎士は今まで呆けたままになっていた表情をきっと引き締める。

 

「なら、私が、止めねーとな」

 

ぞっとするような雰囲気を纏いながら微笑み続ける、目の前の大切な友人を。

一体その身に何があったと言うのか、事情はさっぱり理解できなかったが、それを聞き出すのは一度ぶちのめしてからでも十分に間に合う。

そう判断したヴィータは、火照った身体と頭を無理矢理に動かし、騎士として最早反射に近しい動作で戦闘の体勢を取った。

数歩もかからずに詰める事が出来る僅かの距離を置いているだけのなのはは、きりりと顔を引き締める彼女の姿を、未だに愉快そうな顔で眺め続けている。

その腕は身体の後ろで組まれたまま、まるで敵意をぶつけられている者が取る構えだとは思えない。

 

「私を、捕まえるの?」

 

当事者であると言う意識が完全に抜け落ちているかのような、なのはの問いかけ。

 

「あぁ、そうだよ。一回、頭冷やせ、なのは」

 

その態度に微かな苛立ちを覚え、吐き捨てるように言った。

ギリ、と握られた拳が音を立てる。

 

「あはっ、あはははッ、あははははははっ!」

 

自分の言葉の、一体何が可笑しかったと言うのだろうか。

唐突に笑い声を上げ始めるなのはに、訝しげにヴィータは眉を歪ませる。

極上のコメディを目の当たりにしたと言わんばかりに肩を震わせる少女の姿は、この場においてはいっそ異様ですらあった。

しかしそれでも、この場で躊躇して彼女に何らかの行動を起こす時間を与えてはならないと、紅き守護騎士はその足を踏み出そうとし。

 

「あは―――。ねぇ、ヴィータちゃん」

 

その瞬間を見計らっていたかのように、唐突にその笑いを止めたなのはが、ねっとりと嘲るように問いかける。

 

「どうして、バリアジャケット着てないの?」

「………え?」

 

その、たった一言を耳にしただけで、持ち上げられたその足は完全に進むべき場所を見失った。

 

「そーもーそーもー、ヴィータちゃんのデバイスは何処? 何時も首に掛けている筈のグラーフアイゼンは何処?」

「なに……、何?」

「どうしてただぼんやり艦の中を歩いていたの? 探査魔法を一度でも使えば、すぐにこの場所がわかったのに」

「――――――ッ!?」

「うふふふ。言われて初めて気が付いたって顔してる。もう、駄目だよ、大事なパートナーの事、忘れたりしちゃ」

 

畳み掛けるように浴びせられる言葉に、ヴィータの思考は完全に硬直する。

彼女に指摘された全ての事柄が、今の今まで、自身の頭の中に全く存在していなかったという事実に気が付かされたからだ。

確かに現在彼女の身を包んでいるのは、魔法的には何ら特殊な効果も持たない単なる布で作られた衣服でしか無く、何時もであれば肌身離さず共にあった相棒の姿も、気付けば首元にその存在を感じ取ることが出来ない。

ただでさえまともに働くことを拒否していた脳内が、それこそ真っ白に染まってしまったような感覚。

魔力で作り上げられた彼女にとって、それらを失念してしまっていたと言うことは、人間が呼吸を忘れて身体を動かそうとしていたこととほぼ同義であると言っても良い。

そうした数々の要素を、目覚めてからこれまで完全に見失ってしまっていたという、自分自身への途轍もない不信感に、ヴィータは愕然となる。

なのはは、虚ろな目で自身の両手を見つめるしか出来ないそんな彼女を嘲笑うような目を向けたまま、唇の中で何事かを呟いた。

 

「―――ッふあはぁッッ!??」

 

瞬間、突如として身体の最奥から突き抜けるような快感が走り、呆然としていたヴィータの口から、その背後で肉塔に絡め取られた女達の上げているものと極めて似通った甘い叫びが上がった。

股間に両手を押し付けるように内股になった彼女は、今にも折れてしまいそうなほどに膝を曲げ、足をかくかくと生まれたての子鹿のように震わせる。

親友が見せるその姿が余程心地の良いものだったのだろうか、なのはは、ほぅと熱の篭った吐息を漏らした。

嗜虐的に細められた彼女の瞳は薄らと赤紫の輝きを帯びており、目の前で悶える友人の身体をまっすぐに射抜いている。

 

「な、んだ、これっ……、おまえ、なにをっ、はぁっ、したんだ、よぉッ……!」

 

唐突に身体を苛み始めたどうにもならない感覚を抑え込もうと、自分自身を抱きかかえるようにして両の腕を身体に巻き付けたヴィータは、喘ぎ声にしか聞こえない吐息と共に、なのはに対して声を荒らげた。

荒々しくある筈のその言葉にはしかし、もはやこれっぽっちの覇気も無く、本来であれば少女が持っているはずの勝気な雰囲気すら消え失せてしまっている。

己の内側から凄まじいまでの勢いで吹き出てくる苛烈な性への衝動に耐えるだけで、彼女の意志は限界を超えた力を振り絞っていた。

少しでも自身を律する腕から力を抜いてしまえば、すぐさまそれが己の秘部へと伸びてしまうと言わんばかりに。

 

「気になる? そうだよね。良いよ。教えてあげるね。だからまずは、お話しやすいように、そこの椅子に座ってくれるかな?」

 

艶めかしく輝く褐色肌の少女は、悲壮感すら漂う問いかけに対しても極めて気軽そうな声色でそう言うと、己の背後についと目を向けた。

彼女の背から少しばかり離れた肉の床の上に、気が付けば件の柱以外の構造物が増えている。

大の大人の広い背中全てを受け止めても十分に余裕が残る程の大きな背もたれに、悠々と寛ぐことが出来そうなアームレスト。

それは、形だけを見るのならば確かに椅子そのものだと言えた。

しかしその形を構成している素材は、今も尚女達を責め続け、淫らな交響曲を奏で続けている巨木と全く同じもの。

椅子の外見こそ辛うじて保たれているものの、大小様々な触手達が複雑に絡まり合うそれは、一時たりとも動きを止める様子も無くゆらゆらと怪しげに蠢いていた。

なのはの目線に誘導されるようにしてその姿を目にしたヴィータは、思わず発しそうになった絶望の声を慌てて喉の奥で噛み殺す。

一目見ただけで、それが自身に座った者の身体をどのように扱うのかを理解できてしまったからである。

艦橋内に響く女達の嬌声が、これ以上ない明確な答えとなって。

反射的に、誰が座るものか、と拒絶の言葉を吐き出そうとする。

 

「――――ぇ?」

 

しかし、その口から生まれ出たのは、なんとも間の抜けた吐息。

気が付けば、ヴィータの身体はひとりでに動き始めていた。

躊躇いなど何一つとして見受けられない淀みない足取りで、肉蔓の椅子への距離を一歩一歩と縮めていく。

無論、彼女自身はそれに近づきたいなどとは露ほどにも思っておらず、それどころか全身を蝕む感覚の中で足を動かそうなどという思考は欠片も抱いていない。

だというのに、少女の身体はゆっくりとなのはの横を通り過ぎて、その椅子へと向かっていた。

またしても気が付いた時には、肩を抱いていた筈の両腕すらも力を失ったように垂れ下がり、足の動きに合わせて前後へと無造作に振られている。

 

「やめ、ろ……、やめろよ、おい。そっちには、いきたく、ない……ッ!」

 

彼女の頭は必死に身体へと停止の信号を送っている筈だった。

しかし、まるで首から下が別の物と置き代わってしまったかの様に、身体が言うことを聞こうとする素振りは見られない。

その勝気な顔を絶望に歪め、眦には涙さえも浮かべながらも、何一つとして彼女の意志は肉体に届くことは無く、やがてその足は遂に終点へと辿り着いてしまう。

否定の言葉も、拒絶の言葉も、何一つとして意味がなかった。

必死に拒絶し続ける思考器官を嘲笑うかのような極めて緩慢な動作で、ヴィータの身体は、ゆっくりとその蠢く塊へと腰を下ろす。

訪れたその幼い体を歓迎するかのように、そこかしこから伸びる触手が彼女の四肢に瞬く間に絡みついていった。

 

「う、ぁ゛ぁ…………ッ!!」

 

ただ、触れられただけである。

それも、性感帯として神経が集中している訳でもない、二の腕やふくらはぎや、そういったどうでもいいはずの場所を。

しかしたったそれだけの刺激で、ヴィータの内で目覚めてよりひたすら渦を巻いていた熱い熱気は、一気にガソリンを吹きかけられた炎のように爆発した。

未だ嘗て味わったことのない、得体のしれない正体不明の感覚が体全体から一気に湧き上がり、その脳を焼いていく。

それが、快感と呼ばれるものだとようやく気が付いたのは、身体を押し流すかのようなその濁流の第一波が過ぎ去り始めてからだった。

声の限りに絶叫している様に思い切り喉を反らしながら、しかしその口からはもはや言葉の一つも出る余裕が無い。

全身がてんでバラバラな方向に勝手に痙攣し、暴れる手足を伸ばされた触手達ががっちりと掴み、固定させる。

そして更に、触手の絡まり合う隙間から這い出してきた新たな触手達が、手足を拘束する仲間達の身体を乗り越えて、その先にある衣服の奥へと侵入していった。

体表からぬるつく粘液を滴らせながら、発展途上のまま永遠に変わることの無いその薄い肉体の感触を楽しむかのように這い回る。

 

「ひ――、ッ――ぁ――ッッ!!!」

 

皮膚をひと擦りするだけでガクガクと震える身体を存分に楽しむように少女の肌を蹂躙していたそれらは、やがて満を持したように幼い身体の最も秘めやかなる場所へと踏み込み始めた。

張り詰めた両の乳首、何とも知れぬ液体を勢い良く吹き出し続けている蜜壷や、その上部ですっかりと向け切って充血した陰核、そして固く閉じられたままの菊座へ。

初めから打ち合わせていたかのように、全く同じタイミングでそれぞれの部位へと殺到していく。

自分は本当に狂い死にさせられてしまうのでは無いか、そう、ヴィータが霞む視界の中でぼんやりと思い始めたその時だった。

 

「ッ、―――――ぇ?」

 

彼女の乱れる姿を見ているだけだったなのはが、パチリと指を鳴らしたのは。

またしても口から零れ出る、間の抜けた吐息。

先と比べれば、幾分か涸れたものではあったが。

ヴィータは不意に、今の今まで自分を吹き飛ばそうとしていたあの快感の奔流が、綺麗さっぱり消え去ってしまっている事を感覚する。

全身を生温かなそれらが今もまだ這い回っているのははっきりと分かるものの、しかし身体はまるで常の時と変わらず、何の刺激も感じられない。

 

「これで、分かった?かな」

 

目を白黒とさせて、困惑した様子を見せる鉄槌の騎士。

いつの間にか目の前にまでやってきていたなのはが、その顔を覗き込みながら、笑っていた。

 

「ヴィータちゃんの身体はね、もう、私の思いのままなの」

 

悪魔の様な、いや、悪魔そのものと言っても良い、酷く歪んだ、けれども蕩けるような匂い立つ媚笑。

 

「――そんな、こと」

 

パチリと、指が鳴らされた。

 

「ひ、ぃッ――――――ぁあッッ!!?」

 

パチリと、指が。

 

「ッ――、はぁッ、は、あ、おまえ、ほんとにっ」

 

パチリと。

 

「はぁッ、あッ―――あ゛ぁぁああぁぁあ―――ッ!!」

 

パチリ。

 

「ぅ―――、そ、ぁ―――」

 

なのはが一つ指を鳴らす度に、気も狂わんばかりの快感の嵐と、全てにおいて無感覚になったかのような凪の時間が交互に繰り返された。

しかし、その隙に絡みつく肉蔦から抜けだそうにも、腰を上げようとする事はおろか、指一本すらも動かすことが出来ない。

彼女の言葉の意味をその度に理解しかけ、再び訪れる激しい快楽の中にそれらは瞬く間に溶けて消えていく。

 

「ぉ゛……あぁッ――――ひ………あ゛―――――ぅ」

 

そのような、何度気が狂ってもおかしくないような繰り返しがどれほど続けられたのか。

物心つかぬ童子が面白がって電燈のスイッチを何度も入切させているかのように、なのはは飽きることなく指を鳴らし続けていた。

身体の感覚が消されている間にも、その脳内には直前に与えられた目眩く絶頂感が徐々に深く刻み込まれていくかのように、やがて実在していない幻の快感だけが意識の上に焼き付いたように残って、彼女を責め立てる。

初めの内は何度も言葉を形にしようとしていたその口は、もはやなのはが指を鳴らすことを暫く止めていても、だらりと半開きになったまま、時折涎と共にか細い嬌声を吐き出すのみだった。

 

「ふふ……。ヴィータちゃん、気持ち良さそうだねぇ……っ♡」

 

なのはは、己もまた色濃くその褐色の頬を染め、自身の親友であった少女の痴態を眺め続ける。

その身体を包み込む薄い布の病人服の下では、ヴィータと同じかそれ以上に小振りな薄い乳房の中央が己の存在を必死で自己主張するかのようにピンと起立して居る様が容易く見て取れ、両脚の付け根の部分から垂れ落ちる透明な液体は既に膝下にまで滴っていた。

指を鳴らす方とは逆の腕が、何度も何度もそちらの方へと伸び、その度に布の上から軽く撫であげるだけ。

そのもどかしさすらたまらないと言ったように、なのははぴくりぴくりと微かに身体と吐息を揺らしていた。

パチリ。

 

「はぁ―――、ぁ、あぁ―――は―――」

 

それまでよりも甲高く響いたその音によって、加減という言葉を知らぬかのようにヴィータの身体を責め立てていた触手達の動きが止まる。

無論、苛烈過ぎる愛撫が止まったと言えども、既に瞳すらあさっての方向に投げられたまま戻ってこない彼女に、反応は見られなかったが。

 

「ふふふ、ごめんね。あんまりヴィータちゃんが可愛かったから」

 

意に介さずと言った風情でなのははそんな息も絶え絶えの少女へと歩みを進める。

一歩一歩と進む度、生体とも機械ともつかなくなってしまった不気味に脈動する床がくちゅりくちゅりと音を立て、その白い足との間に粘液の糸を引いた。

 

「もっと詳しく、説明してあげるから、ね。んん――」

「ぁ……ん、むッ……」

 

痙攣するヴィータの頬を慈しむようにそっと撫で上げ、なのはは彼女のだらりと開かれたままのその唇に、己のそれをゆっくりと重ね合わせる。

薄桃色の二組の唇が絡みあい、ヴィータの口中に侵入した小さく紅い舌が、その内部を存分に蹂躙していった。

ねっとりと、濃厚に。

そんな言葉が似つかわしい口付けは、あらぬ方向を向いていたヴィータの瞳がようやくぼんやりと焦点を結び始めるまで、長い時間続けられた。

やがて、物事を再び感覚出来るようになった彼女の内側で、その口づけに触発されているかのように、胸の辺りに奇妙な感覚が生まれ始めてくる。

己の身体を突き破り、何かがその中から現れてくるような、開放を間近に控えた苦しみにも似た感覚。

 

「―――んッ、ぐ、ぁ……、なぉ、は……」

「ほぉら見て、ヴィータちゃん」

 

互いの唾液によってしっとりと艶めく唇が、ようやく離された。

呂律の回らない少女のか細い言葉に被せるように、なのははヴィータににこりと笑いかけ、その視線を誘導するかのように、彼女の胸元へと落としていく。

 

「こ、れは……」

「自分で見るのは、初めて? これがね、ヴィータちゃんの身体を構成する核なんだよ」

 

いつの間にか、剥き出しになっていた少女の平たい胸の上、粘液に滑る皮膚に触れるか触れないかといった空間に、白と黒の斑模様に染め上げられた拳大の輝く球体が浮かび上がっていた。

弱々しい光を放つそれは、ぼんやりとした輪郭を保ち、揺れ動くこと無く静かにそこに佇んでいる。

それはかつてヴィータが嫌というほど見てきた、魔導師達のリンカーコアに、大きさこそ異なるものの非常に良く似ていた。

これが魔法生命体である己の中心であるのならばそうなのだろうと、一目見て納得する事が出来る程に。

しかし、である。

この弱々しく輝く白い部分と、禍々しさすら感じる程に黒く染まっている部分の違いは一体何なのだろうか。

まるで黒が白を飲み込み、同化しているようにも見えるこの光景は。

快感に染まった頭の中で、どうにかそれに気が付いた時、ヴィータの脳裏に最悪の想像が浮かび上がった。

はっとして、思わずなのはを見やる。

まるで別人になってしまったかのような親友の顔は、その想像を裏付けるかのように、最早見慣れてしまった、酷く歪んだ満面の笑み。

 

「ま、さか……、これ、は」

「ふふ……♪」

 

微笑み、褐色の少女は白髪の頭髪から覗く額に刻まれている、謎めいた紋様に静かに手を触れ合わせた。

まるでサークレットの様に頭部に広がるそれが微かに蠢き、黒い霧のような何かが微かに周囲に舞う。

なのははその部位から何かを摘み上げるかのように、押し当てられていた掌をゆっくりと閉じながら引き上げていった。

最後に残された人差指と親指が紋様から離れた時、先程まで何も無かった筈の指先に挟まれていたのは、奇妙な物体。

それは鮮烈な黒紫色に色付いた、小指ほどの長さの細長い紐の様に見えた。

嫌な予感が、最早物理的な衝撃となったかの様に、未だ動くことが出来ないヴィータの身体を駆け抜けていく。

 

「この子、ぷにぷにしていて可愛いと思わない?」

 

なのはが、言った。

己の指先に掴まれたそれを見て。

 

「―――ひッ!」

 

囚われの騎士は、喉の奥から生じる、引き絞ったようなか細い悲鳴を堪えることが出来なかった。

変わり果てた友人の指先で、狂おしく身悶えし、勢い良くくねり始めるそれの姿。

細く、小さな、汚泥の身体を持つ蛇のような物体。

ヴィータの答えなど期待していないといった風情で、なのははそれを焦らすような手付きで彼女の身体へと近づけていった。

脳裏で警鐘が、うるさいほどに鳴り響いている。

あれは危険なものだと、魔法生命体としての本能とでも言うべきものが、全力でそれを己に知らせようとしていた。

だがしかし、過剰な愛撫が止められたとはいえ、少女の身体を絡めとる触手達の力は全く緩む様子は無く、ただ悪戯に自身の身体を左右に揺することが出来るのみ。

そんなヴィータを嘲笑うように、小気味良く暴れまわるその物体は、なのはの指の先から開放され、彼女の白い膝の上にポトリと落とされる。

快感によって激しく熱せられた肌の上に、その感触はひやりとしていて、しかし決して心地良さとは無縁の怖気のみを感じさせた。

 

「やめ……、や、めろ……ぉ、なのは、いやだ、これ、はッ……」

「大丈夫だよ、ヴィータちゃん。心配しないで。余計なもので薄めていない分、今度はもっともっと、素敵な気分になれるから、ね♪」

 

肌の上を這う冷気。

尺取虫の様な動きで、膝から腹部へと己の皮膚の上を這いずられるその感覚に、身体を大きく震わせる。

得体のしれぬそれが何を目指して動いているのか、ヴィータは直感的に理解してしまった。

下腹部を通り、臍の上を跨ぎ、みぞおちを通過する。

その冷たさに、抵抗しようとする意思すらも凍りついてしまったかのように、ヴィータはただ己の身体の上を登ってくるそれを恐怖で見開かれた目で眺める事しか出来なかった。

そして、彼女の直感が示していた通りに、胸部の上に現れたままの核の真下にまでそれは辿り着く。

まるで勢いをつけるかの様に身体を縮ませ、そして勢い良く球体へと突き刺さった先端。

つぷり、という微かな抵抗に一瞬動きを止めるものの、直ぐになんでも無かったように、黒い紐虫はその核の内側へと身体を潜り込ませていく。

 

「――――――ふッ、あぁッ―――♡♡!!」

 

そして、ヴィータの全てを打ち震わせるような衝撃。

脳裏に、何かが体内に潜り込むようなぞぶりという音が一瞬大きく響いた気がした。

それに呼応する様にドクリと、ありもしない心臓が激しく脈打ち、身体の中に、頭の中に、異質な感覚が広がっていく。

それは、今まで散々与えられてきた快感とは全く異なる、ひたすらに満たされていくかのような、圧倒的な幸福感だった。

まるで、愛すべき家族たちとの団欒の瞬間にも似た、限りなく甘美で柔らかな。

 

「ぁ……、は…………、ぁは――っ♡」

 

その感覚に抵抗する事など不可能だと思われる程の、全くの多幸感に包まれて、張り詰めていた表情を弛緩させる鉄槌の騎士。

その姿を相変わらず楽しそうに眺めていたなのはは、タイミングを見計らいそっと彼女に声を掛ける。

 

「ほら、見て。ヴィータちゃん」

「ふぁ……♡ あ、あぁ………♡♡」

 

だらしなく垂れ下がった口角。

緩みきった表情。

そんなリラックスしきった雰囲気に包まれたヴィータの胸の上、彼女の核だと説明されたそれに訪れる、明確な変化。

既に、あののたうつ黒い物体の姿は何処にも無くなっている。

何処に消えたのか。

それは、ふやけ切った少女の頭にでも簡単に理解できた。

じわりと、静かに、這い寄るように、核の半分程を占めていた黒い斑の部分が徐々に広がっていき、白い部分を冒していく。

染められていく。

 

「やぁ……め……ぇ」

 

その瞬間、ヴィータは知った。

この、まだらに染まった己の核の意味する事実を。

つい先程思い描いた最悪の想像が、間違っていなかったという確信を。

他の全てのことがどうでも良くなってしまうような、幸福感の理由を。

何故自分が、なのはの思うがままに振る舞ってしまっているのかを。

 

「そう。これはね、御主人様が私にくれたの。魔法生命体って、人と違って在り方を捻じ曲げるのがちょっと面倒なんだって」

 

またしても、いつの間にかなのはの指先に摘まれている黒い物体。

それをヴィータに見せつけるように振ってみせる。

 

「御主人様特性の、改造プログラム。核そのものを作り変えちゃう、魔法の蟲(バグ)。」

 

そう、にっこりと微笑んで、またしてもヴィータの核へと、今度は直接なのはの指ごと突き出された。

彼女の視界にやけにゆっくりと、核の中に入り込んでいく虫の動きが映り込む。

つぅ、と微かに明滅する核。

勢い良くその身を内部へと潜り込ませていくそれの、尾の一欠片が向こう側へと消えて行く。

 

「は……ぁ♡ ぅう………ッ♡!」

 

またしても飛来する多幸感。

既存の全ての思いを地平の彼方に置き去りにし、全身を染め上げる喩えようもない感情が湧き上がる。

核を、書き換えられる。

なのはの言葉が、真っ白になった脳裏に何度も何度も反芻されていた。

自身の存在そのものを別の物へと変えられてしまうという事は、物質的な肉体を持たない彼女等魔法生命体にとって、つまりは己の死を意味している。

人間が本能的に自身の死を回避するように、彼女達にもそういった自己保存の為の設定が為されている筈なのだが―――。

 

「あはっ♪ ヴィータちゃん、凄く、幸せそうな顔してるよぉ」

 

今の彼女はその未来に対して、まるで恐怖も嫌悪も感じていなかった。

あるのはただ、己が変えられてしまうと言う事実に対する、限りなく幸せな気持ちだけ。

変わってしまう、という言葉を脳裏で繰り返す度に、主と共に楽しく食事をしたあの日以上の幸福感が溢れた。

自分が居なくなってしまう、と繰り返す度に、親友や同胞達と一緒に馬鹿馬鹿しい日々を過ごす以上の未来への希望が溢れた。

『ヴィータちゃんの身体は、もう私の思うがままなんだよ』

その言葉を思い出す度に、あの日誓った、二度と違えぬと約束した忠誠の心以上の、絶対的に支配されしまっているのだと言う認識に、心が震え燃え上がった。

無論、理解していた。

これらの湧き上がる感情の全てが、己が己で無くなってしまうという事の影響なのだと、分かっている。

分かってはいても、根源から尽きぬこと無く沸き上がってくる様なそれらを否定する事が出来ない。

またしても、核に広がる黒い滲みがじわじわと大きくなっていく。

それを眺める彼女の表情は、自覚しているのかいないのか、うっすらと笑みすら浮かび始めていた。

 

「あら、まだ終わっていなかったの」

 

唐突に、第三者の声が響く。

途切れること無く続く、既に形をなしてはいない女達の嬌声とは異なる、確たる意思を感じさせるもの。

向かい合うなのはの、あれほど酷薄だった笑みが一瞬にして、ヴィータも良く見知っているあの可愛らしい笑みへと移り変わる。

その気持ちが、今の彼女には何故か理解できてしまった。

幸福感で満たされたヴィータの身体の奥底をも、その声は極めて柔らかく、心地良いものとして走り抜けていったのだ。

 

「もう、あまり遊びすぎちゃ駄目よって言ったじゃない」

「えへへ、ごめんなさぁい、御主人様っ♪」

 

はっと、彼女が瞬いた次の瞬間。

その女は、いつの間にかそこに現れていた。

漆黒に染められた、それでいて濡れたように艶めく衣装に身を包んだ、ゾッとする程の美貌を持った女が、なのはの肩にふわりと手を置いて微笑んでいる。

その姿を目にした瞬間に、自身の中心が一際大きく脈打つ音をヴィータは感じた。

蟲(バグ)によって与えられた多幸感の後に漂い続ける、フワフワとした曖昧な心地良さ。

その感覚を一瞬にして掻き消してしまう程の、喩えようも無い熱が心中をかぁっと熱くさせていく。

身体を構成する全ての材料が、諸手を上げて歓喜しているかのようだった。

その人物こそが、己の真の主人なのであると。

そう、叫び声を上げているかのように。

 

「でも、もうすぐオシマイですからぁ」

 

女が、まるで猫をあやすかのようになのはの喉元をくすぐると、少女はうっとりとした表情を浮かべ、媚がかった間延びした声で呟いた。

ヴィータは、その指先の動きから目が離せない。

どうしてか。そのしなやかに動く細く長い指が己の身体を這いまわる、妙にはっきりとした情景が頭の中に浮かび上がってしまうのだ。

ひとりでに脳内で再生を始めてしまうそれを止める方法が分からず、短い時間で何度も何度も繰り返されるそのシーンは、まさしくバラ色の輝きに満ち満ちている。

首筋を掠める様に触れられるだけで、堪え切れなくなった甘い吐息がその口から漏れ出し、ねだるように差し出された唇は焦らすかのように押しとどめられた。

鎖骨のくぼみをなぞる様に身体を滑り落ちていく指先が、ほぼ平らなままの乳房の頂点を軽くくすぐるだけで、未成熟のまま止まってしまったヴィータの肉体に雷で打たれたかのような衝撃が走る。

臍を爪の先で弄られるだけで目も眩む様な陶酔が訪れ、待ち侘びるかの様に花開いていた秘所にそれが触れれば、一瞬にして世界の果てにまで辿り着いてしまうかのような無限大な絶頂感に包まれた。

そのどれもが、自分で慰めていたあの時とも、触手達にいいようにされていた時とも異なる、それだけで涙を零してしまいそうな程の幸せな気持ちと共にやってくるのだ。

ずっと、この感覚を味わっていたい。

そう心の底から思わせるような、目眩く情景。

 

「ふふ……。はい、この子のデバイスよ。随分昔の形式だったから、少し懐かしかったわ」

 

かちゃりと、軽い金属音。

動きを止めていたヴィータの首元に、慣れ親しんだフォルムのデバイスが掛けられた。

そのひやりとした感触によって、茫洋とした表情を浮かべたまま己が内面の空想に囚われ掛けていた事に、ヴィータはようやく気が付く。

幸福感。

陶酔感。

妄想の中の出来事だというのに、彼女の身体はそれがまるで現実の物であったかのように、下腹部から広まる熱を全身に伝えていた。

動きを止めたままの触手、そこから与えられた快感など、もうすっかり頭の中から消え去っている。

 

「はぁ……はッ――――あぁ……っ」

 

熱い吐息が溢れる。

今までのような、無理矢理に強制されていたようなそれとは異なり、外部から与えられたものではない。

自身の意志がそう感じてしまっているという事実が極めて明確である、内部から沸き起こる劣情の嵐だ。

女の身体から、目を離すことが出来ない。

肉感的な唇から、ほぼ剥き出しのままの大きな乳房から、きつく衣装の食い込み、形も露わとなっている秘裂から。

自分の元に、これまで長い間苦楽を共にしてきたデバイスが返って来た。

本来であれば喜びであれ、怪しむのであれ、何らかの思いを抱かざるを得ない状況。

だが、今の彼女にとってそのような事は些末事にしか過ぎない。

触れて欲しい。

弄んで欲しい。

今すぐにでも叫び出さないのは、まだ辛うじて残されている彼女の、彼女自身としての意思が、必死で己を保とうとしているからだった。

抵抗を試みるような様子など一切無いヴィータの様子を目にしたなのはは、満足気な表情を浮かべて、主人と呼んだ女の身体に一層しなだれかかる。

 

「ねぇ……、御主人様? 私、頑張ったの。だから、ご褒美、欲しいなぁ♡」

「全く、この子は。予定よりも随分と時間を掛けてるくせして、ご褒美だなんて。これはお仕置きが必要ね」

「にゃあ……ん♪。して欲しいです。なのはに、お仕置き、してくださぁい……! あはぁッ♡」

 

倒れかかる巨大な壁に必死で細い支え棒を当てているかのような、絶望的な状況のまま膠着するヴィータの目の前で、なのはの衣服の中に女の手がゆっくりと侵入していく。

薄い布一枚を介して、その向こう側でどの様な事が行われているのか、彼女は半ば無意識のままに想像してしまっていた。

先程から自己主張をしてやまなかった膨らみの先端が、遠慮を知らない手付きで激しくこねくり回されている。

痛みすら感じる程だろうその刺激に対して、なのははただ為されるがままに、甘く鼻にかかった吐息を零していた。

すっかりと変色してしまった股間を覆う布の奥では、ぷっくりと充血して膨れ上がった淫核が、指先の間に摘まれてきつく押しつぶされる。

ぐい、ぐいと強弱をつけて指の間の間隔が狭まる度に、少女は喉を仰け反らせ、足をがくがくと震わせながら喘いだ。

秘裂から次から次へと吹き出していく愛液は瞬く間に足元にまで滑り落ち、触手の表面を濡らす粘液と交じり合い、それが鮮烈な芳香となってヴィータの嗅覚を刺激する。

親友だった存在の身体が震える度に、彼女が味わっているであろう快感と幸福感が、ヴィータの身体にももたらされるかのような気分になった。

しかし、空想上の刺激では、例えそれがどれほど真に迫ったものであっても、頂天にまで辿り着く事など出来る筈がない。

 

「ぐぅ……ぅ……ッうぅ……」

 

唇を噛み締める。

それ以外に、彼女に出来ることは何も無かった。

今の内にこの縛めを解き、逃げ出すべきだとか、それが無理だとしてもせめて、この艦内の状況を作り上げたと思しき二人に何事か罵ってやるだとか、そういった事すら。

もう、そういった思いすらヴィータの中では少数意見に過ぎず、既にその心の殆どが目の前で淫らに絡み合う二人の姿を肯定していた。

女の寵愛を受けるなのはを、妬ましいとすら感じていた。

その場所を、今すぐ自分と変わって欲しいと、口を開けばすぐさま叫びだしてしまいそうだった。

 

「あはッ――♪、ヴィー、タちゃんッ、そんなに、切なそうなッ、顔―――。ほらッ、わたし、いまぁッ……、とっても、しあわせだよぉッ♡♡」

 

首筋に口付けられながら、両手で激しく蜜壷をかき回されていたなのはが、その両腕をヴィータの両側を固める触手につき、あっという間にドロドロに蕩け切った顔で笑う。

その唇から抑えること無く全力で吐き出される甘い喘ぎ声と吐息をすぐ間近で浴びて、ヴィータの心はいよいよぐらりと傾いた。

 

「――――――ッ!」

 

だがしかし、残された最後の意思は未だに屈服を、そして己の死を良しとはしない。

必死に首だけはそこから逸らし、目を瞑ろうとする彼女の姿に、なのはは嬌声の中にも呆れたような響きを滲ませた。

 

「もぉッ! すなおじゃ、ないんだか、らぁ! ごしゅ、じんさま、ぁッ?」

「はいはい。えーっと、グラーフアイゼン、だったかしら。出番よ。起きなさい」

 

悶えつつも苛立った様な、器用ななのはの訴えに苦笑交じりで頷いた女は、その全身を変わらず少女の身にぴったりと密着させながら、ヴィータの胸で沈黙を保ち続けてきたデバイスへと一言、命を発した。

 

『―――Ja.Mein Meister』

 

機械音声。

聞き慣れた筈のヴィータにとって、酷く寒々しく覚える程の。

彼女の心中に違和感と恐れが芽生えようとした瞬間、光が弾けた。

視界が瞬く間に漆黒に染まり、バリアジャケットを展開するあの感覚が身体を包み込んでいく。

何故、と思う間も無かった。

バリアジャケットが展開するやいなや、それ以上の衝撃に塗りつぶされてしまって。

 

「やぁ――ん♪、ヴィータちゃん、かわ、いいよぉッ♡!」

 

なのはが、感極まったように一際大きく喘いだ。

紅の鉄騎、鉄槌の騎士ヴィータを印象付けるに最たるトレードマークだったとも言える、緋の衣。

今では霧の向こう側に消え去ってしまいそうな、けれども大好きな、大好きだった筈の主人からプレゼントされた大切な衣装。

それは、本来の原型を残しながらも、そこに篭められた思いの全てを踏み躙るように、挑発的で淫靡なものへと姿を変えられていた。

鮮やかな赤を基調として、燃えるような彼女の気性を体現していた筈のそれらは、まるで熱帯の暗がりに咲き誇る妖花の如く毒々しいマゼンタへと染め抜かれ、一転して怪しげで淫猥な雰囲気を醸し出している。

頭部を飾り立てる巨大な帽子、本来その部位を飾り立てるのは主より与えられたうさぎだった。

愛らしかったその顔は今ではいっそグロテスクさすら感じる程に、多種多様の継ぎや縫い目や必要以上に延長された耳が付け加えられ、容姿以上の禍々しさを纏っている。

上衣として羽織られていたショートジャケットは、形こそ元のものと然程変化が無いものの、その生地は最早着用している意味など無いのでは無いかと思わせる程のシースルーとなっていて、その下に着込まれた衣装を完全に透かしてしまっていた。

それは、今までの愛らしいキャミソールとは完全に別物と成り果てており、ともすれば拘束具の類にも見える。

無骨な首元のチョーカーから腕部や下腹部にまで伸びるのは、無数に枝分かれし、その各所を鈍く光るバックルで連結させた革のベルト。

エナメル質のように艶かしく光を反射するそれらが、少女の未成熟な身体の正中線を中心として、肉体を横一線に横切り、肉に食い込み、柔らかな肌の質をこれでもかと強調している。

玉の汗が浮かび上がった白い肌の上を束縛するようなベルトは、胸部の上部と下部を横切ってはいるものの、本来最も隠さねばならないその胸の先端をこそ完全に露出させており、ピンと起立している可愛らしい乳首がショートジャケットの生地の向こう側からはっきりと確認する事ができた。

すっかりと花開き、芳醇な液体に塗れた女芯にも、チョーカーから一直線に伸びた最も太いベルトが深く食い込んでおり、無毛のその部位の内側から染み出す悦蜜によって、ぬらぬらと輝きを増している。

肉付きの薄い臀部や下半身にもまた、胴体と同じような革紐が幾重にも走り、細くしなやかな少女の柔肌と肉を締め付け、それが今にも食べごろであると言わんばかりに強調しているようだった。

その様子もまた、ジャケットと同じ素材となったスカートを通して存分に眺める事が出来る。

見るものの劣情を煽らずにはいられない卑猥なものと転じたその装束にはしかし、何かの冗談であるかのように、ふんだんにフリルやレースがあしらわれていた。

衣装の姿とは相反するかのような少女趣味の装飾は、むしろそれがより一層のギャップとなって、その姿を淫らに飾り立てているように見える。

 

「あ―――、ぁあ……」

 

己のそんな姿を目にした瞬間ヴィータの心中に走ったのは、しかしというべきかやはりと言うべきか、怒りや悲しみといったものではなく、思わず身体を震わせるような感謝の心。

唯一残されていた自分自身が消し飛びかけてしまいそうな程の、深く激しい歓喜だった。

瞳から、知れず大粒の涙が次から次へと溢れだしてくる。

細く小さな身体の上を痛みすら感じるほどに締め付けていく革紐の、肌に食い込む金属の冷たさの、それら全ての感覚が、新たな価値観に支配されつつあるヴィータを祝福するかのようだった。

拘束。

それは、己が主人に愛されている事を証明するもの。

束縛。

それは、己が主人にそれほどまでに期待されていると証明するもの。

執拗なまでに身体を締め付けるその衣装は、彼女自身の、ともすれば守護騎士としての、内に秘められた願望をありのままに映しだした理想の装束であるかのように思われた。

即ち、自縛。

新たな主人の前にその全てを曝け出し、魂までをも支配され、服従する為の。

 

 

「泣くほど嬉しい? そう、私もそこまで喜ばれると嬉しいわ。……でも」

「――――――ッ!? ひハァっッ!!」

 

ぐずりと、衣服の内側が蠢いた。

感動に打ち震えていた彼女の身体が、全く別の要因によって激しく跳ね上がる。

素肌に触れるありとあらゆる部分から、極細の肉の感触が身体中に広がり始めたのだ。

全身をぬるつく柔らかなブラシで容赦なく擦られるような感覚が、今までの現実からの陵辱と空想からの愛撫によって、限界にまで発情しきっていたヴィータの精神を犯していく。

四肢を覆い隠す布の内側から、衣装と同じ色を纏った触手達が次々と現れて少女の身体の上を無遠慮にのたくり、弄び始めていった。

先程なのはの手によって繰り返された快感と等しいレベルでの責めに、ヴィータは為す術も無く既に枯れ始めた声で絶叫する。

 

「――――やだッぁ! これぇえッ! いや、だぁぁあ―――ッッ!!!」

 

その喉から溢れ出す、拒絶の言葉。

今までとは些か異なる意味を持って。

全身を構成する全てが形を保てなくなり、液状になってしまうのではないかと錯覚するほどの快楽の極地。

しかし、それだけの刺激を受けても尚、ヴィータの心は全くと言って良いほど満たされることは無かった。

それに対する嫌悪は無いのだ。

いつの間にか、相手から与えられるその刺激に対しての負の感情など消えさってしまっている。

ただ、満たされない。

満たされないというその思いだけが、快感の強さに比例するかのようにただひたすら大きくなっていく。

 

「ふ、ふふ……、ヴィー、タちゃん、何が嫌、なのかなぁ♪ ――あはぁっ♡」

 

全力で身体を動かそうともがき続ける彼女の前で、なのはは心の底から心地良さそうな表情のまま、主人の指を、舌を受け入れ、その度に極上の音色をその口から奏でていた。

溢れだす涙と揺さぶられる視界の中、ヴィータはその姿だけをはっきりと凝視している。

淀みなく動く、女の指先を、舌先を。

今の自分に足りないのはそれなのだと、変わりつつある全身の細胞が訴え掛けてくるかのようだった。

 

「ひゃあッ――ふ、ァああっッ! さわッ……て―――! さわってぇえッ――! あ、たし、にぃッ―――!!」

 

そして、気がつけば、叫んでいる。

自身の内側から際限無く湧いてくるその願望を拒もうとする意思は、もはや風前の灯火となって、今にも消え去ろうとしていた。

 

「はぁッ……、ふ、ふぁあ……ん♡ ごしゅじんさまに、愛して、貰いたいんだったら。ぁッ―――。わかってる、でしょぉ? ほら、これが……、さいごのッ、ひとつだよぉ……!」

 

甘い吐息で何度も言葉を詰まらせつつ、しかし歌うように、なのははヴィータの心を貪り尽くすような満面の笑みで、指先に特大と言っても良い黒い尺取虫を摘んでみせる。

吸い込まれそうな程の漆黒と紫色の光が煌めき、今それを見つめている己の全てを消し去ってしまうであろう毒の蜜の、濃密な匂いが、彼女の脳裏に色濃く満たされた。

 

「ぁ――――グ、ぅ―――ッ!!」

 

瞬間、その頭を思い切り何者かに打ち付けられたかのような衝撃が内側から響く。

ガツリと突き抜けたそれは、既に殆どを別のものへと変えられてしまった筈のヴィータのぼやけ切った心の中を、僅かにでもクリアにした。

ほんの一部分だけ、はっきりとした心の目の中に映り込むのは、この世にこれ以上のものは存在しないと言わんばかりの、一面の笑みで満たされた仲間達の顔。

同士が、友人が、そして何故そこから離れようとしてしまっていたのだろうか、真に愛すべき主人の姿が。

最後に残された彼女としての意思が、度重なる誘惑に堕ちそうになる精神をまたしてもその縁から引き上げようとしていた。

既に九割がた支配しきっていた筈のドロリとした瞳の中に、再び意志の光が宿り始めるのを見て、なのはとその主人は驚いたような表情を覗かせる。

次いでなのはは苛立たしげに眉を寄せ、ヴァイパーはさも面白そうに唇を歪ませた。

 

「そう。いいわね、あなた。私は好きよ、そういうの」

 

胸の中に落とし込んだ少女の身体を存分に蹂躙していた女の片腕が、そんな呟きと共にそっと持ち上がり、ヴィータの目の前に差し出される。

 

「でも、だからこそ、ね。私のお人形に、欲しくなってしまうのよ」

「――――――ッ!!!!!」

 

流れるような動作で、その褐色の滑らかな指先が、革紐に強調されてはっきりとその形を主張し続けていた胸の先端を、くりりと、摘み上げた。

唯でさえ激しく痙攣していた少女の身体が、一際大きく触手の拘束を振り払わんばかりに飛び跳ねる。

 

「ひ――――――♡、あ―――♡ ぁ―――♡ッ――――――♡♡♡」

 

弓なりに身体を逸らしたまま、中空へとおぼつかない視線を飛ばし、顎が外れるのでは無いかと言うほどに開ききったヴィータの口。

しかし、そこから、はっきりとした言葉は一つ足りとも生まれては来ず、ただ、空気を吐き出すような引き絞った音が漏れ出るのみである。

今まで己の身に与えられてきたものが、如何に単純でうすっぺらな快感であったことか。

たった一度、その指先で摘まれるだけで身体を走り抜けていったその感覚の前に、それらはもはや路傍の石ころか何かと同じにすら思えてしまう。

先程妄想の中で思い描いていたあの素晴らしき忘我の心地も、所詮は真実を知らぬが故の、不完全で未熟なものでしか無かった。

触れられたその僅かな部位から全身を駆けていくのは、もはや快感だとか、悦楽だとか、そういった言葉で語ることは不可能だと思われる程の、ありとあらゆる幸福の感情。

今この瞬間、世界が終わっても全く問題ないと断言できてしまう程の、究極の陶酔だった。

身体中のありとあらゆる箇所が瞬く間に弛緩し、だらりと力を失って垂れ下がる。

いや、力を入れる必要性すら感じていないのだ。

緩みきった尿道口から、無色に近い液体がちょろちょろと漏れでて、床を這いずる触手達の身体の上を跳ねていった。

 

「ふふ、そんなに良かったの? ……少し、過敏に調整しすぎたかしら」

 

決して強引という訳ではない、寧ろ慈しみすら感じさせる柔らかで微細なタッチの愛撫を繰り返しながら、女はヴィータの反応に堪え切れないように小さく吹き出す。

肌に微かに触れるその吐息すら、今の彼女にとってはこの上なく喜ばしいものとして感じられた。

視界一杯に、太陽のように眩しく光り輝くフラッシュが次から次へと焚かれて、その度に意識は三千世界の全てを一瞬で駆け抜けていくかのような恍惚に満たされていく。

脳裏には未だ確かに、愛すべき、守るべき仲間達の顔が残っている。

だが、それらは刻一刻と色を失い、まるで長い時を経た写真の様にかすみ、ぼやけていきつつあった。

それを悲しいことだと思うだけの正気もまた、優しく、静かに形を失い始め、溶けていく。

彼女の内に再び宿った光を消そうとするのではなく、より強烈な光でそれを上書きするような強烈な力押しに、ヴィータの精神は今度こそ完全なる屈服の刻印を刻み込まれていた。

 

「ッ――――――♡ ぁ、ぁ…………ぁ?」

「くすっ、なんて顔」

 

そんな、並ぶものなどあろう筈もない幸福の時間にも、不意に終わりが訪れる。

女の指先が触れていた時と同じように、そっとヴィータの肌の上から離れていき、そこに残されたのは色濃く残る余韻のみ。

そして、その黄金よりも価値のあると断言出来てしまう愛撫の余韻もまた、触手と転じた衣服から与えられる、味気の無い単純な快楽に上書きされて今にも消え去ろうとしていた。

 

「あ、ぅ―――」

 

大好物を鼻先にぶら下げられておあずけにされた犬。

目の前で他の子供に欲しかった玩具を先取りされてしまった子供。

はたまた、この世の光全てを失った絶望か。

今の己が一体どの様な顔をしているのか、既にヴィータには分からないし、認識する必要も無い。

ただ、今一度あの感覚を、と求める事だけが、彼女に残された唯一で最大の思いだった。

 

「もっと、して欲しい? もっと、触ってほしい? 愛して欲しい? なら、どうすれば良いのか、――――もう、言うまでも無いみたいね」

 

あれだ。

あれさえあれば、きっと自分は再びあの陶酔の蜜の中に浸ることが出来る。

女の声も、殆ど耳に入ってはいない。

再びドロリと濁った色に覆われてしまった少女の瞳は、先程からずっと彼女の欲する快感を与えられていたであろうなのはがその指先に摘む、最後の引き金を凝視していた。

 

「なのは」

「はぁ、い♪」

 

それは、少女の指先から主人の指先へと無造作に受け渡される。

ヴァイパーは、それから目を離す事無く凝視し続けるヴィータに向けて一度、ぞっとするほどに蠱惑的な笑みを浮かべてみせたかと思うと、それを己の上下の唇でそっと挟み込んだ。

肉感的に怪しく濡れた二つの肉の間で、それはより一層昏い輝きを放ち始めているかの様、くねり続けている。

極めて凶悪に歪められた恐ろしい微笑も、今の彼女の瞳には神話の女神もかくやと言わんばかりの神々しい美しさとなって映った。

次第に、近づいてくるその美貌。

拘束された身体を全力で前へと傾け、それでも足りないとばかりに首を、頭を、そして舌までも突き出して、少女は己の最期を意味するその黒い虫を、自ら迎え入れようとしていた。

後、少し。

ほんの、数センチ。

 

『良いのかしら?』

 

互いの息が交じり合うその距離で、女はまるで最後の機会を与えるかのように動きを止めて、脳裏に直接響く言葉でもってヴィータに問いかけた。

 

『これを受け入れれば、今までのあなたの全ては過去になるわ。友人も、主人も、存在すら。何もかも』

 

無理矢理意識を覚醒させられるようなその問い、陥落しつつある鉄槌の騎士の瞳に、再びはっとしたように微かな光が戻る。

しかしその目線は、女の唇とそこに挟まれた自身の死をもたらすものから、離れようとする様子は微塵も見られなかった。

秒針が、数度時を刻むような短い時間。

その場に響いたのは、背景となって久しい女達の嬌声と、吐息だけ。

両者の間に満ちる、溶けてしまいそうな程の熱量を帯びた沈黙を先に打ち破ったのは、ヴィータの方だった。

 

「――――ッ!」

 

限界にまで張り詰めていた触手の拘束を、どこにそんな力が残されていたというのか、彼女の身体が打ち破った。

無残にも引きちぎれていく肉の蔦の残滓を纏いながら、ヴィータはその問いかけの答えと言わんばかりに、勢い良く女の胸の中へと飛び込んでいく。

距離を零にした彼女が目指すのは、ただ一つだけ。

むき出しになっているその喉笛でも無く、豊満な胸の丸みに覆われる心の臓でも無く。

躊躇いなど欠片も伺えぬ姿でもって、その唇へと、全て貪り尽くさんとばかり勢い良く吸い付いていった。

彼女の気性がそのまま形となっているかのように、激しく、情熱的なその口吻。

 

「ンッ!―――んぅっ……は…♡、あ、ん♡……ちゅ…ッ!」

「はむ……ふふ、んッ………あ、は……んん―――、は……」

 

両腕をきつく背中に回され、いきなり主導権を奪われてしまったような展開に、しかしヴァイパーは戸惑いなど微塵も見せる様子は無く、むしろそちらも積極的に紅い舌をヴィータのそれと絡め合っていく。

唇を触れさせ合い、舌先を愛撫し合う肉の悦び。

女が咥えていた黒い蟲(バグ)は己に与えられた役目を果たすべく、ヴィータの口内から滑るようにして体内へと消えて行くが、彼女自身もはやそのような事は全く気にする様子も無く、初めて味わったその口付けの、先の愛撫と同様の幸福感に完全に身を委ね、快感の中に崩れ落ちてしまいそうな身体を必死でヴァイパーの身体にしがみつくことで堪えていた。

 

「むぅー」

 

見るもの全てが頬を染めてしまいそうな、淫らで熱烈な唾液の交換。

ヴィータに主人を取られてしまい、二人のその姿を見ているしか無くなってしまったなのはは、歳相応の可愛らしいふてくされた表情を浮かべていた。

やがて、目の前の光景に遂に堪え切れなくなったなのはが自分の指先で身体を慰め始めた頃になって、全てを受け入れたヴィータの様子に変化が訪れる。

互いを貪り尽くすようなキスの中で、唯でさえ痙攣し続けていた身体が、より一層ガクガクと震えを帯び始めたのだ。

それでもまだ離れるまいと必死で女に抱きつき続け唇を重ねていた彼女だったが、ある一瞬を境として瞬く間に全身を弛緩させ、力無く触手に満たされた床の上へと両膝をついて座り込む。

正座をしているかのような姿で、けれどもその両腕はだらりと垂れ降ろされ、暫くの間あらぬ方向へとぼんやりと向けられていた瞳も、ゆっくりと閉じていく。

まるで、静かに眠りに就いていくように。

そのまま彼女は何一つ動きを見せる事無く、糸の切られてしまった置物の人形のように身体の動きを完全に停止させてしまった。

その代わりであるとでも言うのか、胸の上に浮かび上がったままの彼女の核と呼ばれた物体の方には、大きな変化が訪れようとしていた。

既に、先の蟲そのものの様な漆黒の色に全体を染め上げられつつある球体。

彼女の残された全てを象徴していたかのような小指の先よりも小さな光点が、次第にその輝きを失い、周囲の色と同化しつつあった。

苦しみに喘ぐように、悲鳴を上げるかのように、繰り返されていた微かな明滅も虚しく消え去る。

白い光は次第に灰に、そして黒へと押し潰され、やがてそこに一点の曇りもなく全ての光を飲み込むが如き、漆黒の球体が完成した。

その様を静かに見守る二人の前で、球体の輪郭はじわりじわりと滲み始め、ヴィータの身体へと粘度の高い液体のようにゆっくりと垂れ落ちていった。

それは、彼女の胸を中心として、身体中至る場所へと皮下を浸透していくかのように広がっていき、肌の表面を黒く染め上げながら、全身へと広がる。

そして完全に肌を染め上げるまでに広がった液体は、その後再び元の場所に戻るように、渦を巻きながら彼女の胸の中心に集まり、一つの刻印を作り上げた。

魔法生命体たる彼女にはありえない臓器である、心臓をデフォルメしたかのように見えるそれは、なのはやヴァイパーの身体に刻まれている紋様と同じパターンであることが伺える。

また、黒い色素が肌を染めていた後を見てみれば、唯でさえ白かった少女の肌はより薄いものとなっていて、そこから全ての色が奪い去られてしまったかのように、病的なまでの白に染められていた。

まるで高価なビスクドールのような、生き物としての温かみの全てが抜け出てしまったかのようなその容姿。

それらを覆う衣装は、気付けば先程の触手化した姿が嘘であったかのように元の姿へと戻っており、人形めいた彼女の容姿を怪しく蠱惑的に彩る衣装としての己の役割を、完全に受け入れているように見えた。

 

「……さぁ、目覚めなさい」

 

これら全ての変化を見届け、囁くように発せられたヴァイパーの言葉に従うように、閉じられていたヴィータの瞳がゆっくりと開かれていった。

その青い瞳もまた、今まで通り勝ち気に釣り上がってはいるものの、何処か宝石細工が嵌め込まれているかのような無機質な光を湛えており、そして瞳孔を囲み込むように細い紋様が刻み込まれている。

ぱっちりと開かれたその瞳で、僅かに自身の身体に目を向けた彼女は、既に己の置かれた状況全てをはっきりと認識していると言うように、淀みなく、女の足元に跪いてみせた。

満足気に、女は問う。

 

「あなたの名は?」

「我が主、ヴァイパー・ニェーブル様の愛奴、ヴィータにございます」

「あなたの為すべきことは?」

「主であり、王であり、母でもあらせます御身の御意思のままに。この身全てを賭けてお仕えすることにございます」

「そう、あなたは私の騎士様。可愛い可愛い、お人形の。………ふふ、折角だし、もっとそれらしくしてみましょうか」

「畏まりました。御主人様(イエス・マイロード)」

 

笑いながらヴァイパーが口にしたそれだけの言葉で、ヴィータは自身が促されている事を正確に理解する。

ペンダントから、首元を覆う無骨なチョーカーに同化する様に姿を変えていた自身のデバイス、グラーフアイゼンを武器形態へと変え、以前よりも遥かに鋭さを増したそれを己が主へと差し出し、跪いたまま頭を垂れた。

デバイスを受け取った女は、その鈍く輝く槌の先端を彼女の肩へと置く。

 

「私の為に、尽くしなさい。あなたの心の欲するままに。んー、そうね。悦槌の騎士、ヴィータ。歓迎するわ」

 

言葉に続いて、デバイスの変わりにヴィータの目の前に差し出されたのは、ヴァイパーの艶かしい褐色に彩られたスラリとした足。

人形めいた顔に狂喜の笑みを浮かべながら、彼女は新たな主となった女の指先へと、恐ろしく恭しく口付けた。

厳かなように見えて、けれどもどこかが捻じ曲げられた、叙任の儀式。

恙無くそれを終え、立ち上がるヴィータの頭にヴァイパーは優しく手を置いて、それだけは変わらず鮮烈な赤に染まったままの髪を梳くように撫でる。

心地良さ気に目を細め、その指先の感覚を享受する少女は、心の底から幸せそうに笑っていた。

 

「にゃはは、ヴィータちゃん、やっとこっちに来てくれたね。気分はどう? とっても素敵でしょう?」

 

その様を静かに見守っていたなのはが、二人の触れ合いの合間を見計らって声を掛ける。

いつの間にかその衣服は、先程までの質素な病人服ではなく、ヴィータのそれと同じテイストを持つ黒光りする淫らなバリアジャケットとなっていた。

なのはに向かって振り返り、その衣装の変貌にもなんら驚いた風情も無く、彼女は何時もその友人に向けて浮かべていた、柔らかな笑みを見せる。

ヴァイパーに向かっていた時とはまた異なる、人間らしい仕草。

果たして真の彼女がどちらであるのかは、もはやさほど重要な問題では無いだろう。

 

「あぁ、なんでもっと早く御主人様に出会えなかったんだろうと思う位に、な。ありがとよ、なのは」

「いいよぉ。私も、随分と遊ばせて貰ったし。これから一緒に頑張っていこうね」

「ん、そうだな。よろしく頼む」

 

ははは、にゃはは、と笑い合う二人の姿は、これまでの関係と何一つ変わったものなど無いのだと言っているようにも見えた。

ただ、友や仲間達との関係の更に上位に、決して覆せないほどの絶対的な相手が新しく現れただけの事だ。

ヴィータは、己の身体を痛みと共に締め付ける衣装をそっと見下ろしてみる。

新たなバリアジャケット。

拘束され、支配されている。

その概念をそのまま現実のものとして表したような、淫らで美しいその装束に、心がときめいた。

これからはこの衣装を纏い、新たな主人に全身全霊を傾けて仕える。

それを考えただけで、心中に、身体中に、あの幸福感が満ち満ちていく。

こんな幸せな感情に浸れるのだから、自分の選択はきっと間違いなんかじゃないのだ。

暖かな蜜の浴槽に浸っているような心地の中で、そんな風に思いを馳せていると、ふと、以前の主の顔が今更のように脳裏へと蘇ってくる。

彼女の事は大好きだったし、それは今でも変わっていない。

出来るのならば、以前の様に他の仲間達と共に団欒を囲みたいのだ。

けれど、とヴィータは己の背後で変わらず蠢き続けている肉の塔と、その中に取り込まれた多数の女性局員の姿に目をやった。

主の洗礼を受けた今、広がる光景の全てを受け入れ、そして理解することが出来る。

この艦橋を満たす触手達は、全てが元は艦の男性クルー達なのだ。

ほら、今もまた一人。

膨れ上がり、破裂する人間の形。

意識も、意志も、人であったという要素の全てを奪われて、ただ女達に快感を送り込み、奉仕するだけの器官となった彼等。

一体どの様な力と技術の下、そのような事が可能だと言うのだろうか。

けれども、恐れを抱く必要はもう無かった。

己が隷属する主が成したのであれば、それはそういう事なのだ。

女達は、鑑賞する者を――主を――喜ばせる調度品であり、それと同時に魔力を取り込みやすい形へと変える為の変換器である。

男達は、空気中に満ちる魔力をその身に吸収しながら女達に送り込み、やがて再び変換された魔力を吸い出し、貯蔵するという目的に、最も適した形へと姿を変えさせる。

そう、この巨大な塔それ自体が、延々と魔力を生み出し、主の新たなる力として提供し続ける、生体プラントなのだ。

今までの自分がその事実を知っていたら、瞬時に怒りの衝動に身を任せて、躊躇いなく破壊しようとしただろう。

けれども今となっては、こうして主人の為にその身を捧げる事が出来る彼女等、彼等の姿を羨ましいとすら思っている。

もし今すぐにあの集団に加われと命令されれば、自分は躊躇いなくその只中へと足を踏み入れることが出来ると、確信していた。

だがしかし、かつての仲間達は、はやては、きっと自分のこの思いを理解してくれない筈だ。

――――当然だと思った。

――――仕方が無いと思った。

何故ならば彼女達はまだ、自身がその身をもって教えられ、そして服従し続けている限り尽きること無く与えられ続ける、この幸福な世界を知らないからだ。

言葉で説明した所で、きっと理解してもらえない。

自分と同じように、直接その身で理解して貰うしか、その方法は無いのだろう。

 

「……? どうしたの?」

 

無言で己に意味あり気な視線を向けるヴィータに、なのははほんわかとした声で聞いた。

そこにいるのは彼女もよく知る何時もの少女で、つい先程まであれほど恐怖していた自分自身の方がおかしかったのだとはっきりと断言できた。

何となく、随分と昔にも思える出会いの時にも同じ様なことを経験していた事を思い出し、無性に自分に対する嘲りの様なものがこみ上げてくる。

そんな恥ずべき過去を振り払うかのようにヴィータは一度ゆっくりと首を振り、きょとんとした表情の友人に向けて再び笑いかけて言った。

 

「いや、何でもない。………ありがとな、なのは」

 

繰り返すようにそれだけを口にして、やはり気恥ずかしくなってしまって顔を逸らす。

だからヴィータには、自身のその言葉に、彼女がどんな表情を浮かべていたのか分からなかった。

 

「もぉー、ヴィータちゃんったら!」

 

一拍間を置いて、なのはは頬を染めて顔を逸らしてしまった可愛らしい少女の姿に、耐え切れなくなった様に思い切り抱きつく。

驚いて顔を上げたヴィータの視界いっぱいに、咲き誇るような幸せ一杯の笑顔が映り込んだ。

ベルトやジャケットの隙間から外気に露出した肌に、同じように露出したなのはの肌がしっとりと触れ合っているのが分かる。

主のそれとはまた違うけれども、他人の肌の温度が直接感じられると言うのも、これはこれでいいものだなと、彼女はぼんやりと思った。

最も、そんな自分の考えに浸る暇など、目の前の少女は殆ど与えてくれなかったのだが。

 

「うひゃッ!? こら、お前、どこ触って……!」

「えぇー、何処って、分かるでしょ? 折角またこうやって仲良くお話出来るようになったんだし、いいじゃない♪」

「んふぁッ♡ だって、まだ御主人様の前ッ、あ、はぁぁあ……んっ♡」

「えぇ、あれだけ私達の前で乱れてみせて、今更ぁ? もう、ヴィータちゃんって、意外と恥ずかしがり屋さんなんだね」

 

まるで普段のスキンシップの延長であるかのように、自身と同じような体格の身体に抱きついたなのはは、間髪入れずに少女の性感帯へと手を伸ばしていく。

一度そうやって意識をそちらの方向へと向けさせられてしまえば、先程まで心地良い暖かさだと思っていた肌の温もりは、一転して快楽の熱を連想させるものへと変わっていき、あっという間にヴィータの芯に再びの炎が灯り始めた。

嫌悪と言うよりも気恥ずかしさから抵抗しようとしていた彼女だったが、それは結局本心から来るものでは無かったのだろう。

力で劣るはずのなのはにやすやすと組み敷かれ、されるがままになってしまう。

 

「主人をおいて、二人だけで楽しむなんて。しょうがない子達だこと」

 

早くも鼻にかかった嬌声を上げ始めるヴィータと、相変わらずの笑みのままでえげつなく指先を動かすなのはの絡み合う姿を、いつの間にか現れていた玉座へと腰掛けて眺めながら、ヴァイパーは苦笑していた。

その背後では変わらず、多くの女達が無数の触手達によって全身を犯しぬかれ恍惚とした顔で喘ぎ続け、目の前では好みの精神を持った美しい少女達が、彼女の様々な欲望を満たしてくれるように、発育途中の穢れ無き柔肌を存分に晒して睦み合っている。

ほぅ、と女の唇から吐息が零れた。

彼女達を見守るようなその瞳には至極穏やかな色が浮かんでおり、その振る舞いそのものからは想像も出来ないほどに凪いでいた。

周囲を見渡す。

赤黒い肉に覆われた艦橋。

そして、その向こう側の空間までをも透かしているように。

なのはが艦の中に入り込み、全てを侵食してから、五日。

既に、三人を乗せた次元航行艦は惑星上から旅立っており、オートクルーズにて、その本拠地への帰路を進んでいた。

のたうちまわる触手達の下では、今も無傷のままの計器達が忙しなく動き、現状を刻一刻とディスプレイに表示させているはずだ。

ヴァイパーはしばし、考えこむかのようにその瞳を閉じ、玉座の平坦な部分に肘を当てて頬杖をつく。

場に満ちる、心地の良い嬌声をBGMに彼女が再び目を開いたのは、丁度ヴィータが十回程の絶頂を経て、なのはに対して攻勢に出るのと同じタイミングだった。

くすり、と妖艶な笑みを浮かべた女は、そんな二人に向けて媚びるような声で誘う。

 

「ねぇ、貴女達。いつまでも二人で遊んでないで、私の事も混ぜてくれないかしら」

 

互いだけしか見えなくなるような二人だけの世界に入り込んでいた少女達は、耳元から入り込んだその言葉が脳全体を痺れさせているかのように、お互いにゾクリと身体を震わせた後、飼い主から餌に与ることを許された猟犬の様な雰囲気でヴァイパーの下へと向かって行く。

彼女はそれ以上口を開く事は無く、少女達はただ、己の思うがままにままに、未成熟で、それでいてすっかりと女として目覚めたその肢体でもって、主への思いを形にしていくのだ。

先程のそれを幾度と無く繰り返すようなヴィータの足への口付けに吐息を零し、身体の上に覆い被さるなのはの小さく柔らかな舌が首筋を愛撫していくくすぐったさに身体を震わせる。

少女達の奉仕に応えるかのように、互いの身体に刻まれた刻印が漆黒の光を放ち始めると、二人の感じる喜びや快感、ありとあらゆる幸せな感情がどんどんと増幅されていった。

どこまでも際限なく、絶対的な幸福感の奈落の底へと、彼女達は更に深く堕ちていく。

そして、堕ちていく程に、その胸中で大きくなっていくのは、次なる願望。

両者共にその胸に抱くのは、極めて似通った、熱く激しく、そして淫らな願いだ。

それが意味しているものを、本人以外には唯一理解する事が出来る少女達の主は、上気した顔と荒くなりゆく吐息の中で、三日月のようにその口角を上げた。

艦はただ、静謐とした時空の海の中を進む。

同種の存在でなければ一切干渉することの出来ない閉じられた空間の中、厚い金属の装甲と術式に守られた艦の内部で響き続ける、ただひたすらに甘く激しい嬌声。

淫獄の園と化したその艦が、母港に辿り着いた時、どの様な結末を迎えるのか。

いずれ来るその瞬間を夢見るように思い描きながら、なのはは、ヴィータは、そしてヴァイパーは、互いの身体の境界すら曖昧になっていくかのような、そんな蕩けるような肉欲と奉悦の交わりを途絶えること無く、尽きること無く、繰り返すのだった。

 

 




多分、ウイルスに侵食されて堕ちちゃう系のネタがやりたかったんだと思います。
正直全然ダメですね、悔しいです。
これが多少なりとも皆様のお気に召すものであれば良いのですが……。

また、文章中に正直これなに言ってんのかわかんねえよ! 状態の文が存在していたりするかもしれません。
一応何度も見直しはしてるつもりなのですが、どうしても次から次へと出てきてしまうのが悩みどころ。
こういう所で、文才の無さをつくづく痛感させられます。



百合調教悪堕ちものがもっと増えるといいですね。
それでは、よろしくお願いします
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